辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第35話:解体される艦隊

 

 

 

 

## 第35話:解体される艦隊

 

 

 

### 1. 沈まぬ鋼鉄城

 

エストラ運河の泥の底から放たれた魚雷。

それが、パーパルディア皇国海軍の誇る最新鋭装甲艦『パーパルディア』の艦底へと到達した。

 

――ドゴォォォォォォン!!!

 

凄まじい衝撃音が響き渡り、数千トンの鋼鉄の巨躯が、水面で大きく跳ね上がった。艦橋のガラスが粉々に砕け散り、総司令官バルス海将をはじめとする将校たちが床に激しく叩きつけられる。

 

「被弾! 右舷艦底に破孔! 大量の浸水が発生しています!」

「馬鹿な、大砲の弾か!? いつの間に撃たれた!」

 

混乱に陥る艦橋。運河の中央で、突如として見えない大槌で殴られたかのような致命的な一撃だった。

しかし、パーパルディアが第一文明圏の列強の技術を模して、国家の威信を懸けて建造した装甲艦の防御力は、伊達ではなかった。コホートの小型UUV(自律無人潜航艇)が発射したのは、小型舟艇用の軽魚雷だったため、分厚い圧延鉄甲と幾重にも補強された船体の竜骨を完全にへし折るには至らなかったのだ。

 

「うろたえるなッ!!」

 

額から血を流しながら立ち上がったバルス海将が、雷のような怒号を飛ばした。

 

「直ちに下層の防水隔壁を完全閉鎖しろ! 浸水区画を切り離せ! 機関は絶対に停止させるな、船足を止めればただの的だ!」

 

「は、ハッ! 隔壁閉鎖! 機関出力維持!」

 

水兵たちの迅速なダメージコントロールにより、装甲艦『パーパルディア』は僅かに右舷に傾きながらも、黒煙を吐き出して力強く川面を踏みとどまった。被弾したにもかかわらず即座に沈没を免れたその頑強さは、皇国が培ってきた基礎工業力の底堅さと、海軍将兵の確かな練度を示していた。

 

---

 

###

 

「被害状況を報告しろ。敵の姿は確認できたか!」

 

バルスは艦橋の手すりを掴み、血走った目で周囲の川面を睨みつけた。

 

「ダメです! 依然として河岸にも上空にも敵影なし! 魔法の気配もありません!」

 

その報告を聞いた瞬間、バルス海将の脳裏に、数十年におよぶ海戦の経験と直感が閃いた。陸にも空にもいない。魔導兵器でもない。しかし、船の腹を下から食い破られた。ならば――。

 

「……水の中だ」

 

バルスは歯を剥き出しにして叫んだ。

 

「敵は河岸に隠れているのではない! 水面下だ! 水の中に潜って、我々の船底を直接攻撃しているのだ!」

 

潜水艦という概念を持たない第三文明圏の軍人でありながら、バルスは被害の状況だけで未知の水中攻撃という正解へ即座に到達した。彼もまた、無能な貴族ではない。海を知り尽くした優秀な指揮官だった。

 

「水魔導士部隊、直ちに艦隊周辺の河底へ向けて水流撹乱の術式を放て! 水中の敵の動きを封じるのだ!」

 

バルスは次々と的確な対潜命令を連呼する。

 

「各艦、対海魔用の爆薬樽に火を点けて水中に投下しろ! 水圧で敵を叩き潰せ! さらに後続の帆船群は、船首から防護用の巨大な網を川へ落とし、艦隊の周囲を物理的に囲え!」

 

ドボン、ドボンと、次々と火を点けられた爆薬樽がエストラ運河へ投げ込まれ、鈍い水中爆発の水柱がいくつも上がる。魔導士たちが川の水を激しく渦巻かせ、太い麻縄で編まれた網が次々と水面下へと展開されていく。最新兵器に対してもパニックに陥りきらず、手持ちのカードで即座に抵抗を試みる。それが、大国パーパルディアの底力だった。

 

 

###

 

同じ頃、巨大グラヴシップ《プロスペリティ》の中央管制室。

ホログラムモニターに映し出された運河の惨状を見ながら、セキュリティ責任者のミウラが目を丸くして口笛を吹いた。

 

「ほう。あいつら、もうオレらが水底から攻撃してるって気づいたのか? 爆雷の真似事をして、おまけに物理的な網まで張って対策し始めた」

 

「予想よりずっと早いわね」

 

タドコロは、感心したように小さく微笑んだ。

 

「陸の司令官ガイウスといい、海の司令官バルスといい、パーパルディアの将官クラスは意外と優秀ね。自分たちの常識外の兵器に対しても、すぐに適応して論理的な最適解を打ってくる」

 

「迷惑な話です」

 

内政主任のキムラが、コンソールを叩きながら不快げにウサギ耳を伏せた。

 

「すぐに学習して適応してくるような有能なターゲットは嫌いです。処理にかかるコストと時間が上乗せされますからね」

 

「でも、無駄だ」ミウラが不敵に笑う。

 

「彼らの努力は素晴らしいが、オレらのUUVが狙っている本命は、あのガチガチに硬い装甲艦じゃないんだから」

 

