辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第45話:皇宮制圧戦(後編)

 

 

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## 第45話:皇宮制圧戦(後編)

 

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重厚な扉に閉ざされた、皇帝の座所『玉座の間』。

逃げ惑う貴族や官僚たちが姿を消したその広大な空間で、皇帝ルディアスと皇后レミールは、逃げることなく玉座に座り続けていた。

 

ズドォォォォォォンッ!!!!!

 

厚さ数十センチの巨大な樫の扉が、指向性爆薬によって木っ端微塵に吹き飛んだ。

硝煙と土煙が晴れる中、チャージライフルを構えた灰色の重装歩兵たちが左右に展開し、道を空ける。

その中央を、セキュリティ責任者のミウラを引き連れ、プラチナシルバーの髪に褐色肌を持つ一人のキツネ耳の女が、カツン、カツンとブーツの音を響かせて玉座の間へと足を踏み入れた。

 

「出迎えご苦労様」

 

タドコロであった。

豪華絢爛なローブを纏った大国の絶対君主と、上質な和装にスカートとブーツを合わせた異質な出で立ちでプラスチール製の扇子を手にしたコホートの最高経営責任者。フィルアデス大陸を武力で支配してきた皇帝と、数字と帳簿で星の覇権を握るCEOの視線が、静まり返った玉座の間で正面から交錯した。

 

「……お前!」

 

玉座に座るレミールが、タドコロの姿を認めた瞬間、その美しい顔を夜叉のように歪ませた。

 

「タドコロ……! 下等な商人の長め! よくも抜け抜けと私の前に顔を出せたものね!」

 

レミールは立ち上がり、血走った目でタドコロを睨み下ろした。

 

「我が国に牙を剥いたこと、今ここで後悔させてやる! 十三万の軍と海軍を卑劣な闇討ちで沈めたからといって、勝ったと思うな! 我がパーパルディアの歴史と尊厳は、貴様らのような泥にまみれた金貸しどもが触れて良いものではない!」

 

皇都の空を巨大なグラヴシップに覆われ、近衛兵が全滅したというのに、レミールの帝国主義的な傲慢さは微塵も崩れていなかった。

 

「本来ならば、お前たちのような成り上がりは、我が国にひれ伏してすべての富と技術を捧げるのが道理なのだ! 今すぐこの玉座の前に土下座し、持てるすべての兵器を皇国に献上しろ! そうすれば、貴様らを皇国の奴隷として生かしておくことくらいは考えてやっても――」

 

「まだそんなことを言っているの」

 

タドコロは、心底つまらなそうにため息をつき、レミールの言葉を冷たく遮った。

 

「状況が読めない首脳陣は、国を潰すわね」

 

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「下がれ、レミール」

 

ルディアスが重々しい声で妻を制し、自ら腰の魔法剣を抜き放って立ち上がった。

 

「よくも……よくも我が宮殿に土足で踏み入ったな、野蛮な商人風情が!」

 

ルディアスは、大国の頂点たる威厳を保とうと、腹の底から声を張り上げた。

 

「余は、第三文明圏の覇者、パーパルディアの皇帝ルディアスである!

我が国は、古より連綿と続く尊き血脈と、武の誇りによってこの大陸を統治してきた! 貴様らのような大義も名誉も持たぬ、金に群がるだけのハイエナどもに、皇国の崇高な歴史を終わらせる権利などない!!」

 

皇帝の咆哮。それは、武力と名誉を至上の価値とする帝国主義の王としての、魂からの叫びであった。国とは名誉であり、戦争とは神聖なる血の儀式である。その大義すらない者たちに、自分が敗れることなどあってはならないという悲痛なプライド。

 

だが、タドコロは微塵も表情を変えることなく、ただ氷のように冷たい目でルディアスを見据えた。

 

「大義? 名誉? ……くだらないわね」

 

タドコロは、パッと扇子を開いた。

 

「統治に大義なんて必要ないのよ、皇帝陛下。

戦争とは神聖な儀式なんかじゃない。ただの『資源とコストの再分配』……究極の業務プロセスのひとつに過ぎないわ。あなたの言う帝国は、ただ非効率で、無駄に肥大化し、身の丈に合わないリスク管理をしていただけの不良企業よ」

 

「な、なんだと……!?」

 

タドコロは、一歩、また一歩と玉座へと歩み寄りながら、冷酷に言葉を紡ぐ。

 

「あなたの誇った十三万の野戦軍も、海軍も、飛竜も、そしてあの古代の空中艦も。私の目には、ただの旧時代の遺物にしか見えなかった。維持費だけが高くつき、補給という前提すら整っていない不良債権。

だから、我が社はそれを帳簿の上から『処理』しただけ。血の儀式でも名誉の戦いでもない。これはただの、正当な経営判断よ」

 

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「黙れェェェッ!! 黙れ黙れ黙れェェェェッ!!」

 

完全に理性を失ったレミールが、狂乱した金切り声を上げて玉座から飛び出した。

 

「私を、我が国を愚弄するなぁぁぁッ!!」

 

彼女の右手には、護身用として袖に隠し持っていた短剣が握られていた。ドレスの裾を振り乱し、獣のような形相でタドコロへと突進する。

 

「タドコロ!」

 

ミウラが舌打ちをし、チャージライフルを構えようとした。

だが、タドコロは左手でそれを制止した。彼女は一切の恐怖を見せず、迫り来る狂乱の皇后へと向き直る。

レミールが、必殺の刃を振り下ろす。タドコロはそれを避けることすらなく、右手に持っていたプラスチール製の扇子を、極めて事務的な動作で横へ薙いだ。

 

――パァァンッ!!!

