辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第41話:巨人と星

 

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## 第41話:巨人と星

 

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巨大グラヴシップ《プロスペリティ》の第一会議室。

中央のホログラムテーブルには、完全に組織的戦闘能力を喪失し、自動迫撃砲の射撃と戦闘ドローンの追撃によって処理されていく十三万の遠征軍の熱源データが、無機質に流れ続けていた。

 

「ミューズにおける対象資産の無力化、7割以上が完了」

 

財務チーフのスカルバーグが、美しい黒髪の間から覗く黒いオオカミ耳を僅かにピクリと動かし、感情を排した冷徹な声で報告した。中性的な端正な顔立ちに、冷たい電子光が反射する。

 

「残存兵力はもはや我が社の脅威ではありません。しかし、パーパルディア本国は未だに国家としての意思決定機関を保っています。このまま放置すれば、後日、第二、第三の討伐軍が編成され、将来的なコスト増に繋がるリスクがあります」

 

「そうね」

 

タドコロは、手にしたプラスチール製の扇子をパチンと閉じた。

 

「野戦軍や海軍という末端の『手足』を切り落としただけでは、あの狂信的な大国は決して降伏という合理的な判断を下さないわ。戦争状態の完全な終結に必要なのは、皇国首脳部に対する直接的な物理制圧よ」

 

彼女はホログラムの地図を大きくスワイプし、パーパルディア皇国の中心――皇都エストシランドを鮮烈な赤でハイライトした。

 

「これより、本艦《プロスペリティ》を皇都上空へ直接巡航させるわ。皇宮を我が社のセキュリティ部隊で占拠し、最高責任者である皇帝ルディアスと皇后レミールの身柄を確保する。……発進の準備は?」

 

「メインの反重力機関、いつでもイケるよ社長」

 

生産主任のキムラが、長いウサギ耳をピンと垂直に立ててコンソールを叩く。

 

「地表側に設置したプラットフォーム上の『重力アンカー』の同調、および離脱シークエンス正常作動。船体に直接アンカーを載せると飛べなくなるからわざわざ外に建てたけど、あれのおかげで発進時の不安定な引力切断による周辺地形崩壊リスクはゼロだよ。出し惜しみはしないわ。皇国に、我が社の規格を教え込みなさい」

 

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### 2

 

東部属州ミューズ周辺の荒野。

自動迫撃砲の爆炎によって物理的に解体され、完全に瓦解した本陣の地獄を背に、ガイウスは泥塗れの軍服を乱暴に羽ばたかせながら、残された数頭の駄獣――地竜の背に跨り、執念で荒野を疾駆していた。

 

総司令官としての責務も、もはや崩壊した戦場の前には意味をなさなかった。彼の老いた肉体を突き動かしていたのは、十三万を跡形もなく自壊させた悪魔の正体をこの目で確かめるという、軍人としての純粋な狂気と執念だけだった。

手綱を血が滲むほどに握り締め、地竜の肉体を限界まで酷使して数時間。皇国人が「要塞」と呼んでいた金属の城が鎮座する、険しい崖の頂上へとたどり着いたガイウスは、息を呑み、地竜の背から転げ落ちるようにして這い進んだ。

 

「……なんだ、これは。何なのだ、これは……!」

 

崖の淵から眼下の巨大な盆地を見下ろしたガイウスは、絶句したまま、杖代わりにしていた前装式ライフルを取り落とした。

そこにあったのは、砦でも、要塞でもなかった。

 

全長五百十四メートル。

上空から見れば完璧な六角形(ヘックス)を成すその異形の船体は、超硬合金、セラミック複合材、あるいはナノラミネート装甲の重厚な積層に覆われ、朝日に鈍い金属光沢を放っている。それこそが、コホート・コーポレーションの本体にして真の姿――巨大グラヴシップ《プロスペリティ》であった。そしてその周囲の地表には、プラスチールと先進コンポーネントで組み上げられた、異様な「重力アンカー」の巨大なタワーが屹立していた。

