魔法世界の海に生きる   作:鉄野波琉

1 / 6
世界観設定
西暦2027年、中国は台湾に対しついに武力侵攻を開始。これに対処するべく海上自衛隊が展開。南シナ海にて大規模海戦が勃発した。初戦は中国側の有利で進んだものの、在日米海軍の救援により戦線を持ち直す。以降核戦争へのエスカレートを恐れ短期間にて休戦条約が結ばれ戦闘は終結した。

オープンワールドロールプレイングゲーム「エイナス」
 魔法と物理科学が存在する広大なマップを誇るPRGゲーム。戦闘やミッション、娯楽や生活、インフラ整備から物流網の構築など現実とも見間違うほどの膨大なコンテンツが存在し、「もう一つの現実で生きる」というキャッチコピーで運用されている。しかし運営のバランス調整が間に合っておらず、空想のものである魔法の技術レベルは最初から高レベルが実装されているのに対し、物理技術においては現実世界を参考にして詳細に反映されるために実装スピードが遅い。さらに魔法が戦闘面においても強力であり、空を自由に飛び、攻撃も防御も多彩に行える魔法は銃火器や兵器を用いる物理科学側に対しかなり有利になっていた。
 生活面においても表面上は魔法側の便利さがあり、物理科学側はインフラや産業、物流などの分野で補助をするに留まってしまっている。プレイヤーが扱える魔力量には限りがあるため、長期生産や補給概念においては遅れをとっているものの、ゲーム人口の割合では魔法側が7割を突破してしまっており、物理科学側の「エイナス」運営へのバランス調整失敗の批判が相次いでしまっている。
しかし「エイナス」における生活の基盤は、確かに物理科学側が重要な役割を果たしていた。

エイナス中央主要地区「トントレース」
 エイナスに初めてログインした者が最初に立つ場所となるエイナスの中心部。エイナス世界の首都ともいえる場所であり、その発展具合は他の地区の追従を許さない。エイナス内で一番人口が多い地区であり、交通の要衝であり、あらゆる娯楽が集まる場所である。
 その機能の多くが魔法によって成り立っているが、物資の大量輸送や重量物輸送は莫大な魔力を必要とするため、特に物流においては車両や船舶、大型航空機などが活躍している。しかしバトロワや魔法レースなどのPvP大会が注目を集める中、目立った活躍のない物理科学側は人々の目に映ることはなかった。

エイナス北方地区「ノーセント」
 日本の東北やロシアのシベリア、北欧をモデルとした寒冷地方。その寒さから一次産業が進出できず、山岳や寒帯林が広がるこの地区の人口は少ない。しかし度重なるアプデにより大量の地下資源が実装され、物理科学側にとっては希望となる場所であるはずだった。しかしその資源を活用するのには知識と最高レベルの加工スキルが必要であり、結局アプデをもってしてもこの地区に人が集まり発展することはなかった。ただ二人を除いて。


人物設定
元海上自衛隊 海崎晴登(かいざきはると) 24歳
 短髪に黒い眼鏡をかけた一見どこにでもいる男。しかし自衛官としての訓練を受け、若手でありながら威厳のある顔つきをしている。 
 自衛隊への強い憧れから高卒で海上自衛隊に入隊、護衛艦「あさなみ」乗組員となる。南シナ海海戦において負傷し、やむなく退役。戦後は療養のため自宅にて貯金を切り崩しながら社会復帰を目指しつつ、その傍らで「エイナス」を始める。ゲーム内ではいまだバランス調整がされていない物理科学側にて、船舶運用及び海洋開発を行っていた。その裏で圧倒的な戦力を誇る魔法技術に立ち向かうべく、とある艦の建造計画を立てていた。

鉄野史郎(てつのしろう)24歳
 海崎とは高校の同級生。現実世界では重工会社に勤めている。海崎が自衛隊に入隊してからも連絡を取り合う友人。自身がエイナス内で構築した鉄鋼産業を発展させるべく退職した海崎をエイナスに誘い、二人主導でエイナス初の造船産業を始める。現実の仕事とエイナスの仕事のダブルワークをこなす仕事人。とはいえエイナス内では自分の好きに産業を構築できるためゲーム内では生き生きしている。




序章 1話 始まりの海

 海上自衛隊 二等海曹 海崎晴登(かいざきはると)は洋上にいた。5インチ砲操作コンソール越しに海を見つめる。対面には日本に矛を向ける艦隊が展開していた。護衛艦隊はその矛を国民に届かせまいと艦隊の前に立ちはだかる。

 だが一個護衛艦隊を持ってしても、敵空母機動部隊を長くは押さえつけられない。空自の援護が到着する前に戦闘が始まってしまった。突発的に始まった戦闘は、火力負けしている自衛隊側の防戦一方となった。敵の膨大な対艦ミサイルを防ぎきるため、護衛艦隊は必死の対空戦闘を行う。しかし数発のミサイルが防空網を突破、護衛艦隊に突入した。そのうちの一発が海崎の乗る護衛艦「あさなみ」に命中してしまう。

 灼熱と衝撃が船を襲い、海崎のいた区画にも伝わっていた。衝撃に体を飛ばされた海崎は、敵艦に射撃できなかった悔しさを噛み殺し、衛生科の担架に揺られていたのだった...

