再び造船所に入り浸ってさらに二週間、建造の進捗は80%を超えていた。艦体はすでに完成できあがっており、ドック注水式の進水式は行った。とはいえこの新鋭艦の存在をギリギリまで隠匿するため、進水式は海崎と鉄野の二人きりで静かに行われた。さらに進水式を行ったにもかかわらす、ある致命的な遅延が発生していた。
「で...名前決まった?」
相変わらずコンソールを操作しながら、鉄野は海崎に尋ねる。何を隠そうこの艦の名前が全く決まっていなかったのだ。
「うぅむ...そうだなぁ...」
これまで二人で何度も案を出し合ったものの、いまだに決めかねていた。実在した艦名はまず外すとして、かといってこのエイナス内の地名やNPCの人名を取るのは後の世間に反感を買うだろう。となるともはやこの二人独自の名前を付けるしかないのだが、その名前のセンスが全くなかったのだ。
流石に就工び造船所に入り浸ってさらに二週間、建造の進捗は80%を超えていた。艦体はすでに完成できあがっており、ドック注水式の進水式は行った。とはいえこの新鋭艦の存在をギリギリまで隠匿するため、進水式は海崎と鉄野の二人きりで静かに行われた。さらに進水式を行ったにもかかわらす、ある致命的な遅延が発生していた。
「で...名前決まった?」
相変わらずコンソールを操作しながら、鉄野は海崎に尋ねる。何を隠そうこの艦の名前が全く決まっていなかったのだ。
「うぅむ...そうだなぁ...」
これまで二人で何度も案を出し合ったものの、いまだに決めかねていた。実在した艦名はまず外すとして、かといってこのエイナス内の地名やNPCの人名を取るのは後の世間に反感を買うだろう。となるともはやこの二人独自の名前を付けるしかないのだが、その名前のセンスが全くなかったのだ。
「流石に就役の時には名前がないとなぁ、名無しの権兵衛じゃいくらなんでも可哀そうだせ...」
そういう鉄野本人が全く名前が思い浮かばないのである。そんなことを話しつつも、二人の目の前では機関砲が艦体に取り付けられていた。
「その時までには流石に名前をつけるさ。それよりもあと一息だ。この機関砲群は取り付けて終わりにしよう。」
「あいよ。」
「ところで、お前さんのガールフレンドとはうまくやってんのか?」
「からかうなよ。市販薬と...気分転換でお世話になってるだけさ。そんな特別なモノじゃない。」
「”気分転換”ねぇ...それで飯を待たされる身にもなってくれよなぁ...」
「それは...悪かった...」
そんな与太話をしつつも二人は作業を続ける。二人の眼前には、この世界では未だかつて存在しえなかった怪物が生まれようとしていた。
さらに数日後、海崎は今日もPCの前に座り、エイナスを起動した。エイナスを始めて以来すっかりゲーマーになった海崎。そろそろ足のケガも完治が見え始め、社会復帰を目指し始めるころ合いであった。だが海崎はいまだに就職先で悩んでいたのだった。
PCの電源をつけ、エイナスのアイコンをクリックする。それでいつものスタート画面が映し出されるはずだった。いつもなら。
「ん...なんだこれ...?」
開いたはずのエイナスのスタート画面に見慣れないメニューが表示される。”MODE REALISTIC”。メニューの一番下に青い文字で新しく表示されたその項目は、初めて見るものだった。
(昨日の大型アプデで追加されたのか。しかしこんなのパッチノートになかったと思ったが...まぁまた運営が記載ミスでもしたんだな。とりあえず見てみるか。)
新しい設定の類だろうと思いなんの躊躇もなくその項目をクリックする。その瞬間、海崎の視界は真っ白に染まった。反射的に目を腕で覆い隠す。その光は海崎の居る部屋を包み込んでいった。
「ん...ゔぅん...何が...」
朦朧としていた意識をなんとか呼び覚まし、立ち上がって目を開ける。白焼けていた視界も徐々に回復し、目の前の後継を目にする。しかし、その光景を理解するのに長い時間を要するのであった。
「は...?な...んだ...ここは...エ、イナス...?」
目の前には見慣れた光景が広がっていた。造船所、鋼材、クレーン、その奥に広がる雪の積もり始めた山。そして完成間近の巨大な艦影。だがその光景を目にしているのは、PCのモニター越しではなく、自分自身の目であった。
(な、なんだこれは、何が起こっている?!)
鉄の匂い、地面の感触、そして寒さ。本来なら感じるはずのない感覚に海崎は困惑していた。ここはゲームの世界、こんなことはありえない、はずだった。しかし今海崎は確かに、この「エイナス」の世界にいるのだ。
海崎はその場で立ち尽くし、考え込む。今まで起こったことを整理し、思考する。だがどれだけ考え込んでも、今思い浮かぶことはあのメインメニューの項目。
(”MODE REALISTIC”...これでは本当に、現実そのものではないか。そんなまさか...)
今の現状をなかなか受け入れられないが、海崎はさらに思考を深める。
(あの項目を押した瞬間に光に包まれた。こうなった原因は間違いなくあのモードのせいだろう。だがこんなことが...こんな技術が...まさか...魔法は実在した?)
現実主義の海崎でさえ、そんな非現実的な考えしか思い浮かばなかった。それほどまでにこの状況は異常であったのだ。
(こんな状況は俺だけなのか...こうなったら...誰かに聞くしかない...だが誰に...?)
そう思いつつも、海崎の脳内にはすでに一人の男が思い浮かんでいた。そしてその男との再会は、思ったよりも早いものであった。
突然、海崎から少し離れた場所に白い光が差し込む。いや、「着弾」したといっていいほどの音が鳴り響いていた。レーザー光線とも思える光景に、海崎はまたしても目を腕で覆い隠していた。段々とその光が弱まり、視界が回復する。なんとか光の先を確認すると、そこにはよく見知った男が倒れこんでいた。
「鉄野...鉄野!おい、しっかりしろ!聞こえるか?!」
海崎は急いで鉄野の元へ走り、声を上げる。幸いにも鉄野はすぐに意識を取り戻した。
「んぁぁ...クッソ何だってんだ...眩しすぎんだろ...おぉ...鉄野か。聞いてくれよ、全く酷い目にあって...ん?あれ?」
鉄野はあたりを見渡す。そして自身の体の感触を確かめ、頬をつねる。そして、先ほどまで海崎もしてたであろう困惑した表情を浮かべながら、明らかに動揺し始めた。
「は?え?あれ?モニターは?キーボードは?なして一人称なんだ?てか...寒い?」
海崎と全く同じ疑門を言い始める。その様子に海崎は新たに驚愕しながらも、自分と同じ境遇にいる者がいることに安心感を覚えてしまっていた。そして、海崎はいつか図書館でみた小説の現象を発する。
「鉄野、よく聞いてくれ。俺もさっき目を覚ましたが、俺たちはこのエイナスの世界に入り込んでしまった。おそらく...転生だ。」
その言葉を聞き、鉄野はさらに目を見開く。
「は?て...てんせい...転生?!」
鉄野の声が造船所にこだまし、すぐに静寂が訪れたのだった。