辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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第3章 第17話:レイフォリアへ至る道
**1.レイフォリア攻略作戦**
グラ・バルカス帝国の猛烈な夜間精密爆撃から一夜明けた、早朝。
帝国第一機動艦隊旗艦、空母『トーラス』の作戦室には、レイフォリア周辺の海図と詳細な航空写真が広げられていた。
前日までの攻撃で、レイフォル海軍とパガンダ海軍は実質的に壊滅。沿岸要塞砲の大半、航空基地、対空陣地、港湾機能、そして港に逃げ帰った残存戦艦までを徹底的に破壊した。
しかし、レイフォル王国から降伏の使者は来なかった。
「彼らはまだ、海軍という『盾』を失っただけで、王国という『本体』が負けたとは思っていないのです」
帝国軍の陸戦参謀が、航空写真を指差して説明する。
「航空偵察によれば、レイフォルの陸軍主力は内陸部および王都防衛線において依然として無傷で健在です。……我々の上陸を、手ぐすね引いて待ち構えています」
機動艦隊司令官ラクスタル中将は、腕を組んで深く頷いた。
「海岸を取ることと、王都を取ることは全く別の問題だ。だが、やらねばならん。レイフォリアを占領し、国王ヒューエル一世を拘束する。首都を取り、政府中枢を落とす。それでレイフォルを屈服させるのだ」
全土占領という果てしない泥沼は避ける。あくまで「首都と国王」という急所のみを穿つ、限定的だが最も困難な作戦が発動した。
**2.強襲揚陸部隊**
レイフォリア沖合には、『トーラス』を中心とする機動艦隊の他に、巨大な二隻の艦が接近していた。
一隻は、二万五〇〇〇トン級のヘリコプター揚陸艦『ペガスス』。もともとは旧式の正規空母であったが、全通飛行甲板を活かし、海兵隊一八〇〇名と多数のタンデムローター式大型輸送ヘリ『H-21』、や軽輸送ヘリを運用する空中強襲(ヘリボーン)の要として大改装された艦だ。
もう一隻は、全通甲板とウェルドックを備えた本格的な強襲揚陸艦『ナルセス』。海兵隊一六〇〇名に加え、装軌式水陸両用車や各種上陸用舟艇を広大な腹に抱え込んでいる。
『トーラス』が制空と対地攻撃で敵を空から潰す。
『ペガスス』がヘリボーンで兵を空から運ぶ。
『ナルセス』が人と車両を海から運ぶ。
三つの異なる次元を統合した立体上陸作戦が、今まさにレイフォル首都に向けて牙を剥こうとしていた。
**3.上陸前砲撃と、魔導の反撃**
夜明け前。
レイフォリア防衛にあたるレイフォル陸軍の将兵は、前夜の空襲で疲弊しきっていた。だが、「まだ敵は上陸してこない」と判断し、必死に陣地の修復を急いでいた。
ところが、グラ・バルカスの攻撃はすでに始まっていた。
――ヒュルルルルル……ドォォォォンッ!!
空母『トーラス』から発艦したジェット戦闘機『シャウラ』と攻撃機『ミルザム』が、レイフォルの防衛陣地に対して容赦ない近接航空支援(CAS)を開始したのだ。
さらに沖合から、超弩級戦艦『グレードアトラスター』の四六センチ砲や、巡洋艦の主砲群が火を噴く。
目標は、沿岸の砲兵陣地、通信所、司令部、そして内陸の予備部隊集結地点。前回のような「軍事拠点の機能破壊」ではなく、上陸地点の防御力を完全に物理的に粉砕するための、凄まじい『準備砲爆撃』である。
「怯むな! 撃ち返せ!! 敵を浜に上げるな!!」
レイフォルの将校たちが血を吐くように叫ぶ。
ここで、レイフォル陸軍が長年「対ムー戦争」を想定して鍛え上げてきた独自の魔導兵器が火を噴いた。
生き残った『魔導重砲』が、魔力によるブーストで長大な射程を得た砲弾を沖合の帝国艦隊へと放つ。
「敵岸より砲撃!」
帝国艦艇の周囲に水柱が上がる。射程こそ帝国の砲には及ばないが、直撃すればただでは済まない威力だ。
「敵の対空砲火、激しいです!」
上空の『シャウラ』のパイロットが舌打ちする。
レイフォル軍の『魔導対空砲』はレーダーこそ持たないが、砲弾に魔力を付与して弾道を補正し、さらに『魔導照準器』によって距離と方位を比較的高精度に測定してくる。高高度のジェット機を落とすことは難しいが、近接航空支援のために低空を飛ぶ機体には十分すぎる脅威だった。
グラ・バルカスの準備砲爆撃は、レイフォル軍の防御を『完全』には消し去れなかった。
それは、これから始まる地上戦が、血みどろの泥沼になることを暗示していた。
**4.空から降る軍隊**
夜明けの空を、異様な重低音が震わせた。
「……また敵の爆撃機か!?」
塹壕に潜むレイフォル兵たちが、恐怖に顔を引きつらせて空を見上げる。
だが、そこにあったのは爆撃機ではなかった。
揚陸艦『ペガスス』から発進した数十機のタンデムローター式大型輸送ヘリ『H-21』が、波頭を掠めるような超低空で海岸線へと殺到してきたのだ。
「なんだ、あれは……羽のない気球か!?」
「撃てェッ!! 魔導機関銃、前へ!」
ダダダダダダダダッ!!
