辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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## 第2章 第23話:魔王を殺す者
### 1.巨獣の最期
パーパルディア・リーム連合軍による北部防衛線。
ゼロ距離で射出された劣化ウラン合金の装甲杭(パイル)が、魔王軍の尖兵であるレッドオーガの大剣と激突し、凄まじい火花を散らす。
金属が砕ける甲高い衝撃音が、戦場に響き渡った。コホートの防衛主任ミウラが纏うマリーンアーマー。その腕部から放たれた圧倒的な硬度と質量を誇る合金杭が、魔王の側近が振るう巨剣をへし折り、そのままレッドオーガの分厚い胸甲を強引に貫通したのだ。
「ガァァ……ッ!?」
レッドオーガが、この戦いで初めて両膝を地面に突いた。
だが、それでも彼は死なない。貫かれた胸の傷口から肉芽が異常な速度で膨らみ、パイルを肉から押し出して再び立ち上がろうと咆哮を上げる。
「……ただ心臓を潰しただけじゃ、あの巨獣は止まらねえか」
ミウラは後退しながら、冷静に敵の生体構造を観察していた。生命力が高いのではない。再生の起点となる器官(コア)が複数存在しているのだ。
『全マリーンアーマー部隊へ! 頭部、脊柱、そして胸部の魔力中枢へ射撃を集中させろ! 再生する端から削れ!』
ミウラの指示に従い、ベルンゲンからシャトルで急行・降下した数十人のマリーンアーマー部隊が、一斉にチャージライフルのトリガーを引く。コホートは「とにかく撃ちまくる」ような無駄はしない。完全に弱点を絞り込んだ重火器の十字砲火が、レッドオーガの脳髄と脊髄、そして魔力の供給源を同時に、かつ徹底的に破壊し尽くした。
「ゴォ……、ア……」
再生の起点をすべて失ったレッドオーガの巨体が、今度こそ完全に崩れ落ち、防衛線の泥と同化した。
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### 2.頭脳と剣の連携
一方、防衛線の右翼。
こちらでは、ベルンゲンからミウラと共に空路で緊急展開された傭兵ガイが、知将ブルーオーガと極限の死闘を繰り広げていた。
「見事な剣技だが、ヒトの体力では限界のようだな」
ブルーオーガが氷の杖を掲げ、ガイの四方を分厚い氷壁で完全に包囲する。
「これでチェックメイトだ、ヒューマン」
回避不能の死地。ガイが覚悟を決めた、その時。
『ガイ! 奴の右足を見ろ!』
インカムから、遥か後方ベルンゲンに残るモアの鋭い声が響いた。
モアの眼前にあるコホートの戦術端末には、上空の偵察ドローンから送られてくる映像がリアルタイムで映し出されている。異世界の若きインテリジェンスは、その映像を巻き戻し、比較し、一つの『答え』を弾き出していた。
『一度だけではない。魔法を使う直前、必ず右足の接地時間が短くなる。三回、同じ挙動を確認した! 魔力回路を上半身に集中させるための、生体力学的な「癖」だ!』
「……右足の、踏み込み!」
ガイは、ブルーオーガの足元を凝視した。
ブルーオーガが、トドメの氷塊魔法を放とうと魔力を高めた瞬間。確かに、モアの言う通り、その右足の接地がフワリと浮いたように見えた。
「オオォォォッ!!」
ガイは自身へ迫る氷塊を無視し、全速力で地を蹴った。大剣を低く構え、ブルーオーガの無防備な「右膝」へ向けて、渾身の一撃を薙ぎ払う。
「なっ……!?」
魔法の発動プロセスに集中していたブルーオーガは、その一撃を回避できなかった。右膝の関節を深々と斬り裂かれ、知将が初めてバランスを崩して地面に倒れ込む。
「終わりだ!」
体勢を崩したブルーオーガの脳天へ向けて、ガイが大剣を全力で振り下ろした。頭蓋を割る鈍い音と共に、青き魔族の身体が痙攣し、動かなくなる。