 

ズズズズズズ……正式駆動信号のカットインと共に、盆地全域に配置された重力アンカーのインジケーターが一斉に臨界の輝きを放ち、次いでパージされた。

 

瞬間、艦中枢の極大出力の反重力エンジンが本格駆動を始めた。

グラヴシップ発進時に発生する、広範囲にわたる不安定な引力切断の波。通常であれば周囲の地域マップそのものを壊滅的な重力波で粉砕・破壊しかねないその超エネルギーの奔流を、地上のアンカーが力づくで中和し、空間を歪ませる重低音へと還元して荒野全域へ響き渡らせた。

崖の上のガイウスの身体が、一瞬、上空へ浮かび上がるような奇妙な錯覚に襲われる。

 

ギィィィン……と大気を引き裂く駆動音が最高潮に達したその時、五百十四メートルの巨体が、推進のための翼も、魔法の詠唱も、魔石の輝きすら一切なく、文字通り「物理の法則をあざ笑うように」音もなく垂直に浮上を開始した。

 

百メートル、二百メートル、三百メートル。数百万トンに達する鋼鉄の山が、まるで一枚の枯れ葉のように滑らかに大空へとせり上がっていく。

 

「ば、馬鹿な……! あの巨大な鋼鉄の山が……重力を無視して、空へ昇っていくというのか……!?」

 

ガイウスが狂乱の面持ちで叫んだその瞬間、船体後部に備えられた水平移動用のアストロ燃料スラスターのシャッターが開放された。

 

轟ッ!!!!!!!!

 

大気を一瞬で灼熱化させるプラズマの蒼白い光焔が、意気揚々と噴射された。遅れてやってきた衝撃波と熱風の壁が、崖の上のガイウスを容赦なく吹き飛ばす。

彼が泥に塗れ、髪を振り乱しながら必死に顔を上げた時、巨大な六角形の質量は、プラズマの尾を引きながら時速九百キロを超える驚異的な加速で、はるか南西――皇都エストシランドの方角へと、天の雲海を切り裂いて消え去るところだった。

 

「我々は……」

 

天に穿たれた白い飛行雲を見上げながら、ガイウスは乾いた笑いを漏らした。

 

「こんな化け物を相手に……戦争をしていたのか……!」

 

己がどれほど無謀で、ちっぽけな世界の物差しで測れぬ絶対的な存在に挑んでいたのかを完全に理解し、東部の英雄は、ついにその場で精神を完全に崩壊させ、虚空に向かって狂ったような高笑いを上げ始めた。

 

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### 3.

 

パーパルディア皇国、皇都エストシランド。

宮廷の地下深く、長年秘匿されてきた巨大な極秘ドックの中で、皇帝ルディアスと皇后レミールは、薄暗い空間を見上げていた。

 

「十三万の遠征軍が消滅しようと、我がパーパルディアの命運は尽きぬ」

 

ルディアスは、血走った目で目の前の巨大な質量を見上げた。

 

浮揚戦艦『アストラ・レギア』。

 

全長百十四メートル、全幅十八メートル。その優美な帆船のような船体は、ミスリルの装甲板で隙間なく覆われている。動力源は、古代魔法帝国の遺跡から発掘された『浮遊コア』。皇国はこれを高位の魔法遺物と信じているが、その本質は、かつてこの星に存在した古代魔法帝国が残した反重力発生装置であった。

 

「陛下。風神の涙推進器、出力上昇。いつでも出港可能です」

 

静かな声と共に進み出たのは、『アストラ・レギア』の専属艦長、シウスであった。漆黒の軍服に身を包んだその男の右目には深い刀傷が走り、隻眼の奥には冷酷で無慈悲な殺戮者の光が宿っている。

 

「シウスよ」

 

ルディアスが重々しく告げた。

 

