辺境惑星召喚――コロニストたちの異世界漂流記   作:ホゲフガ

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第7話:戦後処理という名の査定

## ## 第7話:戦後処理という名の査定

 

### 1. 官僚のレトリック

 

パーパルディア皇国東部属領の首府ミューズ――総督府。

 

白亜の石造りで行儀よく築かれた巨大な執務棟の最上階に位置する総督執務室は、重苦しい静寂に支配されていた。壁面には属州から容赦なく徴収した名画や工芸品が飾られ、豪奢な赤絨毯が床を覆っているにもかかわらず、室内の空気はまるで葬儀場のように冷え切っている。

 

その中心で、ラーク総督は報告書を握り潰さんばかりの力で机に叩きつけた。

 

「……1個大隊が、壊滅だと?」

 

低く絞り出された声には、激しい怒りよりも先に、現実を拒絶するような困惑が滲んでいた。

 

「飛竜12騎喪失。歩兵隊、ほぼ全滅。野戦砲6門喪失。――敵の損害は不明。指揮官ケルツ少佐は捕縛、もしくは死亡の可能性大……」

 

ラークが冷徹な事実を読み上げるたび、執務室に直立不動で控える幕僚たちの顔色が、蝋細工のように青ざめていく。誰一人として、その沈黙を破ろうとする者はいなかった。

 

ラークはゆっくりと立ち上がると、窓の外に広がる広大な属州都市を見下ろした。整然と並ぶ石畳の街路。黒煙を上げる工房群。港へと続く、うねるような交易路。それらはすべて、皇国が誇る圧倒的な“武力”という大前提があって初めて成り立つ、かりそめの秩序だった。

 

その絶対的な神話が、わずか数日のうちに、どこの馬の骨とも知れぬ獣人の集団によって木端微塵に踏みにじられたのだ。しかも最悪なのは、勝利した敵の正体も、その軍事規模も、未だに何一つ判然としないことだった。

 

「……あり得ん。到底、信じられん。たかが辺境の、原住民にも劣る獣人勢力だぞ? なぜ我が方の誇り高き飛竜隊が、近づくことすら許されずに墜ちる。なぜ500の精鋭が、交戦の形を成す前に一方的に消し飛ぶのだ」

 

脳裏にこびりついて離れないのは、命からがら生還した数少ない敗残兵たちの、精神を病んだような証言の数々だった。

 

空に展開された、青白い光の壁。意思を持つかのように空を飛ぶ、鉄の使い魔。落雷と見紛う、視認不可能な超高速の光線。突撃した鉄騎兵が、鎧ごと文字通り“蒸発”した――。

 

どれもこれも、正気の軍人が口にする報告ではない。まるで神話の時代の怪異か、質の悪い悪夢だ。しかし、最大の問題は、それが紛れもない現実として、今この瞬間も地続きで起きているという事実だった。

 

「総督閣下……」

 

側近の文官が、生唾を払いながら恐る恐る口を開いた。

 

「本国への……皇都エストシランドへの定期報告ですが、いかがなさいますか。……どのようにお書きすれば」

 

ラークはしばらく、彫像のように沈黙した。やがて、ゆっくりと振り返る。その濁った両目には、冷徹な政治家としての、生存本能に根ざした光が戻っていた。

 

「……ありのままを報告すれば、どうなると思う?」

 

誰も答えなかった。だが、答えは室内の全員が痛いほど理解していた。属州軍1個大隊の完全喪失。統治の失敗。正体不明の勢力による領土侵犯。そして、属州支配能力への決定的な疑念。――それはすなわち、ラークという政治家の終わり。中央政界からの失脚と、破滅を意味する。

 

「書記官を呼べ」

 

ラークは静かに、しかし断固とした口調で命じた。

 

「報告内容を、我が総督府の裁量で“修正”する。敵は、単なる獣人の武装勢力などではない。――第三文明圏の管理外に存在する『古代魔導文明の遺跡』を発見し、それを不法に占拠した大規模な武装集団だ」

 

「……っ!」

 

