白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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16話:慮外

 巧は、自身が笑っていることなど気付いていなかった。

 ただ知らぬまま楽しんでいた。

 

(ガン待ちゲーミング、ってか)

 

 ずるり。

 肩を、姿勢を崩す。

 わざとらしく。

 

()()()はまだよくは分かってないんだろうな――崩し方を)

 

 少しだけ、あの異常で愛らしい褐色の少女を思い出す。

 

 すぐに思考から追い出して、傾いた視界で銀の少女を捉える。

 アイリスティアは必死に構えている。

 体勢は完璧ではない。

 

()()()()には、()()()()()が一番――!)

 

 そうして――もう一撃放つ。

 

 衝撃が走る。

 

 アイリスティアが苦渋の表情を浮かべている。

 大きくのけ反りながら、辛うじて耐えている。

 

 巧もまた。

 崩れた体勢をゆっくりと整える。

 

 相手が“後の先”を狙うならば――“大技”を当てにいく。

 

 防がれたとて、疲労が溜まる。

 防ぐだけなら、いずれ崩れる。

 

(――そろそろ気付くだろ?)

 

 巧は、どこか微笑ましい気持ちでアイリスティアを見る。

 

 誰もが通る道だから、分かってしまうのだ。

 ――待ってる方が強い、と思ってしまう時期があると。

 

(さあ、前に出ないと――死んじゃうぞ)

 

 対処は簡単なのだ。

 

 この状況を打破する方法。

 巧がゆっくり構え直している、その隙を潰しにいく。

 たったそれだけ。

 

 だが、それをするということは――自ら攻める、ということ。

 

(来いよ)

 

 そうして、巧がまた構えようとしたとき。

 

「――ッ、ああっ!!」

 

 アイリスティアが前に出る。

 

 必死の形相。

 銀にも金にも取れる髪が乱れる。

 整えられた戦術も、冷静な論理も無い。

 

 だがその剣閃には――少女のこれまでに流した汗と、才能と、“技”が込められていた。

 

 巧は、知らずほくそ笑む。

 

 彼女の剣は先程のような、完璧に整えられたそれでは無い。

 泥臭く、しかし生の剣だった。

 

 果敢に攻めてくるアイリスティア。

 

 弾く。

 逸らす。

 避ける。

 

 無尽に続く、攻撃の雨。

 幾重に重なる剣閃。

 しかし――巧は、また嗤った。

 

 やっぱり。

 

 こんなに綺麗な剣筋で攻められるなら、待つ方が楽なのだ。

 

「――ッ!?」

 

 ――ぎぎぎぎぎ。

 

 アイリスティアの剣が、巧の剣の上で滑る。

 銀の鉄に、散る火花。

 

 体勢を崩したアイリスティアの顎に――剣の柄がフックのように叩き込まれる。

 

「――ぐっ」

 

 避けた。しかし掠めた。

 

 ぐわん。

 脳が揺れる。

 

 アイリスティアは足をふらつかせながら、咄嗟に追い払うように剣を振るう。

 ――悪手だった。

 

 その身が入らない剣閃は、すでに腕を振り上げている巧の、胸元僅か数センチを掠めていく。

 

 無表情。無反応。

 当たらないことなど、その剣の切っ先を見れば解った。

 

 そして。

 そのまま大上段から――振り下ろされる。

 

(まず――)

 

 このままでは、死ぬ。

 アイリスティアは理解した。

 

 だが。

 剣を振り切り、足がふらついたアイリスティアに、取れる手は少ない。

 

 これしかない。

 姿勢が崩れた方向へ――跳んだ。

 

 剣が掠るのを感じながら、少女は橋の床板を転がる。

 

 銀の鎧が重い。

 がしゃり、と音を立てる。

 

(体勢を――)

 

 欄干を背に立ち上がる。

 

 が。

 

 巧はアイリスティアの行先を読み切っていた。

 

 剣を振り降ろした体勢から、足をしなやかに運ぶ。

 そして――逆袈裟。

 

 剣先が光る。

 アイリスティアに迫る。

 

((あ……))

 

 驚きが重なる。

 

 巧は、振った瞬間に“当たる”と確信した。

 そしてその瞬間に、やっと思い出した。

 高揚していた頭脳がパッと冷える。

 

 ――()()()()()()

 

 しかし、もう止められやしない。

 力も。慣性も。

 

 ぎらり、と凶刃が向かう。

 

 そのとき。

 

「う、あアアッ――!」

「……っ!」

 

 ――ぼん。

 

 くぐもった爆発音とともに、アイリスティアがあり得ない方向に跳ねた。

 

 欄干を蹴った。

 しかしそれだけではありえない推進力で、飛ぶ。

 

 巧の放った剣はかすりもしない。

 

 アイリスティアは、その勢いのまま数メートルを無様に転がり。

 しかし無理やり跳ね起き、かしゃん、と両足で立った。

 

(なんだ、今の挙動は……)

 

 物理的にありえない。

 巧は冷静に構え直しながら、しかし胸中は驚愕に染まっていた。

 

 アイリスティアは、ぜえぜえと肩で呼吸をしている。

 背を丸め、剣を重そうに構える。

 欄干を蹴った足は、見てわかるほど痛々しく震えている。

 

 だが――目は死んでいない。

 まだ打つ手はある、と。

 

(何をした……)

 

 巧は警戒に身を固くしながら、じっと観察する。

 

 地を転がった際に服が裂け、大きく皮膚が露出したアイリスティアの肩口。

 その擦過傷が、じゅう、と煙を立てているのが見えた。

 傷口がみるみる塞がっている。

 

(は、回復しているのか!? じゃあ今のも魔術か!!)

 

 ――すると、アイリスティアの背後から二人の男たちが駆けてくるのが見えた。

 いつの間にか位置が入れ替わっていたようだ。

 

(加勢……!? いや、コピアは――)

 

 アイリスティアも気配に気づく。

 背を曲げたまま、震えた声で告げる。

 

「手練れっ! 連携必須、交互に攻撃を――! 私は聖剣で回復します!」

 

 巧は正眼に構えながら、内心で悪態をつく。

 

(ッ、クソ! 便利な世界だな!)

 

 来たる戦闘に備え、鋭く息を吐いた。

 

 だが。

 

 ――次の瞬間。

 

「――え?」

 

 アイリスティアは不思議そうな顔をした。

 出先でふと知り合いに会ったような。

 

 この戦場には不釣り合いな、きょとんとした声がぽろりと零れる。

 

 血が舞う。

 赤い雫が、弧を描く。

 

 アイリスティアは――騎士の男に斬られていた。

 

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