辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
第43話:巨獣の墜落
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高度三千メートルの空中は、火炎と爆煙、そして交差する無数の光線によって、文字通りの地獄と化していた。
「グォォォォォォッ!!」
空の覇者たるワイバーンロードが大きく顎を開き、灼熱の火炎弾を吐き出す。
だが、その炎が空気を焼く前に、高機動で舞うコホートの攻撃型ドローン群が、高出力レーザーで飛竜の翼の被膜を正確に撃ち抜いていく。血を流し、墜落していく巨大な獣たち。
「怯むな! 飛竜部隊を援護しろ! 対空魔光砲、撃てェェェッ!!」
浮揚艦『アストラ・レギア』の甲板で、砲術長が喉を枯らして絶叫した。神聖ミリシアル帝国から密輸された八基の『イクシオン二十ミリ対空魔光砲』が、赤い魔光弾の弾幕を空に張り巡らせる。
ズバババババッ!!!
《プロスペリティ》から雨霰と放たれた対空ミサイルの白煙が、赤い弾幕に接触して次々と空中で爆散していく。
しかし、ミサイルの数はあまりにも多すぎた。迎撃を掻き潜った数発が、『アストラ・レギア』を覆う多重結界に激突し、船体全体を大波に乗ったかのように激しく揺さぶる。
「くそっ、魔法障壁が保たんぞ! 魔力供給を急がせろ!」
空を覆う鉄と魔法の乱舞。それは、第三文明圏の歴史上、未だかつて見たことのないほど大規模で熾烈な空中戦であった。
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一方、猛攻を加える《プロスペリティ》の中央管制室。
キムラとスカルバーグは、メインホログラムに表示された敵艦のエネルギー波形データを見て、目を丸くしていた。
「……ねえ、社長。これ見てよ」
生産主任のキムラが、長いウサギ耳を動かしてコンソールを指し示した。
「あの船の中心にあるバカでかいエネルギー源……浮遊コアってやつ、魔法なんかじゃないよ」
「どういうこと?」
タドコロがプラスチール製の扇子を閉じた。
「エネルギーの波形パターンが、本艦の反重力コアと完全に一致しているのです」
財務チーフのスカルバーグが、美しい黒髪の間から覗く黒いオオカミ耳をピンと立て、驚愕の事実を告げた。
「あの国は、あのコアを魔法の力だと思い込んでいますが……違います。あれは紛れもなく、我々のものに近い科学技術による反重力発生装置です。おそらく、この星の古代に存在したという帝国は、グリッターワールド文明と同等か、それに近い高度な宇宙文明を築いていた可能性があります」
「……なるほどね」
タドコロの藍色の瞳が、感心したように細められた。
「パーパルディア皇国は、自分たちで造ったわけでもない超古代の反重力エンジンを、原理も理解しないまま無理やり魔法の船に組み込んで飛ばしているというわけね」
「ブラックボックスを強引に変調させて繋いでるだけですから、変換効率は最悪のはずですよ。よくあれで空を飛べてるな……」
キムラが呆れたようにため息をついた。
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コホート側の推測は、完璧に的を射ていた。
『アストラ・レギア』が誇る古代魔法帝国の超技術の、悲しくも滑稽な真実。それが今、悲鳴を上げる船の最下層――機関室で繰り広げられていた。
「障壁の魔力が保たん! もっとエネルギーを送れ! もっとだ!!」
機関長が血走った目で腕を振り回し、怒号を飛ばす。その目の前には、巨大な浮遊コアから伸びた無数の太いケーブルと……それに直結された、数十台にも及ぶ魔力変換式・足漕ぎペダル(自転車型発動機)がズラリと並んでいた。
ギコギコギコギコギコギコッ!!!!!
