辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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第3章 第16話:レイフォリアを襲う鉄と炎
**1.海軍を失った王国**
レイフォル王都、レイフォリア。
海軍本部では、海戦の生き残りからの報告により、壊滅した主力艦隊の無惨な状況が整理されつつあった。
戦艦『レイフォル』は沈没を免れたものの、艦橋・通信・測距・射撃指揮能力を完全に喪失。巡洋戦艦『ホーリー』も大破。魔導空母『トラント』、魔導巡洋艦『ガオフォース』も戦没。さらに、パガンダ海軍の戦艦を含む残存兵力も全滅したという報せが届いていた。
つまり、レイフォル王国とその保護国は、事実上『海上戦力』を完全に喪失したのだ。
しかし、国王ヒューエル一世は降伏を頑なに拒否した。
「海軍を失ったからといって、国そのものが滅びたわけではない」
ヒューエル一世は、軍部の悲観論を一蹴した。陸軍は無傷で健在だ。海岸線を守る要塞砲台も残っている。航空基地もある。各地の陸上要塞も機能している。そして何より、レイフォルには長い歴史と広大な国土がある。
「グラ・バルカスが海を支配したからといって、我々の国まで彼らのものになったわけではないのだ」
だが、その強気な言葉とは裏腹に、ヒューエル一世の内心には明確な不安が芽生え始めていた。
彼は誰もいない執務室で、広げられたレイフォルの国土の地図を見つめ、首都レイフォリアの文字を指でなぞった。
「……次は、ここにグラ・バルカス軍は来るだろうか」
制海権を失った今、沿岸部に位置するレイフォリアは、敵の艦砲が届く『最前線』に等しかった。
**2.グラ・バルカス、第二段階へ**
一方、海を制圧したグラ・バルカス帝国・機動艦隊旗艦、空母『トーラス』。
ラクスタル中将は、レイフォル海軍を撃破してから数日が経過しても、王国から降伏の使者が一向に現れないことを確認していた。
「やはり、海軍を潰しただけでは終わらないか」
ラクスタルは予測していたとはいえ、その厄介な現実にため息をついた。
とはいえ、「ではレイフォル全土を占領する」とはまだ考えない。
数千万の人口を抱えるレイフォルを占領すれば、食料、燃料、弾薬、治安維持、駐屯部隊、行政、通信、輸送……国家運営に必要なすべての負担が帝国軍にのしかかる。
転移直後で自国の燃料問題すら解決していないグラ・バルカスにとって、それは最悪の泥沼だった。
「ならば、作戦を次のフェーズへ移行する。目標は『レイフォルの戦争継続能力』の徹底的な破壊だ」
ラクスタルは、新たな作戦指令を下した。
「レイフォリア周辺の沿岸砲台、航空基地、対空陣地、陸軍基地、弾薬庫、魔石倉庫、燃料施設、港湾施設、そして港に逃げ帰った残存艦艇。……これら重要拠点に集中的に打撃を与え、レイフォリア防衛網に致命的な穴を開ける」
ラクスタルは、海図を冷徹に見下ろした。
「……敵の首都そのものを更地にして焼く必要はない。軍事力だけを焼けばいい。レイフォルが戦争を続けられない状態にするのだ」
それは、グラ・バルカス海軍の火力が、陸上戦へと容赦なく応用された瞬間だった。
**3.第一撃――見えない爆撃**
その日の夜。レイフォリア周辺。
レイフォル軍は当然ながら、グラ・バルカス艦隊からの夜間攻撃を極度に警戒していた。
何本ものサーチライトが夜空を舐め、対空砲の砲手たちが目を皿のようにして暗闇を睨みつける。
しかし、彼らの最大の問題は「何を警戒すればいいのか分からない」ことだった。
レイフォルの航空戦力には、計器飛行や夜間迎撃能力が乏しい。レーダーもない。地上の監視員は純粋な「目視」と「聴音」に頼るしかなかった。
一方、グラ・バルカス側では、空母『トーラス』から双発ジェット戦闘機『シャウラ』と、大型全天候攻撃機『ミルザム』が次々と夜の空へ飛び立っていた。今回の『シャウラ』は単なる制空戦闘機としてではなく、レーザー誘導爆弾を搭載したマルチロール機として参加している。
さらに、洋上の水上艦隊からは、大型で重量級の対地巡航ミサイルが、火を噴きながら漆黒の空へと次々に打ち上げられていた。
**4.レイフォリアの夜**
夜のレイフォリア。市民たちは、まだ戦争が海の上だけで起きていると思っていた。
――ズドォォォンッ!!
