辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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## 第44話:落日の皇都
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パーパルディア皇国、皇都エストシランド近郊の山岳地帯。
この日、皇都に住む百万の市民たちは、自分たちの信じていた大国の威信が文字通り砕け散る瞬間を、その目で目撃することとなった。
空を覆っていた分厚い雲が真っ二つに裂け、そこから巨大な火の玉が真っ逆さまに落下してきたのだ。それは、皇国の歴史の奥底に秘匿されていた最強の切り札、浮揚艦『アストラ・レギア』の無惨な姿であった。
グォォォォォォォォン……ッ!!
ミスリル装甲をひしゃげさせ、黒煙を吹き上げながら、全長百十四メートルの巨体が山脈の中腹に激突する。凄まじい爆発音と共に天を衝く火柱が上がり、遅れて届いた衝撃波が皇都の窓ガラスをビリビリと震わせ、市民たちが悲鳴を上げて街角に立ち竦んだ。
炎に包まれた『アストラ・レギア』の最下層、機関室。
もはや助かる見込みのない灼熱の地獄の中で、機関員が血を吐きながら叫んだ。
「か、艦長! 船体が折れます! 早く脱出を……!!」
「……必要ない」
だが、シウスは空回りする足漕ぎペダルから降り、傾く壁に寄りかかったまま動こうとはしなかった。
彼の右半身は、魔石の誘爆による炎ですでに酷く焼け焦げている。しかし、その顔に死の恐怖はなかった。あるのはただ、理解の及ばないオーバーテクノロジーに対する純粋な敗北感だけだった。
「このアストラ・レギアですら……足元にも及ばなかったか」
シウスは、右目の深い刀傷を指でなぞりながら、崩れゆく装甲の隙間から遠くの皇都エストシランドの街並みを見つめた。武力で第三文明圏を支配してきた大国の、完全なる終わりの始まり。彼はその光景を隻眼に焼き付けたまま、崩落する機関室と運命を共にし、業火の中へと消えていった。パーパルディア皇国最後の切り札が、完全に消滅した瞬間であった。
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『アストラ・レギア』の墜落からわずか十分後。
皇都エストシランドの郊外に位置する、近衛飛竜団の駐屯基地。そこには、ワイバーンロードすら遥かに凌ぐ、皇国に数十騎しか存在しない最高位の飛竜――【ワイバーンオーバーロード】が駐留していた。
「アストラ・レギアが墜ちただと!? ええい、近衛のオーバーロードを全騎出撃させろ! 敵の浮遊要塞を皇都の空に入れるな!」
基地司令が怒号を飛ばし、体長12メートルを超える巨大な飛竜大王種たちが、凄まじい咆哮を上げて空へ飛び立とうとした、その時だった。
上空の雲を巨大な質量が押し除け、全長五百十四メートルの《プロスペリティ》が、基地の真上へとその威容を現した。
「タドコロ。眼下の基地に、生体熱源が数十。こちらを迎撃するために飛び立とうとしているようだ」
《プロスペリティ》の艦橋で、ミウラが報告する。
「目障りね」
タドコロの冷徹な声が響いた。
「わざわざ砲の弾を消費する価値もないわ。マディーン、高度を下げなさい。道中の障害物は、轢き潰して進むのよ」
「了解。……反重力エンジン、出力指向。引力切断フィールドを地表へ展開」
マディーンが操舵コンソールを操作した瞬間、《プロスペリティ》の巨大な六角形の底面から、大地の重力を強引に切断する強烈な重力干渉波が下方の基地へ向けて叩きつけられた。
「グガァァァァァァァッ!?」
飛び立とうとしていたワイバーンオーバーロードたちが、見えない巨大な圧力の壁に上から押さえつけられ、無様に地面へと叩き落とされた。
それは兵器による攻撃ですらない。数百万トンの質量を空中に留めるための「反重力機関の凄まじい排圧」そのものが、物理的な質量兵器となって地表を蹂躙したのだ。
「ひぃぃぃっ! 潰される!!」
基地の兵士たちが絶叫する間もなく、巨大な六角形の影が上空スレスレを通過していく。バキバキと音を立てて堅牢な竜舎が押し潰され、皇国最強を誇ったワイバーンオーバーロードたちは、その巨体を大地に擦り付けられたまま、自らの骨と内臓をミンチにして絶命していった。
皇都の絶対防衛圏は、戦うことすら許されず、ただ上空を通過するグラヴシップの圧倒的な質量の前に、文字通りペチャンコに踏み潰されて消滅した。
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「――『アストラ・レギア』、完全に撃沈! さらに皇都近郊の近衛飛竜基地が、敵艦の通過に伴う未知の圧力によって、オーバーロード諸共、物理的に圧殺されました!!」
皇城の円卓会議室。
伝令の魔導士が震える声で報告を終えると、軍部と外務のトップたちが集まる空間に、完全な沈黙が落ちた。
「……終わった」
最高司令官アルデが、糸の切れた操り人形のように椅子に崩れ落ちた。彼は両手で顔を覆い、軍人として、生きて初めて敗北という事実を口にした。
「海軍が沈み、飛竜が全滅し、十三万の遠征軍も餓死を待つのみ。アストラ・レギアすら墜ち、近衛のオーバーロードは文字通り踏み潰された。……もはや、我が軍に打つ手はない」
