白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
一合。
二合。
剣と剣が弾かれあい、甲高い音が
巧も、アイリスティアもまだ、それぞれの出方を様子見る。
アイリスティアが剣を振る。
巧の首に吸い込まれそうなそれは、難なく剣先で逸らされる。
巧が剣を振る。
アイリスティアの胴を狙ったそれは、一歩下がるだけで当たらない。
攻撃の応酬に見えて――間合いを測る物差しを振っていた。
(……重い)
巧の脳裏に過る。
があん、があん。
弾き合う。
一閃一閃が、殺意でなく測定の剣。
だというのに――。
少女の膂力だと思えない。
強い。
速く、正確。
万能的と言っていい。
それは確かだった。だが――。
(……?)
こちらの牽制や、伏線じみた剣閃を容易くいなし、理想的な斬撃を返してみせるアイリスティア。
――縦に切り込む。
横に払われ、突きを返してくる。
――足元を払う。
それを飛び越え、首を的確に薙いでくる。
違和感が、重なる。
剣を跳ね上げ、首を狙う剣筋をはじき返すと、巧は少し距離を離した。
確かめるために。
(この子……)
距離、三メートル。
二歩進まねば、届かぬ距離。
――静寂。
アイリスティアはじりじりと歩み寄ってくる。
剣先を最適な位置に置きながら。
わざと同じ間隔を保ち、巧はゆっくりと下がる。
(なるほど、――
そう思いながら、巧は切り込む。
上手に、上手に返してくる。
こちらの差し足を潰すための牽制を置いてくる。
とんでもない精度、速度、衝撃。常人にはひとたまりもないだろう。
だが、巧からすれば。
――教科書を読んでいるようだった。
そして、確信した。
(じゃあ……)
ゆるり。
急に――動きを変える。
(
***
アイリスティアは剣を交えながら、驚きを抱いていた。
(――巧い)
目の前の青年から、
だというのにアイリスティアの攻撃を、剣を寝かせて滑らせ、あるいは出だしを挫き、見事に捌いている。
先ほどまでの腰が引けた佇まいからは予想できないほど、熟練の剣士だった。
あのコピアも、
しかし目の前の男は、ならずとも脅威に足り得ている。
距離を離される。
じりじりと詰めながら、アイリスティアは思考を巡らせる。
――舐めていた。
だが。
(攻め手は、多くない)
剣の腕が互角だとしても。
己が
そして、
その差は如実。
いつものように
時間は己の味方だと、そう論理的に判断した。
彼女は。
――剣士として、利口すぎた。
捌き、いなし、正解手の反撃を繰り出す。
があん、じゃりん。
火花。
鉄の香り。
風の音。
何度も同じ映像を再生するように。
機械的に処理するように。
そうしていた――次の瞬間。
(――?)
巧の姿勢が崩れた。
先ほどまでの、鋭利で、洗練された構えが解かれる。
だらん、と剣を下げた。
腰を落とした。
まるで、野生の獣のように。
(なに……?)
アイリスティアは思わずビタリと静止する。
(重心が死んでいる……)
――かと思うと、巧は途端に、素人のように剣を振り上げた。
(血迷った?)
そう判断しながらアイリスティアは待った。
待って、しまった。
巧の姿が――ぶれる。
そして次の瞬間には、気づけば剣が目の前にあった。
(――ッ!)
きぃ――――――ん。
視界が白と黒に激しく明滅する。
耳鳴りが脳を突き刺す。
腕に電流が走ったかと思う。
――剛剣一閃。
正面から受けてしまった。
衝撃を受け流す余裕も、躱す余裕も無かった。
しかし、受けた。
切られてはいない。
たたらを踏むが、姿勢を整える。
目を見開き、腕に力を籠める。
肺に空気を叩き込み、鋭く吐く。
(反撃はできない、しかし次撃を捌――)
そうして巧を捉え――息を呑んだ。
ゆるり、と。
アイリスティアは咄嗟に身構える。
即座にぐるりと思考が巡る。
(受ければいい、次は捌き、整える――)
考えながら、目線を向け。
戦慄した。
巧は、その双眸をカッと見開いていた。
顔を傾け。
――歪むほど嗤っていた。
(あ――)
アイリスティアはびくりと肩を揺らす。
思わず、硬直する。
少女の背筋を、ぞわり、と冷たいものが這った。
殺気ではない。
狂気でもない。
――もっと、澄んだ何か。
一瞬。
ほんの僅か瞬き程度の隙が生まれ。
その次の瞬間には、破壊の剣が叩き込まれていた。
があ――ん。
(――っ!!)
衝撃。
閃光。
轟音。
橋に、崖に金属音が木霊する。
受けることは容易かった。
だが、体勢の崩れも、両腕の痺れも蓄積している。
次は、受けられるのか。
防御を抜かれれば。
反応が遅れれば。
――終わりだ。
(違う)
次を考えなければならない。
平静に制御しなければならない。
しかし、氷のように冷徹だったアイリスティアの脳裏を駆けるのは――まさかの熱と悪態。
(こんなの、剣術じゃ――!)
姿勢を立て直す間に、巧はまた――あの構えを作っている。
容赦なく。
嗤いながら。
(あ、まっ……)
怜悧に戦術を組み立てていた。
理想と理論をなぞるよう試算していた。
その脳が、チカチカとしていて――。
呼吸が乱れる。
アイリスティアは生まれて初めて、戦いのさなかで。
――待ってくれ。
そう切望した。