突然、レイフォリアの郊外で巨大な爆発が起きた。王都の防衛を担う重要な沿岸砲台が、一瞬にして吹き飛んだのだ。
「なんだ!? 敵襲か!」
「敵機はどこだ!?」
「分かりません! 航空監視所は何も捉えていません!」
その直後、再び巨大な爆発が夜の闇を引き裂いた。今度は軍の弾薬庫だ。さらに航空基地、格納庫、対空陣地の主要施設が、次々と炎に包まれていく。
レイフォル側からすれば、「敵の姿も音も見えないのに、重要施設だけが正確に破壊されていく」という恐怖以外の何物でもなかった。昼間ならまだ「敵の航空機を探す」という発想ができる。しかし夜間になると、その技術差の残酷さが浮き彫りになる。
レイフォル側の夜空には何も見えない。しかしグラ・バルカス側では、事前の偵察情報と機上航法装置によって目標空域へ侵入し、目標を明確に識別していた。
『目標、確認』
『レーザー照射』
『投下』
無線の交信回路に飛び交うのは、感情の一切ない淡々とした攻撃手順の報告だけだった。
**5.レーザーの光**
レイフォリアの対空砲兵が、燃え盛る炎の中で夜空を見上げていた。
敵機の姿も、エンジン音すら聞こえない。だが、遥か上空の攻撃機から投下されたレーザー誘導爆弾は、目に見えない不可視の光の束に導かれ、正確に次の砲台へと吸い込まれていく。
「なぜだ……! なぜこちらの位置が、あんなにも正確に分かる……!?」
砲兵は最後まで理解できないまま、砲台ごと光の中に消滅した。
また別の場所では、航空基地の格納庫の中央へレーザー誘導爆弾が正確に命中し、レイフォルの滑走路と航空戦力を地上で粉砕した。
さらに、王国最大の『魔石貯蔵庫』にも巡航ミサイルが直撃し、魔法兵器や魔導機関の生命線である魔石が、壮絶な誘爆を起こして夜空を青白く染め上げた。
それは単なる絨毯爆撃ではない。グラ・バルカスはレイフォルの継戦能力そのものを、外科手術のようにピンポイントで削り取っているのだ。
**6.残された戦艦**
そしてグラ・バルカスは、港に収容されていたレイフォルの残存艦艇にも無慈悲なトドメを刺した。
巡航ミサイルが港湾施設へ飛来し、港湾機能を麻痺させる。さらに『ミルザム』が二〇〇〇ポンド級のレーザー誘導爆弾を複数投下し、停泊していた戦艦『レイフォル』と巡洋戦艦『ホーリー』を徹底的に攻撃した。
前回の海戦では「浮いているが、戦艦としては死んでいる」状態だったが、今度は真上からの大質量徹甲爆弾によって分厚い甲板装甲を貫通された。爆弾は艦内深くの機関部や弾薬庫付近で炸裂し、両艦に致命的な損傷を与えた。
強固な装甲を誇る巨大戦艦も、内側からの爆発と急激に拡大する火災・浸水には耐えきれなかった。消火と排水能力を失った『レイフォル』と『ホーリー』は、港内で大きく傾斜し、やがて悲鳴のような金属音を立てて大破着底した。
戦艦を沈め、海軍に完全なトドメを刺すこと。それは、レイフォル海軍の消滅を視覚的にも政治的にも確定させる、極めて冷酷な宣告だった。
