辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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## 第45話:皇宮制圧戦(前編)
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皇都エストシランド、皇城。
空を覆う巨大な六角形の要塞《プロスペリティ》から上空へ向けて射出された数十のドロップポッド群が、放物線の頂点から真っ逆さまに降下し、隕石のように皇城の各所へと突き刺さった。
美しいステンドグラスや堅牢なドーム屋根が物理的に粉砕され、中庭の大理石にクレーターが穿たれる。土煙が晴れる中、ひしゃげたハッチを蹴り破って姿を現したのは、コホート・コーポレーションの制圧部隊であった。
灰色の機動装甲服『マリーンアーマー』に身を包み、磁力で閉じ込めた高エネルギーを実弾に纏わせて撃ち出す『チャージライフル』を構えたコホートの兵たち。彼らの頭上には、自律型の戦闘ドローンが不気味な羽音を立てて展開している。
「対象エリアに降着。これより皇宮の物理制圧を開始する」
ハンスが、バイザーの奥で無機質に告げた。
「皇帝陛下をお守りしろォォォォッ!!」
その直後、皇国が誇る最精鋭・近衛兵団数百名が、一斉に咆哮を上げて中庭や回廊から殺到した。
彼らは決して無能な兵士ではない。神話のミスリルの胸甲を纏い、常人なら一生かかっても到達できない戦闘技術を修めた、パーパルディアの武の最高峰。部隊単位で完璧に連携された多重魔法障壁を展開し、彼らは一切の恐れを見せずに未知の装甲兵へと突撃した。
「敵対行動を確認。障害の排除を開始」
ハンスたちがチャージライフルの引き金を引いた瞬間、戦場の物理法則が書き換わった。
高エネルギーを纏った超高速の実弾が、近衛兵たちが展開していた強固な多重魔法障壁を、まるで濡れた紙のように容易く貫通した。ミスリルの胸甲ごと胴体を丸く撃ち抜かれ、先陣を切っていた数十名の騎士が血を噴き出して吹き飛ぶ。
「障壁が抜かれた!? ええい、ならば遠距離から撃ち殺せ!!」
近衛たちが、一斉に前装式ライフルから鉛弾を放つ。
だが、銃弾がコホートのセキュリティ部隊に届くことはなかった。飛来した弾丸は、ハンスたちの表面に展開された『シールドベルト』の青い力場によって空中で完全に弾き落とされ、マリーンアーマーの塗装一つ傷つけることはなかった。
「化け物め……! ならば、肉薄してサーベルで装甲の隙間を狙え!」
仲間が次々とチャージ弾に撃たれ、上空のドローンからレーザー掃射を浴びる中、血塗れになった近衛団長が、決死の覚悟でハンスの懐へと飛び込んだ。
音速に迫る踏み込み。長年の鍛錬が結晶したミスリルサーベルの一撃が、シールドベルトの閾値を突き破り、マリーンアーマーの首元の関節部を正確に捉える。
「……見事な踏み込みだ」
ハンスは短く呟くと、チャージライフルの銃床で騎士団長のサーベルを容易く弾き飛ばし、そのまま強化装甲の重量とモーターの出力を乗せた拳で、彼の胸当てを粉砕した。
「ガハッ……! 陛下……ばん、ざい……」
団長が大量の血を吐いて崩れ落ちる。
恐怖を殺して踏み込んでくる近衛たちの突撃は、軍人としては称賛に値する勇敢さであった。だが、ハンスのバイザー越しに見える彼らの姿は、ただ排除すべき障害物としての赤いハイライトでしかなかった。
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中庭での一方的な殺戮が続く中、ハンスたちの前に、豪奢な軍服に身を包んだ一人の大柄な初老の男が立ちはだかった。
皇軍最高司令官、アルデである。
「貴様らが、皇国の誇りを汚した商人どもか……ッ!」