剣士の技量。学者の分析。そして、コホートのセンサーとネットワーク。
異なる文明の力が、ひとつの戦術として完全に機能していた。
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### 3.止まる鼓動
二体の側近が討ち取られた。だが、それでも魔王軍の『波』そのものが止まったわけではない。新型の甲殻魔獣や飛行個体が、依然として数万の規模で防衛線に押し寄せている。
「これだけの怪物を倒しても……まだ来るというのか」
リバル将軍は、絶望的な消耗戦の現実に眩暈を覚えた。
――しかし。
《プロスペリティ》の戦術管制室で、各種センサーのデータを統括していたキムラが、モニターの異常な変化に気付いた。
「……グラメウス大陸のプラント内部で、何かが起きています」
「社長たちがやったのか?」
スカルバーグからの問に、キムラは首を振る。
「おそらく。ですが、まだ確認できません。……しかし、グラメウス大陸からの『魔王軍の補充ウェーブ』が停止しました」
増殖速度が、急激に低下している。
敵は無限ではない。プラントを止めれば、この戦争には本当に勝てる。その事実が、防衛線で戦う人類側に初めて『確かな勝利のビジョン』をもたらした。
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### 4.魔王の玉座
遥か北方、グラメウス大陸の地下。
天文学的な広さを持つ空間の最深部。無数の生体管と巨大な培養槽が脈打つ空間の中央に、圧倒的な存在感を放つ『影』が座していた。魔王ノスグーラである。
タドコロは、少数のマリーンアーマーの護衛兵と共に、その絶対的な存在と対峙していた。
彼女の装備は『軽量外骨格(エクソスケルトン)』、腰に改良型の『パーソナル・シールド』とチャージピストル。そしてプラスチール製の刃の周囲に数千度のプラズマを纏わせる近接兵器『プラズマ小太刀』が帯刀している。
『……なぜ逃げなかった?』
ノスグーラの念話が、脳内に直接響く。
『我の領域へ踏み込めば、生きて帰れぬことなど理解できただろう』
「逃げる必要がないからよ」
タドコロは、狐耳をピンと立てて言い放った。
『お前たちは理解していない。我の思考ひとつで、いくらでも生まれ、いくらでも殺戮を繰り返す。この世界の魔物は私の手足だ』
「ええ、アンタの事業構造はよく理解しているわ」
タドコロは、チャージピストルの銃口をノスグーラへ向けた。
「だから、アンタの『魔物生産システム』を、根元から切り落としに来たのよ」
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### 5.退路の封鎖と精神の位相
ノスグーラは即座には攻撃してこなかった。彼もまた、自らの無限の軍勢を破壊し、ここまで到達した異邦の者を『観察』していたのだ。
その隙に、タドコロはインカムでキムラと通信する。
「プラントの構造はスキャンしたわね?」
『はい。無人機が「純粋水爆弾頭」の設置を完了しました。ですが、起爆時にこの区画に残っていれば生存できません』
「構造を把握できたなら十分よ。……脱出を優先するわ」
タドコロがマリーンアーマー兵に後退を指示した、その瞬間。
『帰れると、いつから錯覚していた?』
ノスグーラが腕を振るうと、巨大な生体管が蠢き、出入り口の通路を完全に塞いでしまった。さらに、周囲の培養槽から未完成の異形の魔物たちが這い出してくる。
『貴様らの精神はどこまで強靭かな? 試してやろう』
ノスグーラの巨体から放たれた可視化できない精神波が、空間そのものを震わせた。それは対象の精神を自らのネットワークへ強制接続し、同一の命令系統に組み込む魔王固有の『絶対隷化』。
「ぐっ……!?」