 

「あべッ!?」

 

乾いた破裂音。

タドコロの扇子に仕込まれていた非致死性の『スタン・モジュール』が作動し、数万ボルトの青白い電流がレミールの顔面を直撃した。大国の皇后は、白目を剥いて情けない悲鳴を上げながら大理石の床に無惨に転がり、カエルのようにピクピクと痙攣して完全に気絶した。

 

「き、貴様ぁぁぁッ!!」

 

自らの妻が、虫けらのように床へ這いつくばらされた光景。そして何より、大国の皇帝たる自分が、ただの「資産」として値踏みされたという究極の屈辱。ルディアスの中で、ついに理性の糸が完全に焼き切れた。

 

「余を……パーパルディアを舐めるなァァァッ!!」

 

ルディアスは、歴代皇帝に伝わる国宝の魔法剣を両手で握り締め、全身から怒りのオーラを立ち昇らせた。玉座を蹴り、タドコロの首を刎ね落とすべく、皇帝自らが決死の突撃を敢行する。

その一撃は、歴戦の近衛兵に匹敵する鋭さと重さを持っていた。

 

だが。

「社長の前に立つなよ、バカ皇帝」

 

ガキィィィィィンッ!!!!

 

タドコロの前に立ち塞がったミウラが、面倒くさそうに左腕を掲げた。

ルディアスの渾身の一撃は、マリーンアーマーの表面を覆う『シールドベルト』の青い力場に激突し、乾いた音を立てて容易く弾き返された。絶対の切れ味を誇るはずの刀身には無残なヒビが走り、皇帝の腕が強烈な反発力で弾き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿な……! 余の全力の一撃が……っ!?」

「終わりだ」

 

ミウラは、反動で体勢を崩したルディアスの胸ぐらをマリーンアーマーの分厚い装甲手袋で掴み上げると、モーターの駆動音と共に、そのまま大理石の床へと乱暴に叩きつけた。

 

「ゴハァッ……!!」

 

肺から空気を吐き出し、皇帝は無様に床を転がる。彼の手に握られていた魔法剣は、二つに折れ曲がり、乾いた音を立てて転がった。

 

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「…………あ……」

 

床に這いつくばり、己の折れた剣と、ミウラが見下ろす圧倒的な暴力の差を突きつけられたルディアス。

自らが信じていた大国の名誉と個人の武威というイデオロギーが、徹底的な合理主義とテクノロジーの前に完全に論破され、無機質な数字として否定された事実。

ここで初めて、皇帝ルディアスは、自分がもはや大国の絶対者などではなく、ただの破産した経営者に過ぎないことを完全に思い知らされた。

 

「……余の、負けだ」

 

大国の皇帝は、抵抗する気力を完全に喪失した。

だが、コホートの社員たちは誰一人として歓声を上げることはない。ミウラが無言で歩み寄り、ルディアスの両腕に無機質なプラスチックの拘束具(ジップタイ)を取り付け、気絶したレミールを乱暴に担ぎ上げる。

彼らにとって、これは英雄的な勝利ではない。ただの「経営権回収という業務」が、滞りなく終了しただけなのだから。

 

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###

 

皇都エストシランドの上空。

陽光を遮る《プロスペリティ》の艦内に、拘束されたルディアスとレミールが収容されていく。

 

皇宮の内部では、カイオスの指示により、戦闘停止と降伏を知らせる鐘の音が静かに鳴り響いていた。

市民たちは、恐怖に怯えながら空を見上げた。

だが、太陽を隠す巨大なグラヴシップは、皇都に爆弾を降らせることもなく、兵士が略奪を働くこともなく、ただ静かに上空へと浮かんでいるだけだった。

コホートにとって、制圧が完了した都市のインフラを破壊することは、無駄なコストでしかなかったからだ。

 

「社長。対象二名の身柄、確保完了しました」

 

管制室で、スカルバーグが黒い髪の間から覗く黒いオオカミ耳を揺らしながら淡々と報告する。

 

「ご苦労様」

 

タドコロは、ホログラムの戦術地図を消去し、静かに告げた。

 

「これより、本作戦の戦争終結プロセスを開始。――戦後処理と、降伏調印式の準備に入りなさい」

 

「了解。……ふあぁ、これでようやく戦争が終わったな」

 

ミウラが、重装甲の肩を回しながら大きく欠伸を噛み殺した。

 

大国パーパルディアの傲慢に端を発した、一方的かつ戦慄のシステム解体戦争。

それは、コホートという冷徹な計算機によって、皇国の名誉と誇りを根底から否定される形で、その幕を閉じた。残るは、文字通りの敗戦処理。帝国と企業が、一つのテーブルで世界の形を書き換える、次なる「講和会議」のフェーズへと歴史は動き出そうとしていた。

 

 

 

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