「ッ!!」
かぐやのハンマーを見た瞬間、最後のピースがはまったようにパチリ、と頭の中で閃光が走った。そして、ハンマーを右手で掴んだ後、ゆっくりと立ち上がる。
(そうだよね、こんなとこで諦める私たちじゃない!)
『よっしゃ! やってやるぞー!』
『私たちが揃えば百人力士像! どんな相手だって大丈夫!』
「うん、わかってる!」
じゃあ、やろうか。下剋上!
気合を入れ直した私は左手に持つ傘を広げて全力で広場に向かって投げた。投げられたそれは高速で回転し、チェンソーにも似た音を響かせながら広場へと飛び出す。
「おっと。来ると思ったぜ」
だが、帝もヤチヨの傘が飛んでくると予測していたのか、軽々と回避して――私の見た瞬間、ニヤリと笑った。その視線の先はかぐやのハンマー。
「はは、運がいいな! 吹っ飛んだ先にハンマーがあったか!」
「そうだね、私は運がいいよ!」
だって、私は
傘が向こう側の竹林へ消えていくのを見ながらハンマーを担いでランチャーモードに切り替える。そして、うなぎ型の弾丸を放って牽制。もちろん、そんな攻撃など彼に通用するわけもなく、剣で軽々と弾かれた。
「でも!」
だが、本命は数秒程度の時間稼ぎ。吹っ飛ばされる前に投げたブーメランが帰ってきたため、それをタイミングよく掴んで再び、投擲。それも簡単に避けられる。
「そんな攻撃じゃ意味が――」
「――喋ってる暇あんの!」
ブーメランを避けた帝は僅かに態勢を崩していた。そこへハンマーを横薙ぎに叩き込む。さすがに細い剣で受け止めるわけにはいかないからか、それも後ろに飛ぶことで回避。そして、そこへ近づいてくるチェンソーの音が一つ。
「なっ!?」
彼が地面に着地すると同時に竹林からヤチヨの傘が戻ってきた。まさか回避した先に傘が飛んでくるとは思わなかったようで彼は咄嗟に剣を鞘に戻し、金棒にして傘を殴った。凄まじい火花が散ると共に金棒が真上にかち上げられ、ヤチヨの傘は狙いすましたように私の方へと帰ってくる。
「もういっちょ!」
跳躍して傘を掴み、顔を歪ませている帝へ投げた。直撃すればアバターを真っ二つにする一撃必殺の攻撃が彼に迫り――その下を潜り抜けるように強引に倒れ込んだ。しかし、完全には逃げきれず、彼の金棒を持った右手首に傘がヒット。そのままスパッと両断してしまった。
「こ、のっ!」
「ガッ」
金棒が宙を舞う。そして、一矢報いると言わんばかりに彼がそれを蹴り、私の顔面に直撃した。残りHP二割。大したダメージは入らなかったが運悪く、スタンが入ってしまった。
「これで、終わりだ!」
「ッ――」
それはまさに咄嗟の行動だった。目の前に迫る彼を視認してスタンから立ち直った直後で回避できない私はあえてその場で跳躍。そして、帝の拳が私の腹部へ突き刺さった。
(HP、は――)
吹き飛ばされ、視界がグルグルと回る中、自分のHPバーを確認する。ガリガリと減っていくそれは残り数ドットのところで止まった。跳躍したことで体を後ろへ飛び、ダメージが入りきらずに僅かに軽減できたのだろう。
(お願い、ヤチヨ!)
まだ戦える。そう判断した私は頭の中に格納された『ヤチヨ.zip』からありったけの情報を自分へと流し込む。ツクヨミの成り立ち。使われているソースコード。アバターのポリゴン数。物理エンジンの癖。なにより、実体のない体で動かせる限界可動域。
凄まじい情報の奔流にズキリ、と頭が痛くなる。でも、私は止めない。ここで止まるわけにはいかない。
(お兄ちゃんがチートを使ったのは私たちのため……)
それだけ彼は私のことを心配していた。それだけ私は彼に心配をかけていた。
だから、証明したい。私はもう大丈夫だよ。お母さんにだっていい負けないぐらい強くなったよ、と。ずっと見守っていてくれていたお兄ちゃんに胸を張って宣言したい!
――演算終了。
「ま、だっ!!」
何とか空中で態勢を立て直して後ろに立っていた竹に両足を叩きつける。ベクトルは斜め上。僅かにしなったおかげで勢いが付いた私はカタパルトのように射出され、上空へと跳び上がった。
「ッ」
ズキズキと痛む頭を意図的に無視して戦場を観察する。眼下には右手を失った帝。金棒はまだ空中にある。それを見た私はかぐやのハンマーを高々と掲げて呼吸を止めた。
「―――」
上空にいる私を見上げた帝は重心を低くして目を細める。ハンマーの攻撃は強力だが、大振り。回避に専念すればやり過ごすことはできる。だから、避けるタイミングを見極めようとしているのだろう。
(やっぱり、すごいよ、お兄ちゃん)
今もなお、諦める様子のない彼の姿に私は素直に称賛を送った。
こっちは三つの武器を使い、ヤチヨの記憶でズルまでしている。それでもお兄ちゃんには届かない。あと一歩、どうしても彼との間にある溝を埋めることができなかった。
私とかぐやが一緒に戦った時もそうだ。撃退はできたが最後には試合に負けてしまった。
私とかぐやが組んでも駄目。私とヤチヨでズルをしても駄目。もちろん、私だけなら何もできずに終わっていた。
きっと、誰一人とて欠けてはならないのだろう。私も、かぐやも、ヤチヨも。
だから、最後のパーツが足りなかった。竹林でかぐやのハンマーを見て彼女の声を思い出すまでは。
帝はプロとしての経験を活かし、三種類の武器を相手にしても優勢を保っている。だが、その経験を超えるような行動をしたら?
あの竹取合戦二戦目で魅せたかぐやのように。
(そう、私たちには――
「ッ!?」
左右の竹林から物音がして帝が目を見開いた。左からは空気を切るような回転音。そして、右からは彼の右手首を斬り落としたチェンソーの音。更にトドメとばかりに私の持つハンマーからバボン、という音と共にジェットが着火。
「いっけー!!」
私が勢いを増したかぐやのハンマーを振り下ろすのと帝を挟むように私のブーメランとヤチヨの傘が飛び出したのは完全に同時だった。
「――ッ」
私が、かぐやが、ヤチヨが、照らし合わせたようにお兄ちゃんへと襲い掛かる。絶妙に位置を調節したそれらは彼がどのように回避したとしても必ずどれかに直撃するだろう。それを瞬時に判断したのか、身構えていた彼は小さく息を吐いて――苦笑を浮かべた。
「……なんだよ、大丈夫そうじゃん」
そして、私たちの攻撃が彼の体を捉え、HPバーを消し飛ばした。