「奴らは極めて高度な、国家を揺るがすレベルの古代兵器を複数保有している。さらに、我が皇国の拡大を良しとしない『隣国勢力』による、裏からの技術支援および地政学的な介入の疑いも濃厚である……。このまま放置した場合、我が東部属領のみならず、第三文明圏全域の国際秩序へ深刻な脅威となる可能性あり――。そう報告しろ」

 

側近たちは息を呑んだ。地方の不手際による大敗ではない。最初から対抗不可能な「国際級の地政学的脅威」との遭遇に話をすり替える。そうすれば、大隊の壊滅はラークの無能ではなく、不可抗力の犠牲となり、本国は激怒して大規模な中央軍を派遣せざるを得なくなる。

 

「我々は、未知の国家級脅威と交戦したのだ」

 

ラークは歪んだ笑みを浮かべ、自身の保身という名の天秤を厳かに傾けた。

 

「…… そういう話に、変えるのだよ」

 

---

 

### 2. 勝者のサスペンス

 

 同じ頃、ケルツ少佐率いるパーパルディア皇国軍1個大隊を壊滅させた直後のプロスペリティ中央作戦指令室には、勝利の余韻とは程遠い、張り詰めた沈黙が重苦しく漂っていた。

 

 白亜の壁面に浮かぶホログラムには、先ほどまで行われていた戦闘の統計データが、冷徹な数値として次々と表示されている。撃破敵兵数、消費弾薬、損耗装備、エネルギー使用率、設備摩耗率。そこに並ぶのは圧勝の記録であるにもかかわらず、誰一人として安堵した様子を見せてはいなかった。

 

「……敵大隊の戦闘能力、完全停止を確認」

 

 ムース族の女性兵士アリシアが、ヘルメットを脇に抱えながら報告した。金色の長髪は戦場の粉塵で薄く汚れ、巨躯を包むパワーアーマーの肩部には、マスケット弾が弾けた痕跡がいくつも刻まれている。

 

「地上部隊501名中、戦死412、重傷及び戦闘不能71、逃走18。飛竜12騎は全騎撃墜。敵指揮官ケルツ少佐は生存確保、現在は地下隔離房へ移送中です」

 

「こちらの損害は?」と、タドコロが静かに尋ねた。

 

「人的損失ゼロ。ただし対空ドローン2機損耗、自動タレット3基故障、ドローン用小型ミサイル6発消費。その他弾薬、通常作戦の4倍を消費しています」

 

「……そう」

 

 タドコロは扇子を閉じ、ゆっくりと目を細めた。その表情に浮かんでいたのは勝者の高揚ではなく、経営者としての冷徹な計算だった。

 

 キムラが血走った目で戦闘ログを睨みながら、苛立たしげにデータパッドを机へ叩きつける。

 

「最悪だ……」

 

長いウサギ耳が神経質に震えていた。

 

「たかが火薬式マスケット銃の軍隊を潰すために、何でこんな高価な兵器を浪費しなきゃならないんだよ……! ミサイル6発だぞ!? あれ1発作るのに必要な精密部品、今の在庫状況じゃ簡単に補充できないんだ!」

 

「まあまあ、結果的には圧勝だったじゃない」

 

 アリシアが苦苦しい混じりに肩をすくめるが、キムラは即座に怒鳴り返した。

 

「問題はそこじゃない! 勝つのは当たり前なんだよ! 旧文明以前の軍隊相手に負ける方が難しい! 問題は“何を消費したか”だ!」

 

 彼はホログラムに映し出されたプロスペリティ内部の資源管理画面を指差した。そこには赤色の警告表示がいくつも点滅している。

 

* 高純度レアメタル備蓄量:減少中

* ミサイル用センサー部品:在庫減少

* ドローン用演算コア:在庫僅少

 

「この世界には工業基盤が存在しないんだぞ……!? 鉄や木材なら現地調達できる。でも、高性能電子部品やナノレベルの精密加工素材はどうする? 失ったら終わりなんだよ、終わり!」

 

「キムラ主任の言う通り、技術的アセットの摩耗は深刻ですね」

 

沈む指令室の空気に、低く中性的な声が重なった。

声をかけたのは、デスクの端で静かに端末を叩いていた財務チーフのスカルバーグだった。

黒髪の間から覗く黒いオオカミ耳が、キムラの怒声に反応してピクリと動く。

ウルフェイン族の彼は、冷徹な目で数字の羅列を見つめていた。

 