 

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エストラ運河の水底。

荒れ狂う水流や、原始的な爆雷の衝撃波をソナーで的確に回避しながら、数機のUUVは、すでにバルス海将の乗る『パーパルディア』の下を悠々と通り過ぎていた。

 

彼らが照準を合わせていたのは、装甲艦の後方を進む、二隻の巨大な外輪飛竜母艦――『アウレリア』と『ヴィクトリア』だった。コホートにとって、艦隊の指揮官が誰であるかなど重要ではない。戦術的に最も優先して排除すべきなのは、硬いだけの装甲艦ではなく、上空からの索敵と空爆能力を持つ航空戦力(ワイバーン)の母体だった。

 

『――TARGET CHANGED.』

『――PRIMARY ASSET ACQUIRED. FIRING.』

 

水底から、連続して4本の魚雷が放たれた。

それは、バルスが展開させた防護網の隙間を縫うように直進し、二隻の飛竜母艦の最も脆弱な部分――両舷で激しく水を掻き回していた巨大な外輪(パドルホイール)の根元へと正確に突き刺さった。

 

――ドガァァァァァァン!!!

 

装甲艦への一撃とは比較にならない、致命的な大爆発。

『アウレリア』の右舷外輪が木っ端微塵に吹き飛び、推進力を失った巨体が狭い運河の中で大きくスピンする。さらに恐るべきことに、魚雷の衝撃は艦内に積載されていた、航空爆装用の火属性の魔石を誘爆させた。

 

「ぎゃああああっ!」

 

広大な飛行甲板が下から突き上げられ、天を突く炎の柱が上がる。甲板に待機していた数十騎の飛竜たちが、鎖に繋がれたまま全身を炎に包まれ、断末魔の悲鳴を上げて焼け死んでいく。

 

続くように、二番艦『ヴィクトリア』の艦首付近にも魚雷が命中。川幅の狭い運河という地形でバランスを崩した『ヴィクトリア』は、コントロールを失って旋回した『アウレリア』の横腹へと激しく衝突し、二隻の巨大な飛竜母艦は互いの船体を砕き合いながら、炎の地獄と化して水路のど真ん中で完全に沈黙した。

 

 

 

###

 

その光景を、被弾して傾いた装甲艦『パーパルディア』の艦橋から見ていたバルス海将は、完全に言葉を失っていた。

 

「……なぜだ」

 

バルスは、愕然と呟いた。

敵の攻撃は、見事なまでに急所を捉えていた。だが、通常の戦争のルールであれば、敵の最大の目標は総司令官の首であり、最強の旗艦であるはずだ。自分たちの乗る装甲艦を徹底的に叩き、沈めるのが戦いの常道だ。

 

「なぜ、我々を狙わん……? なぜ、自分たちを一番苦しめている装甲艦を素通りして、後方の補給船や竜母ばかりを狙うのだ……?」

 

「閣下……」

傍らで震えていた副官が、顔を青ざめさせて絞り出すように言った。

 

「竜母が沈めば、我が艦隊は空の目である飛竜隊を運用できません。後続の補給船が沈めば、この巨大な艦隊は火薬も食料も尽き、運河を前進することができません。装甲艦が一隻だけ生き残っても……これでは、戦う前に艦隊そのものが……!」

 

その言葉を聞いた瞬間、バルス海将の全身から、スゥッと熱が引いていくのを覚えた。陸軍の総司令官であるガイウスが、魔導通信の向こう側で見ていた絶望の正体を、彼はようやく理解した。

 

「違う……」

 

バルスは、燃え盛る竜母と、運河の水面を覆い尽くす自軍の残骸を見つめながら、震える声で呟いた。

 

「奴らは……軍隊(われわれ)を相手にしているのではない。総司令官の首も、装甲艦もどうでもいいのだ。奴らはただ、最も効率的な数字だけを弾き出し……我々の『艦隊というシステム』そのものを殺しているのだ……!」

 

前進する足と、目を完全に失った五十五隻の大艦隊。たとえ最新鋭の装甲艦が浮かんでいようとも、彼らはもう、狭い水路という巨大な棺桶の中に閉じ込められた、動けない鉄の塊に過ぎなかった。

 

同じ頃。《プロスペリティ》の管制室。

メインホログラムに映し出された、完全に足が止まり、炎上するパーパルディア海軍の惨状を見つめながら、タドコロは手にした扇子を静かに閉じた。彼女の藍色の瞳は、大国の威信が崩れ去る様を見ても、微塵も揺らぐことはなかった。

 

「彼らの艦隊を、一隻残らず沈める必要はないわ」

 

タドコロは、帳簿の数字を消し込むような冷徹な声で、静かに告げた。

 

「ミューズに到着できなくすれば、それで十分よ。……さあ、これで陸と海の兵站は完全に詰まったわ。後は、十三万の巨人が飢えに苦しむのを、ゆっくりと見物させてもらいましょう」

 

海軍すらも手玉に取られ、運河の真ん中で機能停止に追い込まれた大艦隊。それは兵器の質ではなく、戦争の概念そのものの敗北を意味していた。

 

 

 

 

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