辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第46話:共生という名の支配

 

 

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## 第46話:共生という名の支配

 

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パーパルディア皇国、皇都エストシランド。

制圧の数日後。かつて大国としての傲慢な祝宴が催されていた皇宮の玉座の間は、今やコホート・コーポレーションによる冷徹な『契約の場』へと変貌していた。

 

玉座に座る皇帝ルディアスは、目の前に差し出された電子端末を、震える手でじっと見つめていた。その傍らには、プラスチックの拘束具こそ外されているものの、無力感と屈辱で青ざめ、虚ろな目をした皇后レミールの姿がある。

 

広間を埋め尽くすのは、煌びやかな貴族たちではない。灰色のマリーンアーマーを纏い、一言の私語も発さずに銃を構えるコホートのセキュリティ部隊のみであった。

 

二人の前には、仕立ての良い和装にタイトスカートとブーツを合わせ、襟元に社章を輝かせたCEO、タドコロが立っていた。褐色の肌に映えるプラチナシルバーの髪。藍色の瞳は、感情を完全に排してホログラムの条文を見つめている。彼女の背後では、一本の優美な狐の尻尾がゆらりと揺れ、頭部の狐耳がわずかにピクリと動いた。

 

タドコロは手にしていた扇子をパチンと広げる。そこに仕込まれたホログラム投影機が、空中に冷徹な条約文を浮かび上がらせた。

 

**【コホート・パーパルディア相互防衛・経済協力条約】**

**第1条(国家主権の制限と対敵放棄)**

パーパルディア皇国はその存続を認められる。ルディアス皇帝の地位はこれを保証する。

ただし、皇国はコホート・コーポレーションに対し、敵対的な軍事行動、経済的制裁、および外交的干渉を永久に放棄するものとする。これに違反した場合、グラヴシップによる皇都即時解体措置を無警告で発動する。

 

**第2条(軍事システムの標準化と制限)**

皇国軍の再編はコホートの承認制とする。

遠征軍および大規模海軍艦隊の再保有はこれを禁止する。飛竜部隊は「対盗賊・治安維持目的」の必要最小限の数に制限し、全ての竜騎士はコホート製識別信号(IFF)を常時発信しなければならない。

 

**第3条(経済特区の設置)**

首都エストシランドおよび属州都ミューズ近郊に、コホート・コーポレーション直轄の「特別経済区」を設置する。

当該区域内において皇国の法は適用されず、コホートの社内規定が最優先される。区域内における治外法権、課税免除、およびコホートによる独自インフラの整備権を無期限に付与する。

 

**第4条(資源開発と技術供与の排他契約)**

皇国領内から採掘される鉄、石炭、石油、木材、魔石、プラスチールの生産量は、優先的にコホートが買い取る。

皇国側は医療、工業機械、肥料、農業技術などの「コホート規格品」以外の輸入を制限し、国家インフラの更新を全て当社の製品に委託するものとする。

 

**第5条(債務保証と賠償責任)**

今回の軍事行動によるコホート側の運営コスト(弾薬費、ドローン損失分、および営業損害金)は、皇国の国家予算から今後五十年にわたり分割返済するものとする。

 

ルディアスは、震える手で専用の電子スタイラスペンを走らせた。その姿は、かつての大陸の支配者ではなく、負債を抱えた一人の破産経営者が、清算書にサインをしている光景そのものであった。

 

ペンが電子パネルを叩く硬質な音が、静まり返った玉座の間に響く。

 

「……これで、満足か」

 

ペンを置いたルディアスの顔は、たった数日で十歳以上も老け込んで見えた。

 

「ええ。迅速な契約締結に感謝するわ」

 

タドコロは、署名された電子端末を傍らに控える財務チーフのスカルバーグに渡し、ルディアスたちを一瞥もせずに背を向けた。彼女の腰には、護身用のチャージピストルが事務的に佩用されている。

 

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調印が終わり、重苦しい空気が漂う中、ルディアスは力なく玉座から立ち上がった。

 

「……我らは貴様らの牙城を崩そうと画策し、大軍を差し向けた。なぜ、余の首を刎ねない」

 

タドコロは足を止め、振り返ることなく冷ややかに答えた。

 

「理由は簡単よ。あなたが『皇帝』というブランドを持ち、現状維持を望むなら、それを統治の手段として利用する方が、我が社が一から総督府を置くよりもコスト効率が良いから」

 

タドコロは扇子で、皇宮の広間を指し示した。

 

「あなたたちの名誉や誇りは、我が社の帳簿には1シルバーのプラスにもならないわ。でも、あなたという『存在』がこの国の治安維持機構として機能し、皇国民を働かせてくれるなら、それは私にとって価値のある資産(アセット)になる。有用な資産をスクラップにする理由なんて、どこにもないわ」

