白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
巧は、自身が笑っていることなど気付いていなかった。
ただ知らぬまま楽しんでいた。
(ガン待ちゲーミング、ってか)
ずるり。
肩を、姿勢を崩す。
わざとらしく。
(
少しだけ、あの異常で愛らしい褐色の少女を思い出す。
すぐに思考から追い出して、傾いた視界で銀の少女を捉える。
アイリスティアは必死に構えている。
体勢は完璧ではない。
(
そうして――もう一撃放つ。
衝撃が走る。
アイリスティアが苦渋の表情を浮かべている。
大きくのけ反りながら、辛うじて耐えている。
巧もまた。
崩れた体勢をゆっくりと整える。
相手が“後の先”を狙うならば――“大技”を当てにいく。
防がれたとて、疲労が溜まる。
防ぐだけなら、いずれ崩れる。
(――そろそろ気付くだろ?)
巧は、どこか微笑ましい気持ちでアイリスティアを見る。
誰もが通る道だから、分かってしまうのだ。
――待ってる方が強い、と思ってしまう時期があると。
(さあ、前に出ないと――死んじゃうぞ)
対処は簡単なのだ。
この状況を打破する方法。
巧がゆっくり構え直している、その隙を潰しにいく。
たったそれだけ。
だが、それをするということは――自ら攻める、ということ。
(来いよ)
そうして、巧がまた構えようとしたとき。
「――ッ、ああっ!!」
アイリスティアが前に出る。
必死の形相。
銀にも金にも取れる髪が乱れる。
整えられた戦術も、冷静な論理も無い。
だがその剣閃には――少女のこれまでに流した汗と、才能と、“技”が込められていた。
巧は、知らずほくそ笑む。
彼女の剣は先程のような、完璧に整えられたそれでは無い。
泥臭く、しかし生の剣だった。
果敢に攻めてくるアイリスティア。
弾く。
逸らす。
避ける。
無尽に続く、攻撃の雨。
幾重に重なる剣閃。
しかし――巧は、また嗤った。
やっぱり。
こんなに綺麗な剣筋で攻められるなら、待つ方が楽なのだ。
「――ッ!?」
――ぎぎぎぎぎ。
アイリスティアの剣が、巧の剣の上で滑る。
銀の鉄に、散る火花。
体勢を崩したアイリスティアの顎に――剣の柄がフックのように叩き込まれる。
「――ぐっ」
避けた。しかし掠めた。
ぐわん。
脳が揺れる。
アイリスティアは足をふらつかせながら、咄嗟に追い払うように剣を振るう。
――悪手だった。
その身が入らない剣閃は、すでに腕を振り上げている巧の、胸元僅か数センチを掠めていく。
無表情。無反応。
当たらないことなど、その剣の切っ先を見れば解った。
そして。
そのまま大上段から――振り下ろされる。
(まず――)
このままでは、死ぬ。
アイリスティアは理解した。
だが。
剣を振り切り、足がふらついたアイリスティアに、取れる手は少ない。
これしかない。
姿勢が崩れた方向へ――跳んだ。
剣が掠るのを感じながら、少女は橋の床板を転がる。
銀の鎧が重い。
がしゃり、と音を立てる。
(体勢を――)
欄干を背に立ち上がる。
が。
巧はアイリスティアの行先を読み切っていた。
剣を振り降ろした体勢から、足をしなやかに運ぶ。
そして――逆袈裟。
剣先が光る。
アイリスティアに迫る。
((あ……))
驚きが重なる。
巧は、振った瞬間に“当たる”と確信した。
そしてその瞬間に、やっと思い出した。
高揚していた頭脳がパッと冷える。
――
しかし、もう止められやしない。
力も。慣性も。
ぎらり、と凶刃が向かう。
そのとき。
「う、あアアッ――!」
「……っ!」
――ぼん。
くぐもった爆発音とともに、アイリスティアがあり得ない方向に跳ねた。
欄干を蹴った。
しかしそれだけではありえない推進力で、飛ぶ。
巧の放った剣はかすりもしない。
アイリスティアは、その勢いのまま数メートルを無様に転がり。
しかし無理やり跳ね起き、かしゃん、と両足で立った。
(なんだ、今の挙動は……)
物理的にありえない。
巧は冷静に構え直しながら、しかし胸中は驚愕に染まっていた。
アイリスティアは、ぜえぜえと肩で呼吸をしている。
背を丸め、剣を重そうに構える。
欄干を蹴った足は、見てわかるほど痛々しく震えている。
だが――目は死んでいない。
まだ打つ手はある、と。
(何をした……)
巧は警戒に身を固くしながら、じっと観察する。
地を転がった際に服が裂け、大きく皮膚が露出したアイリスティアの肩口。
その擦過傷が、じゅう、と煙を立てているのが見えた。
傷口がみるみる塞がっている。
(は、回復しているのか!? じゃあ今のも魔術か!!)
――すると、アイリスティアの背後から二人の男たちが駆けてくるのが見えた。
いつの間にか位置が入れ替わっていたようだ。
(加勢……!? いや、コピアは――)
アイリスティアも気配に気づく。
背を曲げたまま、震えた声で告げる。
「手練れっ! 連携必須、交互に攻撃を――! 私は聖剣で回復します!」
巧は正眼に構えながら、内心で悪態をつく。
(ッ、クソ! 便利な世界だな!)
来たる戦闘に備え、鋭く息を吐いた。
だが。
――次の瞬間。
「――え?」
アイリスティアは不思議そうな顔をした。
出先でふと知り合いに会ったような。
この戦場には不釣り合いな、きょとんとした声がぽろりと零れる。
血が舞う。
赤い雫が、弧を描く。
アイリスティアは――騎士の男に斬られていた。