**7.艦砲射撃**
空襲だけではない。水上艦による艦砲射撃も、王都への破壊の輪に加わった。
レイフォリアの沖合。そこには、グラ・バルカス帝国の誇る超弩級戦艦『グレードアトラスター』が鎮座していた。四五口径四六センチ三連装砲塔三基九門を擁する、帝国の力の象徴だ。
「撃て!」
夜の海上を、文字通り切り裂くような巨大な砲声が轟いた。
放たれた四六センチの巨弾は、数十キロ先の沿岸防衛施設へと降り注ぐ。レイフォル側も、残存している沿岸砲で必死に応射する。しかし、夜闇の向こうにいる敵艦の位置がよく分からない。
一方のグラ・バルカス側は、レーダーや弾着観測機から得たデータをもとに、冷徹に射撃諸元を修正していく。そして、反復される精確な砲撃が、反撃してきた砲台を徐々に、だが確実に潰していく。
「敵艦が見えないのに、こちらだけ観測され、砲撃を修正され続けている……!」
レイフォル軍は、「海軍を失ったから海から攻撃される」という段階から、「海を失ったことで、陸上の防衛施設までアウトレンジから一方的に蹂躙される」という、圧倒的な絶望の現実へと叩き落とされた。
**8.王都炎上**
夜が明けた。
レイフォリアの各地には、無数の黒煙が立ち上っていた。
沿岸砲台の大半が沈黙。対空陣地の主要施設が撃破され、航空基地の滑走路と格納庫は破壊された。魔石倉庫の一部が焼失し、燃料施設の主要タンクも攻撃を受けた。陸軍基地の指揮通信網と弾薬庫も重点的に叩かれ、港湾機能は麻痺。そして、着底した『レイフォル』と『ホーリー』の残骸が悲惨な姿を晒している。
軍事システムへの集中攻撃による延焼や爆風で、市街地の一部にも被害が出ていた。グラ・バルカスは決して「無差別爆撃」を行ったわけではない。彼らはあくまで「軍事目標を精密に攻撃」した。
それでも、軍事施設と隣接する都市そのものに被害が出る。技術的には精密であっても、戦争の暴力は残酷に市民生活を破壊していくのだ。
**9.ヒューエル一世の動揺**
王宮。
ヒューエル一世は、夜明けとともに上がってきた報告を聞き、玉座で絶句していた。
「……敵航空機を視認できた部隊は、ほとんどありません」
報告する将校の声は震えていた。
海軍が壊滅した時、ヒューエル一世は「海を失ったなら、陸で戦えばいい」と考えていた。しかし今度は、「陸にいる自分たちが、海の向こうと空の上から一方的に攻撃されている」という現実を突きつけられたのだ。
そして何より、王都の防衛網に致命的な穴が開けられた。
ここで初めて、ヒューエル一世は「王都も安全ではない」と魂の底から認識した。
だが、彼はまだ逃げない。「王は王都を離れるわけにはいかない」という国家元首としての責任感が、恐怖を上回っていた。
しかし彼の内心には、決して消えない黒い染みが生まれていた。
(もし次に、この王宮がピンポイントで狙われたら? もし、私が敵の手に落ちたら、この王国はどうなる……?)
