辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
## 第42話:空の王と重力船
### 1.接触
高度3000メートル。
雲一つない果てしない空の上を、二つの巨大な影が互いを目指して進んでいた。
グラヴシップ《プロスペリティ》の管制室。
メインレーダーのホログラムに、一つの巨大な光点が点滅していた。
「――大型飛行物体、捕捉(コンタクト)。全長114メートル。進路は本艦へ向けて直進中」
パイロットのマデリーンが、モニターを見ながら報告する。
「速度は時速320キロ。数百キロ前からずっと捕捉してるけど、向こうはまだこっちに気づいてないみたい」
「皇国の秘密兵器かもしれませんね。あれほどの質量を浮遊させるエネルギー技術が、皇国に残っていたとは」
キムラが、興味深そうにウサ耳を動かす。
一方、その頃。
距離が数十キロにまで縮まって、ようやく《アストラ・レギア》の艦橋に緊張が走っていた。
「遠視魔法に感ありッ!!」
探知魔導士が、水晶版から目を離して絶叫した。
「前方、距離およそ40キロ! 雲海の中に、とてつもない巨大な鉄の塊が浮いています! 全長……ご、500メートル以上! 見たこともない異形の船です!」
「まさか。あれが皇国を混乱させた怪物の正体か」
シウス艦長は、隻眼を細めて前方を見据えた。
「帆もない、魔力もない、巨大な鉄の塊が空を飛ぶなど……常軌を逸しているな」
「艦長! 敵は我が方の主砲の射程外(アウトレンジ)です!」
「構わん。全速で接近を続けろ。大国の誇りにかけて、あの鉄塊を皇都の空に入れるわけにはいかん」
シウスが冷酷な笑みを浮かべたその時、《アストラ・レギア》の艦橋に、あり得ない「声」が響き渡った。
### 2.最後通告
『――こちらはコホート・コーポレーション。パーパルディア皇国の所属艦に告ぐ』
それは、魔導通信機からではなく、艦の周囲の「大気」そのものを震わせて響く、巨大な指向性スピーカーからの広域音声だった。
『直ちに現在の進路を変更し、武装を解除せよ。要求に応じない場合、防衛プロトコルに基づき、貴艦を排除する』
傲慢な通告。相手は数十キロも先にいるというのに、まるで耳元で囁かれているかのようなクリアな音声に、アストラ・レギアの乗組員たちは息を呑んだ。
「武装解除だと? 舐められたものだな」
シウスは鼻で笑い、即座に命じた。
「返答は無用だ。我が軍の意思は、砲弾で示せ」
巨大な浮揚艦が、進路を変えることなく直進を続ける。
その反応を見たタドコロは、管制室で小さく溜息をつき、扇子を広げた。
「交渉決裂ね。野蛮な相手には、先に我が社の『名刺』を渡しておく必要がありそうね。――100mmガウス電磁加速砲。敵艦の前方へ警告射撃」
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《プロスペリティ》の六角形の船体から、巨大な砲塔が静かにせり出した。
電気的なチャージ音が響き、砲身が青白いプラズマを帯びる。
ズガァァァァァァァァンッ!!!
火薬の爆発音ではない、空気を切り裂く鋭利な轟音。
超高速で撃ち出された『ウランスラグ弾』が、数十キロの距離を一瞬で跳躍し、《アストラ・レギア》の艦首のわずか数十メートル前方を通過した。
命中すらしていない。だが、音速を遥かに超える質量弾が引き起こした「衝撃波」だけで、周囲の大気が真っ二つに裂け、アストラ・レギアの船体が木の葉のように激しく揺さぶられた。
「うおぉぉぉっ!?」
「何だ今のは!? 何が起きた!?」
甲板で転倒した水兵たちが、恐怖に顔を引き攣らせる。
大砲の火煙も、魔法の光もなかった。ただ突然、何かが超高速で射出されたのだ。
「……威嚇か」
シウスは手すりを掴んで身を支えながら、隻眼をギラリと光らせた。
見えない距離からの、視認不可能な超高速砲撃。これが直撃していれば、多重結界ごと船体を粉砕されていたかもしれない。その絶望的な技術格差を見せつけられてなお、歴戦の軍人であるシウスの戦意は微塵も衰えなかった。
「敵を射程に捉えるまで、あと少しだ! 結界最大出力! 怯まず前進しろ!」
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二隻の距離が、ついに20キロを切った。
シウスは右手を高く振り上げた。
「艦首、固定主砲!『300mm魔光砲』起動! 敵の巨体ごと消し飛ばせ!」
「は、ハッ! 浮遊コアより魔力供給開始! 照準完了!!」
《アストラ・レギア》の艦首が眩い光に包まれる。
船体の中心にある古代の浮遊コアから、膨大なエネルギーが砲身へと一気に注ぎ込まれた。それは、地上の皇都エストシランドからも「空に二つ目の太陽が現れた」と錯覚するほどの、規格外の閃光だった。
「撃てぇぇぇぇッ!!」
巨大な青白い魔力ビームが、空を焼き焦がしながら《プロスペリティ》へと一直線に放たれた。
「高エネルギー反応! シールドジェネレーターの出力を上げろ!」
ミウラの警告と同時。
バリィィィィィィィィィンッ!!!!!
