辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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## 第2章 第20話:黒き軍勢を止めろ
### 1.夜明けの絶望
リーム王国北部、急造の防衛線。
凍てつくような夜風がようやく収まり、東の空が白み始めた頃。塹壕に身を潜めていたリーム軍の兵士たちは、血と硝煙と、そして魔物の体液が放つ独特の悪臭の中で、重い瞼をこじ開けた。
「……夜が、明けるぞ」
古参の兵士が、こびりついた泥を拭いながら身構えた。
前日の激戦。彼らは人類の意地を見せ、五千体以上もの魔王軍を地獄へ送り返した。通常の戦争であれば、これほど大きな損害を受けた軍隊は崩壊し、最低でも数十キロは後退して陣形を立て直すはずである。勝利の余韻とまではいかないが、兵士たちの胸には「自分たちはあの化け物どもを押し返したのだ」という微かな自負があった。
しかし。
朝靄が晴れ、地平線の輪郭が露わになった瞬間、防衛線に立っていた数万のリーム兵は、一斉に息を呑み、言葉を失った。
「……なんだ、あれは」
若い兵士の手から、前装式ライフル銃が滑り落ちた。
地平線を埋め尽くす、蠢く黒い軍勢。それは、昨日彼らが死に物狂いで押し返した位置から一歩も後退していないばかりか、その『陣形の密度』と『横幅』を、絶望的なまでに膨張させていた。
「昨日、俺たちはあれだけ殺したんじゃなかったのか……?」
「……殺した。間違いなく、前線に死体の山を築いたはずだ」
「なら、どうして昨日より増えているんだ……ッ!?」
誰も答えられない。圧倒的な不条理が、兵士たちの士気を根底からへし折ろうとしていた。
前線本営から単眼鏡でその光景を睨みつけていた大将軍リバルもまた、戦慄に顔を強張らせていた。
(我々は、普通の軍隊と戦っているのではない……!)
恐怖が胃の腑を駆け上がる。相手には、戦死を恐れる感情も、兵站の限界も、戦略的な撤退という概念もない。ただ純粋に、前方の生命をすり潰すためだけに存在する『現象』だ。
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### 2.大国の意地
「怯むなァッ!!」
リバルの怒号が、魔導通信機を通じて全戦線に響き渡った。
「我々は、リーム王国軍だ! 相手が何万いようと、一歩も通すな! 全砲兵、撃てェッ!!」
ズドドドドォォォォンッ!!
大将軍の号令と共に、数百門の魔導砲が一斉に火を噴いた。
大気を震わせる轟音と共に、炸裂弾が魔王軍の前衛に降り注ぐ。密集していたゴブリンやオークの群れが、悲鳴を上げる間もなく百体単位で木端微塵に吹き飛んだ。
「竜騎士団、出撃! 歩兵部隊、前進して弾幕を張れ!」
さらに、後方から飛び立ったパーパルディア皇国の飛竜騎士団が、上空から火炎弾を浴びせて敵の突撃を鈍らせる。その隙を突き、数万のリーム戦列歩兵が統制の取れた一斉射撃を放ち、両翼からは重装騎兵隊が地鳴りを立てて魔王軍の側面を削り取る。
リーム軍がその総力を挙げた組織戦闘力は、決して侮れるものではなかった。
一見すると、魔王軍の前衛は一方的に蹂躙され、人類側が圧倒しているように見えた。
「将軍! 敵前衛、崩れています! このまま押し込めます!」
参謀ケインが、血路が開けた戦況図を見て叫んだ。しかし、リバルは全く喜んでいなかった。彼はただ、血走った目で地平線の奥を指差した。
「……後ろを見ろ」
ケインが単眼鏡を覗き込む。
前衛が数千体吹き飛ぼうが、その後方には、まだ数万、いや十数万の魔王軍が、全く歩みを止めることなく前進を続けていた。巨大な海に小石を投げ込んだ程度の波紋しか、彼らの猛攻には起きていなかったのだ。
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### 3.進化する絶望
さらに、前線から悲鳴のような報告が相次いだ。
『第三大隊、後退! 敵の新種です! 砲撃が効きません!』
