白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
がらんがらん、とけたたましい音を立てて、荘厳な剣が橋の床板を滑っていく。
「さすがアイリスティア様、これを回避なさりますか」
騎士の男は、無表情で言った。
アイリスティアは腕を抑えながら呆然としている。
直撃は回避した。
だがその袖には、痛々しく赤い鮮血が滲み、今も広がっていた。
「ヨハン……な、何を」
アイリスティアの震える声に、男たちは返すこともしない。
剣を向け、最大限の警戒をしながら、目の前の“聖剣”の一挙手一投足を注意深く睨んでいる。
(なんだ……何を見せられてるんだ?)
巧もまた混乱した。
ゆっくりと剣を下げる。
そこに。
「うーん……」
コピアがひょっこりと現れた。
ぴょんと白髪のポニーテールが跳ねる。
「おまえっ、大丈夫か。何があった……」
そう問いかけると、コピアは何とも言い難い表情を浮かべた。
「いやあ、なんか全然攻めてこなくて。てかあいつ等そもそも戦う気も無い感じでさ、話しかけても何も言わないし……暇だから途中から巧の戦闘を見てたよね」
不完全燃焼、というよりかは。
狐につままれた、という顔だった。
「分かんないけど、もう行っていいのかな?」
くるりくるりと剣を回しながら、あっけらかんとコピアは言う。
目の前の事象には、あまり興味が無いようだった。
(コイツはホントに……)
――しかし、言う通りだ。
巧は少し冷静になる。
今のうちにこの場を離れられるなら、それに越したことはない。
そして行先――橋の向こうを見やると。
無数の騎士が並んでいた。
「……なっ」
「うえっ! いっぱいいる……!」
橋の両端。そう背後も。
多数の騎士が取り囲んでいた。十や二十ではない。
取り囲まれている。
そのことに気づいたとき、アイリスティアと相対している二人の騎士の会話が聞こえる。
「ちっ、どうせ殺すならヤってから殺してえぜ。こんな別嬪なかなかお目見えできねえってのに」
「……馬鹿なことを言うな」
「お前も思ってたろ、この鉄の女が“よがる”所を見てえってな」
「黙れ。撤退だ、“聖剣”を確保しろ」
もったいねえ、と男は吐き捨てた。
アイリスティアは、今なお口を半開きにし、呆然としている。
騎士の二人は、剣を向けたままじりじりと後退し。
転がっていた“聖剣”を拾うと、直ちに速度を上げて退いていく。
がしゃがしゃ、と。
去る男の
橋に、風が吹き抜ける。
「何これ、ボクら関係ないんですケド……」
コピアが唇を尖らせた。
その拗ねた声を横で聞きながら、巧は神妙な面持ちで
群れに逃げ帰る男たちと入れ替わりで。
騎士の中から一人の男が歩み出た。
その男は――ひどく整った顔をしていた。
陽光を溶かしたような金髪。
涼しげな蒼眼。白い肌。彫刻じみた鼻筋。
くすみ無き銀の甲冑。スラリとした背。
女なら誰もが一度は振り返るだろう、美丈夫。
ばさり、と腕を広げる。
他の騎士よりも荘厳で派手な、青と白と金の外衣がはためいた。
「――ご機嫌麗しゅう、“聖剣”殿」
朗々とした深みのある声。
高すぎず、低すぎない。
だというのに、どこか空気が軽かった。
「ルシアン、副団長……」
腕を押さえたアイリスティアの声が、風に溶ける。
その声は聞こえてはいないだろう。
だが、返答するように男――ルシアンは告げた。
「悲しいですよアイリスティア。まさか貴女が、賊と通じていたなんて。……貴女の側近が詳らかに語ってくれました」
(――はあ?)
巧ですら、眉を顰めた。
そんな訳がない。
今出会い、剣を競わせていたというのに。
少女を見る。
アイリスティアは口を震わせ、何も言わなかった。
「大変残念です。高名な貴女が――あの“
高慢で、気障ったらしい。
口角が歪む。
しかし、嫌になるほど様になっている。
「しかし貴女の功績も本物。貴女の名誉を重んじ、捕縛し恥を晒すくらいならば、……凶悪な刺客と戦って殉死した、ということにしましょう」
そう言って、ルシアンは片手をゆるりと挙げた。
ざ、と。
橋の両端の騎士たちが一斉に弓を構えた。
ぎりり、と一斉に張力が漲る音が聞こえる。
「――諸共、死になさい」
瞬間、コピアが跳ねた。
「はあぁぁぁあ!? ふざけんなっ!! 剣以外で死にたくないッ!!」
巧の手を強く引っ張る。
思わずつんのめるほど。
「飛び下りるよ!!」
「嘘だろ……!?」
転びそうになりながらも橋の欄干まで引かれ、思わず巧は下を見た。
百メートルは下らない。
谷底は――大きな川。
濁流の上に、薄っすらと霧掛かる。
思わず足が竦む。
「し、死ぬだろ……!?」
「立ってても死ぬでしょ! 行くよ!」
もうコピアは足を掛けている。
迷いなど無いようだった。
(行くしかねえのか……!)
巧は逡巡して。
――そして、ふと気になって背後を見た。
呆然と立ち尽くす、ボロボロの少女。
あのときの足が震えている。
愕然としたまま、動く様子もない。
(――っ)
「放てぇ!!」
ルシアンの鋭い声が響く。
ひゅん、と矢が空を裂く音が無数に重なる。
そのなかで――巧は咄嗟に足を動かしていた。
少女のほうへ。
「タクミッ――!」
コピアの声を背に受け、走る。
その衝動の名は分からない。
「おいッ! 走れ!」
少女の元に辿り着き、手を掴む。
ぽかんと見上げる、透き通った蒼穹の瞳。
作り物と思うほど整った輪郭。
思ったより小さい背。
巧は少女の反応も待たず、強く引いて走り出す。
(くそ、重い……!)
甲冑の重さだろうか、想像より重い。
それでも強く引く。
走る。
走る。
しかし、思ったより進まない。
少女がよたついているのが分かる。
――どす、どす、どすどすどす。
飛来した矢が次々と足元に突き刺さる。
(頼む……っ!)
やっとこのことで欄干に辿り着くと、……コピアがじとりと睨んでいた。
しかし、無言。
阿吽の呼吸でアイリスティアをひっ掴むと、コピアは少女をそのまま崖下に向けて放り投げた。
事を理解していない。
そんな唖然とした顔で、遥か崖下に落ちていく少女。
それを見送り、巧は欄干に足を掛ける。
矢がすれすれを飛んで行く。
「タクミっ」
「コピアッ!!」
コピアは巧をぎゅっと抱いた。
がっちりと、腰を縄で括るように。
二人の力で、欄干を強く蹴った。
風が暴力となり、肌を叩く。
轟音が耳に木霊する。
目を開いてなどいられない。
コピアの肌のぬくもりを感じながら、あまりの落下距離に――巧は自然と意識を失った。
息抜きで始めてここまでツラツラ適当に書いてきまして、ちょっと伸びつつあるのが恐縮な今日この頃です。
この後も続き書いているんですけど、プロット適当すぎて自分で納得できないなーってなったので、一旦白紙に戻して考え直します。
つまりヒラメキが降りてくるまで更新停止します。ごめんなさい。
感想あればボロクソ書いてもらえると。返信しないかもですが。