 

 終戦より半年後、海崎は海上自衛隊を退職し、貯めた資金でアパートの一部屋にPCルームを設けた。海戦によってできた傷が長引いていたものの、自衛官の復帰の見込みも立っていた。だが平和になった日本で新しい人生を見つけるため、自衛官の道を終えた。強い憧れから高卒で自衛隊に入隊した彼は、24歳という若さで第二の人生を探すに至ったのだ。

 その一つとして「エイナス」を始めた。あらゆる分野が存在するこのゲームなら、自分を探すきっかけになるかもしれないと思っていた。だがいざ初めてみるとやはり自分の持った知識や性分は捨てきれず、結局船に乗り組むことになったのであった。ゲームがリリースされて一年ほど、船舶概念が実装されてからは半年ほどしかたっていない。

 さらに運営の「もう一つの現実で生きる」というキャッチコピーに違わず、実装された船舶コンテンツは現実に沿った極めて凝った分野になっており(というより物理科学分野は大体が現実とほぼ同じレベルの知識量が必要なほど凝っており、この専門分野の難しさが物理科学側の人口減少の一要因でもある)海崎は船舶分野においては第一人者レベルの立ち位置にいた。

 

「起きたか海岬、早速だが大事な話がある。ちょいと来てくれ。」

 

 「エイナス」にログインしてすぐに声を掛けられる。このサーバーで有力な鉄鋼産業を営む鉄野だ。ゲーム内だというのにどこぞの建築作業員のようにヘルメットと作業着を身に着けている。魔法が主流のエイナスでは、服装も異世界風が大多数を占めている。その中で船乗りの服装を着こなす海岬と作業服の鉄野は、もはや周りから浮いているとも言える格好であった。

 

 鉄野に連れられて向かった先はノーセント地区造船所、海崎と鉄野の拠点となっている場所だ。「ノーセント地区」はエイナス北部の寒冷地方であり、造船所のある南部方面はまだしも北部となるとまるでシベリアのような風景になる。エイナス内で勢力を失いつつある物理科学側は、自然とエイナス都心部から離れ地方に細々と拠点を置くようになっていった。そこからエイナス中央主要地区「トントレース」へ出稼ぎに向かう者も少なくない。皮肉にも日本の首都集中型経済がここでも自然と再現されていたのだった。

 しかし海崎と鉄野は違った。この二人もトントレース地区から追い出された形ではあるが、このノーセット地区に住み着いたのはその豊富な地下資源に目を付けたからだ。寒冷地の地下で何万年もかけて生成された(という設定で導入された)高品質な鉄資源。多量ではないものの石油資源に加え豊富な天然ガス資源も存在した。さらに北方寒冷地帯ではあるものの、西海岸沿いには暖流が流れているため海が凍り付かない。複雑な海岸線が自然の防波堤をなしており、寒さを除けばまさに造船施設を作るのに最適であった。

 

「均質圧延鋼...ついに完成したのか。よくぞやってくれた。ありがとう。」

 

 海崎が鉄野に告げる。二人の前には巨大な鋼板が横たわっていた。均質圧延鋼。現実世界では100年以上も前に確立された装甲材の一種で、装甲全体が均一な性質を持つように圧延・熱処理された高品質な合金鋼だ。

 これまでエイナスでは採取した鉄鉱石を製錬して成型しただけの簡単なものしか作れなかった。それだけでも高レベルの鉱石系鍛錬スキルが必要であり、その労力をもってしても一人分の攻撃魔法で短時間で装甲を貫徹されてしまっていた。これを改善するべくエイナス運営は半年前の大型アップデートにて多種類の鉱物・燃料資源及び高度装甲材加工技術を実装。しかしプレイヤーに求められる専門家レベルの知識量とゲーム内での大型鉄鋼加工施設、そしてさらに追加された最高レベル鍛錬スキルへのレベルアップが必要であり、一般プレイヤーではもはや到達不可能域まで行ってしまった。実際現実世界で重工株式会社に勤めている鉄野の知識を持ってしても、半年の歳月を掛けてようやく100年以上前の装甲技術を再現するのが今は精一杯であった。いやむしろたった半年で軍事レベルの装甲材をゲーム内で作り上げてしまう鉄野は間違いなく天才だろう。

 

「ようやくこれでまともな兵器が作れるな。電気に水圧、光学なんかの化学系の技術はあったのに肝心の鋼板加工のアプデが遅れたせいですっかり世界が魔法に染まっちまった。だがこれでようやく反撃の狼煙があげられるってもんだ。」

 