 

皇帝として生きてきたルディアスにとって、自分を「効率的な維持装置」と言い放つタドコロの言葉は、胸を剣で貫かれるよりも深い屈辱だった。だが、同時に彼も気づいていた。今の自分に、その無機質な言葉を論理で否定する力など欠片も残っていないことを。

 

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レミールは、震える唇を必死に噛み締めていた。

彼女は玉座の横で、自身のプライドがタドコロによって粉々に砕かれ、塵となっていくのを感じていた。

 

(……この女は、何なのだ……)

 

レミールは、自分の美貌も、皇后としての権威も、タドコロの前では何の意味も持たない記号であることを理解してしまった。タドコロの視線にあるのは、自らを害しようとした者への憎悪ですらない。ただの、数字の合わない不良品を見るような、事務的な無関心だ。

 

「……化け物……」

 

レミールは吐き捨てるように呟いたが、その声は玉座の間の静寂に吸い込まれた。彼女は、これから自分がコホートという巨大な企業システムの一部として、この国を繋ぎ止めるための「人形」に成り下がる運命であることを直感する。その恐怖と絶望が、彼女の誇りを根底から崩壊させていた。

 

「……パーパルディアは、これからも存続する。そう言ったな」

 

ルディアスが、絞り出すようにタドコロの背中へ問う。

 

「ええ。ただし、経済、軍事、外交のインフラは、すべて我が社の『規格』で運用するわ。……あなたたちは、我が社のパートナーとして、効率的に働いてもらうことになる」

 

タドコロは一礼することもなく、マリーンアーマーの部隊を引き連れて広間を去っていった。彼女が去った後には、ただ冷徹な『契約』の重みだけが残された。

 

ルディアスは力なく玉座に座り直し、窓の外に広がる皇都エストシランドを見下ろした。

街路にはコホートの灰色の警備ドローンが巡回し、遥か上空には、太陽を隠す巨大な六角形の影《プロスペリティ》が静かに鎮座している。大火も略奪も起きていない。だが、そこにあるのは血の通った帝国の営みではなく、無機質な巨大システムに管理された息苦しいほどの静寂だった。

自分がこれから先、皇帝という名の「企業の管理者」として、この冷徹な檻の中で生き続けなければならないという絶望が、冷たい鎖となって彼の心を永遠に縛り付けていた。

 

そしてレミールもまた、タドコロへの復讐心を胸の奥底に秘めながら、内心では抗いがたい「コホート製インフラの豊かさと絶対的な安定」という甘美な麻薬に、少しずつ侵食され始めていた。

 

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### 4

 

皇都エストシランドの上空。

巨大な《プロスペリティ》の中央管制室では、冷徹な支配の開始を告げる音が響いていた。

 

「指導部二名との講和条約締結をシステムに承認。データベースを更新しました」

 

スカルバーグの淡々とした報告が管制室に響く。

 

「あーあ。ようやく任務終わりだな。早く美味いものでも食べたいぜ」

 

セキュリティ責任者のミウラが背伸びをし、操舵席のマディーンが長い触覚を器用に動かして兵器管制システムをスタンバイ状態へと移行させる。

 

タドコロは、窓の外に広がる皇都を見下ろした。

そこには、かつての戦乱の面影はなく、コホートという巨大システムに飲み込まれ、その血流の中に組み込まれていくパーパルディア皇国の静かな姿があった。

 

「この世界への漂着は事故だったけれど……これも一つのチャンスね」

 

タドコロは、藍色の瞳を鋭く輝かせる。

この世界に存在する魔法という未知の技術が、実は遥か遠い先人たちの「高度な科学」の残滓であると直感していた。タドコロにとって、パーパルディアという国は、もはや敵ではなく、自分たちの生存と拡大を支えるための貴重な資源採掘拠点となったのだ。

 

「パーパルディアの技術と資源、そして魔石という未知のエネルギー……すべてを我が社の成長のために活用するわ」

 

タドコロは扇子をパチンと閉じ、無機質に命じた。

 

「これより、本作戦の『戦争終結プロセス』を完了し、第二段階――市場統合とインフラ刷新へ移行する。……世界はまだ広いわ」

 

巨大な鋼鉄の六角形が、推進の重低音を響かせて静かに高度を下げる。

空を支配した企業は、パーパルディア皇国という属領を確固たる足がかりとし、次なる地平を見据えていた。それは、一国を焼け野原にするよりも遥かに恐ろしく、そして抗いようのない「規格化された日常の支配」の始まりであった。

 

**(第1章:パーパルディア編・完)**




第2章のプロットを練りたいので投稿はしばらく休止します。
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