白髪褐色狂剣少女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
粘つく笑みを貼り付けた男たち。
己の優位を疑ってなどいない。
ざり、と。
取り囲むように、小石を蹴りながら無遠慮に近づいてくる。
「……っ」
背後にはコピアがいる。
――下がれない。
戦うしか、ない。
昔、何千何万と繰り返した“対人戦”。
回線越しに抽象化された殺意を読み合う、あの感覚が戻ってくる。
ただ違うのは。
今は、実際に血が流れるということだ。
「死ねェ!」
ごろつきの一人が錆びた剣を振りかぶった。
咄嗟に身構える。
が――。
(――?)
ぽかん、と呆気に取られた。
一向に剣が来ない。
不恰好に大振りで。体の開きも、腰のひねりも何も無い。
まるで児戯。
肩透かしにも程があった。
――まだ、剣があんなところにいる。
遅すぎる。
コピアとの剣戟に目が慣れすぎてしまっていた。
いや、彼女との打ち合いでさえ――巧にかかれば片手間だというのに。
巧はただ木剣を沿わせただけ。そして、同時にそっと肘を突き出した。
――がりがりがり。
木屑が宙を舞う。
「――おおっ……? お、ぐッ……」
ごろつきの男は空振った勢いのまま――巧の肘に自分から突き刺さった。
「カッ……、コオ……ッ!」
喉を押さえながら、たたらを踏む男。
錆びた剣など自分から取り落とした。
そこに。
(――あ)
反射的に。
機械的に。
ほとんど無意識のまま、止める間もなく――木剣を振り下ろした。
「があァ――ッ!」
重心、足運び、剣筋――理想的な反撃。
ごきん、と鈍い音が鳴り渡る。
その音と共に、男は地に勢いよく沈む。
巧は鎖骨ごと、男の意識を叩き折った。
「て、テメェ……!」
別の薄汚い男が、巧の視界の外から攻撃を加えようとした。
腕力だけで放つ、不細工な突き。
当たれば怪我では済まないだろう。
そう、当たれば。
――眼光。
巧は肩越しに、背後に尖った目を配らせた。
少しだけ身じろぎをする。それだけで。
こぉん――。
「は……?」
木剣の柄頭――わずか数平方センチの面積だけで、男の突きを受けていた。
思わず男は放心する。
どれだけ粗野で愚鈍でも、それが神業であることはさすがに理解できたからだ。
巧はそのまま、体をひねって掛かった力を受け流す。
男の重心が、前につんのめるように崩れた。
「う、お……っ――」
その崩れに乗せるように、巧は体の回転を剣に乗せた。
「ぐわあッ!?」
木剣が頭部に叩きこまれ、男は成す術なく地に伏せる。
――残り一人。
この間、僅か数十秒。
「な、何なんだてめぇ……ッ」
残る男が戦慄する。
おどおどと腰を引きながら、後ずさった。
巧は、据わった目のままゆっくりと構える。まるで根を張った大樹のように、決して揺れない。
恐怖や焦りなど、とっくにどこかに消えていた。
――ふと、頭に過る。
コピアと鍔迫り合った、あのひりつくほど冷たい夜。
一寸先の死。
月光と血の匂い。
瞬きさえ許されぬ刺突の嵐。
あのときのコピアの剣は、酷く浮かれて、嗤っていた。
こんなことができるよ、と。こんなのはどう、と。
そして、それを受ける己の剣も――。
それに比べ。
――なんて稚拙。
失笑にも値しない。
随分と失望させてくれる。
だから、ただ。
ぼうっとした頭で、唾でも吐くかのように無意識に衝いて出た。
「――つまんね」
小さい声が風に溶ける。
言ってから、巧は己の無駄口にハッと気づいた。
(何を求めてるんだ俺は、しくじれば死ぬんだぞ……)
巧は小さく頭を振ると、緩みかけた気を再度引き締めた。
「く、クソォォォ――!」
破れかぶれ。
最後の一人は、ただ闇雲に突っ込んでくる。
手と足を必死に動かしているだけ。技術も力も、当然“語り”も無い。
同じシーンを再生するかのように、木剣で逸らす。
がりがりがり――かん!
(――ッ!?)
「うおっ……!?」
巧と男は同時に驚いた。
木剣を滑っていた錆びた剣が、木の
巧も意表を突かれ、少しつんのめる。
が。
「っ……、くぅ、オオ――ッ!」
しかし、力でねじ伏せる。
今の巧の体は、それができた。
そのまま強引に。
相手の腕を折り返すように、刺さった剣ごと男に向けて叩き下ろした。
「がッ――!」
衝撃。
男は白目を剥いて倒れ伏せた。
振り切った姿勢のまま、数秒。
動かない男を睥睨しながら、巧は肩に掛かった緊張を落とした。
「フゥ――……」
排熱する機械のように、巧は熱い呼気を長く吐き出す。
――ぱちぱちぱち。
コピアの拍手が響き渡った。