辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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幕間4:資産の血流、あるいは三重通貨の謎

幕間:資産の血流、あるいは三重通貨の謎

 

1.財務チーフの受難

 

《プロスペリティ》第一会議室。

スカルバーグは、今日も感情のない声で経済報告を続けていた。

 

「――以上、パーパルディア経済圏における当社の決済シェアは、当月38.7%まで拡大。魔石採掘権の取得により、ハイブリッド生産ラインの原材料調達コストは前四半期比で62%削減。プラスチール相当合成素材の量産体制が確立されました」

 

「……つまり?」

 

ミウラが、腕を組んだまま首を傾げた。

 

「つまり、儲かっているということです」

 

「最初からそう言え」

 

「最初からそう言っています。資料の一ページ目に大きく『増収』と書いてあります」

 

スカルバーグが黒いオオカミ耳をピクリと動かし、心底どうでもよさそうにデータパッドを掲げた。ミウラはそれを一瞥もせず、キャンディを噛み砕いた。

 

キムラが長いウサギ耳を揺らしながら、疲れた声で割り込む。

 

「原材料が安くなったのはいいですが、そのぶん生産目標も引き上げられたんですよね……? ボクの睡眠時間との関数、どうなってます?」

 

「反比例です」

 

「知ってました」

 

2.三種類のお金、一人の八百屋

 

一方、皇都の市場。

 

八百屋の店主、老いた獣人の男が、カウンターの前で頭を抱えていた。目の前には、コホート製の折り畳み端末を持った若い顧問官が、実に丁寧な笑顔で立っている。

 

「えーっと……お客さんは皇国のパソ貨で払いたい、と」

 

「当たり前だろう、ここは皇国だぞ!」

 

「ですが当店(当社直営の配給センター)は、決済手数料の関係でコホート通貨建てが基本になっておりまして。パソ建てのお支払いですと、為替スプレッドが……」

 

「わからん! わしはただ、キャベツを一玉買いたいだけだ!」

 

「かしこまりました。では本日のパソ/コホート通貨の交換レートでご案内しますと――」

 

顧問官がすらすらと語りだした数字の羅列に、店主の目はどんどん虚ろになっていく。

 

「……なあ、あんた。ついでに聞くが、シルバーってのも聞いたぞ。それも払えるのか?」

 

「シルバーは当社社員向けの内部通貨ですので、市民の皆様は基本的に触れる機会がございません。ご安心ください」

 

「安心できるか! 一体いくつ通貨があるんだ、この国は!」

 

「三つです」

 

顧問官は、実に晴れやかな笑顔でそう言い切った。店主はキャベツを一玉抱えたまま、その場に崩れ落ちた。

 

3.没落した職人、あるいは新しい肩書き

 

市場の隅、かつて皇都随一と謳われた織物職人ギルドの長――老人ゾルグは、閉じたままの店の前で腕を組んでいた。

自動織機の導入以来、彼の手織りの布は誰も買わなくなっていた。

 

「わしの技術は、機械なんぞに負けはせん……はずだったのだがな……」

 

そこへ、黒いスーツの一団がやってきた。先頭には、書類の束を抱えたキムラの姿がある。

 

「――ゾルグさん、ですね。自動織機の生産ラインで、繊維の目の詰まり方に『違和感がある』とクレームを入れてきたのは、あなたですよね」

 

「……ああ。機械の織った布は、経糸の張りが甘い。素人目には分からんだろうがな」

 

キムラは、疲れた顔にわずかな驚きを浮かべた。

 

「ウチの品質検査AIも見逃していた誤差を、肉眼で見抜いたんですか……。折り入って、お願いがあります」

 

「なんだ」

 

「弊社の生産ライン、**品質顧問**として雇用させていただけませんか。給与は、旧ギルド長時代の推定年収の約3倍を想定しています」

 

ゾルグは、しばし固まっていた。

 

「……機械に仕事を奪われた職人が、機械の顧問になるのか」

 

「はい。使える人材は、使います」

 

「……嫌いだよ、お前らのそのやり方は」

 

「よく言われます。それで、お受けいただけますか?」

 

「……契約書を見せろ」

 

老人は、渋々といった顔で手を差し出した。だが、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。

 

4.結局、儲かっている

 

その夜、《プロスペリティ》の会議室。

 

「――というわけで、原材料費の削減と新規雇用の両方が同時進行中よ」

 

タドコロが、扇子をパタパタと扇ぎながら締めくくった。

 

「元職人ギルド長の雇用、地味に大きいわね。品質管理コストが浮いたわ」

 

「戦争より、戦後の方が儲かってる気がするのはボクだけですか」

 

キムラがぼやいた。

 

スカルバーグが、無表情のままデータパッドを閉じる。

 

「戦争は破壊にコストがかかります。統治は、正しく設計すれば収益になります。……当社の株主が、もし存在していれば、さぞ喜んだことでしょう」

 

「株主、うちにいたっけ?」

 

タドコロの問いに、誰も答えなかった。

 

窓の外では、皇都の灯りが、以前よりも明るく夜を照らしていた。

その光の一つ一つの裏側で、パソが、コホート通貨が、そしてわずかなシルバーが、静かに、絶え間なく、この国の血液のように流れ続けていた。

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