「はぁ!? ヤチヨちゃんがかぐやちゃん!?」
帝アキラドッキリ配信から数十分後、場所を――屋外のミーティングルームに移動した私たちはお兄ちゃんに事情を説明。もちろん、芦花や真実と同様にすぐには信じてもらえず、それなりに時間がかかってしまった。
「いや、でも……マジか……」
「驚いたー?」
「そりゃそうだろ。はは、彩葉に肩入れするに決まってるわ」
理解してもなお、飲み込みきれないようでお兄ちゃんは乾いた笑みを浮かべた。まぁ、私も最初は戸惑ったので気持ちはわかる。
「や、ヤチヨ……あの、それで、コラボライブって?」
お兄ちゃんへの説明が終わるまで必死に我慢していたがさすがにもう無理だった。配信の最後に彼女が告知した私とヤチヨのコラボライブ。そんな話は聞いていなかったため、今もなお困惑中。
(こんなの炎上待ったなしだよ……)
ヤチヨカップのような催しがなければこんな一般ピーポーとコラボしたらヤチヨファンたちは烈火の如く、怒り狂うに決まっている。今頃、SNSには『いろP 何様』と大量に呟かれていることだろう。
「んー、その前にかぐやのことをどんな風に言ったか説明するね!」
恐怖でガタガタと震える私を見て何故か愛おしそうに目を細めたヤチヨはいつも以上にテンションが高い。多分、コラボライブが待ちきれないのだろう。
「配信内で帝が彩葉とかぐやのためにチートを使ったって言ったけど最初は『演出にチートを使うのはおかしい』ってコメントがたくさん流れたよ」
「まぁ、そりゃそうだな」
「うん、だからかぐやは家出娘で事情を聞いた彩葉が匿ってたって説明したの」
『あながち間違いじゃないしー?』とあっけらかんとした様子で笑うヤチヨ。確かに月から逃げ出した=家出と言っても間違い、ではないのか?
「堅苦しい家柄でずっと楽しいことを経験できなかったかぐやちゃんはもう耐えられない、と家出。そして、行く当てのない彼女の前に現れた彩葉は家に連れて行き、快く居候を承諾! そう、その出会いはまさに運命! 彼女は彩葉に見守られながら毎日楽しいことをして笑っていました」
なんか始まったぞ。それにかぐやが来た頃は早く帰ってくれと思っていたから全然、快くないんだけど
「しかし、たった一か月でトップライバーになってしまったかぐやちゃんは運悪く実家に見つかってしまいました……どうしてもかぐやと一緒にいたい彩葉は交渉の末、勝負をすることに」
「うんうん」
ヤチヨが全身を使って力説する中、おにいちゃんはなるほど、と腕を組んで頷いている。そうだ、この人、かぐやファンだった。今のヤチヨははしゃいでいるからか、いつものミステリアスな雰囲気が吹っ飛んでおり、以前のかぐやっぽい振る舞いをしているから何かしらの琴線に触れたのかもしれない。
「彩葉は一人ではかぐやちゃんを守れないと思い、仲間たちへ声をかけました。そして、始まる卒業ライブ。集まった仲間たちは必死に抵抗しますが家が用意した敵はあまりに強力。あの『Black onyX』がチートを使っても勝てず……かぐやちゃんは家に連れて行かれてしまったのです……」
「くぅ、俺たちがもっと強かったら!!」
「いや、そのノリもういいから」
「因みに神々のみんなの反応は概ね良好☆ 作戦大成功の介!」
つまり、ヤチヨは脚色を付けたものの、かぐやが卒業しなければならない原因をありもしない実家に押し付けたのだ。そうすればお兄ちゃんがかぐやを守るためにチートを使ったのも筋が通るし、かぐやファンたちの矛先を架空の実家へ向けられる。
むしろ、お兄ちゃんは自分の立場が危うくなるのも承知の上でチートを使ったという美談になるため、今回の炎上はその方向で鎮火するように仕組めばいい。最初に流れを作らなければならないかもしれないがその辺りはヤチヨに任せよう。昔から掲示板に色々と書き込んで遊んでいたみたいだし。
「……ん? 私とヤチヨがコラボライブする理由は?」
ホッと安堵のため息を吐いた束の間、重要な部分の説明がまだなことに気づいた。
「現状だとかぐやが卒業したのって家の事情でしょ? もし、それを解決できたら『かぐや、復活!』ってなると思うんだ」
「まぁ……かぐやなら速攻で戻ってくるとは思うけど」
『いやぁ、戻ってきちゃったわぁ!』と照れ臭そうに笑って配信を始める悪童の顔が浮かぶ。リスナーたちに『人騒がせな! でも、おかえり!』と言われるだろう。
「でも、今のままだとそれはできない。私たちの準備ができてないから」
「……うん」
最終的に私はヤチヨ――かぐやに体を与えるつもりだ。しかし、それは何年も先の話。軽く考えただけでいくつも壁を越えなければならないだろうし、膨大な時間とお金がかかる。今の私では何もかも足りていないのは明白だ。
「その間、時間は進み続ける。きっと、何もしなければ『かぐや』というライバーはいずれ忘れられちゃう。だ・か・ら!」
「へ?」
悲しげに話していたはずのヤチヨだったが、いいこと思いついた、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべて私の両手を掴んだ。突然のことに体を硬直させてしまう。
「ツクヨミの顔である私とかぐやのプロデューサーである彩葉が定期的にコラボをして『かぐや』を神々のみんなに覚えててもらう! そうすれば『かぐや』が戻ってきた時、みんなからきっと祝福されるかなって!」
「私たちが……かぐやを……」
かぐやというライバーは確かにいた。それを証明し続ける。そう考えた瞬間、胸の奥で何かがドクン、と脈を打った。