いろヤチ十年奮闘記   作:ホッシー@VTuber

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投稿No:8






2030年9月27日(金)20:10

 PvPモード『SETSUNA』。制限時間内に相手のHPを削り切った方が一本。先に二本とった方の勝ち、という格ゲーに似たルールだ。

 

 しかし、このルームはカスタム――ある程度のルールを変更して戦うことができる。ルールは制限時間なし、HPを約二倍にして、先に一本取った方の勝ち。そして、ヤチヨがちょちょいのちょいと付け加えた武器の交換、同時に展開可能、という特別ルール。

 

「……」

 

 お兄ちゃんが構えたのを見て私もいつも使っているブーメラン型の双剣を手元に出現させた。最初から分離させて両手に持ち、その時が来るのを待つ。

 

「ッ――」

 

 試合開始の合図。その瞬間、私は後ろへと全力で下がった。そして、その直後、先ほどまで私がいた場所に無数の弾丸が撃ち込まれる。

 

「へぇ、予測してたのか」

 

 何食わぬ顔で妹を蜂の巣にしようとしたお兄ちゃんに私は思わず顔をしかめてしまう。だが、これでいい。正直、真正面から戦っても彼に勝てるとは微塵も思っていない。ヤチヨカップの時だってかぐやと二人がかりで不意を突いてなんとか撃退できただけで完全に勝利したとは言えなかった。

 

「よっ」

 

 このフィールドは中央に広場があり、その周囲を竹林が囲っている。私はそのままの勢いで竹林へと身を隠すように飛び込んだ。そんな私を怪訝そうな目で見送るお兄ちゃん。

 

「おいおい、逃げんのか? ずいぶんと慎重だな」

「まともにやって勝てるとは思ってないつーの!」

 

 向こうの軽口に言い返しながらブーメラン状態に戻し、全力で斬撃を飛ばす。数本の竹を切り倒しながら進むそれを彼はあの時のように屈んで軽く避けた。

 

 だが、その隙に分離した双剣の先端からクナイを飛ばす。もちろん、そんな攻撃は通用するはずもなく、金棒で簡単に弾き飛ばされてしまった。

 

「よっ」

 

 しかし、それは知っている。私はクナイに繋がっているワイヤーを指で引っ張って軌道を変え、お兄ちゃんの背後に立っている竹に巻き付けた。そのままワイヤーを回収して竹を強引にしならせる。そして、その場で跳躍。引っ張られていた竹が元に戻り、私の体はそれを追いかけるように上空へと投げ出された。

 

「ほう?」

 

 上へ飛んだ私を見てお兄ちゃんは感心したように声を漏らす。だが、余裕を見せられるのも今のうちだ。ウィンドウを操作して手に持っていた双剣を格納。そして――。

 

「なっ!」

 

 

 

 ――彼女が使っていた竹を模したハンマーを取り出した。

 

 

 

(借りるよ、かぐや)

 

 触覚がないのに不思議と重量感を覚えるそれを両手で持ち、体を丸めて前方へ重心を傾ける。くるりとその場で一回転して遠心力を身に宿し、タイミングを合わせて全力で眼下にいるお兄ちゃんへ全身全霊を込めてハンマーを振り下ろした。

 

「くっ」

 

 さすがに金棒で受け止めるわけにはいかないと判断したのか、彼は顔を歪ませて全力で右に飛ぶ。その直後、ハンマーが地面を叩き、その破壊力に先ほどまで地面だったポリゴンが盛大に宙を舞った。

 

「逃がすか!」

 

 ハンマーは一撃の破壊力は高いが取り扱うのが難しい武器。態勢を立て直すのに時間がかかる。だが、それはあくまで普通に振り回したらの話。私は再び、ハンマーを格納しつつ、双剣を取り出す。それを空中で掴んでハンマーが消えるのを目の端に捉えながら双剣の切っ先をお兄ちゃんに向け、双剣の片方を投げた。

 

「甘い!」

 

 しかし、飛んだことで態勢を崩しているはずなのに彼は器用に金棒を剣の軌道上に置き、火花を散らせながら後方へと流す。ここまでやっても追い込み切れない。でも、それもわかっていた。

 

「ッ――」

 

 強引に剣を弾いたことで彼の持つ金棒が僅かにだが上にかち上げられる。そして、それを待っていたかのように私はその懐へと潜り込み、何も持っていない右手を握りしめて全力でその顔面に叩き込んだ。

 

「ごっ」

 

 殴られたお兄ちゃんは後ろへと吹き飛んで地面に転がる。それと同時に彼のHPバーが一割ほど削れた。

 

(一撃、入れた……)

 

 今しがた彼を殴った右拳に視線を落として驚いてしまう。確かにお兄ちゃんと戦うために色々な戦法を考えてきた。しかし、ここまで上手くいくとは思っていなかったのである。

 

(それに、この感覚は)

 

 仮想空間『ツクヨミ』は五感のうち、触覚、味覚、嗅覚を実装していない。特に触覚がないと地面を蹴ったり、剣を振ったりした時にどうしても現実とのギャップを感じてしまう。そのせいでこれまではどこか現実味のない、どこかふわふわとした感覚を抱きながら戦っていた。

 

 だが、今はなんというか――しっかり感知できているような気がする。どのように操作すればアバターがどんな風に動くのか。それを完璧に予測できる。いや、違う。これは――。

 

「まさか殴られるとはな。でも、どうやってあんな短時間で接近できた?」

「……ハンマーが消える直前にその柄を蹴った」

「あー、剣を飛ばすことでその動作を見られないようにしたのか。我が妹ながらなんとデタラメな……」

 

 のろのろと立ち上がりながらもどこか嬉しそうに笑うお兄ちゃん。その途中、チラリと彼のHPバーを確認する。ただの殴打だったため、さほど減っていなかった。しかし、プロゲーマーである彼に一撃を入れた、という事実は変わらない。

 

(さぁ、ここからだ)

 

 ここまではあくまで前座。僅かな違和感を抱きながら私は投げた剣をワイヤーで回収しながら小さく息を吐いたのだった。

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