辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第3話:大国と斥候の接触

 第3話:大国と斥候の接触

 

心臓が破裂しそうなほどに激しく脈動していた。

 

レジスタンスの青年ハキは、生い茂る草木を乱暴になぎ倒しながら、必死に薄暗い林を駆け抜けていた。手にした前装式マスケット銃の重みが、疲弊した腕に重くのしかかる。

 

(クソ、あの少女を放っておけなかったとはいえ……少し暴れすぎたか……!)

 

ハキにはどうしても少女を放っておけない理由があった。

数年前妹をパーパルディア兵に暴行され殺されたのだ。だから無茶と思いつつ助けたかった。村を救うためにラルヴァ小隊へ爆弾を投げつけ、注意を引きつけることには成功したが、背後から迫る足音の数は、予想以上に多かった。

皇国の正規兵十五名。統制された彼らの怒号が、確実に距離を縮めてきている。

 

「待てェ! 逃がすな! 皇国に仇なす不届き者を八つ裂きにしろ!」

 

後方を追う小隊長ラルヴァは、怒りと屈辱で顔を非対称に歪めていた。青年の一撃で鼻をへし折られ、顔面は赤黒く腫れ上がっている。

その形相は、まるで手負いの猪そのものだった。

 

(この私が、あんな猿同然の劣等レジスタンスのガキに遅れを取るなど……! 本国への報告に傷がつく! どんな手段を使ってでも、ここで奴の首を撥ねて私の武勲にしなければならん!)

 

ラルヴァだけでなく、追撃する部下たちもまた、近代大国のプライドを叩き潰されたことで狂気的な復讐心に駆られていた。彼らは執念深くハキの足跡を追い、平原へと続く草むらへと突入していく。

 

## 2

 

その頃、ハキの逃走ルート上にある、背の高い草むらの中。

 

プロスペリティから出発したハンス率いるコホート社の斥候部隊――わずか8名の少数精鋭は、静かに身を隠していた。

 

彼らは先ほど、携行していた球体の小型偵察ドローンの索敵データにより、前方に未開の集落が存在することを発見したばかりだった。

言語サンプルや地質データを集めるため、まずはその村へ向かって接触を試みようとしていた最中、ハンスの長いネズミ耳がピクリと跳ね上がった。

 

ラットキン種族の優れた聴覚が、数百メートル先から近づく激しい足音、そして粗野な罵声を正確に捉える。

 

「ハンス隊長、接近する気配多数。どうしますか?」

「伏せて。……ボス(タドコロ)からは『不用意な接触は避け、クリーンに情報を持ち帰れ』と厳命されている。嵐が過ぎ去るのを待つんだ」

 

ハンスの的確な指示により、マリーンアーマーを着用した8名の戦闘員は、完全に気配を消して草むらへと隠れた。彼らにとって、他人の争いなど経営コストの対象外。静観してやり過ごす――そのはずだった。

 

ガサガサガサッ!!

 

「うわっとっ!?」

 

最悪の誤算だった。必死に走っていたハキが、突き出た木の根に足を足をとられ、ハンスたちが身を潜めていた「まさにその場所」へ、文字通り飛び込んでしまったのだ。

 

「え……?」

 

ハキが泥まみれの顔を上げると、目の前には、、見たこともない重厚な灰色の装甲を纏い、ヘルメットからネズミの耳を覗かせた八人の不気味な集団が、冷たい銃口を並べて自分を見下ろしていた。

 

「な、なんだお前たちは……! 獣人……?」

 

ハキが腰を抜かして硬直した、その刹那。草をなぎ倒してラルヴァたちの追撃隊がなだれ込んできた。

 

「いたぞ、レジスタンスのクソガキ――あぁ!?」

 

行く手を阻むように立ち塞がる、異様な8人のハイテク集団。

ハキ、ラルヴァ、そしてハンス。草むらの中で、三者ともが完全に困惑し、その場で動きを止めた。

 

## 3

 

「なんだ、その奇妙な格好をした奴らは……」

 

ラルヴァは腫れ上がった顔でハンスたちを睨みつけ、サーベルを突きつけた。

 

「貴様ら、その逃亡者を隠すつもりか? 聞いたこともない不気味な鉄筒を持ちおって……」

「……あなたが小隊長、ですね?」

 

