白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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17話:剣以外で死にたくない!

 がらんがらん、とけたたましい音を立てて、荘厳な剣が橋の床板を滑っていく。

 

「さすがアイリスティア様、これを回避なさりますか」

 

 騎士の男は、無表情で言った。

 

 アイリスティアは腕を抑えながら呆然としている。

 

 直撃は回避した。

 だがその袖には、痛々しく赤い鮮血が滲み、今も広がっていた。

 

「ヨハン……な、何を」

 

 アイリスティアの震える声に、男たちは返すこともしない。

 

 剣を向け、最大限の警戒をしながら、目の前の“聖剣”の一挙手一投足を注意深く睨んでいる。

 

(なんだ……何を見せられてるんだ?)

 

 巧もまた混乱した。

 ゆっくりと剣を下げる。

 

 そこに。

 

「うーん……」

 

 コピアがひょっこりと現れた。

 ぴょんと白髪のポニーテールが跳ねる。

 

「おまえっ、大丈夫か。何があった……」

 

 そう問いかけると、コピアは何とも言い難い表情を浮かべた。

 

「いやあ、なんか全然攻めてこなくて。てかあいつ等そもそも戦う気も無い感じでさ、話しかけても何も言わないし……暇だから途中から巧の戦闘を見てたよね」

 

 不完全燃焼、というよりかは。

 狐につままれた、という顔だった。

 

「分かんないけど、もう行っていいのかな?」

 

 くるりくるりと剣を回しながら、あっけらかんとコピアは言う。

 目の前の事象には、あまり興味が無いようだった。

 

(コイツはホントに……)

 

 ――しかし、言う通りだ。

 

 巧は少し冷静になる。

 今のうちにこの場を離れられるなら、それに越したことはない。

 

 そして行先――橋の向こうを見やると。

 

 無数の騎士が並んでいた。

 

「……なっ」

「うえっ! いっぱいいる……!」

 

 橋の両端。そう背後も。

 多数の騎士が取り囲んでいた。十や二十ではない。

 

 取り囲まれている。

 

 そのことに気づいたとき、アイリスティアと相対している二人の騎士の会話が聞こえる。

 

「ちっ、どうせ殺すならヤってから殺してえぜ。こんな別嬪なかなかお目見えできねえってのに」

「……馬鹿なことを言うな」

「お前も思ってたろ、この鉄の女が“よがる”所を見てえってな」

「黙れ。撤退だ、“聖剣”を確保しろ」

 

 もったいねえ、と男は吐き捨てた。

 

 アイリスティアは、今なお口を半開きにし、呆然としている。

 

 騎士の二人は、剣を向けたままじりじりと後退し。

 転がっていた“聖剣”を拾うと、直ちに速度を上げて退いていく。

 

 がしゃがしゃ、と。

 去る男の鉄靴(てっか)が鳴る音だけ響く。

 

 橋に、風が吹き抜ける。

 

「何これ、ボクら関係ないんですケド……」

 

 コピアが唇を尖らせた。

 

 その拗ねた声を横で聞きながら、巧は神妙な面持ちで経緯(いきさつ)を注視する。

 

 群れに逃げ帰る男たちと入れ替わりで。

 騎士の中から一人の男が歩み出た。

 

 その男は――ひどく整った顔をしていた。

 

 陽光を溶かしたような金髪。

 涼しげな蒼眼。白い肌。彫刻じみた鼻筋。

 くすみ無き銀の甲冑。スラリとした背。

 

 女なら誰もが一度は振り返るだろう、美丈夫。

 

 ばさり、と腕を広げる。

 他の騎士よりも荘厳で派手な、青と白と金の外衣がはためいた。

 

「――ご機嫌麗しゅう、“聖剣”殿」

 

 朗々とした深みのある声。

 高すぎず、低すぎない。

 

 だというのに、どこか空気が軽かった。

 

「ルシアン、副団長……」

 

 腕を押さえたアイリスティアの声が、風に溶ける。

 

 その声は聞こえてはいないだろう。

 だが、返答するように男――ルシアンは告げた。

 

「悲しいですよアイリスティア。まさか貴女が、賊と通じていたなんて。……貴女の側近が詳らかに語ってくれました」

 

(――はあ?)

