辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第23話:自動化された死

 

 

## 第23話:自動化された死

 

 

 

 東部属州都ミューズから数リグ離れた、グリンウッド鉱山へと続く険しい森林地帯。

 

「――グリンウッド鉱山からの定期魔導通信が途絶しただと?」

 

 大隊を率いる貴族出身の軍人、バルカス子爵が、騎馬の上から不快げに鼻を鳴らした。

 彼の周囲を進むのは、レミール皇后の「追加監査命令」を受け、第三外務局の執行部隊と属州守備軍から引き抜かれた1個精鋭大隊――計800名の兵力である。

 

「はい。途絶直前、『空から火のついた鉄塊が無数に降ってきた』『異形の兵士が――』という悲鳴に近い報告を最後に、通信が完全に遮断されています」

 

「ふん、たかが数百人規模の武装商人の群れが、奇襲をかけたというわけか。本国中央も神経質になりすぎではないか」

 

 バルカスの周囲では、複数の魔導士たちが「魔導索敵」の術式を常時展開している。周囲の魔力の揺らぎ――伏兵の兆候は一切ない。

 

「油断は禁物です、バルカス将軍」

 

 馬を並べる執行官ヴェルナーが、灰色外套のフードの奥から冷たい目を向けた。

 

「連中は先日、我が局の憲兵を音もなく瞬殺した。従来の『蛮族』や『他国の軍隊』の常識は捨ててください。鉱山がすでに奴らの手に落ちていると仮定して動くべきです」

 

「ふはは! 闇夜の夜襲など姑息な手品よ!」

 

 バルカスは腰のサーベルの柄を叩いて笑う。

 

「我が大隊が誇る鉄甲騎兵と、本国直系の前装式ライフル銃兵の戦列の前に出れば、商人風情など這いつくばって命乞いをするのがオチよ。電撃的に奪還し、逆賊の首を皇都へ持ち帰ってくれるわ!」

 

 皇国側はまだ、信じて疑っていなかった。どれほど奇妙な道具を持っていようとも、最後は「武力の物量と戦列」で押し潰せるのだ、と。それが数百年、彼らが第三文明圏の頂点に君臨し続けてきた絶対の成功体験だった。

 

 

「――報告! 前方半リグの街道に、コホートの輸送隊を発見!」

 

 斥候の叫びに、バルカス子爵の目がぎらりと輝いた。

 大隊が鉱山の入り口へと続く開けた斜面へ出ると、眼下には数頭の巨大な毛深い駄獣――マッファローを連れた、コホートの小規模な商隊が見えた。

 

 だが、その様子は妙だった。

 周囲に警戒陣形を敷くわけでもなく、護衛の社員はわずか数名。おまけにこちらの進軍の地響きに驚いたように、荷車とマッファローを放り出して、一目散に奥の「岩山に挟まれた峡谷」へと逃げ込んでいく。

 

「見ろ、我が軍の威容を前に腰を抜かしたぞ!」

 

 バルカスが勝ち誇ったようにサーベルを抜いた。

 

「全軍、突撃! 逃げるネズミどもを峡谷ごと包囲し、一人残らず殺せ!」

 

「待ちなさい、将軍!」

 

 ヴェルナーが鋭く制止の声を上げた。おかしい。あまりにも無防備すぎる。それに、峡谷の入り口付近の岩肌――不自然に土が真新しく掘り返され、即席の石壁が築かれているように見える。たった数時間で、あのような土木工事ができるはずがない。

 

 しかし、功を焦るバルカスと、数に勝る皇国兵たちの突撃は止まらない。地響きを立てて、800名の軍勢が前装式ライフル銃を構えながら、狭い峡谷の底へと雪崩れ込んでいった。

 

 皇国の前衛部隊が、完全に切り立った岩壁の間に収まった、その瞬間。

 ピィ、という、耳障りな電子音が峡谷に反響した。

 

