いろヤチ十年奮闘記   作:ホッシー@VTuber

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投稿No:12






2030年9月27日(金)20:30

「あー、負けた負けた!」

 

 一本先取というルールだったため、帝のHPバーをゼロにした瞬間、私の勝利が確定した。だからだろうか、リポップした彼は悔しそうに――それでいて楽しそうに大きな声で叫んだ。

 

「まぁ、ズルしまくってたけどね」

 

 ヤチヨの記憶とかマジでチート。あんまり使いすぎると頭痛がするし、自認ヤチヨしかけるけど。これは使い慣れるまで練習した方がよさそうだ。

 

「それを超えてこそのプロだっての……それはそれとしてヤチヨちゃん、いるんだろ?」

「はいは~い」

 

 プロとしてのプライドが許さないのか、帝は肩を落としながらも誰もいない宙へ声をかける。すると、ヤチヨがポン、と可愛らしいSEと共に現れた。

 

「どうだったー? 『SETSUNA』の新モード。これまで以上にハラハラするような戦いができると思うんだけど」

「全部わかってるって。ほら、コメント欄も見せて」

「あ、あちゃちゃ……さすが天下の帝様」

 

 どこか呆れたように笑う帝とどこか気まずそうにしてウィンドウを弄るヤチヨ。そして、私たちの前に別のウィンドウが出現した。そこには凄まじい勢いで流れるコメントの嵐。ヤチヨの配信でもここまでの弾幕はなかなか起きない。

 

「じゃあ、改めて。よう、子ウサギども。お前らの帝様だぜ」

「こんばんは、いろPです。お騒がせしてすみません」

「と、いうことで今回はなんとドッキリ企画! 『帝様にドッキリを仕掛けちゃおう配信』でした!」

 

 笑ってヤチヨが宣言するとババン、と私たちの頭上に『ドッキリ大成功!』という文字が出現した。

 

 実はヤチヨがこのフィールドから転移した後、彼女のチャンネルでこの一件を配信してもらっていたのである。もちろん、お兄ちゃんにチートを使った理由を聞き出してリスナーたちに聞かせるためだ。お兄ちゃんの本心がわかっていない状況でこんな博打染みたことをするのはあまり気が進まなかった。しかし、こういうのは本人の口から聞いた方がいいに決まっている。だから、強引に聞き出して配信で流した。

 

(問題は――)

 

 お兄ちゃんは私とかぐやのためにチートを使ったと断言した。利子私欲のためではない、ということは伝わったと思う。

 

 しかし、リスナーはかぐやが卒業しただけで月に帰ったことを知らない。あの戦いはあくまで余興であり、ただの遊びだったと認識している。その辺りはヤチヨが私たちの戦いを実況・解説するついでにリスナーにいい感じに伝える、と言っていたがどんな風に説明したのかまでは最後まで教えてくれなかった。もう少し時間があれば一緒に考えたのだが、今回は急を要したので仕方ない。

 

「おー、ずいぶんと盛り上がってるな!」

 

 コメント欄を覗き込んだ帝の声にハッとした私も慌ててそれを見る。お兄ちゃんに対する誹謗中傷が書かれているのか、かぐやに関して疑問視する声があるのか。

 

『めっちゃ鳥肌! いろPかっこよすぎ!』

『いろPとかぐやとヤチヨが協力して帝を討つ!』

『最後の同時攻撃マジやばかった!』

『いろP結婚してくれ。いや、かぐやと結婚してくれ』

『かぐやちゃんが卒業してもいろPの傍にいるんだね……』

 

「へ?」

 

 そこに流れていたのは私を称賛するコメントばかり。あまりに数が多く、私は思わず目を白黒させてしまった。

 

「あ、あれ? ドッキリの感想は?」

「神々のみんな、いろPの戦いに心を打たれちゃったみたい! ヤッチョもほんっとうに感動した!」

「ひょわぁ!?」

 

 予想とは違う反応に戸惑っているとヤチヨが私に抱き着いてくる。感触はないが突然の推しのドアップに変な悲鳴を上げてしまった。彼女がかぐやなのは知っているものの、まだ慣れておらず、不意打ちされるとオタクが溢れてしまう。

 

「彩葉、今から言うこと、驚かないでね」

「っ」

 

 あわあわしていると耳元でヤチヨが小声でそう囁いてすぐに離れた。もしかして、かぐやの説明した時にとんでもない誤魔化し方をしてしまったのだろうか。

 

「……」

 

 とりあえず、お兄ちゃんの方へ視線を送る。察しのいい彼のことだ、私たちがどんな目的でこのドッキリ配信を仕掛けたのかわかっているはず。そして、予想通りにお兄ちゃんは私の視線に気づき、僅かに頷いた。

 

「じゃあ、ネタバレの必要もなさそうだから今日の配信はここでクローズ! 多分、後で『Black onyX』から正式にお知らせがあると思うから事情を知らない人は要チェック!」

「騒がせて悪かった! 必ずお知らせは出すから少し待っててくれよ!」

 

 ヤチヨの言葉にお兄ちゃんが咄嗟に合わせる。ここで具体的なことを言ってヤチヨの言い訳と矛盾が生じたら今度こそ終わりだ。だから、辻褄合わせをする時間が必要なのである。きっと、ヤチヨが言っていた『驚かないで』というのはアドリブで合わせて、ということなのだろう。

 

「あ、それと! 配信でも言ったように今度、私といろPのコラボライブをやるよ! その詳細も後で出すからお楽しみにー☆」

「……は?」

 

 そう考えていたところへヤチヨの口からとんでもない告知がされ、驚きすぎた私の心臓は簡単に止まった。

 

 

 

 ……え? コラボライブ?

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