魔法世界の海に生きる   作:鉄野波琉

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地理設定
エイナス東方地区「ルステリア」
 数多くのダンジョンが存在する地区であり、荒地地形に低山、洞窟を有している。戦闘ギルドの他、お宝目当ての個人トレジャーハンターも多く住んでいる。

組織設定

エイナス中央委員会
 エイナス内でも高い戦闘力を持つ組織のリーダーや各種生活インフラを担う責任者などが集まり、エイナスの安定した生活を守るためのいわゆる政府組織。治安維持活動や地域生活整備の他、各地区の襲撃イベントや各組織が連携する大型ダンジョン攻略の指揮を取っていた。

エイナス聖魔法教会「アンタレス」
 エイナス内における最高戦力あり、各メンバーが戦闘魔法において最高レベルに到達している。魔法主義を掲げる宗教集団であるが、その高い戦闘能力からエイナス内での警察組織の一面もある。構成員は30名。そのうち半数がエイナス内治安維持システムとして各地区などに配置されているNPCである。エイナス内で悪質なプレイヤーキルなどが確認されると、運営の操作によって違反行為を行うプレイヤーを排除、その後追放処置を行なっていた。このような回りくどい方法をとるのはエイナスの世界観を重視し、あくまでエイナス内の組織が治安維持を行ったというロールプレイにするためである。

ギルド[ガレリアン]
 ルステリアに拠点を置くエイナス内最大規模の魔法ギルド。もっぱらダンジョン攻略を主として活動している。そのため多数のレアアイテムを保有しており、資金力も高い。メンバーは50名、こちらは全員プレイヤーである。

人物設定
 ランドリッヒ・ヴァン・ルフトレッド
「アンタレス」の団長を務める金髪碧眼の聖職者。現実世界ではドイツ人でありながら日本に住んでおり、日本語が堪能。さらなる言語交流を求めてエイナスを始めた。エイナス内では魔法を極めた最高レベルプレイヤーの一人であり、光魔法を巧みに操りレーザー攻撃や高速飛行、シールド展開など走攻守において隙がない。

 アルト・ノイゼント
「アンタレス」副団長を務める青髪翠眼の成年。エイナス運営が作成した警備NPCであり、違法行為を行うプレイヤーに対して拘束・討伐を行う。効率や秩序を重んじる性格であるが、魔法第一主義を唱える熱狂的な魔法教信者という設定を運営から与えられていた。




第一章 4話 リーダー

「それでは、定例会議を始めます。」

 

 トントレースの中でも中心部に位置する大きな教会で、会議が開かれていた。エイナス最高戦力たる「アンタレス」が集結し円卓を囲んでいる。月に数回開かれるこの会議では、近況報告や警備状況の報告が行われている。今日もいつも通りの会議であるはずだったが、今回に至ってはこの会議室に明らかに異質な空気が流れていた。正確には、出席メンバーの「半数」が、胸の内の動揺を隠すのに精一杯であった。

 

「この数日間で各ギルドや会社、戦闘集団が相次いで活動を一時休止していることが確認されました。各組織の声明では情勢の変化による調整のためであるとのことですが、あらゆる組織が一斉に活動を停止するのは前代未聞です。」

 

 アンタレスの副団長、アルト・ノイゼントが報告を行う。いつものように淡々とした口調で粛々と話す様子はまさに仕事ができる男である。これまでもエイナスでの治安維持活動、運営からの報告業務などをそつなくこなし、今日この場においてもそれな同じであった。しかし、アンタレス団長のランドリッヒの脳内は混乱寸前であった。

 

(何が起こってるんだ...アルトがまるで人間のように話している...NPCであったはずのアルトが、まるでずっとこの世界の住人のように振舞っている...彼だけではない、他のNPC達も皆そうだ。この世界は、実在していたとでもいうのか...?)

 

 アルトの報告の内容は既に知っていた。ランドリッヒ達がこの世界に転生してすぐに、中央委員会のメールチャットにて共有し、数時間前にもプレイヤーのみで会議を行っていたからだ。その会議での結論が「現状の把握、混乱が鎮静化するまで活動を停止。その後にエイナス脱出の為の方法を探る」というものであった。ありきたりな結論であったが、今はどう考えてもこれが精いっぱいであった。

 

「了解した。各組織の行動についてはこのまま監視を行ってくれ。大規模な作戦行動の為の準備段階かもしれない。警戒を怠らないようにな。」

 

「わかりました。メンバーを各地区に再配置、警戒態勢に当たらせます。」

 

 ランドリッヒがアルトに指示を出す。ロールプレイ上では魔法教会「アンタレス」とそのほかの武装組織とは良好な関係というわけではない。特に戦闘ギルドとは度々勢力範囲や資源を巡って衝突したこともあった。NPC達が自我を持っていると思われる今、馬鹿正直に我々は外の世界のプレイヤーだと言ってもまず信じるわけもないだろう。今は一旦これまで通りのロールプレイを続けるしかない。

 

「それともう一つ、ノーセット地区から輸入していた鋼鉄資源の件ですが、ここ数か月でその鉄資源の輸出量が激減、新都心開発に遅れが生じ始めました。どうも例の造船所に動きがあるようです。山岳の向こう側の寒冷地帯なためこれまでロクに進出しておりませんでしたが、不穏分子となる可能性を考慮し、こちらも警戒メンバーを送ろうかと思うのですが...」

 

 アルトが新たに報告を行う。正しく海崎達がいるノーセット造船所のことであった。これまで海崎達の主力産業であった鉄鋼事業であったが、魔法に対抗しうるフネを建造するために大量の鉄鋼資源を使うため、輸出が滞っていたのだ。

 

「そちらは把握している。造船所からは来月には輸出量を増加できると回答が来た。少し大きい船でも作っていたのだろう。それにルステリア地区に多めに人員を割かねばならない現状で、ノーセットに進出する余裕はない。放っておいていい。」

 

「了解しました...しかし新都心計画を遅延させるほどの鉄使用量となると、ずいぶん大きな船を作ってそうですね。科学側も頑張って足掻いてるみたいですね。愚かしいことです。」

 

「そういうな。彼らだって一生懸命生きているんだ。何も差別することはないだろう。言葉を慎め。」

 

「...失礼したしました。」

 

 NPC説明文で魔法第一主義と書いてあったが、いざ目の前にしてみるとどうにも科学側をよく思っていないらしい。特にランドリッヒはリアルではドイツ人、かつて自分の祖国が差別主義の帝国だった歴史があり、その歴史を決して繰り返してはならないと何度も教わってきた。そのためにアルトとはどうしても馬が合いそうになかった。

 

「近況については承知した。なにか大きな動きが起こるかもしれない。警戒を怠らず、各員のより一層の職務遂行を期待している。では次は今月の予算についてだが...」

 

 ランドリッヒはこれまでの定例会議をなぞる。もはやNPC達を騙すための演技と化した会議だが、ランドリッヒは淡々とこなしていた。だがこれから先、ランドリッヒにかかる重責は想像を絶することになる。その予感に押しつぶされそうになりながらも、表情は冷静を保ち続けていた。

 

 

 

 

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