魔王軍の黒い波の中から、昨日まで存在しなかった異形の個体が次々と姿を現した。
魔導砲の爆風と破片を弾き返す、分厚い甲殻に覆われた巨大種。塹壕や防壁を物理的に叩き潰すためだけに特化した、巨大な破城槌のような前肢を持つ四足の攻城獣。そして、強固な対魔法結界をまといながら、後方から広範囲の黒炎を放つ大型魔族。空には、飛竜の機動力を上回る高速飛行型の魔獣が飛び交い始めている。
「昨日まで……あんな奴らは、一匹もいなかったぞ……!」
ケインが、蒼白な顔で呟いた。
エストシラント沖の《プロスペリティ》。
戦況を監視していたキムラは、その新型魔獣たちの生体波形を分析し、確信を持った。
「間違いありません。敵は昨日の戦闘データを即座に『プラント』へフィードバックし、我が方の兵器(魔導砲や竜騎士)に対応するための『新しい個体』を生産して前線に投入しています」
「……つまり、あいつらは戦えば戦うほど、こちらに適応していくというわけね」
タドコロは、忌々しそうにプラスチール製の扇子で机を叩いた。
無限の生産力。そして、即座の適応能力。
生物兵器としての魔王軍の真の恐ろしさが、いよいよ人類の前にその全貌を現し始めていた。
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### 4.重すぎる火力
「ふざけやがって。装甲が硬くなったなら、中身ごと蒸発させてやる」
前線指揮所の防衛主任ミウラが、通信機に向かって吠えた。
「コホートの全火力を解放しろ! あのデカブツどもを肉塊にしろ!」
リーム軍が苦戦する防衛線の上空から、コホートの圧倒的な暴力が介入した。
高高度ドローンから、レーザー誘導型の地中貫通爆弾(バンカーバスター)が投下され、甲殻種の強固な生体装甲ごと、内部からその巨体を爆散させる。さらに、無人攻撃機が低空へ降下し、対城壁用の四足攻城獣の関節をミサイルで正確に粉砕する。
地上では、シャトルから降下したマリーンアーマー部隊が、大型魔族の放つ魔法をシールドで弾き返しながら、大口径のチャージライフルで魔族の上半身を消し飛ばしていく。
「何だ、あの兵器は……」
「魔法じゃない……鉄の塊が、空から魔物を薙ぎ払っている……!」
圧倒的な火力で新型魔獣を次々と肉塊に変えていくコホートの戦いぶりに、リームの兵士たちは驚愕と畏怖の声を上げた。
戦術的には、コホートの火力が魔王軍の新型を完全に圧倒していた。
しかし、第一会議室のタドコロは、全く表情を緩めていなかった。
「……あんな魔獣一匹倒すのに、どれだけのコストを使っているの?」
タドコロの問いに、財務チーフのスカルバーグが即座に数値を弾き出す。
「誘導爆弾の消費、ミサイル、チャージ弾薬費用、および回避不可能な散布界で被弾したドローン数機の損失。……先ほどの数分間の交戦だけで、マール王国の国家予算の〇・七パーセントに匹敵する『純支出』です」
「赤字ね」
タドコロは眉をひそめた。
勝ってはいる。だが、無限に湧き出す安価な魔物に対して、高価なハイテク兵器を使い続ければ、いずれコホート側の兵站と予算が先に完全にショートする。
これこそが、企業として戦争を行うコホートにとっての、最もリアルで致命的な敗北への道筋だった。
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### 5.小さな船の大きな仕事(マール王国の意地)
一方、防衛線の東側、大河川が流れ込む沿岸部では、マール王国の海軍が初めて本格的な共同戦闘を展開していた。
「機関最大! 敵の側面に回り込め!」
マール海軍の若き士官が、小型砲艦の甲板で声を枯らしていた。
彼らの誇る主力装甲艦は、コホートに燃料を断たれたままで動けない。今彼らが乗っているのは、かつては密輸船の取り締まりや連絡用に使われていた、取るに足らない小型砲艦や高速哨戒艇ばかりだった。
「こんな小型艦の豆鉄砲で、あの化け物どもの相手ができるのか……?」
砲手が震える手で砲弾を装填しながら溢す。
「泣き言を言うな! コホートの兵器の真似はできんが、我々には我々の戦い方がある!」
ズバンッ! ズバンッ!!