「敵は我々の常識を外れた未知の勢力だ。だが、この『アストラ・レギア』の艦首固定砲……『三百ミリ魔光砲』ならば、いかなる鉄の塊であろうと一撃で消し炭にできるはずだ。皇国の命運、貴様に託す」

 

「御意に」

 

シウスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「本国の絶対防衛圏、および本艦の直衛用として温存されていた最高精鋭、ワイバーンロード二十四騎もすでに甲板に配備済みです。どのような小賢しい兵器を使おうと、古代の純粋な力の前には無力であると、あの商人どもに教えて差し上げましょう」

 

レミールもまた、扇子を握りしめて狂ったように笑う。

 

「ええ、やっておしまいなさい! 奴らの醜い首を、私の前に並べるのです!」

 

ゴゴゴゴゴゴ……!!

地下ドックの巨大な天蓋が開き、四基のリング型推進器が大量の風神の涙を消費しながら作動する。多重の防壁結界の輝きを纏い、『アストラ・レギア』が重々しく皇都の空へと浮上していく。大国がその奥底に隠し持っていた、最後の切り札が、ついに目を覚ました。

 

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### 4.

 

高度3000メートル。

雲海の上を巡航速度六百キロで突き進む《プロスペリティ》の艦橋では、一人の女性が極めて精密な手付きで操舵コンソールを操作していた。

 

操舵手、マディーン。

彼女は蚕蛾をモチーフとするサクリーンのイシュムーティト(人工種族)であり、頭部から伸びたふさふさの触覚と、背中の美しい翅(はね)が特徴的であった。サクリーン族特有の極めて高い視力と器用な指先を持つ彼女は、無口な性格そのままに、淡々と巨大なシステムを操っている。

 

「……オールグリーン。反重力エンジン安定。アストロ燃料スラスター、巡航出力維持」

 

マディーンは触覚をピクリと動かし、細い声で報告した。

 

「ありがとう、マディーン。このまま皇都へ直行して」

 

タドコロが声をかけたその時、セキュリティ責任者のミウラが戦術モニターを見て眉をひそめた。

「タドコロ。正面から、ちょっと厄介なものが来たみたいだ」

 

メインレーダーに、今まで探知されたことのない異質な高熱源体が明滅していた。

 

「皇都の方角から、巨大な浮遊物体が接近中。時速三百二十キロ……帆船みたいな形状だけど、物凄い重力反応だ。どうやら、お出迎えらしい」

 

スカルバーグが、特徴的な黒いオオカミ耳をピンと立てて目を細めた。

 

「興味深いですね。あの皇国が、これほどのエネルギーを内包した戦略兵器を隠し持っていたとは」

 

「……」

 

タドコロは閉じた扇子を握り直し、正面の分厚い透明アルミの向こうを見据えた。

遠く雲海の彼方から、多重結界の光を纏った浮揚戦艦『アストラ・レギア』の優美な姿が、ゆっくりと、だが確かな殺意を持って迫ってくるのが肉眼でも確認できた。

 

「退屈な事務作業は終わりよ」

 

タドコロの藍色の瞳に、CEOとしての冷徹な理性と、未知の強敵に対する闘争心が同時に宿る。

 

「マディーン、ミウラ! 迎撃態勢(バトル・ステーション)! 多層防御シールド最大出力。防空レーザータレット、および垂直発射システム(VLS)起動。――レールキャノンと、百ミリガウス砲にウランスラグ弾を装填しなさい!」

 

「了解! ドローン群もいつでも射出できるぞ!」

 

タドコロは、目前に迫る古代帝国の遺産へ向けて、事務的な清算を通告するように冷たく言い放った。

 

「パーパルディアの秘密兵器がどれほどのものか、我が社のテクノロジーで査定してあげなさい」

 

コホートとパーパルディア。両雄並び立たぬ大空の頂上決戦の火蓋が、いま皇都近郊の空で静かに切って落とされようとしていた。

 

 

 

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