ぐちゃドロ系サイコ女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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5話:共犯者

「俺が目的なら、俺だけ狙えばいいだろう!」

「うえっ! ぼ、ボクに言われても……」

 

 痛々しく叫ぶ巧に、少女は困った顔を作った。

 あどけない褐色のかんばせがキュッと縮む。

 

「“ついで”じゃない? また見られたらどうせ()ることになるんだし……」

「ついで、だと!?」

「――だからぁ! ボクに言われても分かんないって!」

 

 少女は背を伸ばして仰け反った。

 

 頭の中が白くなる。

 呼吸が荒くなる。

 

(冗談じゃない……)

 

 だって、それを認めてしまえば――。

 

(俺が――コイツを殺したから、なのか……?)

 

 己が、殺さなければ。

 己が、路地裏に行かなければ。

 己が、――あのとき、二人に助けられなければ。

 

 あの優しい老夫婦は、死ぬことがなかった――なんて。

 

「……っ」

 

 巧はふらついて、カウンターに力なく寄りかかった。

 

「わ、大丈夫……?」

 

 少女が手を差し伸べてくる。

 

 巧はそれを――強く払い除けた。

 

「近寄るな……!」

 

 拒絶。

 

 少女は胸元で腕を抱いて、酷く曇った顔をした。

 叱られた子供の様に、純粋に。

 

「チッ……!」

 

 悪態が胸の裏を叩く。

 

(そんな顔、すんなよ……! お前は殺人鬼なんだろう!?)

 

 ――悪者でいてくれよ。

 

 眉尻を下げ、今にも泣きそうな彼女に、心が激しく揺らされる。

 

「ね、ねえ……」

「……なんだよ」

 

 少女は、躊躇いがちに言葉を差し出した。

 

「とりあえず、逃げたほうがいいと思う」

「逃げるだって……?」

 

 巧は言い捨てる。

 

「騎士団にお前を突き出して、それで終わりだ……!」

 

 うーん、と少女は唸った。

 

「騎士団はキミを死刑にするんじゃないかな」

「――は?」

「なんて言うんだっけ、ほら。えーと、“ユチャク”ってやつ」

 

 これで何度目か、巧の頭が真っ白になる。

 ユチャク、癒着。

 

「“霧中の真実(ブリューム・ヴェルム)”は、きっと揉み消すよ。キミごと……」

 

 酸素が足りない。

 ぱくぱく、と間抜けに口を動かすしかなかった。

 

 少女が続ける。

 

「ね、ね? ボクと一緒に逃げよう? ちょうどボクも死んだことになったし、こんな絶好のタイミング無いと思うんだ!」

 

 上目遣いが突き刺さる。

 幼子が玩具をねだるような、可愛らしい打算。

 

 跳ねのけても寄ってくる子猫のように、巧にすり寄った。

 

「うんうん……、今思うと、咄嗟に“監視者”を始末しといて良かった!」

 

 ぺかり、と花が開くような快活な笑み。

 

 鈍器で殴られたような衝撃が走った。

 

(良かった、って。……頭がおかしい)

 

 気狂いの女だ。

 イカれてる。

 

 なのに。

 なんでさっきから。

 

 ――こんなに、心が囚われるのか。

 

 少女は再び腕に絡み付いてくる。やわらかくて甘い匂い。

 払い除ける力は、もう無い。

 

「ねぇえ、行こぉ? ボク、いい隠れ家持ってるんだ~!」

 

 蜂蜜のようにどろりと纏わりつく甘い声は、甲高いのに、耳に刺さらない。

 オレンジ色の猫のような目が、愛くるしく細まる。

 

「あ、その片手剣は貰っとく? いや、自分のモノもってるか」

「……俺は」

 

 口をつく。

 なんでこの女に吐露しようとしているのか、巧は自分でも分からなかった。

 

「俺は、殺し屋でも、剣士でもない……。剣なんて持ってるわけ、無いだろ」

 

 少女は目を見開いた。

 

「うええ!! ウソだぁ! あんなに剣術の神様みたいなのに!?」

「嘘吐く意味無いだろ……」

 

 力なく告げた。

 

 少女は、ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、じっと巧を見上げた。

 

「顔がウソっぽくない。ってことは、ホント? じゃあキミ、チョー天才ってことじゃん!! し、信じられないけど……すごい!!」

 

 嬉しそうに、ぎゅっと腕に絡んだ。

 ぴょんぴょんと跳ねて、巧もされるがままに揺らされる。

 

「そっかー……、だからそんなにマトモな雰囲気なんだね」

 

 ――すっごい変な人かと思った。

 と、明け透けに少女は語った。

 

「じゃ、よろしくね! ――ボクはコピア。コピア=ルノー。今日からキミのになってあげるんだから、“おい”でも“おまえ”でも、好きに呼んで!」

 

 巧は項垂れた。肩がズシリと落ちる。

 

 酷く疲れたし。

 拒絶しようにも、どうにもこの女を嫌いになれない自分がいた。

 

「よーし、とりあえずその剣は貰っとこう? せっかくだし」

 

 うしし、と意地悪に笑う。

 コロコロと表情が目まぐるしく変わる少女。

 

 その背後には――あの二人の死体が転がっている。

 巧は虚無感と、絶望と、目の前の少女の愛嬌にジクジクと苛まれる。

 

 捨て鉢に、皮肉交じりに笑った。

 

「剣を持って、どうしろっていうんだ……。俺に追っ手と戦えとでも?」

「追っ手が来るかは分かんないけど、キミが剣を持たないなんて勿体無さすぎるよ! この世界に対するボートクだよ!」

「やめてくれ、俺は人殺しにはなれない……」

 

 コピアはにこりと笑い飛ばした。

 なんだ、そんなことか、と。

 

「大丈夫」

 

 間近で見上げてくる、可憐な顔。

 垂れ目がちなアーモンド型の瞳。

 

「ボクがキミを――うんと立派な人斬りにしてあげる!」

 

 幼い喜色のまま不穏なことを言い放つ少女に、巧は意識が搔き消えそうになった。




死人の前でラブコメるな。
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