辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第33話:誘導された戦線

 

 

## 第33話:誘導された戦線

 

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――動くな、息を止めろ。

 

東部属州都ミューズ近郊の乾燥した山岳路。鋭利な岩肌に腹を擦り付けながら、ハキは狩猟用ボルトアクションライフルの重い銃身を固定していた。

前夜のドローンによる高空からの洗練された「処理」とは違う。ここにあるのは、硝煙と泥、あるいは生身の人間が流す血の臭いに満ちた、泥臭い現地人のゲリラ戦だった。

 

眼下の街道を、パーパルディア軍の補給馬車6台が通過しようとしていた。総司令官ガイウスからの命令を受け、輜重隊の周囲には前装式マスケット銃を構えた一個小隊ほどの戦列歩兵が厳重な警戒態勢で密着している。

 

「……やれ」

ダリオの低く短い号令が響いた。

 

直後、岩陰から数個の灰色の卵――手榴弾が、鋭い軌道を描いて街道へ投げ込まれた。

4秒の猶予。皇国兵が「何だ!?」と叫ぶ間もなく、凄まじい爆炎と鉄破片の嵐が至近距離で炸裂した。悲鳴。爆風に煽られた駄獣の地竜が狂ったように暴れ、荷車をなぎ倒す。

 

「撃てッ! 弾を惜しむな!」

ダリオの叫びと共に、レジスタンスたちのライフルが一斉に火を吹いた。

 

カチャン、ドォン! カチャン、ドォン!

教練通り、ボルトを往復させるたびに次々と放たれる高威力の弾丸が、皇国兵の胸を、頭を的確にブチ抜いていく。

 

「敵襲! 敵は上だ! 散開しろ!」

 

皇国軍の軍曹が必死に叫び、前装式ライフルを岩陰に向けて撃ち返してきた。銃声が峡谷に響き渡り、ハキのすぐ隣にいたレジスタンスの若者の肩を弾丸が肉ごと抉った。短い悲鳴を上げて崩れ落ちる仲間。

 

(これが……本物の戦争だ……!)

 

ハキは歯を食いしばり、照準器の真ん中に、こちらへ銃口を向けようとしている皇国兵の姿を捉えた。

指先に力を込める。引き金が落ちた。

 

凄まじい反動が肩を襲い、次の瞬間、視界の先の皇国兵が、糸の切れた人形のように泥の中に倒れ伏した。自分が、人を、殺した。皇国への激しい憎しみはある。だが、この手に残る生々しい殺人の感触は、決して心地よいものではなかった。ハキは戦慄を覚えながらも、生き残るためにガシャリと槓桿(ボルト)を往復させ、次の弾薬を薬室へと送り込んだ。

 

数分間の激しい撃ち合いの末、補給隊を翻弄したダリオたちは、血を流す仲間を担ぎ、皇国の増援が到着する前に素早く岩陰の奥へと消え去った。

 

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### 2.

 

同じ夜、皇国軍が安全と信じ込んでいた、第二陣地の監視哨周囲。

消音器付きのチャージピストルを構え、影のように現れたのは、コホートの隠密要員セリナであった。彼女の背後には、同じく漆黒の隠密服を着込んだ数名のコホートの工作員たちが控えている。

 

プツ、プツ、と肉を引き裂く微かな音。セリナたちの放つ高速のチャージ弾が、夜霧の中で松明を掲げていた4人の皇国兵の眉間を正確に撃ち抜いた。

 

「周辺の監視哨、クリア完了」

 

セリナがインカムへ淡々と告げ、物流を偽装するための欺瞞信号端末の設置に入ろうとした、その時だった。

 

「――おい! そっちの交代はどうした!?」

 

想定外のタイミングで、岩陰から臨時の巡回兵3名が突如として姿を現した。コホートの偵察ドローンの警戒周期の隙を突く、皇国側の不定期巡回だった。倒れた仲間を目撃した巡回兵が、一瞬で目を血走らせる。

 

「て、敵襲――」

「しまっ――」

 

セリナが引き金を引くより一瞬早く、皇国兵の一人が前装式ライフルの引き金を引いた。

 

ドォン!!!