護衛のマリーンアーマー兵たちが頭を抱え、自らの意思に反して銃を落とし始めた。『味方を殺せ』という魔王の命令が、PSY-FOILの防御を貫通して彼らの精神を強引に書き換えようとする。
タドコロの視界も、ひどく歪んだ。強烈な頭痛と意識の混濁が彼女を襲う。
だが、彼女の精神は完全に支配されなかった。
ノスグーラの支配は「単一のネットワークに接続する」性質を持つ。しかし、ミホ種族であるタドコロの体内に備わる『カスミ器官』は、通常の精神回路とは異なる位相で『仙術』を循環させているのだ。
ノスグーラの干渉は、彼女の精神を支配する前に仙術回路へと流れ込み、そこで異常な反発とノイズを起こした。
「……他人の頭の中に、勝手に入ってこないでッ!」
激痛に耐えながら、タドコロは指を弾いた。
「【狐火】ッ!!」
青白い仙術の炎が爆発的に広がり、ノスグーラの視界と未完成の魔物たちを焼き払う。
『何ッ……!? 獣人風情が、我の接続に抗ったというのか!?』
ノスグーラが、予想外の反撃に一瞬だけ怯む。
「今よ! 走って!」
精神支配が緩んだ隙を突き、タドコロは自らのマリーンアーマー兵たちを蹴り飛ばすようにして、塞がれた通路をプラズマ小太刀で切り裂き、できた僅かな隙間へと駆け出した。
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### 6.跳躍抜刀と死地からの脱出
「【跳躍】!」
タドコロは、仙術の力で重力を無視したステップを踏み、崩れた足場を次々と飛び越えていく。狐火とチャージピストルで未完成の魔物を牽制し、足を止めない。
ここで魔王とまともに戦えば、全滅する。今は時間を稼ぐことだけが目的だ。
『逃がさぬと言っている!』
ノスグーラが背後から凄まじい速度で追撃してくる。巨大な黒い魔力弾が、タドコロの背中へ迫った。
「させないわ!」
タドコロは振り返り、帯刀していた『プラズマ小太刀』の柄を握った。
物理的な刃の周囲に、超高熱のプラズマが展開される。彼女は魔王を倒すためではなく、その「追撃」を止めるためだけに仙術を起動した。
「【跳躍抜刀】ッ!」
閃光。
タドコロの姿がブレたかと思うと、ノスグーラの放った魔力弾が真っ二つに両断され、さらにその奥――ノスグーラの分厚い胸板表層が、高熱のプラズマ刃によって鋭く切断された。
『グゥォォッ!?』
切り裂かれた箇所からすぐに肉芽が膨らみ再生を始めるが、その数秒のタイムラグこそが、タドコロの狙いだった。
「出口よ! 飛び込んで!」
ゲートの隙間から、地上の荒野へ向けてタドコロとマリーンアーマー兵たちが雪崩れ込む。
直後、ノスグーラの悪あがきによって通路が完全に崩落した。タドコロは外骨格の片脚を損傷し、パーソナル・シールドのエネルギーを消費し尽くしたが、間一髪で地上への脱出を果たした。
『……社長! 全員の生体反応を確認。地上への退避、完了しました!』
キムラの声がインカムから響く。
「……ええ」
タドコロは、土埃を払い、冷たい目で足元の広大な荒野を見下ろした。
「始めてちょうだい」
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### 7.大地の陥没(WMD起爆)
タドコロの指令と同時。
遥か南方の《プロスペリティ》から、暗号化された起爆コードが送信された。
『社長。攻撃コンプライアンス(大量破壊兵器使用の五条件)、オールクリアです』
グラメウス大陸の地下数百メートル。無人機がプラントの中枢に設置した『純粋水爆弾頭』が、その封印を解かれた。
それは、地表を焼き尽くすような派手なキノコ雲を上げる核爆発ではない。
グラメウス大陸の大地そのものが、ドクン、と大きく脈打った。地下深くで解放された核エネルギーがプラントの設備を焼き尽くし、巨大な空洞を支えていた岩盤と支柱を内側から完全に粉砕したのだ。
ズゴゴゴゴゴォォォォォンッ!!!
