いろヤチ十年奮闘記   作:ホッシー@VTuber

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投稿No:14






2030年9月28日(土)0:35

「……」

 

 カチコチ、と時計の秒針が時を刻む音が聞こえる。そんな中、私は布団の中でジッと天井を眺めていた。

 

(私とヤチヨがコラボライブ……)

 

 考えるのは日付が変わる前にヤチヨから聞いた話、『かぐや』が忘れ去られないように活動すること。

 

 かぐやは人気があった。たった一か月でチャンネル登録者数が百万人を超え、卒業ライブには多くの人が参加してくれたほどに。

 

 しかし、時間は残酷だ。ヤチヨの言うとおり、かぐやがどんなに人気があったからといってずっと覚えていてくれる人は少ないだろう。数年も経てば彼女の存在は多くの人の記憶から忘れ去られるだろう。

 

「……」

 

 数年。その頃の私は大学で勉強しているはずだ。『かぐや』の体が完成しているわけがない。つまり、何もしなければ彼女は――。

 

「――はぁ」

 

 わかっている。わかってはいるのだ。きっと、『かぐや』を覚えていてもらうために私が動かなければならないことぐらい。だって、かぐやといえばいろP。そう言われるほどかぐやにとって私という存在はなくてはならない。いや、自分でそんなこと考えるとか恥ずかしいな。

 

 だが、いくつか懸念点がある。

 

 一つ、単純に時間がないのだ。理転する関係上、私はこれまで以上に勉強する時間を確保しなければならない。いいや、違う。大学に入学してからも夢に向かって人一倍、努力が必要になる。だって、私がやろうとしていることは今の科学では達成できない。だから、私自身が科学を発展――ブレイクスルーを起こさせなければならないのだ。

 

 二つ目、私に『かぐや』のようなライバーの才能はない。配信で『いろP』が有名になったのはかぐやがいたからだ。全力で周囲を巻き込みながら破天荒なことをする彼女がいたからこそ、一緒にいた私も名前が売れた。

 

 だが、ヤチヨの言うようにかぐやのことを覚えていてもらうため、コラボライブ以外にも配信活動をする必要があるだろう。でも、私一人でどんな配信をすればいいか、全く思いつかない。かぐやのような好奇心と閃き――なにより、ファンたちを笑顔にしたい、という気持ちを彼女ほど持ち合わせていないのだ。

 

 三つ目。正直な話、お金がやばい。学費、生活費はもちろん、マンションの家賃35万円が大きすぎる。ただの女子高校生が払える額ではないし、あのお母さんのことだから理転の話をすれば大学の学費も自分で何とかしろ、と言うはずだ。奨学金は貰えるかもしれないがアルバイトだけで稼ぎきれる額ではない。

 

 最後――ヤチヨファンたちの反応だ。きっと、『かぐや』を忘れさせたいために活動することになればヤチヨと一緒に配信することが多くなるだろう。コラボライブで共演したとはいえ、私はただの一般ユーザー。ツクヨミの管理人であるヤチヨが定期的にコラボしていい器ではない。きっと、ヤチヨのファンたちは私のことを良くは思わないだろう。

 

「……」

 

 問題だらけだ。私一人ではどうにもならないことが多すぎる。だから、ヤチヨには申し訳ないがこの話はなかったことにしてもらおう。

 

 

 

 それが正しいとわかっているのに――なんで、胸の奥がジクリと痛むのだろうか。

 

 

 

『いーろは』

「ッ……ヤチヨ?」

 

 突然、机の上に置いていたタブレットに光が灯り、ヤチヨの声が聞こえる。思わず体を起こしてそちらを見ればタブレットの画面の向こうで彼女は優しく微笑みながら手を振っていた。

 

『眠れないの?』

「……まぁね」

『ヤッチョが話したこと?』

「……うん」

 

 彼女にはお見通しだったようで素直に頷いた。そんな私を見てヤチヨはくすくすと小さく笑う。こっちは真剣に悩んでいるのに笑われて思わずムッとしてしまった。

 

『あはは、ごめんねー。彩葉、可愛いなーって思って』

「可愛くありませんよー」

『そんなことないよ』

「ヤチヨ?」

 

 いつものおふざけだと思い、軽口で返したが彼女から思いのほか真面目な声が漏れたため、驚いてしまう。

 

『ねぇ、彩葉。スマコン、付けられる?』

「え? 今からツクヨミにログインするの?」

『ううん、大丈夫。付けてくれたらこっちで何とかするから』

 

 まぁ、それぐらいならいいか。私は素直に立ち上がってスマコンを手に取って目に装着した。

 

「これでいい?」

『うん! じゃあ、布団へお戻り~』

「なんなの?」

 

 よくわからないまま、布団に戻る。視界いっぱいに見慣れた天井。さすがにスマコンを付けたまま、寝るわけにはいかない。

 

『ばぁ!』

「ぎゃああああああ! ぐぇっ」

 

 そして、目の前に広がった最推し(ヤチヨ)を見て心臓が口から飛び出した。目にも止まらぬ速さで飛び起き、一刻も早くその場から離れるため、何度も前転してその勢いで壁に激突する。

 

『い、彩葉!? 大丈夫!?』

「い、いたた……今の、な、に……」

 

 ジンジンと痛む額を撫でながら顔を上げると私の部屋に電子の歌姫がいた。その姿はまさに竜宮城にいる乙姫。体を動かす度にひらひらとした衣装が揺れ、キラキラとした何かを幻視する。それぐらい、今のヤチヨは輝いて見えた。

 

 

 

 

 

「ヤ、チヨ?」

『改めてこんばんは、彩葉』

 

 茫然とする私に手を振るヤチヨ。幻、ではない。でも、本物でもない。それでも、彼女は確かに私の部屋に舞い降りた。




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