白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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14話:葛藤を晴らした声

 三メートルほど離れた位置で、銀甲冑の少女――アイリスティアは止まった。

 

 一瞬の静寂。

 ジリジリと、日が照る。

 

「――随分、ゆっくりなされたようですね」

 

 遥か高みから、小石を落とすような声。

 凛とした響き。

 

「お陰で十分な時間が確保できました」

「いやー、セックスしまくっててさあ。ボクらがスッキリしてる間にずいぶん待たせちゃったぁ?」

 

 コピアは逆撫でするような笑みを貼り付けながら、飄々と皮肉を返した。

 

 くるり、くるり。

 剣を回す。

 

「いえ、お気になさらず」

 

 頭のおかしい返答にも、アイリスティアは微塵も動かない。

 眉の先まで、完全に制御されているようだった。

 

(クソッ、馬鹿か俺は……!?)

 

 巧は己の性欲を呪う。

 こうなるかもしれないと何故想定できなかったのか、と。

 

「コピア=ルノー、タクミ=サキエダ……貴方たちを殺人事件の容疑者として拘束させて頂きます」

 

 ――きぃん、と。

 アイリスティアの声が脳で反響した。

 

 痛みを思い出すような感覚だった。

 あの二人への恩を忘れ――性交に夢中になっていたなど、堕落も良いところだ。

 

「特に“雷剣”コピア=ルノー……貴方には国家反逆罪がかけられています。場合によっては――」

 

 アイリスティアがゆっくりと剣先を向ける。

 鋭く、光る。

 

「ここで死んで頂きます」

 

 巧はコピアを見る。

 

 彼女はニタニタと嗤っている。

 瞳孔は開きっぱなし。

 

 獰猛な肉食動物が唾液をダラダラと垂らして機を伺っているようだと、巧は思った。

 

(国家反逆……、こいつ何しでかしたんだよ……)

 

 呆れのような感心。

 いや、感心のような呆れか。

 

「――うーん、でもなあ」

 

 急に。

 

 コピアの雰囲気が緩んだ。

 場の空気さえ混ぜ返す。

 

 彼女は、ケーキの前で悩む子供のように悩ましく眉を顰めた。

 

「……うん、やっぱりタクミにあげる!」

 

 ……。

 

「は、はあ?」

「ボク、前に遊んだことあるし……それに、せっかくの機会でしょ?」

 

 優しい恋人の微笑。

 まるで、遊具を譲るかのように。

 心の底から、良かれとしか思っていない。

 

「それに聖剣(コイツ)、あんまり楽しくなかったし〜……。だからボクはこっち貰うね」

 

 そう言って迫りくる背後の男二人に、自ら歩いていく。

 コピアが視界から消え、気配が遠のいていった。

 

(ふざけんな……!)

 

 巧は内心でありったけの悪態をついた。

 目の前の金と銀の少女と相対する。目は外せない。

 

 腰が引け、苦渋の表情を浮かべる巧に、アイリスティアは告げた。

 

「――巻き込まれたのですか?」

 

 少しだけ、棘が消えた口調だった。

 

「貴方はまだ、状況によっては減刑の可能性が十分にあります。剣を下ろし、私の指示に従ってください」

「…………っ」

 

 機械のアナウンスのような一定の声。

 

 巧は、即座に悩んだ。

 息を詰まらせる。

 

 ――大恩のある、アルフレッドとダリア。

 あの優しい老夫婦のために、殉じるべきではないのか。

 たとえ命を捨てることになっても。

 

 それに、目の前の少女は誠実そうで。悪いようにはされないと直観が告げていた。

 

 震える呼気が洩れる。

 

「人質に取られていた、と釈明をお勧めします」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 脳裏を埋め尽くしたのは――コピアだった。

 

 楽しそうな顔。

 泣き顔。

 したり顔。

 困った顔。

 全てを差し出してくれたときの、顔。

 

 彼女の影が、声が……いつの間にか、毒のように体中を回っているようだった。

 

 ――彼女を、裏切るのか?

 

 自身に問いかける。

 答えは帰ってこない。

 

 ぐるぐると思考が回る。

 

 しかしそこに、決定的な一言が落とされた。

 

「素人に勝ち目はありません」

 

 高みから落とすような声。

 一方的に時刻を告げる時計のようだった。

 

 巧を宥めようとしているだけだろう。

 ――だが。

 

「貴方には――私を打倒することは不可能です」

 

 すこん、と。

 頭を叩かれるような衝撃。

 

 悩みが、飛んだ。

 

「――は?」

 

 一瞬、呆ける。

 

 しかしすぐに熱が首筋を上ってきた。

 なけなしの矜持を、ライターで焙られたような感覚。

 

 ビビってるわけじゃねえ。

 恩と女を、天秤にかけていただけだ。

 馬鹿な自分を、呪っていただけだ。

 勘違いするな。

 

 ――上等だ。

 

「お前、舐めんなよ」

 

 しん、と静まり返る。風が止む。

 

 巧は、剣を握り直した。

 びたりと正眼に構える。

 完全に、目が据わっている。

 

 アイリスティアは、少しだけ目を細めた。

 

「――いいでしょう、分かりました」

 

 そして、しなやかに剣を構えた。

 

「鎮圧します。怪我も覚悟してください」




多分対戦に慣れてきたら、煽られたら怒るんじゃなくて冷静に相手をぶっ殺す算段を組み立てる人が多いよね。
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