小型砲艦の魔導砲が、河川の浅瀬を渡ってリーム軍の側面を突こうとしていたゴブリンの別働隊に直撃する。装甲艦の主砲ほどの威力はないが、小型艦ならではの浅喫水と圧倒的な機動力を活かし、彼らは河川を縦横無尽に走り回りながら、魔王軍の側面に的確な嫌がらせ(ハラスメント射撃)を継続した。
さらに、マール王国の真価はその後方にあった。
「第四輸送船団、接岸します! リーム軍向けの弾薬と食料、それに魔導砲用の魔晶石を下ろせ!」
何十隻もの小型輸送船が、絶え間なく物資をピストン輸送し、疲弊するリーム軍の陣地へと直接運び込んでいる。陸路が魔物によって制限される中、河川という大動脈を使ったマール海軍の兵站輸送能力は、十万の軍勢を支える生命線として完璧に機能していた。
「コホートのドローンには荷運びはできまい! 我々がこの戦線を支えているのだ!」
マールの水兵たちが、泥まみれのリーム兵に弾薬箱を手渡しながら誇らしげに笑う。
停戦し、無理やり首輪をつけられたマール王国だったが、彼らは『巨大な海軍国家だからこそ持っている後方能力』を遺憾なく発揮し、この共同戦線に不可欠なピースとして確かな存在感を放っていた。
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### 6.空の連携
地上での激戦が続く中、上空でも死闘が繰り広げられていた。
パーパルディア皇国の竜騎士団が、魔王軍の放った高速飛行型魔獣の群れと正面から激突していた。
「リーム軍の砲撃を邪魔するな! 敵の飛行種だけをこちらへ引きつけろ!」
ガイウスが、地上から通信魔導具を通じて全竜騎士へ指示を飛ばす。
だが、戦況はパーパルディアにとって厳しいものだった。
先の戦争で、皇国の誇る主力であったワイバーンロードと熟練の竜騎士の多くはすでに戦死している。今この空を飛んでいるのは、引退を急遽取り消された老飛竜や、訓練途上の若い飛竜、そして実戦経験の浅い若い騎士たちばかりだった。
「くそっ、速すぎる……ッ!」
若い竜騎士が、背後を取った蝙蝠型の飛行魔獣に食いつかれそうになり、悲鳴を上げる。老いた飛竜が必死に身をよじるが、敵の魔獣は魔力による異常な加速でその距離を詰めてくる。
『――右上方、敵三体。射線に入った。そのまま高度を維持しろ』
突如、竜騎士の耳に装着されたコホート製のインカムから、無機質な合成音声が響いた。
「え……?」
次の瞬間、竜騎士の頭上をかすめるように、コホートの小型迎撃ドローンが音速で駆け抜けた。
ZAP! ZAP!