レイフォルの魔導機関銃と七・七ミリ小銃が、狂ったように対空射撃を行う。
魔力で初速と連射性を強化された弾幕が、H-21の編隊を捉えた。一機がローターの基部を撃ち抜かれ、黒煙を噴き上げて海面へと激突する。グラ・バルカス側に、初めてまとまった人的損害が出た瞬間だった。
だが、大半のH-21は強行着陸に成功した。
機体の後部ハッチが開き、完全武装の帝国海兵隊が砂浜へと吐き出される。彼らは単なる「銃を持った強い兵士」ではない。着陸と同時に、通信班、機関銃班、迫撃砲班、対戦車班、工兵、衛生兵がそれぞれの役割に従って流れるように展開し、有機的な一つの『軍事システム』として強固な橋頭堡を築き上げた。
**5.鉄の怪物たち**
空からの強襲とほぼ同時に、海からも上陸の第二波が押し寄せてきた。
強襲揚陸艦『ナルセス』のウェルドックが開き、十数両の装軌式水陸両用車が波をかき分けて海岸へと上陸してくる。
「敵の装甲車だ! 対戦車砲、撃て!」
海岸のトーチカから、レイフォル陸軍の五七ミリ対戦車砲が火を噴いた。
もともと仮想敵であるムーの戦車を撃破するために開発されたこの大砲は、水陸両用車の薄い装甲を易々と貫通し、一両を炎上させた。
「やれるぞ! 奴らの兵器も、地上戦なら無敵ではない!」
レイフォル兵たちの間に、初めて希望の光が差した。水陸両用車の一二・七ミリ重機関銃による掃射に耐えながら、彼らは必死に防衛線を維持しようとする。
そこへ、さらにレイフォル陸軍の切り札が投入された。
魔導戦車『イポネ』。重量十五トン、四五ミリ砲を搭載した、ムー戦車を仮想敵とするレイフォルの主力戦車だ。
数両のイポネがキャタピラの音を響かせて陣地に到着し、水陸両用車を側面から攻撃してさらに一両を撃破。そのまま海兵隊へ向けて機銃掃射を開始した。
「敵戦車確認!」
「対戦車班、ロケット弾用意! ……くそっ、数が多すぎる!」
海兵隊の進撃が、海岸線で一時的に釘付けにされた。
海軍は空と海中から一方的に破壊されたが、陸軍は全く違う。彼らは「列強ムーとの戦争」を何十年も想定し、血の滲むような訓練と戦術思想(ドクトリン)を築き上げてきた歴戦の軍隊なのだ。
だが、そのレイフォル兵たちのささやかな希望は、海岸から現れた『本物の怪物』によって残酷に踏み躙られることになる。
**6.ルーパ戦車**
沖合から接近してきたグラ・バルカスの戦車揚陸艦が、砂浜に巨大な艦首ランプを降ろした。
重厚なディーゼルエンジン音と共に吐き出されたのは、重量四五トンの主力戦車(MBT)『ルーパ』だった。
亀甲型の巨大な砲塔、一〇五ミリの長砲身、傾斜した分厚い正面装甲。レイフォル兵たちにとって、それは「ムーの戦車を想定して作った自分たちの兵器」の概念を根底から覆す、巨大な鋼の獣だった。
「帝国の戦車だ! イポネ、あいつを撃て!」
レイフォルの魔導戦車イポネが、四五ミリ砲をルーパに向けて放つ。
ガァァンッ!!