アルデは、代々の最高司令官に受け継がれてきた剣を抜き放ち、血走った目でハンスを睨みつけた。
「十三万の将兵を泥の中で餓死させ、海軍を海に沈め、あまつさえ皇宮を土足で踏み荒らすとは……万死に値する! 我が軍の無念、このアルデが皇国の軍を束ねる者として、ここで晴らしてくれるわッ!!」
全身から凄まじい怒りのオーラを吹き出し、アルデが剣を上段に構える。それは、第三文明圏の頂点たる軍部のトップとしての、意地と誇りを懸けた最後の抵抗であった。
「……感情的理由による損害賠償請求は受け付けていない」
――ドシュゥゥゥンッ。
ハンスが冷徹にチャージライフルを水平に構え、引き金を引いた。
アルデが剣を振り下ろすより早く、エネルギーを纏った実弾が彼の右胸から左の脇腹にかけてを、軍服の装飾ごと綺麗に削り取った。
「が、あ……ッ?」
己に何が起きたのか理解できないまま、アルデは剣を取り落とし、白亜の床に血の池を作って斃れた。彼がどれほどの覚悟を持っていようと、どれほど高い魔力を秘めていようと、テクノロジーの壁の前には何の意味もなかった。
武力とプライドに最後まで固執したパーパルディア軍部のトップは、企業兵の事務的な一撃によって、呆気なくその生涯を終えた。
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皇城の奥深く。
窓の外から響いていた激しい銃声と怒号が、嘘のように静まり返った。それは、最強の盾であった近衛兵団の全滅を意味していた。
第三外務局長カイオスは、静かに目を閉じ、自室の机の上に皇宮の詳細な『内部地図』と『隠し通路の配備図』、そして強固な扉を開くための『マスターキー』を並べた。
「局長! なぜこのようなマネを……!」
傍らに控える側近が、涙を流しながらカイオスを責め立てた。
「敵に皇宮の内部情報を引き渡すなど……これは完全な裏切りです! あなたは国を売るおつもりですか!」
「違う」
カイオスは、震える手で地図を握りしめ、静かに、だが強い覚悟を持って首を振った。
「私は、パーパルディアという『国』を残すために、皇帝陛下という『システム』を売るのだ。
もはやこの戦いに勝ち目はない。軍のトップであるアルデも死んだ。ここで無意味な徹底抗戦を続ければ、敵は間違いなく皇宮を皇都の民間人ごと空から灰にするだろう。……これ以上の犠牲を出し、国家そのものを完全に消滅させるくらいなら、私は反逆者の汚名を被る。
すべては、敗戦の後にこの国を立て直すためだ」
その時。
カイオスの部屋の堅牢な扉が、ヒンジごと蹴り破られて音を立てて吹き飛んだ。
硝煙と血の匂いを漂わせながら立っていたのは、灰色のマリーンアーマーに身を包んだミウラだった。チャージライフルの銃口は、真っ直ぐにカイオスの眉間へ向けられている。
「……撃たなくていい。私は抵抗しない」
カイオスは両手を上げ、机の上の地図と鍵をミウラへ向けて差し出した。
「ここから皇帝のいる玉座の間までの、最も安全な最短ルートだ。……持っていけ。その代わり、一つだけ約束してくれ。皇宮の制圧後、民間人への攻撃と、皇都のインフラへの破壊はしないでいただきたい」
ミウラは銃を下げ、差し出された地図を手に取って一瞥した。バイザーの奥の冷たい瞳が、カイオスという男の価値を査定する。
「お前は多少は合理的な思考ができるようだな。当社の無駄な制圧コストを省いてもらった『対価』として、これ以上の皇都のインフラおよび民間人には手を出さないと約束しよう」
「……恩に着る」
「では」
ミウラは背を向け、廊下で待機していた部隊に合流していく。
大国の官僚が下した血の滲むような降伏の決断により、皇宮のセキュリティは完全に無効化された。受け取ったルート通りに進行するコホートの制圧部隊は、もはや一切の抵抗を受けることなく、皇国の心臓――玉座の間へと一直線に歩を進めていった。