白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
「それでねそれでね! ボク、そのときさぁ――」
左隣で、コピアが弾んでいる。
踊るように歩くたび、後ろで括った白髪が跳ねる。
にこにことご満悦だった。
ああ、ああ、と。
空返事をしながら、揺らされながら、巧は歩いていた。
――今に至って、彼は少しだけ割り切れていた。
いや、仕方なく、と言った方がいいか。
内心で溜息を吐く。
少し――浮かれすぎた、と内省する。
「結局、何日滞在したんだったか」
「――んえ?」
コピアの永遠に続くマシンガントークを切り裂いて、巧が言った。
「えーと……、四日じゃない?」
「そんなに経つか……」
「うん! ――ヤリまくったもんね!」
歯に衣着せぬ物言い。
うしし、と口元が弧を描いている。
彼女の言動に慣れては来ているが、巧はウンザリしたように軽く頭を振った。
のめり込んだ。
極上の女だった。
すっかり空になって、なお、今も惹かれるほど。
だから。
隣の少女がどんなシリアルキラーで、人格破綻者で、サイコパスであっても――受け入れなければならない。受け入れるべきだ。
好き勝手に抱いた男として。
――いや。
彼女の悪徳と外道を、赦すための、認めるための――折り合いを付けるための。
コピアもまた、こうなることを何となく分かって、誘ったのだ。
だからこんなに連日上機嫌なんだろう、と巧は諦念を抱いた。
「……で、まだ歩くのかよ」
「まだまだだよぅ。ほんの爪先くらいしか、歩いてないよ」
「マジか……」
項垂れる。
その様子を、コピアは嬉しそうに眺めた。
ぎゅっと腕を抱き寄せてくる。
「ねえねえ」
「……」
「やっぱりボクってさ……よかった?」
「何回聞くんだよ! もういいって!」
「ボクのカラダのこと、ボクより詳しくなっちゃったね」
「うるせえマジで」
にゅふふ、と猫のように笑った。
コピアはずっとベタベタと生々しく絡んでくる。それが鬱陶しくもあり、心地良くもあった。
――石畳が途切れた。
橋だ。
山と山の間に架かっている。
幅は、馬車二台が並べる程度。
欄干は腰の高さしかなく――その向こうはただの空。
(高いな……)
木でできているが、がっしりとした造りだ。
不安はない……が。
「結構風が強いから気を付けてね。ここを渡れば、次は――」
コピアの一向に止まない、耳心地のいい声をラジオに、こつりこつりと歩みを進める。
風はまっすぐに吹き抜け、コピアの白い髪を攫う。
――瞬間。
ぴたり、とコピアの声が止んだ。
風の音だけ。
「……どうした?」
そう言って視線を向けると――コピアが目を見開いていた。
驚きではない。
――脅威を感知した獣の目だ。瞳孔が開き切っている。
すん、と少しだけ鼻を揺らした。
「あー……、ちょっと浮かれすぎてたカモ」
その異常な様子に、巧の皮膚が勝手に粟立つ。
「なんだよ……」
「うーん、
言いながらも、歩く。
「だから、なんだよ……!」
「来るよ、ほら」
そう言ってコピアはしゃくり上げた。
橋の向こう。
遠く、親柱の影から。
――ひらり、と、白い人影が現れた。
真っ白な服。
日光を煌びやかに弾く、銀の甲冑。
肩上で切りそろえられたプラチナブロンド。
まだ遠いのに、ぞっとするほど美しいことが分かる少女だった。
がしゃり、がしゃり、と。
蒼穹の瞳を、じっと向けて。
――じゃりん。
少女はおもむろに剣を抜き放った。
荘厳で、神々しい銀と金。
日の光を浴びて光るその剣は、まるで太陽の化身だった。
「あちゃあ……、しかも“聖剣”だ」
聖剣――アイリスティア。
「“聖剣”……? なんだ、追っ手なのか……!?」
「うん、ジュッチューハック」
コピアは遠くを見るように目を細める。
「マジかよ、逃げるか……?」
「うーん、無理っぽい。後ろも――」
巧は振り返る。
背後。
橋の柱の影から、二人の背の高い男が躍り出た。
アイリスティアと似たような甲冑で、ずかずかと広い歩幅で歩いてくる。
「囲まれた……!?」
「ぬう、まあ仕方ないね! よーし!」
橋のど真ん中。
逃げ場はない。
コピアは巧の腕に絡めていた手をほどくと、軽快に細剣を抜き放ち――くるりと回してみせる。
開いた瞳孔のまま、薄っすらと獰猛に笑みを作る。
「ほら、タクミも! ――こいつら、前みたいに簡単にはいかないよ」
「冗談だろ……っ? クソッ!」
巧もまた、腰から剣を抜き放った。
最初の夜に拝借した、装飾も何もない、ただのロングソード。
鈍い鉄が、ぬらりと光を照り返した。