「今回の防衛戦による純損失を、我が社の資産価値に換算すると、笑えないマイナスになります。工作機械を修理する工作機械がない以上、この消費ペースは数年単位で見れば確実に我が社を絞め殺す」

 

「それだけじゃない、コロニーの維持に関しちゃもっと最悪だ……!」

 

キムラが血走った目で、指令室の巨大ホログラムを指差した。そこに映し出されているのは、コホート・コーポレーション最大の資産にして最後の砦――超大型グラヴシップ・プロスペリティ号の断面図だった。

 

「反重力機関だけなら低出力で長期間維持できる。でも、水平方向への移動は別だ。推進スラスター用のアストロ燃料は有限なんだよ。今の残量なら、全力航行できるのはあと十数回。もし大陸横断レベルの長距離移動を何度も行えば、その時点でプロスペリティは二度と飛べなくなる!」

 

「つまり」

 

タドコロが静かに言う。

 

「私たちは、この平原に縛り付けられている可能性が高い、と?」

 

「……そうなる」

 

誰も軽口を叩かなかった。補給線も交易相手もない異世界で、動くことすらままならないという冷徹な現実。

重苦しい沈黙が室内の全員を包み込もうとした、その時だった。

 

「あら、なら話は簡単じゃない。そう悲観することもないわ」

 

スカルバーグの隣で、紫のまとめ髪をなでつけながら不敵に微笑んだのは、広報チーフのノゾミだった。抜群のプロポーションをタイトなビジネススーツに包み、3本のキツネ尻尾を優雅に揺らしている。

 

 クーリン族の彼女は、ホログラムに映る敵の残骸を値癖(ねぶ)るように見つめた。

 

「旧文明以前の未開な軍隊が、勝手に我が社の防衛ラインへ突っ込んできて、勝手に全滅してくれた。これ、見方を変えれば最高の『広告(プロパガンダ)』の素材よ。私たちが動けないなら、向こうから資源を貢がせる仕組みを作ればいいの」

 

沈黙の中、タドコロはゆっくりと窓の外へ目を向けた。遥か彼方には、砲撃で抉れた平原と、黒煙を上げるパーパルディア軍の残骸が広がっている。彼女はしばらく黙ってそれを見つめていたが、やがて小さく笑った。

 

「……なら、やることは決まっているわね」

 

 藍色の瞳に、冷徹な経営者の光が戻る。

 

「この世界に、我が社の補給網《サプライチェーン》を作るのよ」

 

 それは征服宣言ではなかった。もっと冷酷で、もっと合理的な、生存戦略そのものだった。

 

 

 

### 3. 初期アセットの「査定」

 

「補給網を、この世界に?」

 

 キムラが呆気にとられたように耳をぴくつかせた。タドコロはデータパッドをタップして画面を切り替える。

 

「ええ。精密電子部品は作れなくても、鉄鋼、木材、化学薬品の基礎原料、そして何より――工場を回し、現地を動かすための『地元の通貨』と『労働力』。これらは現地調達できるわ。彼らの未開な市場を我が社の都合の良いリソースに変えるのよ。アリシア、隔離房の少佐殿のところへ行くわよ。私たちの最初の『アセット(資産)』に、買い手への連絡役になってもらわなきゃ」

 

 数分後、プロスペリティ最下層の防壁に囲まれた地下隔離房。

 片脚を破片で砕かれ、応急処置の包帯に血を滲ませたケルツ少佐は、殺風景な金属の部屋で荒い息を吐いていた。激痛と屈辱、そして理解不能な軍隊への恐怖で、彼の精神は限界を迎えていた。

 

 自動ドアが滑らかに開き、タドコロが優雅に歩み寄る。その背後には、護衛のアリシアだけでなく、タブレットを手にしたスカルバーグと、余裕の笑みを浮かべるノゾミの姿もあった。

 

「……貴様らは何者だ」

 

 ケルツは血走った目で彼女らを睨みつけ、掠れた声で絞り出した。

 

