白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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13話:白い影

「それでねそれでね! ボク、そのときさぁ――」

 

 左隣で、コピアが弾んでいる。

 踊るように歩くたび、後ろで括った白髪が跳ねる。

 にこにことご満悦だった。

 

 ああ、ああ、と。

 空返事をしながら、揺らされながら、巧は歩いていた。

 

 ――今に至って、彼は少しだけ割り切れていた。

 

 いや、仕方なく、と言った方がいいか。

 

 内心で溜息を吐く。

 少し――浮かれすぎた、と内省する。

 

「結局、何日滞在したんだったか」

「――んえ?」

 

 コピアの永遠に続くマシンガントークを切り裂いて、巧が言った。

 

「えーと……、四日じゃない?」

「そんなに経つか……」

「うん! ――ヤリまくったもんね!」

 

 歯に衣着せぬ物言い。

 うしし、と口元が弧を描いている。

 

 彼女の言動に慣れては来ているが、巧はウンザリしたように軽く頭を振った。

 

 のめり込んだ。

 極上の女だった。

 すっかり空になって、なお、今も惹かれるほど。

 

 だから。

 

 隣の少女がどんなシリアルキラーで、人格破綻者で、サイコパスであっても――受け入れなければならない。受け入れるべきだ。

 

 好き勝手に抱いた男として。

 

 ――いや。

 ()()を免罪符にしている。

 

 彼女の悪徳と外道を、赦すための、認めるための――折り合いを付けるための。

 

 コピアもまた、こうなることを何となく分かって、誘ったのだ。

 だからこんなに連日上機嫌なんだろう、と巧は諦念を抱いた。

 

「……で、まだ歩くのかよ」

「まだまだだよぅ。ほんの爪先くらいしか、歩いてないよ」

「マジか……」

 

 項垂れる。

 その様子を、コピアは嬉しそうに眺めた。

 ぎゅっと腕を抱き寄せてくる。

 

「ねえねえ」

「……」

「やっぱりボクってさ……よかった?」

「何回聞くんだよ! もういいって!」

「ボクのカラダのこと、ボクより詳しくなっちゃったね」

「うるせえマジで」

 

 にゅふふ、と猫のように笑った。

 コピアはずっとベタベタと生々しく絡んでくる。それが鬱陶しくもあり、心地良くもあった。

 

 ――石畳が途切れた。

 

 橋だ。

 

 山と山の間に架かっている。

 幅は、馬車二台が並べる程度。

 欄干は腰の高さしかなく――その向こうはただの空。

 

(高いな……)

 

 木でできているが、がっしりとした造りだ。

 不安はない……が。

 

「結構風が強いから気を付けてね。ここを渡れば、次は――」

 

 コピアの一向に止まない、耳心地のいい声をラジオに、こつりこつりと歩みを進める。

 風はまっすぐに吹き抜け、コピアの白い髪を攫う。

 

 ――瞬間。

 

 ぴたり、とコピアの声が止んだ。

 風の音だけ。

 

「……どうした?」

 

 そう言って視線を向けると――コピアが目を見開いていた。

 

 驚きではない。

 ――脅威を感知した獣の目だ。瞳孔が開き切っている。

 すん、と少しだけ鼻を揺らした。

 

「あー……、ちょっと浮かれすぎてたカモ」

 

 その異常な様子に、巧の皮膚が勝手に粟立つ。

 

「なんだよ……」

「うーん、()()()()()()()なって」

 

 言いながらも、歩く。

 

「だから、なんだよ……!」

「来るよ、ほら」

 

 そう言ってコピアはしゃくり上げた。

 

 橋の向こう。

 遠く、親柱の影から。

 

 ――ひらり、と、白い人影が現れた。

 

 真っ白な服。

 日光を煌びやかに弾く、銀の甲冑。

 肩上で切りそろえられたプラチナブロンド。

 

 まだ遠いのに、ぞっとするほど美しいことが分かる少女だった。

 

 がしゃり、がしゃり、と。

 鉄靴(てっか)を鳴らしながら、機械のように一定にこちらに歩いてくる。

 蒼穹の瞳を、じっと向けて。

 

 ――じゃりん。

 

 少女はおもむろに剣を抜き放った。

 

 荘厳で、神々しい銀と金。

 日の光を浴びて光るその剣は、まるで太陽の化身だった。

 

「あちゃあ……、しかも“聖剣”だ」

 

 聖剣――アイリスティア。

 

「“聖剣”……? なんだ、追っ手なのか……!?」

「うん、ジュッチューハック」

 

 コピアは遠くを見るように目を細める。

 

「マジかよ、逃げるか……?」

「うーん、無理っぽい。後ろも――」

 

 巧は振り返る。

 

 背後。

 橋の柱の影から、二人の背の高い男が躍り出た。

 アイリスティアと似たような甲冑で、ずかずかと広い歩幅で歩いてくる。

 

「囲まれた……!?」

「ぬう、まあ仕方ないね! よーし!」

 

 橋のど真ん中。

 逃げ場はない。

 

 コピアは巧の腕に絡めていた手をほどくと、軽快に細剣を抜き放ち――くるりと回してみせる。

 開いた瞳孔のまま、薄っすらと獰猛に笑みを作る。

 

「ほら、タクミも! ――こいつら、前みたいに簡単にはいかないよ」

「冗談だろ……っ? クソッ!」

 

 巧もまた、腰から剣を抜き放った。

 最初の夜に拝借した、装飾も何もない、ただのロングソード。

 

 鈍い鉄が、ぬらりと光を照り返した。

 

 

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