 

静寂を切り裂く爆音が響き、至至近距離から放たれた鉛弾が、セリナの側面にいた工作員の太ももをかすめ、肉を派手に削ぎ落とした。工作員が苦悶の声を漏らす。セリナは即座にチャージピストルを連射して巡回兵を一瞬で肉片へと変えたが、火薬の臭いと銃声は確実に周囲の森へと拡散していった。

 

「チッ、これだから現地人の不規則行動は計算が狂う……!」

負傷した仲間を抱え、セリナは焦燥を滲ませながらインカムを叩く。

 

「こちらセリナ! 想定外の接触により、偽装信号の設置を破棄、即時離脱します! 皇国軍本陣はまもなくこのエリアの異変に気づくわ! ハンス小隊長、レジスタンスたちの撤退を急がせて! 敵の反応速度が上がっているわ!」

 

コホートも無敵ではない。限られた人員、予期せぬ不条理による計算の狂い、そして生身の肉体が負う傷。高度な技術を誇る遭難企業といえども、圧倒的な大軍の質量を削る作業は、常に薄氷を踏むような綱渡りの連続であった。

 

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翌朝。パーパルディア遠征軍の本陣。

総司令官ガイウス元帥は、血走った目で地図を睨みつけていた。

 

「報告します! 第一ルートの輜重隊は無事到着! ですが、手薄となった第四ルートで、三個輜重隊がゲリラの待ち伏せに遭い、物資ごと全滅!

さらに山岳路へ放った竜騎士の斥候ですが……森の中に事前に配置されていたと思しき『奇妙な発光端末』から放たれた超音波によって、飛竜たちが一斉に狂乱を起こし、編隊が崩壊! 数騎が相次いで激突墜落し、残存は一時撤退いたしました!」

 

「……そうか。やはりな」

 

ガイウスは、手にしたペンをギリィ……と音を立てて握りしめた。

 

「閣下! やなり護衛が足りんのです!」

 

参謀の一人が青ざめた顔で叫ぶ。

 

「全ルートの護衛をさらに倍増させましょう! 兵を分散し、すべての物流を戦列歩兵で囲むのです! そうすれば敵のゲリラどもなど――」

 

「黙れ!」

 

ガイウスの怒号が司令部を震わせた。彼は机を強く叩きつけ、参謀を睨みつけた。

 

「貴様らは何も見えていない!護衛を増やせば、兵力を引き抜いた別ルートが燃える。

ならばと全ルートに兵を分散すれば、個々の戦力が低下してゲリラの各個撃破の餌食になる。

ならばと進軍を急げば、荷車の足が乱れて兵站そのものが破綻する。

かと言ってここで進軍を停止すれば、前線に届く前に十三万の胃袋が自軍の食料を食い尽くす!

どの選択肢を選んでも……我が軍の『破滅』へと繋がっているのだ!!」

 

司令部が、凍りついたような静寂に包まれた。

有能なる将帥ガイウスだからこそ、気づいてしまった真実。自分たちの十三万という大軍の動きそのものが、敵の計算式の上で、最も効率よく出血させられるための「業務プロセス」の一部として完全にコントロールされているという、絶対的な絶望。

陸軍は、まだ敵の本陣と正面衝突すらしていないというのに、すでにロジスティクスの迷宮の中で「詰み」を突きつけられていた。

 

「……閣下。まだ、我々には海軍がおります」

 

絶望に沈む広間で、執行官ヴェルナーが静かに、しかし重々しくルイナ川から分岐する運河の座標を指差した。

 

「バルス海将の率いる海軍主力艦隊、計五十五隻。

最新鋭装甲艦『パーパルディア』と、外輪竜母がまもなくエストラ運河を遡上し、ミューズの横腹を突くはずです。

陸路が敵の網に絡め取られているならば、水路からの圧倒的な鉄の火力で、奴らの陣地をアウトレンジから消し飛ばすしかありません」

 

ガイウスは、開いた窓の外、遥か南へと続くルイナ川の鈍い水面を見つめた。

陸軍がこれほどの地獄を見ているというのに、海軍の連中は未だに、風を孕んで進む旧時代のルールのなかにいる。

 

「……バルスよ。お前たちは、自分が何に向かって船を進めているのか、本当に理解しているのか……」

 

ガイウスの不吉な呟きが、嵐の前夜の室内に虚しく響く。

陸軍の出血が止まらぬ中、エストラ運河の水面下では、コホートが仕掛けた次なる自動化された罠が、傲慢なる皇国海軍を迎え撃つための牙を静かに研ぎ澄ましていた。

 

 

 

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