「どの列強だ……。第2文明圏の隠された大国か? 古代帝国の残党か?」

 

「どれでもないわ。私たちはただの企業。コホート・コーポレーションよ」

 

「ふざけるな!」とケルツが咆咆する。

 

「企業ごときが、このような軍事力を持てるものか! 飛竜を空で焼き払い、鉄騎兵を紙のように吹き飛ばすなど、国家以外にあり得ん!」

 

「逆に聞くけれど、なぜ国家でなければならないの?」

 

 タドコロは静かに首を傾げた。

 

「私たちは統治に興味がないの。行政、徴税、民衆管理、治安維持……そんな利益率の低い業務、面倒でしょう? 私たちが欲しいのは市場と資源。つまり“利益”よ」

 

 その美しい笑みが、ケルツには怪物の捕食宣言にしか見えなかった。タドコロの目配せを受け、スカルバーグが中性的な声で淡々と告げながら、端末を操作した。

 

「我が社のマザーが現地の言語と通貨価値に翻訳した、今回の精算明細書です。ご確認ください」

 

 空間にホログラムの明細書が展開される。

 

> ### 【コホート・コーポレーション 臨時防衛コスト請求明細】

>

>

> * **消費弾薬費(徹甲弾・エネルギーパック等):** 金貨 42,000 枚相当

> * **防衛タレット 減価償却費およびメンテナンス費:** 金貨 18,500 枚相当

> * **長距離迫撃砲 運用・推進剤コスト:** 金貨 22,000 枚相当

> * **防衛要員 危険手当および人件費:** 金貨 15,000 枚相当

> * **周辺環境汚染(硝煙・血肉の清掃コスト):** 金貨 8,000 枚相当

>

>

> ---

>

>

> * **小計:** 金貨 105,500 枚相当

> * **不法侵入および企業主権侵害に対するペナルティ(100%):** 金貨 105,500 枚相当

>

>

> ---

>

>

> **【合計請求金額】 金貨 211,000 枚(または同価値の金属性資源・希少鉱物)**

 

「な……何だ、この不条理な数字は……!」

 

「あなたたちのせいで消費した、貴重な弾薬と設備の減価償却費。我が社が被った純粋な防衛コストよ」

 

 タドコロは冷ややかに言い放った。

 

「これ、あなたの上司である東部辺境総督ラークへ請求させてもらうわ。もちろん、あなたや他の捕虜たちの『身代金』として、さらに金貨10万枚を別口で上乗せさせてもらうけれど」

 

「貴様……皇国を恐喝する気か!」

 

「恐喝だなんて人聞きが悪いわ。これは正当なBtoBの決済よ」

 

 後ろでノゾミがキツネ尻尾を揺らしながら、豊満な胸元に手を当てて妖艶に微笑んだ。

 

「飲むわよ。飲まざるを得ないように、これから『営業(デモンストレーション)』を仕掛けるのだものね、社長?」

 

「ええ。アリシア、少佐殿を死なせないように厳重に管理して。我が社のサプライチェーン構築のための、大事な『初期資本』なんだから」

 

---

 

### 4. 最初の「名刺」

 

 戦闘の翌日。ミューズの総督府に、それは音もなく現れた。

 ラーク総督が「古代魔導遺跡の武装集団」という虚偽の隠蔽報告を本国へ発送し、安堵とも焦燥ともつかぬ息を吐いたその日の午後だった。

 

 ガシャァァァァン!!!

 

 贅を尽くした執務室のステンドグラスが派手に砕け散った。割れた窓から室内に侵入してきたのは、羽ばたきもせず、不気味な駆動音を鳴らす黒金属の球体――コホート社の監視ドローンだった。

 

「ひいっ! あ、悪魔です!」

 

 側にいたラルヴァ小隊長が悲鳴を上げて机の下へと潜り込む。ドローンは怯え切るラーク総督の目の前でピタリと静止すると、下部のプロジェクターから鮮明なホログラム映像を空間に投影した。

 

『ご機嫌よう、ラーク総督閣下』

 