ドローンから放たれたレーザーの光条が、背後に迫っていた飛行魔獣三体の頭部を正確に撃ち抜く。
『目標沈黙。左旋回し、次群の迎撃へ回れ。背後は我々がカバーする』
「りょ、了解……ッ!」
若き竜騎士は、安堵の息を吐きながら飛竜の手綱を引き絞った。
空を舞うファンタジーな飛竜と、それを後方から冷徹に支援するSFの無人機。成立したばかりの四カ国とコホートの共同戦線が、決して机上の空論ではなく、初めて実戦の空で完璧に噛み合った瞬間だった。
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### 7.ベルンゲンからのSOS
前線が辛うじて膠着状態を保つ中、《プロスペリティ》の通信管制室に、予期せぬノイズまみれの電波が飛び込んできた。
『……こ、こちら、トーパ王国王都ベルンゲン……! 誰か、応答してくれ……!』
それは、魔王軍に完全包囲されているはずのトーパ王国からの、決死の救援要請だった。
「ベルンゲンはまだ陥落していなかったのね」
タドコロが、通信の座標を確認する。
『王都は依然として魔王軍に包囲されている……だが、様子がおかしいのだ』
トーパの守備隊長の、切羽詰まった声が続く。
『魔王軍の主力が南(リーム方面)へ向かった後、我々を包囲している部隊の数が、大幅に減少した! 今、王都を取り囲んでいるのは、最低限の監視部隊だけだ!』
「……なるほどね」
キムラが、即座に状況を理解してホログラムの地図を更新する。
「魔王軍は、主力をリームへ向かわせるために、ベルンゲンの包囲には必要最低限の『蓋』をする戦力しか残していません。都市を落とすことより、南進を優先した結果です」
タドコロの目が、獲物を見つけた捕食者のように細められた。
「……つまり、包囲が手薄になった今なら、取り返せるわね」
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### 8.奪還の天秤と役割分担
タドコロは直ちに、前線で指揮を執るリバル将軍とガイウスへ通信を繋いだ。
『ベルンゲンを救援するわ』
「何を馬鹿なことを!」
リバルが、通信機越しに激しく反発した。
「今、この北部戦線を維持するだけでも全軍が精一杯なのだぞ! ここから大軍を割いて王都奪還など、防衛線に穴を開ける自殺行為だ!」
「大軍を動かす必要はないわ」
タドコロは、地図上に各軍の配置を投影する。
「魔王軍は、ベルンゲンを落とすことより先へ進むことを優先している。その隙を突いて王都を取り戻せば、トーパ王国の残存軍という『新たな戦力』を、この共同戦線に加えることができる。……この戦い、頭数は一つでも多い方がいいわ」
ガイウスが沈黙の末、重々しく口を開く。
「……私が残ろう。皇国軍の地上部隊と竜騎士の半数をここリーム北部の防衛線に残し、リバルの軍勢と共に魔王軍の主力を釘付けにする」
「ならば、ベルンゲン救援部隊の主力は、我がリーム軍の『精鋭機動部隊』を出そう。指揮は、我が軍屈指の騎兵将校である猛将ノリスに任せる」
リバルも、戦略的な価値を理解して素早く頭を切り替えた。作戦立案を担う参謀ケインを本営に残し、現場の突破力に長けた指揮官を抜擢する。
「砲や鈍重な歩兵は動かさん。ノリスが率いる数千の精鋭騎兵と軽装歩兵、それに斥候だけで編成する。機動力を活かし、包囲網を一気に食い破る」
「マール王国には、ベルンゲン近郊まで伸びる水運路を利用させるわ。救援部隊の弾薬や食糧を直接河川で運び込み、陸上部隊の身軽さを維持させる」
タドコロが次々と役割を割り振る。
「そして我々コホートは、偵察、情報提供、およびマリーンアーマー(PA)部隊を投入する。ただし――当社の無人攻撃機は、ベルンゲンの市街地への広範囲爆撃は行わない。民間人を巻き込めば救援の意味がないわ。市街戦になれば、足を使った直接戦闘で制圧する」
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### 9.空白の回廊
「だが、どうやって行くつもりだ?」
リバルが最も現実的な疑問を呈した。