> 『――エリア内生体反応:812。脅威判定:マックス。

>  資産保護プロトコル・オメガ:キルゾーンへの誘導完了。迎撃を開始します』

 

「何だ、この音は!?」

 

 皇国兵が足を止めた瞬間、周囲の「環境」が一斉に姿を変えた。

 解放された奴隷たちが数時間で築き上げた偽装石壁がパタンと倒れ、斜面の死角から、カチカチと不気味な駆動音を立てて鈍色の「筒状の機械」――自動防衛タレットが一斉にせり上がってきた。

 さらに、岩肌の上には、マリーンアーマーを着込んだ30名のコホート兵たちが、無慈悲に銃口を見下ろしている。

 

「小隊、一斉射撃」

 

 総指揮官であるモヨ族のミウラが、冷徹にチャージミニガンの引き金を引いた。

 兵士が叫ぶより早く、空間は光と音の暴力によって埋め尽くされた。

 

 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 毎分千発を超えるチャージ弾とタレットからの銃弾の暴風。それは射線上の肉体を容赦なく引き裂く、物理的な金属の壁だった。

 

「ひぎゃあああッ!?」

「前衛が潰された!? 何が起きて――」

 

 凄まじい衝撃波と銃撃の音響が響き渡る中、ヴェルナーは目を見開いた。連中の攻撃には、戦術的な「感情」や「躊躇」が一切存在しなかった。ただひたすらに、効率的な殺戮の順序が執行されている。

 

 混乱する戦列の後方で、真っ先に血飛沫が上がった。本国への救援を要請しようと魔導通信機を背負い直した通信兵の頭部が、狙撃によって一瞬で弾け飛んだのだ。

 岩山の上から、ラットキン族のハンスが放つチャージスナイパーライフルの光弾が、派手な羽飾りや装飾を持つ「隊長クラス」や「通信兵」の命を、機械的な正確さで次々と間引いていく。

 

「魔導障壁を展開せよ!」

 

 生き残った魔導士たちが悲鳴を上げながら半球状の結界を張る。

 だが、ハンスの超高精度射撃とミウラの重火器は、皇国自慢の障壁を紙細工のように容易く貫通し、魔導士たちの身体を次々と貫いていった。

 

「怯むな! 突撃しろ、あの防壁を乗り越えれば我らの勝ちだ!」

 

 バルカスが狂乱しながらサーベルを振りかざし、生き残った鉄甲騎兵数十騎が防衛陣地の入り口――狭いチョークポイントへと決死の突撃を敢行する。

 

 だが、そこに立ち塞がったのは、巨大な単分子大剣(モノグレードソード)を構えたムースのアリシアだった。

 

「遅いよ。その鉄屑の鎧、重すぎない?」

 

 シールドベルトで銃弾を完全に弾きながら、彼女はその巨躯から繰り出される恐るべき膂力で大剣を一閃する。馬の首と、その上に乗る騎兵の鉄甲が、紙を切るような音と共に真っ二つに両断され、峡谷の入り口は瞬く間に皇国兵の死体の山で塞がれていった。

 

 あまりの惨劇に、兵士たちは前装式ライフル銃の次弾を装填することすら忘れ、悲鳴を上げて後退しようとした。しかし、彼らの足元で、泥に埋まっていた「即席爆発装置」が最悪のタイミングで起爆する。

 

 ドォォォォン!!!

 

 退路を塞ぐ爆炎。千切れた四肢と血が宙を舞う。

 皇国軍は完全に包囲網の底にいた。ただ、一歩動くたびに、あらかじめ構築された殺戮のプログラムによって、精鋭たちが淡々と処理されていく。

 

 

「……なるほど、これが『コホート』の戦い方か」

 

 飛び散る血飛沫と硝煙の中、ヴェルナーは奇跡的に大破した岩の隙間に身を潜めていた。彼の知性は、この地獄の中で、驚くべき「正解」を導き出していた。

 

 連中は、武勇を競うために戦っていない。名誉も、国家の威信も、戦術の美しさすら求めていない。

 ただ、自陣へ侵入してきた害虫を最も「低コスト」かつ「確実」に駆除するために、【環境そのものを自動化された屠殺場に変えている】のだ。奴隷たちに短時間で作らせた壁と、配置された自動機械、そして一握りの兵士。それだけで、800名の大軍が消滅していく。

 

(勝てるわけがない。我々はまだ、人と人が血を流して覇を競う『戦争』をしている。だが、コホートという怪物がやっているのは、ただの『工場の稼働』だ……!)