砲弾はルーパの正面装甲に命中した。しかし――硬質な金属音と共に弾き返され、装甲の表面の塗装をわずかに削っただけで終わった。
「効いていない……だと?」
レイフォル兵たちが絶句する中、ルーパの砲塔が静かに旋回し、一〇五ミリ砲が火を噴いた。
凄まじい轟音。イポネの装甲は紙切れのように貫かれ、一撃で爆発炎上した。
圧倒的な技術と火力の差の前に、海岸の防衛線は次々と突破されていく。
だが、レイフォル軍の将兵は規律を失わなかった。彼らは「技術格差を知らない愚かな兵士」ではない。
「正面から撃ち合うな! 奴らを市街地へ誘い込め!」
指揮官の冷徹な命令により、レイフォル軍は平坦な海岸線を素早く放棄し、レイフォリアの複雑な市街地と森林地帯へと後退していった。
イポネは正面戦闘ではルーパに勝てない。しかし、「小さく、軽く、待ち伏せしやすく、大量配備できる」という利点がある。彼らはルーパを市街地の狭い路地へ誘い込み、側面や後方の薄い装甲を狙う『市街戦』へと戦術を切り替えたのだ。
**7.予想外の抵抗**
空母『トーラス』のラクスタルのもとへ、次々と戦況報告が飛び込んでくる。
『橋頭堡確保。しかし、市街地手前で敵の抵抗が極めて激しいです』
『敵の歩兵は七・七ミリのボルトアクション小銃ですが、市街の伏撃と要塞陣地の連携が緻密です。さらに、着弾後に高温の炎を発生させる『魔導焼夷弾』により、味方歩兵に相当の損害が出ています』
『敵は『魔導障壁』を展開し、一時的にこちらの砲弾の威力を殺して反撃してきます! 我が軍の戦車も数両損失!』
ラクスタルは、信じられないというように眉をひそめた。
「……海軍はあれほど簡単に撃破できたというのに。陸軍は違うか」
「敵は、隣国の陸軍大国ムーとの総力戦を想定して、長年準備をしていたようです」
陸戦参謀が忌々しそうに答える。
ここでグラ・バルカス帝国は初めて、「レイフォルという国を、海軍の強さだけで評価していたのは間違いだった」と骨の髄まで理解した。
彼らは弱いのではない。ただ、グラ・バルカスの海軍と空軍があまりにも強すぎただけなのだ。
陸に上がれば、彼らは地形を味方につけ、一歩も引かずに殺し合いを挑んでくる。この国を本当に征服するには、帝国の血と時間を想像以上にすり減らす泥沼の総力戦を覚悟しなければならない。
**8.王の決断**
レイフォリア王宮。
窓の外から、市街地で交わされる重砲の砲声と爆発音が絶え間なく響いてくる。
「敵上陸部隊、第一防衛線を突破! 敵の重戦車部隊が、市街地中心部へ向けて進撃中!」
「上空からの敵の爆撃により、要塞線が崩壊しつつあります!」
次々と飛び込んでくる悲報に、国王ヒューエル一世は目を閉じた。
(……ついに、王都が本当の戦場になったか)
「陛下!」
宰相ゴードンが、悲痛な声で説得にかかった。
「陛下がここで敵の手に落ちれば、レイフォル王国の『正統な政府』そのものが消滅します! 帝国は陛下の名を使って合法的な降伏文書に署名させ、偽りの隷属を全土に強いるでしょう!」
ヒューエル一世は、王座の肘掛けを強く握り締めた。
(私が逃げれば、王は民と兵を見捨てた臆病者として歴史に名を残すだろう。だが、私が捕らえられれば、レイフォルという国家の歴史そのものが、敵に踏み躙られて終わる)
ヒューエル一世は、血を吐くような苦悩の末に、究極の矛盾した決断を下した。
「……王都を、守るために。私は王都を離れる。内陸の東部へ遷都し、国の正統性を存続させる」
「英断でございます、陛下」
ゴードンが深く頭を下げる。
「直ちに脱出経路の確保を命じます。……しかし、私はここに残ります」
「何だと?」ヒューエルが目を見開く。
「貴公も王国の中枢だぞ」
「陛下が王国の正統性を担うのであれば、誰かがこの王都に残り、残された民と行政を守り、そして敵の侵攻に対する『防波堤』とならねばなりません。王都が無人になれば、敵はただちに陛下の追撃に移るでしょう」
ヒューエルは、老宰相の揺るぎない瞳を見つめ返した。
「……余は、逃げるのではない。レイフォルを残すために退くのだ」
「重々承知しております。だからこそ、私はここに残り、王都の最期を見届けます」
その言葉は、レイフォル王国の命脈を繋ぐと同時に、グラ・バルカス帝国の「王を捕らえれば戦争が終わる」という計算を完全に狂わせる、巨大な伏線となった。
**9.王都攻防戦の第一日**
夜。
レイフォリアの市街地は、完全に戦場と化していた。
瓦礫の山を乗り越えて進撃する四五トンのルーパ戦車。その上空を舞うH-21輸送ヘリと、降下してくる帝国海兵隊。
迎え撃つのは、路地に潜むイポネ魔導戦車、五七ミリ対戦車砲、魔導迫撃砲、そして七・七ミリ小銃を握り締めて決死の抵抗を続けるレイフォル兵たち。
冷戦期の軍隊と、第一次世界大戦レベルの魔法軍隊が、互いの血と肉を削り合う地獄の市街戦が繰り広げられていた。
王宮の窓から、ヒューエル一世は燃え盛る王都を静かに見下ろしていた。
遠くから響く戦車の重低音の砲声。夜空を切り裂くグラ・バルカスの航空機の轟音。
背後で、ゴードンが静かに告げた。
「陛下……脱出の準備が、整いました」
ヒューエル一世はしばらく沈黙し、窓から振り返った。
「頼むぞ、ゴードン」
「御意に」
ゴードンは、深々と一礼した。
王は逃げる。宰相は残る。
ヒューエル一世が東部へと向かう一方、ゴードンは王宮に残った。
ヒューエルは『正統性』を、ゴードンは『民と行政』を背負う。それが後に、レイフォルという国を二つに分けることになるとは、この時の二人はまだ知らなかった。
海を奪われ、空を奪われ、ついに王都をも奪われたレイフォル王国が踏み出す、終わりの見えない戦争の、新たな幕開けであった。