白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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11話:エゴ

「ごめんね……?」

 

 コピアは、いじらしく言った。

 

 巧は余計に苛立った。

 彼女が何も理解していないことに気づいたから。

 

「何に謝ってるのか分かってんのか……!」

「こ、殺しちゃったのがダメだったんだよね……?」

 

 そっと視線を向けてくる。

 逆撫でまいと、必死に。繊細な飴細工でも扱うように、丁寧に。

 

 巧は頭を抱えた。

 本当は分かっている。

 

 ――これは、エゴだ。

 

 異世界で、それも裏社会で鎬を削り生きてきた彼女。

 現代で平和に、のうのうと生きてきた自分。

 

 ――そんな自分が、一方的に価値観を押し付ける筋合いが、何処にあろうか。

 

 巧は……分かっているのだ。

 それでも、彼女に――勝手に裏切られ、勝手に(いきどお)った。

 

 それだけだった。

 

 それなのに彼女は歩み寄ってくれている。

 

 我儘なのは。

 幼稚なのは。

 果たしてどちらなのか――。

 

 項垂れる巧。

 

 それを見て、コピアは勘違いした。――これ以上なく、失望していると。

 

「……う」

 

 引き攣った声。

 喉の奥が震えるような。

 洩れる吐息。

 

 巧は思わず顔を上げた――そこには。

 

「どう、しよう……」

 

 ぼろぼろ。

 

 鮮やかなオレンジ色の瞳に大粒の涙が生まれては、次々と溢れ落ちる。

 滑らかな褐色の頬を宝石が伝う。

 

 悲痛な声。

 迷路に迷い込んだ子供のよう。

 

「キミにっ、は……、嫌われたく、ないよ……」

 

 肩を震わせながら、ひっく、ひっくと、しゃくり上げている。

 手の甲でひたすらに拭うが、間に合わないほどの滂沱。

 ぽたり、と雫が地面に落ちて模様となる。

 

 巧は――絶句した。

 ハンマーで思い切り殴られたような衝撃だった。

 

(泣くなよッ!!)

 

 胸中で絶叫した。

 巫山戯(ふざけ)るな、とのたうち回りたくなった。

 いい加減にしろ、と呪いたくなった。

 

 そんなことをされては――。

 

「おい……やめろ、泣くな……」

「ごめんね……、ごめっ、んね……」

「……〜ッ! クソっ……!」

 

 巧は自身の太ももを殴った。

 じんと痛む。

 

 ――こんな殺人鬼とは絶対に相容れない。

 そう、すぐ直前まで生理が拒絶していたのに。

 

 今は。

 

 ――抱きしめたくて仕方ない。

 嫌いじゃないと、優しく囁きたい。

 

 まるで、食虫植物に誘われるハエの気分だった。

 気色が悪くてクラクラする。

 

(なんなんだよ、コイツ……ッ!)

 

 コピアはぽろぽろと涙を流し続ける。

 ひ、ひ、と息を詰まらせている。

 

 そのせいで、巧は言いたくもないセリフを言う羽目になった。

 

「――分かった、もういい」

 

 深いため息。

 

 ……。

 

 彼女が落ち着くまで数分は掛っただろうか。

 ようやく嗚咽が止んでくると、巧は酷く安堵した。

 

「ごめんね……」

「もういいって」

 

 空虚に謝るコピアに、空虚に赦す巧。

 滑稽だ、と巧は思った。

 

 コピアは嗚咽に掠れた、しかしいつものとろりと甘い声で続ける。

 悪辣なほど、それは耳に残る。

 

「ボクね……家から追い出されたんだ」

 

 巧は黙って聞いた。

 

「ボクの本当の名前、……コピア=ルノワール=アステラグランデっていうんだよ。ゴツいでしょ」

 

 泣き腫らした痛々しい目元に、少しだけ微笑を作った。

 

「お前に似合わないな……」

「うん、えへへ」

 

 すん、と鼻を啜る。

 

「うんと南の方のおっきい商家なんだ」

「……」

 

 巧は無言で続きを促した。

 

「よくわかんないけど、ボク、お父様にもお母様にも嫌われたみたい……色んな分家をたらい回しにされてさ……」

「……何したんだよ」

「ん? ……ええと」

 

 コピアは指を顎に当て、空中に記憶を探すように上を見た。

 

「お兄様が剣術を習っていたから、ボクもさせてもらったの!」

「それだけか?」

「うん」

 

 コピアは神妙に頷いた。

 

「でもお兄様、あの程度で、()()()()()()()()()()()()みたいでさ。ナンジャクだよね」

 

 巧は聞いた瞬間、力無く項垂れた。

 魂が抜けるような嘆息が、またもや喉から洩れた。

 

「……それだろ」

「?」

 

 コピアはきょとんと首を傾げた。

 

「それから、イイナズケにも怖がられるし、家出して冒険者になったけど仲間にはすっごい怒られるし出禁になるし……もうサンザン」

 

 許嫁、という単語に巧の耳がぴくりと動いた。

 しかし鉄の意思で動揺を抑え込む。

 

「だーれも、ボクと話をしてくれない――でも、それでいいと思ってた」

 

 ――キミに会うまで。

 

 そう言って、充血した瞳を向ける。

 その真っ直ぐな視線に、巧は少し怖気づいた。

 

「きっとボクのこと、タクミにしか理解(わか)ってもらえない……それが理解(わか)るんだ」

 

 ずるり、と懐に潜り込んでくる。

 

 石化の瞳があるとしたら、きっとこういうものなのだろうと巧は思った。

 

「ねえ。ボク、変なのは分かってる。――でもキミの為なら直すから。時間が掛かっても、頑張るから」

 

 雁字搦めに絡めとるような、潤んだ瞳。

 吸い込まれそうな唇。

 

「おねがい……して欲しいこと、言って――」

「……っ」

 

 巧は思わず目をぎゅっと瞑った。

 これでもかと顔を顰めた。

 

(これ以上近寄らないでくれ……)

 

 ――殺しを止めてくれ、なんて言えるわけがない。

 

 それはエゴだ、と。

 

 彼女に永遠の足枷を嵌めるのか、と。

 

 細目を開けてコピアを見る。

 ――彼女は、心底不安そうに巧を見ている。

 

 きっと。

 何を直すべきか、なんて理解してすらいない。

 

 巧は、死にたくなった。

 




可愛い女の子に振り回されたいなあ。
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