辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
## 第2話:大国の蹂躙
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コホート・コーポレーションの要塞コロニー『プロスペリティ』が出現した平原から、東へ数キロメートル。
原生林を切り開いた先に、木と石で作られた質素な家々が並ぶ小さな村が存在していた。人口はおよそ100人。肥沃な土壌を利用した農業によって、細々と生計を立てている平穏な集落。
だが、パーパルディア皇国の属領に位置するこの村の日常は、今まさに、最悪の暴力によって踏み躙られようとしていた。
「――さて、この村に『反逆者(レジスタンス)』を匿っているという報告があった。もしも村人がそれを庇い立てするのであれば、村民全員、反パーパルディア分子として厳罰に処す」
村の中央広場。
パーパルディア皇国の駐留部隊を率いる小隊長ラルヴァは、抜身の長剣を地面に突き立て、冷酷に恫喝した。いかにも高慢で横柄な、大国の特権意識を隠そうともしないパーパルディアの軍人。その背後には、前装式のマスケット銃を構えた兵士たちが、怯え縮こまる村人たちを冷たい目で見下ろしている。
「そ、そんなことありません! この村はただの貧しい農村です。反逆者など、滅相もございません!」
村長は泥まみれになりながら跪き、必死に訴えかけた。だが、ラルヴァはそれを聞き入れるどころか、嘲笑うように鼻を鳴らした。
「嘘だな。……俺はお前たちのような『劣等人』が嫌いだ。すぐに嘘をつき、平然と高貴な皇国人を騙そうとする。お前たちは、この地を統治する高貴なラーク総督の慈悲によって、生かされていることを忘れるな!」
怒鳴りつけると同時に、ラルヴァは腰からフリントロック式の拳銃を引き抜き、村長の眉間に冷たい銃口を突きつけた。火薬と鉛玉の臭いが、村長を絶望に陥れる。
「ひぃっ……! 申し訳ございません、申し訳ございません……!」
「全く……お前たちは猿以下だ」
ラルヴァは舌打ちをして銃を収めると、背後の部下たちに顎で命令を下した。
「全員、家探しを始めろ。徹底的に洗い出せ。反逆者の痕跡がなければ、税の代わりに物品を『徴収』する」
「御意!」
兵士たちが一斉に下卑た笑みを浮かべ、民家へと突入し始めた。臨検という名目は形ばかり。その実態は、非武装の属領民に対する一方的な「略奪」そのものだった。
「おい! 動きが遅いんだよ、この老いぼれが!」
突入した兵士の一人が、逃げ遅れた老婆を容赦なく棍棒で殴りつけた。鈍い音が響き、老婆が地面へ転がる。
「痛い……っ! やめて、やめて下さい……!!」
「反抗的な態度を取ったから制裁したまでだ。大人しくしろ」
ラルヴァはそれを見ても眉一つ動かさず、むしろ娯楽を見るかのように鼻で笑った。
民家から響き渡る器物の破損音、家財を奪われる村人たちの悲鳴と泣き声。
広場は一瞬にして、前近代的な軍隊による凄惨な暴力の檻へと変貌していった。
「おお。おい、見ろよ。この娘、なかなかの上玉じゃないか」
一人の若い女性が、乱暴に髪を掴まれて広場へと引きずり出されてきた。身なりこそ粗末な農着だったが、端正な顔立ちと、引き締まったしなやかな肢体は、薄汚れた広場の中でも不自然なほど目を引いた。
「お願いします……、許してください……。私たちは、ただ普通に暮らしたいだけなんです……」
涙をボロボロとこぼしながら懇願する少女に対し、捕らえた兵士たちの目は獣のそれだった。
「そうか、暮らしたいか。だが、何か危険な武器でも隠し持っているかもしれんからな。まずは入念に『身体検査』をしてやらねばなあ?」
兵士が下卑た笑い声を上げ、少女の衣服に乱暴に手をかけた。
「イヤァ!! やめて! やめてぇええ!!」
狂ったように抵抗しようとする少女。だが、その華奢な両手両足は、周囲の複数のパーパルディア兵たちによって、容赦なく地面へと押さえつけられた。
ビリビリ、と無残な音を立てて粗末な布地が引き裂かれ、少女の白い裸身が白日の下に晒されていく。
「おい、お前たち。あまり傷をつけるなよ」
ラルヴァが、品性の欠片もない顔で嗤った。
「本国へ送るにしても、現地で売り払うにしても、奴隷としての価値がなくなるからな。まずは俺が検分してやる」
「わかってますよ。へっへへ……」
下卑た笑みを浮かべたパーパルディア兵が、捕らえた少女を力ずくで押さえつけようとした。少女は涙を流しながら激しく暴れ、必死の抵抗を試みる。だが、複数人の屈強な兵士を前に、その抵抗はあまりにも無力だった。
絶望が少女を支配しようとしたその刹那、乾いた銃声が辺りに響き渡った。
パァンッ!!!
少女を拘束していた兵士が衝撃と共に弾け飛び、その場に崩れ落ちる。一瞬の出来事に、周囲の空気は凍りついた。
「なっ……敵襲だっ!?」
「どこからだ! サーベルを抜け!」
静寂は一瞬にして消え去り、広場は混乱に包まれた。兵士たちが慌てて周囲を警戒すると、少し離れた位置に、白煙の上がるマスケット銃を構えた一人の青年が毅然と立っていた。
「ラルヴァ隊長! あいつ、例の『追っているレジスタンス』ですよ!」
「そのようだな! 逃げも隠れもせず自ら姿を現すとは……! ここで奴を捕らえれば、我ら小隊の出世は間違いなしだ。殺せェ!」
小隊長ラルヴァの怒号が響く。
命令を受け、パーパルディア兵たちが一斉にマスケット銃の引き金を引いた。激しい破裂音が轟き、黒色火薬の白煙が視界を遮る。
しかし、青年は野生の獣のような俊敏さで銃撃を回避。着地と同時に、兵士たちの中央へ向けて、不気味に火花の散る「球体型の道具」を投げつけた。導火線の付いた即席の爆弾だ。
「あ、あれは……!」
「伏せろっ!!」
ラルヴァが叫ぶが、すでに遅かった。
導火線が燃え尽き、爆発が巻き起こった。
ドガァァァァァンッ!!!
土砂と爆炎が舞い上がり、衝撃波がパーパルディア兵たちを吹き飛ばした。完全に油断していた兵士たちは爆風に煽られ、地面を転がる。
「ぐあああああッ!!」
「熱い! 目が……!」
30人いた小隊の隊列は、この一撃で無残にバラバラへと解体される。
「この、クソガキがぁぁぁぁぁッ!!」
怒りに我を忘れたラルヴァは、サーベルを手に青年に向かって猛然と斬りかかった。しかし、青年は冷静にその刃筋を見切って躱すと、すれ違いざまにラルヴァへ強烈な一撃を叩き込み、背後の深い原生林へと走り去っていった。
「追え! 逃がすな! どんな手を使ってもあのガキを捕らえて殺せぇぇえ!」
ラルヴァの絶発生が響く。
爆発を免れた、あるいは執念で立ち上がった皇国の15名の兵士たちは、復讐心に駆られて青年の足跡を追い、森の奥へと突入していった。
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