辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記 作:ホゲフガ
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## 閑話2-3:ミリシアルからの使節
### 1.歓迎の裏側(対策会議)
「神聖ミリシアル帝国から、正式な使節団が来る……ね」
《プロスペリティ》の第一会議室。タドコロは、パーパルディア皇国経由で届けられた外交文書を指で弾いた。
コホートの首脳陣は、この来訪に極めて高い警戒を強めていた。
コホートにとって神聖ミリシアル帝国は、世界最大級の魔法文明を誇る「未知の超大国」である。
高度な航空戦力と強大な軍事力を保有し、パーパルディア皇国とは比べ物にならないほど広範な世界情勢を掌握している。
パンドーラ大魔法公国との戦いで『魔法』という概念の理不尽さを味わったコホートにとって、その頂点に立つ帝国は絶対に侮れない相手だった。
「相手の軍事力がどれほどなのか、こちらはまだ全く分かっていない」
防衛主任のミウラが険しい顔をした。
「本拠地(プロスペリティ)へ直接案内するわけにはいかねえな。俺たちの生産設備や兵力を不用意に見せるべきじゃない」
「でも、こっちも向こうからすれば同じですよ」
内政主任のキムラが冷静に指摘する。
「ミリシアル側も、我々を『大量破壊兵器を持つ得体の知れない武装組織』として最大限に警戒しています。露骨に情報を隠蔽して無用な不信感を与えれば、今後の外交関係を損ないます」
「だからこそ、最初の会談で『相手に何を見せるか』が重要になります」
渉外部のイレーヌが、完璧な営業スマイルでまとめた。
「自律AI技術、プラントの生産能力、本拠地の構造は秘匿。逆に、『我々は独立した政治勢力として理性的に活動している』『第三文明圏の秩序維持に貢献する意思がある』という政治的な部分は、積極的にアピールしましょう」
「戦争なら相手の基地にミサイルを撃ち込めば済むんですが、外交というのも面倒なものですね」
キムラが真顔で呟き、タドコロが苦笑した。
「本当にね。でも、巨大な利益を出すためには、絶対に外せない商談よ」
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### 2.使節団、辺境へ
――数日後。パーパルディア皇国の首都、エストシランド近郊。
澄み切った青空を切り裂き、神聖ミリシアル帝国の最新鋭魔法旅客機『ゲルニカ35型』が、皇国軍が管理する空港へと滑り込んできた。
機内では、四人の使節団が最終確認を行っていた。
外交担当であり使節団の顔である、フィアーム。
情報・諜報を司る情報官、ライドルカ。
軍事・行政の観点から相手を測る軍務省事務次官、ベルーノ。
そして、未知の技術に興味津々の技術開発局、アルパナ。
「着きましたね。辺境の暴れ馬の顔を、直に見せてもらいましょう」
フィアームが、手鏡で優雅に身だしなみを整える。
「アルパナ局員」
ライドルカが、窓の外を食い入るように見つめている技術担当へ釘を刺した。
「我々は技術を見学に来ただけはありません。相手の組織構造、意思決定のプロセス、つまり『相手そのもの』も観察してください」
「それは分かっていますよ。分かっていますが……ッ!」
アルパナは、空港に整列しているコホートの「出迎え」を見て、身を乗り出した。
「あれは……ゴーレムですか!? いや、魔力がまったく感じられない……!」
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### 3.視線の交錯(文明観のズレ)
タラップを降りたミリシアルの使節団は、出迎えに並んだコホートの警備部隊を見て、強烈な違和感を覚えた。
(……人間が、少ない)
ライドルカが目を細める。
通常の国家であれば、大国の外交使節を迎える際には多数の儀仗兵や役人が整列するはずだ。だが、滑走路で警備・案内・輸送を担っているのは、灰色の装甲に身を包んだ数名の兵士の他は、ヒューマノイド型の自律機械(オートマトロイド)や、四足歩行の多目的無人ロボットたちだった。
(魔法で動く人形ではない。……彼らは、人命の代わりに無機物を労働力にしているのか?)