 

 巧ですら、眉を顰めた。

 

 そんな訳がない。

 今出会い、剣を競わせていたというのに。

 

 少女を見る。

 アイリスティアは口を震わせ、何も言わなかった。

 

「大変残念です。高名な貴女が――あの“霧中の真実(ブリューム・ヴェルム)”などと……」

 

 高慢で、気障ったらしい。

 口角が歪む。

 

 しかし、嫌になるほど様になっている。

 

「しかし貴女の功績も本物。貴女の名誉を重んじ、捕縛し恥を晒すくらいならば、……凶悪な刺客と戦って殉死した、ということにしましょう」

 

 そう言って、ルシアンは片手をゆるりと挙げた。

 

 ざ、と。

 橋の両端の騎士たちが一斉に弓を構えた。

 

 ぎりり、と一斉に張力が漲る音が聞こえる。

 

「――諸共、死になさい」

 

 瞬間、コピアが跳ねた。

 

「はあぁぁぁあ!? ふざけんなっ!! 剣以外で死にたくないッ!!」

 

 巧の手を強く引っ張る。

 思わずつんのめるほど。

 

「飛び下りるよ!!」

「嘘だろ……!?」

 

 転びそうになりながらも橋の欄干まで引かれ、思わず巧は下を見た。

 百メートルは下らない。

 

 谷底は――大きな川。

 濁流の上に、薄っすらと霧掛かる。

 

 思わず足が竦む。

 

「し、死ぬだろ……!?」

「立ってても死ぬでしょ! 行くよ!」

 

 もうコピアは足を掛けている。

 迷いなど無いようだった。

 

(行くしかねえのか……!)

 

 巧は逡巡して。

 

 ――そして、ふと気になって背後を見た。

 

 呆然と立ち尽くす、ボロボロの少女。

 

 あのときの足が震えている。

 愕然としたまま、動く様子もない。

 

(――っ)

 

「放てぇ!!」

 

 ルシアンの鋭い声が響く。

 

 ひゅん、と矢が空を裂く音が無数に重なる。

 

 そのなかで――巧は咄嗟に足を動かしていた。

 少女のほうへ。

 

「タクミッ――!」

 

 コピアの声を背に受け、走る。

 その衝動の名は分からない。

 

「おいッ! 走れ!」

 

 少女の元に辿り着き、手を掴む。

 

 ぽかんと見上げる、透き通った蒼穹の瞳。

 作り物と思うほど整った輪郭。

 思ったより小さい背。

 

 巧は少女の反応も待たず、強く引いて走り出す。

 

(くそ、重い……!)

 

 甲冑の重さだろうか、想像より重い。

 それでも強く引く。

 

 走る。

 走る。

 しかし、思ったより進まない。

 

 少女がよたついているのが分かる。

 

 ――どす、どす、どすどすどす。

 

 飛来した矢が次々と足元に突き刺さる。

 

(頼む……っ!)

 

 やっとこのことで欄干に辿り着くと、……コピアがじとりと睨んでいた。

 

 しかし、無言。

 阿吽の呼吸でアイリスティアをひっ掴むと、コピアは少女をそのまま崖下に向けて放り投げた。

 

 事を理解していない。

 そんな唖然とした顔で、遥か崖下に落ちていく少女。

 

 それを見送り、巧は欄干に足を掛ける。

 矢がすれすれを飛んで行く。

 

「タクミっ」

「コピアッ!!」

 

 コピアは巧をぎゅっと抱いた。

 がっちりと、腰を縄で括るように。

 

 二人の力で、欄干を強く蹴った。

 

 風が暴力となり、肌を叩く。

 轟音が耳に木霊する。

 目を開いてなどいられない。

 

 コピアの肌のぬくもりを感じながら、あまりの落下距離に――巧は自然と意識を失った。

 




息抜きで始めてここまでツラツラ適当に書いてきまして、ちょっと伸びつつあるのが恐縮な今日この頃です。
この後も続き書いているんですけど、プロット適当すぎて自分で納得できないなーってなったので、一旦白紙に戻して考え直します。
つまりヒラメキが降りてくるまで更新停止します。ごめんなさい。
感想あればボロクソ書いてもらえると。返信しないかもですが。
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