直撃。
《プロスペリティ》を覆っていた不可視の【多層防御シールド】と、純粋な破壊の魔力ビームが正面から衝突し、空間に凄まじい火花と衝撃波をまき散らした。
強固なシールドがギシギシと悲鳴を上げ、管制室の照明が一瞬明滅する。
「……被害報告!」タドコロが声を張り上げる。
「第一層シールド、出力12%低下! 船体装甲へのダメージはゼロ!」
ミウラが目を見開いてモニターを見た。
「ウソだろ、ただの空飛ぶ帆船の魔法攻撃が、うちのシールドを削ったぞ!?」
「興味深い」
キムラが、データを高速で分析しながら唸る。
「純粋なエネルギーの束(ビーム)です。あれは魔法などというチャチなものではない。おさらく旧時代の文明が残した『本物の兵器』です」
タドコロは、扇子をパチンと閉じた。その藍色の瞳に、冷徹な殺意が宿る。
「敵艦の脅威度を、上方修正。――戦闘行動を許可する。ミウラ、叩き落としなさい」
### 5.
「了解!」
ミウラがコンソールのカバーを開き、赤い発射ボタンを乱暴に叩き込んだ。
ガコン、ガコンッ!
《プロスペリティ》の広大な装甲表面に並ぶ、256セルのVLS(垂直発射システム)のハッチが一斉に展開する。
シュゴォォォォォォォッ!!!
白煙を吹き上げながら、数十発の『対空ミサイル』が空へと撃ち出された。ミサイル群は空中で美しく弧を描き、目標である《アストラ・レギア》へと殺到する。
「と、鳥ではない! 矢でもない! な、何だあれは!?」
アストラ・レギアの副官が、空を覆い尽くす白い煙の軌跡を見て絶叫した。
「迎撃しろ!!」
シウスの怒号が響く。艦の周囲に配置された、神聖ミリシアル帝国から密輸された『イクシオン20mm対空魔光砲』が火を噴いた。
赤い魔光弾の弾幕が空に張られ、飛来するミサイルの数発が空中で迎撃されて爆発する。
だが、高速で迫るの対空ミサイル群を、手動照準の対空砲ですべて落とすことなど不可能だった。
網の目を潜り抜けた十数発のミサイルが、《アストラ・レギア》の多重魔力結界に次々と突き刺さった。
ドガァァァァァァァァンッ!!!!
凄まじい連続爆発。炎と爆煙が古代戦艦を包み込み、船体全体が激しくきしむ。
「魔法障壁、出力80%に低下! 持ちこたえました!!」
黒煙の中から、無傷の《アストラ・レギア》が姿を現した。
シウスは、結界の表面で波打つ爆炎を見つめながら、初めてその隻眼に「戦士としての歓喜」を浮かべた。
「……なるほど。本物か」
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二隻の距離が、さらに詰まる。
「ワイバーンロード部隊、全騎発艦! 敵の注意を引け! イクシオン対空砲の冷却を急げ!」
シウスの命令で、《アストラ・レギア》の甲板から24騎のワイバーンロードが一斉に飛び立ち、巨大な六角形へと向かって急降下を仕掛ける。
迎え撃つ《プロスペリティ》からは、ハッチから無数の攻撃型ドローン群が吐き出され、船体表面の72基の『防空レーザータレット』がレンズを光らせて一斉に起動した。
雲海の上は、一瞬にしてカオスと化した。
炎を吐くワイバーンロードと、高機動で飛び回るドローン戦闘機がドッグファイトを繰り広げ、飛び交うミサイルの白煙を、レーザーの光線と対空魔光砲の赤い弾幕が切り裂いていく。
「社長」操舵手のマディーンが、触覚を揺らして呟いた。
「これ、本格的な艦隊戦になるよ」
「ええ。出し惜しみはなしよ、マディーン。敵の心臓を抉り出しなさい」
タドコロが不敵に微笑む。
「全速前進! 次の魔光砲の装填を急げ! 押し潰せ!!」
シウスが狂気的な笑い声を上げる。
空の王たる、古代魔導帝国の遺産《アストラ・レギア》。
リムワールドの空を渡った、ウルトラテクノロジーの結晶《プロスペリティ》。
二つの全く異なる時代と法則を持った巨大な怪物が、火線と爆炎を纏いながら、ついに雲海のど真ん中で正面から激突した。