「黙れェェェェッ!!!」
皇帝ルディアスが血走った目で激昂し、拳で円卓を激しく叩きつけた。
「我がパーパルディア皇国は負けておらん! 宮殿にはまだ近衛兵がいる! 属州から兵をかき集めれば戦力はまだおる! そして何より、この余がおるではないか!!」
完全に現実を直視できなくなった皇帝の狂乱。それに、レミールが扇子を振り回しながら同調する。
「そうですわ陛下! たかが商人ごときに、第三文明圏の覇者が屈する必要などありません! 皇都に残っている戦力を集め、徹底抗戦するのです! 奴らを一人残らず皆殺しにするまで――」
自らの行いが招いた破滅を認められず、存在しない勝ち筋にすがりつく二人。その醜い現実逃避の姿に、会議室の空気に決定的な亀裂が走った。
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「……いい加減になさいませ」
静かな、だが氷のように冷たい声が会議室に響いた。第3外務局長、カイオスである。
彼は誰よりも早く、コホート・コーポレーションが自分たちを軍隊としてではなく、解体すべきシステムとしてしか見ていないことを理解していた。
「陛下。……今なら、まだ間に合います」
カイオスは、皇帝を真っ直ぐに見据えて進言した。
「直ちに降伏旗を揚げ、降伏交渉への使者を送るのです。条件は最悪でしょうが、ここで全面降伏すれば、少なくとも『国』という枠組みだけは残るかもしれません。これ以上無意味な抵抗を続ければ、我々は本当に……国ごと消し炭にされます」
「か、カイオスッ! 貴様、反逆する気か!」
ルディアスが怒りに顔を歪める。
「この私に、野蛮な商人どもへ頭を下げろというのか! 近衛兵! この反逆者を捕らえよ!」
ガチャリ、と近衛兵たちがサーベルを抜く。だが、カイオスは一歩も退かなかった。
「陛下。現実を御覧ください。外の世界は、もう我々の知るルールでは動いていないのです」
有能な官僚の忠言と、傲慢な皇帝の狂気。国家滅亡の足音が頭上まで迫る中、宮廷内の対立は、ついに後戻りできない決定的瞬間を迎えていた。
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一方、パーパルディア皇国の空を完全に制圧した《プロスペリティ》の艦内。
広大な出撃ベイでは、コホートのセキュリティ部隊が慌ただしく出撃の準備を進めていた。
プラスチール合金製のマリーンアーマーを装着し、チャージライフルの弾倉を点検する小隊長のハンス。彼らの背後には、無数の制圧用ドローンと、大気圏降下用の使い捨てドロップポッドがズラリと並んでいる。
コホートの帳簿上において、これは戦争ではない。不良債権と化した国家の中枢を物理的に差し押さえる「経営権回収作戦」であった。
「なあハンス。皇宮の近衛兵相手に、その重装備は流石にオーバースペックじゃないか?」
ミウラが笑いながら言う。
「社長の命令です。無駄な抵抗で時間をロスしないよう、圧倒的なテクノロジーを見せつけて確実に『回収』するのが一番手っ取り早い」
ハンスはパワーアーマーの分厚いヘルメットを被り、長いネズミの尾をアーマーの隙間に収納した。
「目標は二名」
出撃ベイのメインホログラムに、タドコロの冷徹な声と共に、二つの顔写真が映し出された。皇帝ルディアスと、皇后レミール。
「殺害(キル)ではなく、捕獲(キャプチャ)よ。彼らは、今後の戦後処理において必要不可欠な『資産』になる。無駄に傷つけて価値を下げるようなマネはしないでね」
大国の頂点に立つ絶対者たちを、ただの資産として回収する。最後まで冷徹な企業としての発想を崩さないまま、タドコロは出撃のサインを出した。
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皇都エストシランド。
皇帝ルディアスは、カイオスへの怒りに震えながら、玉座の間から続く広大なバルコニーへと出た。そこで彼は、初めてそれを直接、自らの両目で見ることとなった。
自分たちの海軍を川底へ沈め、最強の飛竜を全滅させ、アストラ・レギアすらも撃ち落とした、理不尽なる悪魔。
全長五百十四メートル。空飛ぶ鋼鉄の六角形《プロスペリティ》が、太陽の光を完全に遮り、皇城の巨大なバルコニーへと圧倒的な暗黒の影を落としていた。
「あ、あ……あぁ……」
ルディアスはバルコニーの手すりにしがみつき、言葉にならない呻き声を漏らした。
その時。
ガシュン、ガシュン、ガシュンッ!
《プロスペリティ》の広大な上部甲板のハッチが開き、蜂の巣のような無数の『降下ポッド発射管』が天に向けて姿を現した。発射管の周囲で、システム作動を知らせる緑色のランプが一斉に点灯する。
『――最終フェーズ、開始。これより対象首脳陣の回収を実施します』
タドコロの冷徹な声が、指向性スピーカーを通じて皇都全域に響き渡った。
次の瞬間。
シュゴォォォォォォォォォッ!!!
船上から、幾十もの鋼鉄のドロップポッドが、一度上空へと向けて一斉に射ち上げられた。大空高く放物線を描いて舞い上がったポッド群は、頂点で鋭く軌道を変え、眼下の皇城へ向かって真っ逆さまに降り注ぐ灰色の流星群へと変貌する。
大国の傲慢を完全に粉砕し、絶望的な技術格差を見せつける鋼鉄の雨が、ルディアスとレミールの待つ宮廷へと突き刺さろうとしていた。