地下に存在していた巨大なプラントが、支えを失って一斉に潰れる。
その結果、荒野の一角が数キロにわたってすり鉢状に陥没し、古代兵器プラントは無数の培養槽や生産設備ごと、大地の底へと完全に押し潰された。
『……やりました』
キムラの声が震えていた。
『プラントの生産ライン、完全崩壊。培養中だった生体反応はすべて消滅しました。……魔王軍の増殖は、これにて停止しました』
人類は、ついに無限の軍隊を「有限」へと変えたのだ。
「……そう。やったのね」
タドコロは、砂埃の舞う陥没孔の底をじっと見つめていた。
だが、彼女はチャージピストルをホルスターにしまうことはなかった。
「……しつこいわね」
陥没孔の中心。崩落した瓦礫の底から。
片腕を失い、半身がボロボロに傷つきながらも、真紅の瞳だけを爛々と輝かせた魔王ノスグーラが、ゆっくりと地上へ這い出してきたのだ。
『……ノスグーラ本人の生体反応、健在』
キムラが、緊張した声で報告する。
ノスグーラは、プラントそのものと部分的に融合していたため、崩壊の直前に自身の中枢を別の生体器官へ退避させていたのだ。生産能力を失い、絶対隷化の範囲も大幅に低下している。だが、彼本人の戦闘能力は、まだ確実に残っている。
「どうやらまだ仕事は終わらないみたいね」
タドコロは、プラズマ小太刀の柄に手を掛け、たった数名のマリーンアーマー兵と共に、瓦礫の底へとゆっくりと降りていった。
「魔王に引導を渡してあげるわ」
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### 8.適応する魔王
陥没したクレーターの底で、タドコロは瓦礫の中から這い出してきた魔王ノスグーラと対峙していた。
純粋水爆の起爆により、プラントの生産ラインは完全に消滅した。ノスグーラも無傷ではない。左腕と半身の肉がドロドロに焼け落ち、その巨体を維持することすら困難に見える。これまでは無限に魔物を呼び出せた彼だが、プラントという「母体」を失った今、新たな軍勢を盾にすることはできない。
だが、ノスグーラは死ななかった。
彼は退避できた『コア』と最低限の神経系だけで、自らの肉体を瓦礫にこびりついた未完成の魔物の死骸(バイオマス)へ強引に癒着させ、生き延びていた。
『……我が聖域を崩壊させ、我が手足を捥いだか。獣人』
それでも、ノスグーラの真紅の瞳に宿る殺意は少しも衰えていない。
『だが、我という「コア」が在る限り、魔王軍は滅びぬ!』
「なら、その核を直接砕くまでよ。……私があの世へ送ってあげるわ」
タドコロはチャージピストルを構え、一切の感情を交えずに引き金を引いた。
ギュンッ!!
チャージ弾が顔面を捉える直前、見えない『魔力障壁』がそれを弾き飛ばした。
『浅慮な』
ノスグーラが残された右腕を振るう。凝縮された黒い魔力弾が無数に形成され、散弾のように放たれた。
「【狐火】!」
タドコロは仙術の青い炎を展開し、魔力弾の軌道を逸らして牽制する。
だが、ノスグーラは単なる巨大魔族ではなかった。知将ブルーオーガを統括する『システム管理者』である彼は、戦闘AIのようにコホートの戦術を即座に学習(アップデート)していく。
マリーンアーマー兵がチャージライフルで射撃を浴びせると、彼は次弾の射線を完全に先読みして最小限の動きで回避する。死角から小型攻撃ドローンが接近すれば、精神支配が効かないと学習した彼は、周囲の瓦礫を念力で操って物理的に叩き落とした。
『命無き操り人形め……!』
ノスグーラはドローンを破壊した勢いのまま、超高速の踏み込みでタドコロの目前へ迫った。
「――っ!」
タドコロの脳内で、仙術の『意識増進』が極限まで加速する。
