ぐちゃドロ系サイコ女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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4話:ボクとケッコンして

 巧は目を見開く。

 

(気づかなかった……)

 

 極度の緊張と興奮で見逃していたのだろう。

 黒ずくめの男が、中空に色のない視線を投げ出して倒れている。

 

「あいつがおじさんとおばさんをヤッてたから、咄嗟にボクも、ソイツをこう――後ろからブスリとヤッちゃったわけ」

 

 褐色の少女は諸手を挙げながら、悪げもなくからりと告げた。

 

 「…………」

 

 巧は睨む。

 剣を握る手指には未だに力が込められている。いや、むしろ。

 

 ――信用できない。

 

 そうありありと頬に書かれている。

 

「だぁ――! ホントなんだってばぁ!」

 

 瞼に皺が寄るほど、ぎゅっと目を瞑る少女。

 中空を見上げて叫ぶ。

 

「ボク、死にたくないんだけど。君とケッコンしたいから」

「………………?」

 

 さらりと。

 余りの予想外の言葉に、巧は少し遅れて反応した。

 

「……はぁ?」

 

 歪むほどヒリついた空気。大きく皺が出来た眉間。

 たった一言で――緩む。

 

「証拠見せたげる。ねえ、剣降ろしてよぅ」

「ちょ。おまえ、今なんて……」

「ねえってば!」

 

 巧に満ちていた殺気が霧散する。

 彼は渋々ながら、剣を下ろしてしまった。

 

 少女はにまっと微笑むと、跳ねるように歩き出した。

 動きに合わせて、煌びやかな白髪のポニーテールも弾む。

 

 そうして己の細剣をひょいと拾うと、そのまま――老夫の死体の元まで歩いた。

 

「――!」

 

 警戒を続ける巧の目に、冒涜的な光景が映る。

 少女は老夫の胸に大きく空いた刺突痕に――すとん、とその細剣を差し込んだのだ。

 

「っ、お前!!」

「わっ! びっくりした、なんだよう」

 

 ――なんだよ、じゃない。

 その言葉が喉元までせり上がるが、喉が震えて上手く声が出せない。

 再び怒りに染まりそうになったが。

 

「ね、ね! これ見て!」

「…………!」

「――傷口の大きさが違うでしょ?」

 

 少女の声で引き戻される。

 

 少女は指さす。

 巧の持っている剣を。

 

「そっちだとピッタリ。んで、キミの持ってる剣はそこの黒い奴が持って来てたヤツ」

 

 巧は持っていた剣をじっと見下ろした。

 少し幅広の、しっかりした造りのオーソドックスな片手剣。

 確かに言われた通り、その切っ先は傷口と符合する。

 

「つまり、どういうことだ……? じゃあ、お前は一体何しに来たんだ」

「ええ~!!」

 

 甘ったるい声がまとわりつく。

 

「何しに来たって……つれないなあ。キミ、人を殺しといてそれはないんじゃない?」

 

 少女は細剣を鞘に納めると、ひょこひょこ、と巧に歩き寄った。

 

「お前も、俺を()ろうとしただろう。あのとき……」

「ん? うんまあ、目撃者だしねえ」

 

 しゃあしゃあと少女は言う。

 

「おあいこ、って言いたいワケ? あ~あ、あの魔石チョー高いヤツなんだけど。これってブッソンって言うんだよね?」

 

 少女は無防備に近寄る。

 背の低い彼女は、巧の懐に潜り込むようにして上目遣いで頬を膨らませた。

 

 ころころと鈴が鳴るように喋る。口が良く回る女だった。

 

「……ぐ」

 

 殺してしまった負い目。

 そして何より距離が近く、言葉に詰まる。

 

「つーまーりー」

 

 にまあ。

 彼女はチェシャ猫のように口を三日月にする。

 

「キミは責任取ってボクとケッコンすべきなんだよ!」

「……はあ!? なんだそれ!」

 

 巧の反論など聞いていない。

 少女は一人でうんうんと頷いている。

 

「そうそう。ボクを殺した責任、ちゃんと取って……、ん? これ以上言ったらマズイ気が……」

「……意味が分からない」

 

 巧は肩を落とす。

 

「何がしたいんだよ、お前」

 

 少女はキョトンとした。再三言ってるのに、と顔に書いてある。

 

 ――巧は、これ以上なく混乱した。

 

 恩人を失った悲しみ。

 剣戟の余熱。

 罪悪感。

 少女の意味不明な言動。

 

 上手く処理できない。

 ガラスがひび割れるような頭痛がまた走って、思わず頭を抱えた。

 

「大丈夫……?」

 

 少女はおずおずと巧を覗き込む。

 何の引け目も無いような態度で、ただ純粋に心配するように。

 

 くりくりと大きいアーモンド型の瞳を見ながら、巧は大きな嘆息を吐いた。

 

「……整理させてくれ」

 

 巧は眉間を(ほぐ)しながら続ける。

 

「まず、その結婚ってのはどういうことなんだ」

 

 少女は後ろ手に組んで、こてんと首を傾げた。

 後ろで一つ結びした白髪が揺れ、闇の中で月光を返す。

 

「ケッコンはケッコンだよ。男と女が一緒に住んでエッチして子供産むヤツだよ」

「……っ、なんでお前は、自分を殺した男と結婚したいのかって聞いてんだ……!」

 

 露骨な言葉に一瞬たじろぐ巧だが、声を荒げてなおも問うた。

 

「そりゃあ、……キミに惚れたからに決まってんじゃんか」

 

 少女は頬を少し染めた。つんと唇をとがらせる。

 まるで、普通の少女が告白するように。ちょっと言い辛そうに。

 

 そんな様子に、巧はにわかに牙を折られる。

 

「くっ……。いや、もういい、意味も文脈も分からないけど、もうそれはいい」

 

 疲れたように目を擦る。

 

「じゃあ、なんでここにお前は来たんだ。こんな夜中に」

「うぇ? ……キミってちょっとバカ?」

 

 怪訝そうに少女は見つめてくる。

 

 不服だったが、巧は黙った。

 

「ケッコンしてほしいって、さっきから、ずぅーっ……と言ってるんですケド」

 

 どうやら彼女の中では。

 結婚したいと思ったら、夜中だろうが相手の元に訪れるのも当然の事らしい。

 

 巧は頭痛と共に諦めた。

 

 「じゃあ最後に――」

 

 一瞬言い淀むが、口を無理やりこじ開ける。

 

「なんで、アルフレッドさんとダリアさんは殺されないといけなかったんだ。その男は誰なんだ……っ!」

 

 ぐちゃぐちゃの感情のまま言い放つ。

 

 その質問に、何のやましさも無く少女が答える。

 

「刺客……、いや、監視者かな――“霧中の真実(ブリューム・ヴェルム)”の」

「刺客……!?」

 

 巧は瞠目した。

 

「なんで刺客に狙われる必要があったんだ……! あの人たちは、なにも……」

「うーん、あのおじさん達じゃなくて――狙いは“キミ”だと思うよ?」

 

 さらり、と。

 人差し指を顎に当てながら、少女は考えるように上を見る。

 

「キミってば、ボクを殺しちゃったじゃん」

 

 少女の高い声が酷く響く。

 

()()()()()。……そんな感じじゃないかなぁ?」

 

 ぐわんと、視界が傾いた気がした。

 




それ以上いけない。
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