ぐちゃドロ系サイコ女は俺を立派な人斬りに育てたい   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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7話:聖剣、アイリスティア

 人だかりができているというのに、普段の喧騒は鳴りを潜めていた。

 誰もがコソコソと耳打ちをして、恐怖を共有していた。

 

「全員が一突きらしいぞ……」

「あんなに優しい人たちが、どうして……」

「おい、居候の男がいなかったか? そいつも死んだのか?」

 

 がやがや、と。

 噂が像を結び自分勝手に形を成していく。

 

 その人だかりに向かって、肩で風を切って歩いていく少女がいた。

 

 年の瀬、十六頃と若い。

 

 彫刻のように端正な目鼻立ち。

 薄金の髪が、肩の少し上で一本の線を引くように切り揃えられている。

 

 纏うのは白と金を基調とした聖騎士の装束。

 銀の鎧ドレスは軽装ながら、その輝きに一点の曇りもない。

 

 華美でありながら不自然無く調和している。まるで職人が魂を削って作りだした造花だった。

 

「おい、どいてくれ。アイリスティア様が通る」

 

 その少女――アイリスティアと呼ばれた者の前、側近らしき男が民衆に向かってとげとげしく言い放った。

 

 その言葉に意を示す者はいない。

 ざっと人混みが裂ける。

 

「聖剣様だ……!」

「なんと、こんなお近くで。麗しい……」

「こりゃ一安心だね!」

 

 見るや否や、民衆は無責任な安心を抱いた。

 

 路傍の石に目もくれず。

 アイリスティアはただ真っ直ぐに歩く。定規で引いたような背筋のまま。

 

 そのまま、場違いなほどに大衆的な木のドアを潜った。

 

 庶民的で親しみやすい食堂。

 そこは荒れ果てていた。

 机と椅子と――死体が乱雑に散らばる。

 

「――状況は」

 

 うら若い声が凛と響く。余計な言葉は無い。

 

「聖剣殿……!?」

 

 すでに現場に入っていた聖騎士が、僅かに顔を歪めた。

 

「どうしてこのような民事に?」

「私は独立的な捜査権が与えられています。……何か問題でも?」

「いえ……」

 

 澄ました顔のまま落とすように告げる。

 感情を映さない、冷たい水面のような蒼瞳。

 

()()が殺傷されています。その内一人はすぐ近くのゴミ捨て場がある裏路地で見つかっています」

 

 淡々と男が告げる。

 

「どれも急所に一突き。それ以外に外傷は無く、その刺突痕が明確な死因かと……」

 

 そう言って遺体に目を向けた。

 

「また、この食堂に居候していた男が消えていて……何らかの関与が疑われます」

「……それで、被害者の身元は?」

「この大衆食堂を営む夫婦。そして男が二人。残りの二人はおそらく食堂の()でしょう」

()?」

 

 冷え切った少女の言葉が落ちる。

 

「客かどうかは重要ではありません。あなたの所見は不要です」

 

 騎士の男は露骨に鼻白む。

 

「――この遺体が一体誰なのか、それを明確にして下さい。現場調査はこのまま私が預かります」

 

 ほんの僅か、男はぴくりと眉を揺らした。

 しかし何も言わず、聖騎士の礼を取った。

 

「……はっ」

 

 そういうと騎士の男は去っていく。その後ろにぞろぞろと、男の部下であろう騎士が続いた。

 

 その背中をアイリスティアはじっと見送った。

 少し静かになる現場。

 

(十中八九“霧”関係……)

 

 考え込むアイリスティア。

 その後ろ姿に、側近二人が話しかける。

 

「では我々は、その裏路地を……」

「はい、私も後から向かいます」

「はっ……!」

 

 側近を見送ると、アイリスティアは乾いた血溜まりの跡を歩いた。

 遺体の検分を始める。

 

 そしてすぐに――違和感に気づく。

 

「……傷跡が異なる」

 

 老夫婦の傷口は単純な刺突痕。

 肉が抉れ、骨がひび割れ、無理やり突き込んだ痕跡。

 

 ――しかし。

 

 黒ずくめの男の傷口は、まるで生きていた頃から穴が開いてあったかのようだった。

 

 骨ごと。

 背後から心臓を通り。

 胸部まで。

 

 ものの見事に貫通している。

 歪みも、抉れも無い。

 一つの像が頭に浮かぶ。

 

「……“雷剣”、コピア=ルノー」

 

 アイリスティアは呟く。

 

「しかし、何故……。仲間割れ……? それに――」

 

 ぐるりと見まわした。

 落ちた燭台。倒れた椅子。――そして、血で出来た無数の足跡。

 

「全員一突きで死んでいる。なのに、どうして()()()()()が……」

 

 謎は深まる。

 しかし考えても仕方ない、とアイリスティアはかぶりを振った。

 

(何があったかは分からない。しかし、間違い無いのは)

 

 その瞳が据わる。

 

(――奴はまだ、この近くにいる)

 

 

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