一方、出迎えの場にいたコホートの護衛兵たちもまた、インカムのカメラを通じて使節団の装備を密かに観察していた。
ミリシアルの随員たちが身につけているのは、ファンタジー世界特有の野暮ったいローブや大仰な鎧ではない。極めて機能的にデザインされた式服や、洗練された通信端末(魔法具)だ。
(……パーパルディアと同じ魔法文明国家なのに、かなり近代化、組織化されている)
別室で映像を見ていたミウラは、通信回線越しにキムラへ意見を送った。
「中世の『剣と魔法のファンタジー国家』って認識は、完全に捨てた方がよさそうだな」
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### 4.最初の対面
会談は、パーパルディア皇国が提供した迎賓館の一室で行われた。
コホート側からは、CEOのタドコロ、イレーヌ、ミウラの三名が出席。
ミリシアル側はフィアームを筆頭に、四名がテーブルの向かいに座った。
「神聖ミリシアル帝国は、コホートという勢力との、平和的な関係構築を望んでおります」
フィアームが、優雅な笑みを浮かべて口火を切った。
「我々コホート・コーポレーションも、そちらと敵対する理由はありません」
タドコロも、狐耳を静かに寝かせ、完璧なビジネスライクの笑みで応じる。
最初は形式的な外交辞令が続いたが、やり取りが進むにつれ、双方の「認識の違い」が浮き彫りになってきた。
ミリシアル側は、コホートをあくまで「国家ではない(領土や国民を持たない)」という前提で接してくる。
しかし、コホート側も「自分たちを国家として承認しろ」というような要求は一切出さない。彼らにとって、国家という枠組みはビジネスと軍事行動の邪魔になるだけだった。
「……では、当面の間、貴社を『国家には該当しないが、国家に準じる実力を持った政治勢力』として扱わせていただくということで、よろしいですね?」
「ええ。我々としても、その方が実務的で助かります」
この『落とし所』が、後の国際会議の枠組みに大きな影響を与えることとなる。
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### 5.コホートとは何なのか?
「単刀直入にお聞きします」
探り合いの空気を切り裂くように、情報官ライドルカが直球を投げ込んだ。
「あなた方は、いったい『何者』なのですか?」
コホートの三人は、一瞬顔を見合わせた。
巨大傭兵会社。軍事・開発機構。浮遊都市。多国籍企業。あるいは異世界からの漂流者。……どれも一部は正しいが、完全には当てはまらない。
タドコロは、プラスチール製の扇子を開いてゆっくりと口元を隠した。
「私たちは、コホートです。……それ以上でも、それ以下でもありません」
禅問答のような回答だったが、ライドルカは眉一つ動かさずに頷いた。
「なるほど。つまり、我々の既存の枠組みでは『まだ分類できない』ということですね」
ミリシアルがコホートを国家や企業として定義しようとするものの、当てはまらない。コホート自身も、自らを一つの枠に定義していない。この「曖昧さ」こそが、コホートという組織の不気味さであり、強みでもあった。
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### 6.すれ違う技術体系
会談の合間の休憩時間。
技術開発局のアルパナは、迎賓館の警備システムや自動搬送機械、通信用端末などを食い入るように観察していた。
「素晴らしい……。これほど精巧な自動機構、ミリシアルの最新鋭魔導具に匹敵する……!」
アルパナは興奮冷めやらぬ様子で、同行していたキムラに尋ねた。
「しかし、不思議です。これらの機器から、『魔力の反応』が一切感じられない。これは……魔法ではないのですか?」
「ええ、基本的には違います」
キムラが淡々と答える。
「では、何をエネルギー源に?」
「電気です」
「電気……雷属性の魔法ですか!?」
「違います。物理的な電子の移動現象を利用した――」
キムラが回路や発電の基礎を説明しようと試みるが、基礎理論(パラダイム)が根底から異なるため、アルパナは頭を抱えてしまった。
「信じられません……。これほどの技術を持ちながら、魔法を一切使っていないなど……!」
だが、驚いたのはコホート側も同じだった。
アルパナが実演として見せた、小型魔導機器や魔力による通信・エネルギー制御装置を見たコホートの技術班が、目を丸くしてアルパナを質問攻めにしたのだ。
「待ってください、この出力変換効率は異常です! どういう原理で――」
「空間に偏在する魔素を術式で束ねて……」
「魔素? 質量は? エネルギー保存の法則は無視ですか!?」
今度は、コホートのエンジニアたちが頭を抱える番だった。
「あなた方は、本当に魔法というものを知らないのですね……」
アルパナが困惑したように呟く。
科学文明と魔法文明。単純な優劣ではない。双方が『相手は自分たちがまったく理解できない、根底から異質な技術体系を持っている』と強く認識した瞬間だった。
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### 7.弱点を認める軍隊
会談の後半、軍務省事務次官のベルーノが、極めて軍事的な核心に触れた。
「パーパルディア皇国との戦争、および魔王軍との戦闘記録を拝見しました。あなた方の無人兵器の運用と精密攻撃は、見事と言うほかない」
ベルーノは、ミウラの目を見据えた。
「率直に伺いたい。あなた方の無人兵器の保有数、および全航空戦力はどの程度なのですか?」
当然、ミウラがすべてを答えるはずはない。
「企業秘密だな。だが……」