 映し出されたのは、プロスペリティの豪華なオフィスチェアに深く腰掛け、優雅にひまわり茶を嗜むタドコロの姿だった。そしてその傍らには、3本の尻尾を誇らしげに揺らす広報チーフのノゾミも、補佐として不敵な笑みを浮かべて並んでいる。

 

「き、貴様が……あの蛮族どもの首魁か……!」

 

『あら、手厳しいわね。私たちは野蛮な暴力ではなく、常に合理的な“商取引”を重んじる企業よ』

 

 ホログラムのタドコロは艶然と微笑み、手元の書類をこちらに向けた。

 

『さて、本日は我が社の防衛権利を行使した結果生じた、そちらの【債務】についてのご連絡よ。お宅の部隊を処理……いえ、無力化するにあたり、我が社は多大な営業損失を被りました。詳細な請求書は、そのドローンから出力されるわ。総額で金貨21万枚相当。それに加えて、我が社が拘束しているケルツ少佐を含む捕虜の身代金として、さらに金貨10万枚。計31万枚を要求するわ』

 

「ふ、ふざけるなァァァッ!!」

 

 ラークは机を叩いて立ち上がった。

 

「たかが獣人の分際で、大国パーパルディアを脅迫する気か! 31万枚だと!? そのような大金、支払うわけがなかろう! 本国へ報告し、今度こそ本物の『皇国の鉄槌』でお前たちを地図から消し去ってくれるわ!」

 

 ラークの怒号を聞いても、タドコロの笑みは微塵も崩れなかった。むしろ、哀れな子羊を見るかのような冷徹な光がその藍色の瞳に宿る。コホート社が今、どれほど「切実に資源を欲しているか」を、この無能な総督は知る由もない。

 

『そう。交渉決裂ね。……いいわ、ラーク総督。ビジネスにおいて、顧客が商品の価値を理解できないのはよくあることよ。だから、我が社の広報チーフから、もう一つ、特別な“営業資料”をプレゼントしてあげる』

 

 タドコロの言葉に頷き、ノゾミが紫の髪を揺らしながら一歩前に出た。

 

『ええ。我がコホート広報部が自信を持ってお届けする、珠玉のプロモーションビデオよ。マザー、映像を切り替えて』

 

 次の瞬間、ホログラムの映像が切り替わった。そこに映し出されたのは、先ほど平原で起きた「一方的な虐殺」の超高精度記録映像だった。

 

 皇国が誇る飛竜部隊が、見えない光線によって一瞬で消滅する様子。密集した歩兵たちが、長距離からの凄ましき砲撃で肉片となって宙を舞う様子。自動タレットの機銃掃射によって容赦なく引き裂かれていく光景――。

 

「あ……あ、あ……」

 

 ラーク総督は、椅子にへたり込んだ。

 

『この映像、とても画質が良いでしょう?』

 

 再び画面に現れたタドコロが、酷薄な笑みを浮かべる。

 

『もし、一週間以内に指定の場所へ金貨、あるいは同価値の希少鉱物が届けられない場合、この営業資料(映像)を、パーパルディア皇国の本国中央、および第三文明圏のすべての国々へ一斉に“無料配布”させて戴くわ』

 

「なっ……!?」

 

『大国パーパルディアの正規大隊が、名もなき新興企業に傷一つつけられず、わずか数分で全滅した……。この事実が世界に広まった時、あなたたちの“名誉”や“外交的威信”がどうなるか、優秀な総督閣下なら計算できるでしょう? 周辺の保護国や属国が一斉に反旗を翻す引き金になりかねないわね』

 

 それは、パーパルディア皇国という国家の根幹――「恐怖による支配」を完全に内部から崩壊させる、最も合理的で致命的な脅迫だった。

 

『支払期日は一週間。賢明なご判断を期待しているわ、ラーク総督』

 

 プツン、とホログラムが消え、ドローンは足元に一枚の紙ベースの「請求書」を落とすと、割れた窓から音もなく去っていった。

 

 静まり返った執務室で、ラーク総督はガタガタと震える手でその紙を拾い上げることしかできなかった。自分が本国へ「国家級の脅威」と嘘の報告を送ったその日に、本物の怪物がその牙を剥き出しにして、彼の喉元へ食らいついてきたのだった。

 

 

 

 

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