数十人の屈強な機関員たちが、上半身裸になり、汗を滝のように流しながら、目をひん剥いて必死にペダルを漕いでいた。
パーパルディア皇国は、古代の反重力技術の原理を全く理解できていなかったのである。そのため、不足するエネルギーを補うため、文字通りマンパワー(人力発電)という極めて原始的な手段でこの浮揚艦の高度を維持していたのだった。
「艦長! もう限界です!」
機関長が、機関室に駆け込んできたシウスに向かって泣き叫んだ。
「これ以上の攻撃を受ければ、結界が破れます! しかし、機関員たちの足はもうパンパンで、これ以上ペダルを回せません!!」
「ええい、腑抜け共め!! もっとパワーを上げろ!!」
シウスは隻眼を吊り上げて怒鳴り散らした。
「もう無理です! 筋肉が千切れます!!」
「退けェェェッ!! 私も漕ぐッ!!!」
冷酷無比な殺戮者であるシウス艦長自ら、漆黒の軍服の上着を乱暴に脱ぎ捨てると、空いた自転車型発動機にまたがり、狂ったような形相で猛烈にペダルを漕ぎ始めた。
シャアァァァァァァッ!!!
「おおお! 流石は艦長! ペダルの回転数が常人の三倍だ!!」
「我々も負けるな! 艦長に続けェェェッ!!」
シウスの驚異的な脚力に触発され、機関員たちが再び死に物狂いでペダルを回し始める。船全体に男たちの汗と熱気が充満し、障壁が一時的に淡い光を取り戻した。大国の威信を懸けた最新鋭艦の裏側は、凄まじいまでの肉体言語によって支えられていたのである。
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だが、彼らの必死の足漕ぎによる努力も、圧倒的な文明の壁を超えることはできなかった。
「マディーン。敵のシールドの周波数が乱れてきたわ」
《プロスペリティ》の艦橋で、タドコロが冷徹に戦況を見極める。
「限界ね。そろそろ引導を渡してあげなさい。――レールキャノン、発射」
「了解」
操舵手のマディーンが、銀髪の隙間から触覚を揺らし、静かにトリガーを引いた。
《プロスペリティ》の上面に鎮座する、長大な一基の・レールキャノン。射程百五十キロを誇る対戦艦級の絶対兵器が、膨大な電力を帯びて青白い火花を散らす。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
雷鳴のような轟音と共に、音速の数倍で撃ち出された超質量弾が、雲海を消し飛ばしながら『アストラ・レギア』へと一直線に突き刺さった。
パリーーーーーーーンッ!!!!
シウスたちが文字通り死に物狂いで漕ぎ続けて維持していた障壁が、ガラス細工のようにあっけなく粉々に砕け散った。絶対防御を突破した質量弾は、ミスリルの装甲を紙のように貫通し、『アストラ・レギア』の船体中央部に巨大な風穴を開けた。
「ああっ!? なんだ、ペダルが空回りしている!!」
機関室で自転車を漕いでいたシウスが、突然軽くなったペダルにバランスを崩して激しく転倒した。浮遊コアへの接続ケーブルが焼き切れ、動力系統が完全にショートしたのだ。
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「う、うわぁぁぁぁっ!!」
「船体が傾くぞ! 推進器がやられた!!」
結界を失った『アストラ・レギア』に対し、《プロスペリティ》の百ミリガウス砲と防空レーザータレットが容赦ない追撃を浴びせる。船体側面を支えていた『風神の涙推進器』の巨大リングが次々と爆発して吹き飛び、甲板は火の海と化した。古代の浮遊コアが機能不全に陥り、百十四メートルの威容を誇った巨体が、ゆっくりと、しかし確実に重力に捕らわれて下へと沈み始める。
「くそっ……! 我が皇国の、大国の力が……こんな正体不明の鉄の山に……!!」
炎に包まれる機関室の中で、シウスは自らの無力さに血の涙を流し、絶交の叫びを上げた。
奮戦むなしく、パーパルディア皇国が歴史の奥底に隠し持っていた最大の切り札は、完全に戦闘能力を喪失した。黒煙を噴き上げ、装甲を剥がされながら、『アストラ・レギア』は果てしない雲海の下へと、その身を墜としていくのだった。