白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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10話:そんな顔をするな

「やるぅ〜!」

 

 コピアは口笛でも吹きそうな態度。

 

 巧は少しだけ痺れる手を開いたり閉じたりしながら、悪態をつく。

 

「お前な……分かるだろ、あんなの――」

 

 ――子供の遊び以下だ。

 

 全ては語らない。

 しかし巧の少し疲れた目は雄弁だった。

 

 はあ、と嘆息一つ。

 木剣を見る。

 

(木剣、良いかと思ったけど危険か……。感覚が違いすぎる)

 

 ささくれ立った表面をなぞる。

 最後に大きく抉れた箇所以外にも、削れなどの損耗が激しい事が見て取れた。

 

(でも、鉄剣だと……人を……)

 

 ざらついた木目を見ながら、考えに耽っていた――そのとき。

 

 ――どす。

 

「ご、ガ……」

 

 その音に誘われるように、巧はゆっくりと振り返った。

 そこには。

 

 ――ごろつきの男の喉に、細剣を突き立てているコピアの姿があった。

 

 鼻歌混じりで。

 落ちていたゴミでも拾うかのように。

 気楽に、気兼ねなく。

 

 殺していた。

 

「……なっ――」

 

 咄嗟に声は出ない。

 

 じゅるり、と熟れすぎた果実のような、水気を孕んだ音と共に剣が抜かれる。

 

 声無き声を上げ、血泡を口の端から垂れ流し――ゆっくりと男は動かなくなっていく。

 

 そして次々と。

 止める間もなく、コピアは残りに剣を突き立てていった。

 いつもの愛らしい微笑みで。

 

 ずぶりと鈍い音。

 皮膚を裂き、肉を破る湿った響き。

 気絶していた男は途端に目を限界まで見開いて、驚愕と恐怖に沈んでいく。

 

 ――ぴ、と剣を払った。

 血の飛沫が弧を描く。

 

「よーし、後片付け終了! 臨時収入だ〜」

 

 朗らかに言うコピア。

 その背後で、虫のようにのたうちながら今際の際を迎える薄汚い男。

 ――血走った目と目が合う。

 

 巧は、唖然とその様子を見つめることしかできなかった。

 

 ようやく口を開く。

 

「――おまえ」

「んえ?」

 

 きょとん、と。

 コピアは純粋に首を傾げる。

 何も知らない子供のように。

 

「なんで……、なんで殺した……ッ!」

 

 巧は思わず声を荒げた。

 

 コピアはびくり、と肩を揺らす。

 

「え……? その……」

「どうして! せっかく気絶させたのに、何でわざわざ殺す!?」

 

 コピアはびくりと首を竦めた。

 しかし、どこか不思議そうな色を瞳に宿している。

 

「えと、何……? 何か変だった……?」

 

 恐る恐る、丁寧に言葉を差し出す。

 

 身を縮めるコピアを見る。

 

 まるで――叱られたペットだった。

 

 こちらの怒りを汲んで、恐縮そうな態度を取って見せる。

 だが、何故怒りを呼んだのか()()()()()()()()()()のが透けて見える。

 

「……っ!」

 

 巧は大股で歩き出した。

 どこへ行こうと構わない。

 とにかくもう、この女とは一緒に居たくなかった。

 

 恐怖ではない。

 実のところ、怒りでもない。

 

 ――失望。

 

 勝手に幻滅した。

 

 “本当はいいヤツなんじゃないか”と、そう勝手に望んでしまった。甘く見積もった。

 そして――そんな自分にも腹が立った。

 

「待って……! どこに行くの!?」

 

 ついてくる。

 その甘い声を悲痛に揺らして。

 

 しかし巧は振り返りもしなかった。

 

「ついてくるな!」

「――! や、ヤダよ、待ってよ……!」

 

 縋りついては来ない。

 ただ一定の距離を開けて、巧の影を踏みながら恐る恐るコピアは歩く。

 

「――クソッ……、クソッ!」

 

 巧は頭を掻きむしる。

 瞳が勝手に潤んだのが、憎いほど嫌だった。

 

 

 ***

 

 

 三十分は歩いただろうか。

 ただ途方もなく。

 

 当然、見知らぬ場所に辿り着いていた。

 

 半壊したバラック。

 散乱するゴミと、はためく襤褸の洗濯物。

 痩せこけて道端に座る浮浪者。

 

 貧民街。

 

 巧はため息を吐く。

 コピアはまだとぼとぼとついてくる。それに、とうとう嫌気が差した。

 

「いつまでついてくるんだ……」

 

 振り返った。

 

 コピアが立っていた。

 腕を折りたたんで胸に抱き、地面に視線を投げ出す少女は、いつもより遥かに小さく見えた。

 

「ほっといてくれ……!」

 

 言いながらも、巧は分かっている。

 目の前の少女の助けが無いと、身寄りも知識も無い自分はここで野垂れ死ぬかもしれない。

 

 その事実さえ癪に障る。

 

 コピアは、少しだけ震えながら、きゅっと口を結んでいる。

 何も言わない。

 

 余計に頭が痛くなった。

 

(クソ……、なんでそんな態度なんだよ……)

 

 疲れ切った巧は、近くの長石のような廃材にどっかりと座り込んだ。

 

「チッ……」

 

 そうすると。

 そっとコピアが近づいてきて、何も言わずすぐ隣に座った。

 

「……おい」

「……」

 

 しおらしく身を縮めたまま、眉を落としている。

 

 夕闇がゆっくりと迫ってきていた。

 

 




タイトル変更しました。
悪あがき。
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