世界がスローモーションに泥濘む中、ノスグーラの振り下ろす剛腕を、外骨格の機動力で紙一重に躱す。
「デカい図体して、速いわね……ッ!」
タドコロはプラズマ小太刀を抜刀した。
激しい近接戦闘の火花が散る。タドコロは小太刀でノスグーラの肉体を斬り裂こうとするが、極度に圧縮された魔力障壁に阻まれ、致命傷を与えられない。
『社長。奴の胸部中央、防御構造が異常に集中している箇所があります。おそらくそこがコアかと』
上空の指揮シャトルから、キムラの解析データが届く。
「弱点?」
『はい。ノスグーラの「コア」は単なる心臓ではなく、生体ネットワークと絶対隷化を束ねる中枢器官です。……奴はあのコアを守るために、残存する魔力をすべて胸部に集約させています!』
「なら、こじ開けるわ」
タドコロは後方へ跳躍し、チャージピストルのエネルギーセルと仙術を直結させた。
「【ポラリス】!」
銃口から放たれた高熱のプラズマ・メカナイト弾が、ノスグーラの胸部魔法障壁をピンポイントで貫き、その奥にある『コア』を僅かに抉った。
『グガァァァッ!?』
ノスグーラが苦悶の声を上げる。だが、抉られた肉から凄まじい勢いで肉芽が膨らみ、再生を始めてしまう。
『自己修復しています!』
「なら、再生する暇を与えなければいいだけよ!」
タドコロは、プラズマ小太刀を青眼に構えた。
「【跳躍】!」
タドコロの姿が消失し、ノスグーラの完全な死角――背後の空中に実体化した。
「【跳躍抜刀】ッ!!」
超高速の斬撃が、ノスグーラの背中を深く切断した。
『オオォォォッ!!』
だが、魔王の反撃も凄まじかった。切断された背中の傷口から無数の触手が爆発的に伸び、空中のタドコロを物理的に弾き飛ばした。
パキィィンッ!
外骨格の装甲がひしゃげ、タドコロが地面を転がる。
「ボス!」
護衛のマリーンアーマー兵たちがタドコロの前に割って入り、一斉射撃で盾となる。
『邪魔だァッ!』
ノスグーラがマリーンアーマー兵へ向けて黒炎を放とうとした瞬間、上空から生き残りのドローン群がレーザーを照射し、魔王の視界を強引に奪う。
『社長、奴の動きのパターンを完全に解析しました』
キムラの切羽詰まった声が響く。
『奴は防御を崩された後、必ず同じカウンター行動を三回繰り返しています。……次、四回目も必ず来ます!』
「上等よ。私が誘(ひ)くわ」
タドコロは、痛む足を引きずりながら再びノスグーラの正面に立ち、プラズマ小太刀を構えた。
『小賢しい人間どもがァッ!!』
ノスグーラが、予測通り四回目のカウンター――魔力を纏わせた剛腕を振り上げた。
「今だッ! 受けろ!」
ミウラの通信指示と共に、PA兵二機が前へ進み出て、分厚い装甲ごとその一撃を正面から受け止めた。装甲が悲鳴を上げ、火花が散る。
ノスグーラの動きが、コンマ数秒だけ完全に停止した。
「【跳躍】!」
タドコロは正面からいかない。PA兵が作り出した僅かな隙を抜け、ノスグーラの懐の極小の死角へと入り込んだ。
「【一刀両断】!」
プラズマ小太刀が、再生しかけていたノスグーラの胸部を深々と切り裂き、その奥にある『コア』を完全に露出させる。
『オオォォォォォォォッ!!』
その瞬間、死を悟ったノスグーラが、最後の力を振り絞ってタドコロの精神へ直接、呪いのような侵食を叩き込んだ。
『跪(ひざまず)けェェェッ!!!』
タドコロの意識が、真っ白に飛んだ。
凄まじい脳の負荷。仙術回路とネットワークの干渉が限界を超え、補助装置が火花を散らす。タドコロの思考が、ノスグーラの命令に塗り潰されそうになる。
だが、タドコロは自身の精神力だけで耐えたのではない。
意識が消えるその直前、彼女は『外骨格の制御系』へ最後のコマンドを叩き込んでいた。膝が折れそうになる直前、モーターが強制的に関節をロックし、彼女を物理的に立たせ続ける。