 

 レミール皇后のように感情で激昂するのではない。ヴェルナーの心に刻まれたのは、冷え切った圧倒的な【理性的な恐怖】だった。同時に、この底知れないシステムを操る「タドコロ」という首魁の存在への、歪んだ理解と執念が彼の胸に深く根を張った。

 

 

 1時間後。

 800名いた大隊は、完全に瓦解していた。

 

 戦死250名、重傷150名。軽傷者も多数に上り、合計400名以上の戦闘不能者を出した大隊は、もはや部隊としての形を保っていなかった。

 

「……大隊は、壊滅したな」

 

 ヴェルナーは、右腕を失い虚脱状態に陥ったバルカス将軍の身体を支えながら、森の境界へと這うように撤退していた。生き残った兵たちも、前装式ライフル銃を杖代わりにし、失意のまま泥にまみれて歩いている。

 

 その満身創痍の彼らの頭上へ、影が落ちた。

 

 ――キィィィィン……。

 

 見上げれば、灰色の雲を割って、4機の黒い戦闘ドローンが、不気味な駆動音を響かせながらピタリとホバリングしていた。銃口が、生き残った彼らを正確にロックする。兵士たちは恐怖のあまり、その場にへたり込んだ。

 

 だが、ドローンはすぐには発砲しなかった。

 代わりに、その機体下部に備えられたスピーカーから、一切の感情を排した無機質な合成音声が響き渡った。

 

> 『――警告。パーパルディア皇国軍へ告げる。

>  今回の戦闘は、我が社の資産に対する不法侵害への『正当なる防衛措置』である』

 

 生存者たちが、息を呑んで機械を見上げる。

 

> 『これ以上の資源封鎖、および我が社の顧客に対する身体的侵害行為が継続される場合、我が社は貴国を【全面的な資産防衛措置の根絶対象】と見なす。――賢明な判断を期待する』

 

 音声が途切れた、その直後だった。

 ドローンから放たれた数発の小型ミサイルが、生存者たちの頭上を通り越し、彼らがはるか後方に残してきた、まだ無傷だった「予備弾薬車列」へと正確に突き刺さった。

 

 ズドォォォォォン!!!

 

 天を衝くような大爆発。皇国が数ヶ月かけて備蓄した弾薬や予備の銃、魔石が、一瞬で跡形もない塵へと還っていく。

 それは、「いつでもお前たちの息の根を止められる」という、メガコーポからの最悪の、そして最も合理的なサインだった。無駄に逃げる兵の背中を撃つより、反撃能力を奪う方がコストが安いのだ。

 

 凄まじい熱風が吹き抜ける中、ヴェルナーは炎上する夜空を見上げ、そして気づいた。

 峡谷を見下ろす高い岩山の頂。

 立ち上る黒煙の向こう側に、一人の人影が立っていた。

 

 フードを深く被ったその人物――セリナは、手にした戦術双眼鏡をゆっくりと下ろし、琥珀色の瞳で皇国軍の無惨な撤退劇を見届けていた。彼女の猫耳が、戦果を確認するようにピクリと動く。

 

 セリナは無線機へと指を触れ、淡々と報告を上げた。

 

「――こちらセリナ。害虫の駆除、および警告プロトコルの完了を確認。試算通りの戦果だよ、社長」

 

 その声には、勝利の歓喜も、敵への憐れみも一切なかった。ただ、日常の予定された業務をこなしただけのような、不気味なほどの平穏がそこにはあった。

 

 

 

 

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