ミウラは、コホート内の総括会議で出た戦訓を、隠すことなく口にした。
「我々にも、まだ経験と装備が不足している領域がある。海上での面制圧能力や、パンドーラ大魔法公国戦で受けたような『魔法による広域の精神・通信干渉』に対しては、無人兵器の脆弱性を露呈した。……何でもできる無敵の軍隊なんて、存在しねえよ」
ベルーノは、少し意外そうに目を見開いた。
「あなた方は、大国の使節を前にして、自分たちの『軍事的な弱点』をあっさりと認めるのですね。過剰な虚勢を張ることもできたはずですが」
「自分の弱点を隠そうとする官僚主義的な軍隊ほど、現場の兵士にとって危険で迷惑なものはないからな」
ミウラは、鼻で笑って葉巻を咥え直した。
「我々は企業だ。損害を出したくない。だから課題を共有し、解決するためのコストを惜しまない。それだけだ」
その言葉に、ベルーノは静かに深く頷いた。
(単なる寄せ集めの傭兵ではない。確固たる軍事思想(ドクトリン)と、冷徹な自己評価能力を持つ組織……。侮れないな)
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### 8.世界主要勢力会議
会談の終盤、フィアームが本題を切り出した。
「ところで、コホートの皆さんに、我が神聖ミリシアル帝国から一つご提案がございます」
フィアームは、ミリシアルが主催する国際会議について説明した。
「従来、『先進十一ヵ国会議』と呼ばれていた枠組みについて、現在、我が国で見直しが行われております」
「見直し?」
タドコロが眉をひそめる。
「ええ。あなた方を、従来の『国家』という枠にそのまま入れることは制度上難しい。しかし、第三文明圏の秩序を実質的に安定させたあなた方を、会議から無視することもできない」
フィアームは、美しい笑みを浮かべた。
「そこで、次回の会議を『世界先進国会議』という新名称へ変更し、参加資格を『国家』から『世界情勢に重大な影響を及ぼす政治勢力』へと拡大する予定です」
タドコロとイレーヌが、視線を交わした。
「私たちを、その新制度の会議へ招請すると?」
「はい。特別参加勢力として、です」
フィアームが参加予定国のリストを読み上げる。
「我が神聖ミリシアル帝国、パーパルディア皇国、グラ・バルカス帝国。……そして、『日本国』も参加する予定です」
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### 9.極東の島国
「……日本」
タドコロ、ミウラ、キムラの三人が、同時にその名前に反応した。
コホートはすでに、第三文明圏の東に突如として現れたこの新興国家の存在と、その特異な軍事力を最大限に警戒していた。そして魔王軍戦役を経て、日本側もまたコホートを極めて危険視し、調査を進めているであろうことは十分に推測できていた。
だが、問題はそこではない。
世界最強の魔法帝国たるミリシアルが、『日本』という国をどう評価し、どこまで情報を握っているのか。それが未知数なのだ。
「その『日本国』について、ミリシアルが集めた詳しい資料をいただけますか?」
タドコロが探りを入れるように尋ねると、フィアームは快諾して一枚のデータ記録媒体を差し出した。
「もちろんです。我々も、あの国には強い関心を抱いておりますから」
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### 10.すれ違う使節、交差する視線
会談は無事に終了し、ミリシアル使節団は帰路の『ゲルニカ35型』の機内にいた。
「コホートは、単なる傭兵団ではありませんね」
フィアームが、ワイングラスを揺らしながら認識を改める。
「ですが、国家でもありません」
ライドルカが資料をまとめながら返す。
「では、何なのです?」
ベルーノの問いに、ライドルカは小さく息を吐いた。
「それが分からないから、もう一度調べる必要があります。彼らは危険なほど合理的で、かつ冷徹です」
「私は技術部門に、至急追加の資料を要求します! あの機械について、もっと詳しく調べたい!」
アルパナが鼻息を荒くして興奮する。
「あなたは本当に、技術のことばかりですね」
フィアームが呆れたように溜息をつき、そして、機窓から雲海を見下ろした。
「それにしても……日本、という国もあります」
フィアームの目に、新たな好奇心と警戒の光が宿る。
「コホートとは違うのかもしれませんが、あの極東の国についても、実際にこの目で見てみる必要がありそうですね」
――一方、コホート側。
《プロスペリティ》の第一会議室の大型モニターには、ミリシアルから提供された『日本』に関する資料が映し出されていた。
「……やはり、ミリシアルは日本をかなり詳細に調べていますね」
キムラが、データを見ながら呟く。
「我々よりか?」
ミウラが、腕を組んでモニターを睨む。
「少なくとも、外交や歴史的背景の面では。彼らは魔法文明の観点から、日本の近代兵器と国家体制を徹底的に分析しようとしています」
「なら、日本が我々をどう見ているのかも、ミリシアルはある程度把握している可能性があるわね」
イレーヌが、楽しげに微笑んだ。
タドコロは、モニターに映る日本国の国旗と、自衛隊の護衛艦の不鮮明な写真を静かに見つめていた。
「世界先進国会議。……どうやら、これまでとはスケールの違うビジネスに関わることになりそうね」
魔王軍との戦いを終え、第三文明圏に巨大な影響力を持つようになったコホート。
だが、彼らの前に広がる世界は、まだ底知れない広さと未知の強国たちを隠し持っていた。
互いに理解しきれないまま、互いを観測し合う国家、企業、魔法、科学。すべての天秤が交差する新たな舞台へ向けて、物語は大きく動き出そうとしていた。