「……何度言わせるの」
血塗れの顔で、タドコロは不敵に笑った。
「私は、人の言うことを聞くのが一番嫌いなのよッ!!」
キムラの解析。ミウラの命令。マリーンアーマー兵の盾。ドローンの照準。
そして、彼女自身の刃。
限界を超えた最後の【跳躍】。タドコロの身体が、ノスグーラの懐からさらに一歩、ゼロ距離へと踏み込んだ。
「【跳躍抜刀】ッ!!!」
閃光。
すべてを断ち切るプラズマの白刃が、コホート全員の戦術の終着点として、魔王ノスグーラの中枢器官『コア』を完全に、そして美しく両断した。
『ア、ガ…………』
ノスグーラの巨体が、ビクリと痙攣した。
両断された核から黒い瘴気が噴き出し、彼の肉体が内側から崩壊を始める。
それと同時だった。
ノスグーラというシステム管理者(アドミン)の核を破壊したことで、魔王軍を繋いでいた『生体ネットワーク』が完全に断線した。
遥か南方。リーム北部の防衛線。
死に物狂いで剣を振るっていたガイやリバル将軍は、目の前の魔王軍に突如として異変が起きたことに気付いた。
ノスグーラの直接支配下にあった下級個体はその場で泡を吹いて倒れ、知性の低い獣は暴走して同士討ちを始め、野生から隷属させられていた魔獣は蜘蛛の子を散らすように逃走し始めたのだ。新型の甲殻魔獣などは命令を失っても本能でしばらく戦闘を継続したが、もはや『軍隊』としての脅威は完全に失われていた。
「……来ない」
泥まみれのリーム兵が、信じられないものを見るように呟いた。
「新しい奴らが……もう、来ないぞ!」
リバル将軍は、血濡れのサーベルを下げ、ゆっくりと空を見上げた。
残敵掃討という戦争の現実はまだ残っている。魔物が世界から完全に消滅したわけでもない。だが、第三文明圏の各国は、終わりの見えなかった無限の地獄から、ついに解放されたのだ。
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### 9.エピローグ ―― 赤字プロジェクト終了
グラメウス大陸、地下プラント崩壊跡地。
砂埃が舞う陥没孔の底で、タドコロは静かに息を吐いていた。
彼女の全身は傷だらけで、軽量外骨格は完全に沈黙している。手には、プラズマの光を失った『小太刀』だけが残されていた。
上空の指揮シャトルから、通信が入る。
『……生きてるか、タドコロ?』
ミウラの、少しだけ安堵の混じった声だった。
「一応ね。死にかけたけど」
タドコロは、痛む肩を押さえながら空を見上げた。
『魔王ノスグーラの生体反応、および広域の生体ネットワークの消失を確認。……我々の、勝利です』
キムラの、冷静だが確かな達成感に満ちた報告が続く。
「……そう」
タドコロは、少しだけ間を置き、いつもの冷徹な経営者の顔に戻って口角を上げた。
「じゃあ、この忌々しい赤字プロジェクトも、これでおしまいね」
『……赤字で済んだのか? この戦争』
ミウラの重い問いかけに、タドコロはすぐには答えなかった。
戦い倒れた無数の兵士たち。蹂躙されたトーパ王国。損耗したコホートのマリーンアーマー兵、破壊されたドローン。
それらをすべて脳裏に浮かべ、一瞬だけ目を伏せた後。彼女は静かに答えた。
「……赤字で済んだのかしらね。これから各国へきっちり請求書を回して、計算してみるわ」
タドコロは、魔王の血を吸った小太刀の血振るいをして、カチリと鞘へ収めた。
世界を覆い尽くそうとした絶望の黒き軍勢は、リームの兵士たち、パーパルディアの竜騎士、マールの船乗り、そしてコホートの徹底的なネットワーク戦術によって、その心臓を完全に止められた。
そして、その最後の刃を握っていたのは、一企業の社長であった。