「あぁ、これでようやく、あの”フネ”の建造計画が始められる。この計画も100年前の技術からのスタートだが、このエイナスにおいては間違いなく革命となる一歩だ。」

 

「しっかしいいのか?装甲材ができたからっていきなりこんな大型艦を建造して。自信がないってわけじゃないが最初はもっと小型のフネからにしてもいいんじゃないか?」

 

「いや、魔法側に確実に優位に立つにはこの規模の艦は絶対に必要だ。魔法側の人口は7割を超えた。数でも勝る魔法攻撃を耐え抜く抗堪性を持つのはこの艦しかない。」

 

「なるほどねぇ...時代遅れって言われ続けた”大艦巨砲主義”がまさか復活するとはね。」

 

「この世界では新兵器だ。いくら現代技術を知っているからとはいえこの世界では一から技術が始まった。となれば技術も歴史をなぞるしかない。全く本当によくできた世界だ。」

 

「”魔法”っていう異端さえなけりゃ、な。」

 

 鉄野の魔法に対する対抗心は大きい。鉄野もまた相当のミリオタであり、この世界でも大型兵器を再現して大いに活躍することを夢見ていた。しかしこれまで見てきたのはその兵器群が魔法に蹂躙される場面ばかり。その現実に落胆していた。しかし先日のアプデで高度装甲材加工技術が実装され、消えかかっていた対抗心が再び燃え始めたのた。

 

「まともに飯も手に入らないこの場所で資源の海上物流のジョブをしながら一年、ようやく作り上げた海軍造船所だ。いっちょ派手に行くとするか!」

 

「あぁ、魔法に溺れている連中に鋼鉄の威厳を見せつけてやろう。」

 

 二人はドッグへ足を進める。そこには大型のクレーンや積みあがった鋼材が集まっていた。二人はドッグ前の建物に入り、部屋に設置されたコンソール画面を開く。指定された資源を選択し、作業開始項目を選択した。その瞬間にクレーンが動き出し、鋼材を持ち上げていく。リアリティーを追求した世界とはいえ、流石に作業一つ一つを再現すると現実の人口がそのまま必要になってしまうため、鋼材の運搬から溶接、組み立てまで造船のほとんどを自動で行えるクレーンが実装されていた。とはいえその建造手順をクレーンに入力し動作させるのにも結局船の構造を知り尽くしていないとできない。この世界の造船業は、もはやこの二人が独占状態であった。

 

「造船から海上物流までほとんど俺たちが独占してたってのに、魔法のせいで全然儲からなかったよなぁ。こんだけ独占状態だったら一個艦隊を整備するぐらい儲けられたはずなのに建築用に鋼材が多少売れただけなんだもんなぁ...」

 

鉄野の不満はPvP対戦だけでなく商売にまで広がっていた。

 

「軽貨物なら魔法ですぐに運べるからな、大重量・大量輸送ができた俺たちはまだいい方さ。トラック運送業はどんどん需要がなくなっていってる。せめて航空機がまともに実装されてくれればいいんだが...」

 

「飛行船と黎明期レシプロ機で技術が止まってるもんなぁ...そりゃ魔法で落とされるワケだ。さっさとジェットエンジンを実装しろよな。あっでもそうしたらこのフネの活躍場所がなくなっちまうか。」

 

「ジェットエンジンこそ近代技術だからエイナス運営にはまだまだ無理だろう。100年以上前の装甲技術を実装するのにも精一杯だからな。」

 

「まぁいちゲーム会社が全分野の技術に加えて魔法まで実装するってんだからそりゃパンクするわな。運営のSNSの投稿に教科書と論文が山積みになってる写真があったぜ。ありゃ俺でも無理だ。」

 

 二人は会話を続けながらコンソール画面を操作し続ける。ある程度操作すればクレーンが自動で動いてくれるが、複雑な形状をしているものを作る際には区画ごとに作業手順を詳細に入力しなければならない。この艦が完成するまでの間、この二人はこの施設に入り浸りになることが確定したのであった。

 

「俺は仕事もあるからクレーンの追加入力は頼んだぜ海崎、マジで睡眠時間削って鋼材加工研究するのキツかったぁ...」

 

「忙しいだろうによくやり切ってくれた。後は俺がログインして操作しておくからゆっくり休んでくれ。」

 

「ま、御国を護ってくれた水兵さんの頼みとあっちゃ断るワケにゃいかんでしょう。俺もやりたかったしな。」

 

「今は無職のケガ人さ。まだ足が治りきってなくて走れないしな」

 

「早く治るといいな。それじゃ、あと任せた。お休み」

 

「あぁ、お休み」

 

 鉄野がログアウトし、体が消滅する。残された海崎は一人、コンソールに向かって指を動かし続けていた。窓の向こうには巨大なドッグが広がっている。そのど真ん中に、この世界の常識を根底から覆す存在の、最初の鋼材が敷き詰められていくのであった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。