「だ、駄目……まだ混乱してる。ヤチヨはかぐやちゃん? でも、どうして……」
「あ、あわわ、私の家にヤチヨがいるぅ」
時と場所は変わって仮想空間『ツクヨミ』の真実の家。さすがに喫茶店とかで話をするわけにはいかないと判断した私たちは家に帰り、『ツクヨミ』で集合することにした。もちろん、ここでも人の目や耳はあるため、誰も邪魔されない場所として真実の家に集まったのである。
「うわぁ、懐かしい~。このお風呂、何度か入らせてもらったなぁ」
未だに目を白黒させている二人を放置してヤチヨは真実の家を見渡して嬉しそうに笑っていた。かぐやの時は何度か遊びにきていたがヤチヨとして来るのは初めて。やはり、感慨深いものがあるのだろう。
「さて、と。ほら、説明するからヤチヨ、戻ってきて」
「はいは~い!」
家のリビングに設置されたソファ。すでに座っていた芦花と真実の正面に逸する場所に腰かけると遅れてヤチヨも隣に座った。
「……近くない?」
「えー? そうかなぁ?」
しかし、問題はその距離。腕はピッタリ――というか今まさに私の腕に抱き着いてきた彼女は上機嫌で首を傾げる。まぁ、可愛いからいいか。
「えっと、話の続きなんだけど」
「あ、そのまま、話すんだ」
「あの彩葉が推しから腕に抱き着かれても平然としてるなんて……」
「こらそこ、黙って聞く」
私だって考えないようにしているんだから。あ、待って、意識したらやばい。思い出せ、思い出せ、ヤチヨはかぐや。ヤチヨはかぐや。かぐやはヤチヨ。かぐやはヤチヨ。うん、無理。だって、かぐやでもヤチヨでも今の私にはクリティカルヒットなのだから。
「ごめん、やっぱ少し離れて……」
「りょ~」
「照れた」
「照れ葉だ」
「うっさい!!」
それから私は改めてヤチヨがかぐやであること。もう一度、地球に戻ってこようとしたところで事故に遭い、八千年前の地球に不時着してしまったこと。そして、八千年もの間、孤独に耐えながらこの未来まで歩み続けてきたことを話した。
「そっか……かぐやちゃん、頑張ったんだね」
「これからは一緒だね!」
「ッ……うぅ、ヤチヨは果報者なのです。こんな素敵な友達がいるなんて~」
話を聞き終えた芦花と真実はどこか泣きそうな顔をしながらも再会を喜んでくれた。ヤチヨもおどけたように言っているが本心では飛び上がりそうなほど嬉しいに違いない。え、なんでわかるかって? 一瞬でもヤチヨになりかけた私は彼女の考えそうなことぐらいなんとなくわかるのだ。
「でも、これからどうするの?」
再会を喜んでいた芦花だったが、ふと不安そうな顔をこちらに向けて問いかけてきた。ヤチヨは思念体。ツクヨミや電子機器を通せば交流することは可能だが、直接触れたり、物を食べたりすることはできない。
「……二人には聞いてほしい。私の夢」
「夢?」
「うん」
ヤチヨの記憶を見た後、まだ私たちの物語は終わっていないことに気づいた。だって、お話は『めでたし』で締めくくられるが、現実は違う。私たちが諦めるまで物語は続くし、この先に待ち受ける未来は誰にもわからない。
だから、決めた。
「私がヤチヨの――かぐやの体を作る」
それが私の夢。かぐやの体を作り、現実世界でも触れ合えるようにする。この八千年の間、彼女がずっと求めていた人の温もり、パンケーキの甘さを取り戻してみせる。
「体を、作るって……どうやって?」
「まさかロボットを作るなんて言わないよね?」
「そのつもりだけど」
「ええ!? だって、彩葉、文系じゃん!」
冗談のつもりだったのだろう。真実の言葉に私が頷くと彼女は目を見開いて驚いた。そう、私は元々、法学部を目指していたから文系。だが、かぐやの体を作るには工学の道に行くしかない。だから――。
「――理転する」
文系から理系へ進路を変える。そして、研究職となり、どこかの研究所へ所属して彼女の体を作る研究をする。それが私の夢を叶えるための計画だ。もちろん、担任の立花先生も驚くだろうし、お母さんだって反対するだろう。
「絶対に叶えたいんだ」
それでも、叶えてみせる。ハッピーエンドで連れて行ってみせる。
「……そっか。いい夢だね」
「私たちも手伝えることがあったら手伝うよ」
そんな私の夢を真実も芦花も笑わなかった。むしろ、手伝わせてほしいと言ってくれた。それが嬉しくて、頼もしくて、心強かった。
「――うん、ありがとう」
もう、昔の私じゃない。なんでも一人でやろうとする私じゃない。そして、こんな私にしてくれたのはかぐやだ。かぐやがいてくれたから私は変わることができた。
「ふふっ」
そんな私たちを見てヤチヨは優しく微笑む。まるで、他人事のように。傍観者として長い間、過ごしていたせいでその立ち位置に慣れてしまっている彼女を放っておけなかった。
「もちろん、ヤチヨにも手伝ってもらうよ!」
だから、私は声に出して誘う。自分の気持ちを言わなければ相手に伝わらない。察してくれ、などというのはあまりに傲慢だ。それもかぐやと過ごして学んだこと。かぐやと別れて思い知らされたこと。
「え?」
「だって、私が工学の方へ進んだとして中身――プログラムの方も必要でしょ? だから、このツクヨミを作ったヤチヨの力が必要なわけ。だから、一緒にやろう、ヤチヨ」
「ッ……うん!」
私が手を差し伸べるとヤチヨは目に涙を浮かべて抱き着くように取った。そんな私たちを見て芦花と真実は苦笑を浮かべている。その顔は私とかぐやが騒いでいる時に見せていたそれにそっくりだった。
「よし、この調子で共犯者を集める!」
「もー、共犯者ってなに~?」
「彩葉、かぐやちゃんに似てきたね」
「えへへ、そうかな~?」
「なんでヤチヨが照れるの?」
そんな漫才みたいな会話をした後、全員で声に出して笑った。楽しい。こんな日常を私が取り戻したかった。だから、諦めるわけにはいかない。絶対に。
「あ、お兄ちゃんたちにもヤチヨのこと話さないと。配信してないといいんだけど」
「え?」
ツクヨミからネットを繋ぎ、お兄ちゃんのチャンネルへ飛ぼうとしたところで芦花が驚いたような声を漏らした。なんだろうと顔を上げると私以外の全員がどこか悲しそうな表情を浮かべている。
「え、どうしたの?」
「彩葉、色々とあったから知らないよね」
「帝様たち……ちょっと大変なことになってるんだ」
「……え?」