ハンスは不用意な戦闘を避けるため、両手を軽く上げ、慎重で平和的な声を響かせた。

 

「私たちはコホート・コーポレーション。周辺のデータサンプリングを行っているただの民間企業です。そちらの青年との間に利害関係はありません。どうか銃を収めてください」

「黙れ、薄汚いネズミの獣人が!」

 

ラルヴァはハンスの理性的な対話を一蹴した。大国の傲慢さと猜疑心が、彼の脳を支配する。

 

「そんな見たこともない鎧を着用し、妙な言葉を話す獣人が、ただの民間なわけがあるか! 貴様ら、我が皇国の臨検を妨害するためにレジスタンスを支援している隣国の間諜だな!? 出世の邪魔をするな、者共、出会え! 獣人どもごとハジき殺せぇ!!」

「あー……」

 

ハンスは深く、重いため息をついた。

 

ボスの命令を守りたかったが、交渉決裂だ。こうなれば、迅速に処理するしかない。

 

「低角シールド、展開」

 

ズバババババババン!!!

 

パーパルディア兵たちのマスケット銃が一斉に火を噴いた。

だが、ハンスが足元に投げ落とした半球型デバイスから放たれた青い光の障壁に阻まれて、15発の鉛玉はすべて火花を散らし、虚しく弾け飛んだ。

 

「ば、馬鹿な!? 魔法の障壁だと!?」

 

ラルヴァが絶叫した瞬間には、すでにハンスたちの『執行』が始まっていた。8人の連携は完璧だった。

 

シュババババババババババッ!!!

 

放たれたのは、磁力で閉じ込めた不安定な高エネルギーで弾丸を包み、発射するチャージライフル。

音速を超えて兵士たちの胸を捉えた弾丸は、命中した瞬間にエネルギーが爆発的に解放され、頑強な鉄の胸当てごと、パーパルディア兵の肉体を内側から木っ端微塵に粉砕していった。

 

「ぎゃあああッ!?」

「腕がっ……!」

 

わずか数秒。ハンスたちの精密な弾幕の前に、15名のパーパルディア兵は反撃の機会すら与えられず、文字通りの肉片へと変えられていった。

その圧倒的な、一切の無駄を省いた「戦闘システム」を前に、ハキは声すら出ずにただガタガタと震えることしかできなかった。

 

「ひ、ひぃ……っ!!」

 

正面から放たれたチャージライフルの銃弾を浴び、足を深く負傷したラルヴァは、部下たちの全滅を見て完全に正気を失った。彼はサーベルを放り出すと、血まみれの足を引きずりながら、脱兔のごとく逃亡していった。

 

「隊長、逃げた敗残兵を追撃しますか?」

 

部下の問いに、ハンスはチャージライフルの安全装置をかけ、耳をパタパタと揺らした。

 

「いいえ、コストの無駄だ。それよりも……」

 

ハンスは、腰を抜かして自分たちを見上げているレジスタンスの青年、ハキへと視線を向けた。彼へ神経質な目を向ける。

 

「君、名前は?」

「は……ハキ、だ……」

「ハキ君ね。……君をここで見捨てれば、次の臨検隊に捕まって処刑されるだけだ。我が社の拠点『プロスペリティ』へおいで」

 

ハンスの声色は優しかったが、有無を言わさぬ威圧感が見え隠れしていた。

ハンスは無線を起動し、拠点であるプロスペリティのタドコロへと通信を繋いだ。

 

「ボス、こちらハンス。不用意な接触は避けようとしましたが、敵国軍のあまりの好戦性により、なし崩し的に交戦が発生。完勝しました。これより、現地の大国や地理、レジスタンスの情報を握る極めて価値の高い『生きた情報源(アセット)』として、ハキという青年を拠点へ連れて帰ります」

 

『いいわよ、ハンス。よく確保してくれたわ』

 

通信の奥から、タドコロの妖艶な声が響く。

ハンスは怯えるハキの腕を掴んで引き立たせ、拠点『プロスペリティ』へと歩き始めた。

 

こうして、コホート・コーポレーションは異世界における最初の「現地のカード」を手に入れたのであった。

 

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