「我々の目の前には、魔王軍の主力が分厚く展開している。ノリスの数千の機動部隊だけで正面突破を試みれば、確実に飲み込まれるぞ」
「だから、まともに戦わなければいいのよ。……キムラ」
タドコロの合図で、キムラが広域マップに新たな解析結果を表示した。
「ベルンゲンへの『迂回路』です。魔王軍主力がリームへ向かって南下した結果、その東側の側面に、幅約二十キロメートルの『空白地帯』が生じています。例えるなら魔王軍の軍列は、一枚の壁ではなく、南へ流れる川のようなものです。その川の脇をすり抜けます」
「そこは安全なのか?」
「いいえ」
キムラは首を振る。
「主力は通過しましたが、取り残された魔物、野生魔獣、偵察用の個体群が多数徘徊しています。通常の行軍では間違いなく足止めを食らいます」
「でしょうね。でも、主力がいないなら使えるわ」
タドコロは、その空白地帯を扇子でなぞった。
「出撃は今すぐではないわ。準備と並行して、今日の『夜』にコホートが先行し、ゴミ掃除をする。私たちが『道』を作り、他国の軍隊にはその後ろを走らせるのよ」
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### 10.見えざる道作り
ベルンゲン救援作戦の決定から、各陣営は即座に動いた。
リーム軍は、ノリス将軍の指揮下で機動力に特化した精鋭騎兵と軽装歩兵の選抜を急いだ。パーパルディア皇国は、飛竜の休息と編成を整え、第一波として投入する竜騎士団を抽出。マール王国は、ベルンゲン方面への水運路へ小型輸送船団を急派する。
そして、夜。
パーパルディアやリームの軍隊が息を潜めて出撃の時を待つ中、コホートの『先遣隊』が暗闇の空を切り裂いた。
熱源探知モードを起動した高高度偵察ドローン群が、東側側面の空白地帯を走査する。闇夜に紛れて徘徊する残存魔獣の赤外線シグネチャが次々と特定されていく。
続く攻撃ドローンと、降下艇から投下されたマリーンアーマー小隊が、闇の中で静粛かつ暴力的な掃討(サイレント・キリング)を開始した。
レーザーの不可視の光条が魔物の頭部を貫き、消音器付きのチャージ火器が鈍く唸りを上げる。
危険な大型個体や群れを成す魔物たちが、コホートの機械的で冷徹な作戦行動によって次々と物理的に排除されていった。
ファンタジー世界の軍隊が高速で通過するための安全な回廊を、高度な科学技術が先行して夜の間に切り拓く。異質な技術と戦術が完璧に交差する、前代未聞の進軍準備であった。
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### 11.決断と機動予備
翌朝。
コホートが一夜にして構築した不可視の『道』を通り、ノリス率いるリームの精鋭騎兵と皇国の竜騎士団が、魔王軍主力の側面を高速で駆け抜けていた。
魔物に足止めを食らうことなく、計算し尽くされたルートを疾駆する彼らの視線の先には、魔王軍の包囲網に取り残されたトーパ王都ベルンゲンの城壁が、朝靄の中で霞んで見え始めている。
一方、その頃。
リーム北部防衛線に残ったリバルとガイウスは、地平線から押し寄せる尋常ではない殺気に顔を強張らせていた。
『――警告。敵主力、攻撃速度上昇!』
コホートのセンサーが、魔王軍の異変を告げる。
ベルンゲンへ救援部隊が抜け、防衛線の兵力が手薄になったことを、魔王軍の巨大なネットワーク(ノスグーラ)は正確に察知していたのだ。
「……来るぞ。ベルンゲンへ行った部隊を、わざわざ後ろから追わせるつもりはないらしい」
ガイウスが長剣を抜き放つ。
「タドコロ! 防衛線の圧力が跳ね上がったぞ! 抜かれる前に、予備兵力をよこせ!」
前線司令所のミウラが怒鳴る。
『分かっているわ』
プロスペリティのタドコロは、両方の戦場を見下ろしながら指示を飛ばした。
『コホートの航空部隊と装甲部隊の半数を、「機動予備」として両戦線の中間空域に遊弋させている。……状況に応じて、効果的なタイミングで戦力を投射するわ』
王都奪還の市街戦と、防衛線の死闘。
人類の存亡を賭けた、過酷な二正面作戦が今まさに幕を開けようとしていた。