**10.それでも降伏しない**
その日の御前会議で、将軍たちの意見は真っ二つに割れた。
「これ以上戦えば、王都そのものが完全に破壊されます! 降伏の使者を送るべきではないでしょうか」
「馬鹿な! まだ内陸の陸軍主力は無傷で健在だ! 国土全体が占領されたわけではない。グラ・バルカスの要求をそのまま受け入れれば、レイフォルは消滅するぞ!」
ヒューエル一世は、頭を抱えて苦悩した。
降伏すれば国がなくなる。しかし戦えば、王都がなくなるかもしれない。だが、陸軍が残っている以上、まだ王国には理論上、戦う力が残っている。
「……まだ、降伏はしない」
ヒューエル一世は決断した。それは強気な徹底抗戦ではなく、破滅への道を歩くしかない、極めて苦しい選択だった。
**11.グラ・バルカス、想定外**
一方、旗艦『トーラス』。
ラクスタル中将は、攻撃結果の報告を確認していた。重要軍事目標が正確に破壊され、残存戦艦にもトドメを刺した。普通なら、ここで降伏の使者が来るはずだ。
ところが。
「レイフォルから、降伏の申し入れは?」
「……ありません。一切」
ラクスタルは、しばらく沈黙した。
ここで彼は初めて、「これは予想以上に厄介な国だ」と認識した。レイフォルは軍事的に「目」も「腕」も「補給」も失い、完全に敗北しつつある。「まだ戦える(陸軍が残っている)」と思っているから降伏しないのだ。
「海軍を消滅させ、王都の防空を無力化しても国家は降伏しないか。……ならば、次は『政府そのもの』を奪うしかない」
ラクスタルは、本来なら避けたかった陸上戦への決断を下した。
**12.首都制圧作戦**
グラ・バルカス軍最高司令部では、皇帝グラ・ルークスを交えた新たな作戦会議が開始された。
海兵隊、強襲揚陸艦、水陸両用艦艇、輸送艦、航空支援部隊を組み合わせた、『レイフォリア上陸作戦』の立案である。
ただし、ルークスはまだ「レイフォル全土の完全占領」には踏み切っていない。目的はあくまで、『レイフォリアを占領し、国王ヒューエル一世を拘束する』こと。
王を捕らえれば、王国政府の戦争指導能力(正統性)を失わせることができる。「王都と元首を落とせば戦争は終わるはずだ」という、近代国家的な発想をまだ完全には捨てていないからだ。
だが、グラ・ルークスは予想以上に粘り、降伏しないレイフォルという国家にひどく困惑していた。
(未知の世界で核兵器を使えば、何が起こるか分からない。他の大国がどう動くかも不明だ。……だが、これほど戦争が長引くのなら)
一瞬、帝国の最終兵器である『熱核兵器』の使用が頭をよぎったが、得られる政治的利益よりも長期的リスクが大きすぎると判断し、ルークスはすぐにその考えを打ち消した。
**13.王の恐怖と責任**
夜。
ヒューエル一世は、一人、王宮の窓からレイフォリアの街を見下ろしていた。
遠くからは、まだ軍事施設が燃える煙が上がっている。
昼間は「戦う」と臣下たちの前で言い放った。しかし、一人になったヒューエルの表情には、隠しきれない恐怖と葛藤が浮かんでいた。
彼は執務机の地図を見た。レイフォリア。そして、国内の別の内陸都市レイリング。
王として、王都を守らなければならない。だが、もしレイフォリアが陥落し、王自身が敵に捕まれば?
(王が捕まれば、王国の正統性そのものが奪われる。国は完全に終わるのだ……!)
そこで初めて、『王都を離れる(遷都)』という選択肢が彼の頭をよぎった。臆病からではない。国家の存続という究極の責任から導き出された、絶望的な防衛策だ。
しかし、まだ決断はできない。
「……私は、このレイフォリアを捨てるのか?」
ヒューエルは、暗闇の中で一人呟いた。
その頃。グラ・バルカスの旗艦では、ラクスタルがレイフォリア周辺の海図を睨みつけていた。
「レイフォリア攻略作戦、作戦計画立案を開始します」
参謀の報告に、ラクスタルは静かに頷いた。
「海から入る。空から叩く。そして陸から王都を取る。……準備を急げ」
戦争は、ついに王都の土を踏みにじる、最後にして最大の戦いへと突入しようとしていた。