二色の魔眼と錬鉄の呪術師   作:lambdazero

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姉妹校交流戦 二

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合流した、正門にて。

 五条が皆に説明をしている。

 その後方で待っている、虎杖と雪。

 遠目に見る反応は、愕然と言うか、露骨な敬遠というか。

 乙骨がいることに、向こうの生徒が明らかにしかビビっている。

 白い制服は二人に増えているというのに。

 全部引っくるめて、聞いてないという不意打ち。

「……まぁ、歓迎はされねえわな」

 自嘲する虎杖に、雪は笑って言う。

 もう役目を終える彼は狙われる理由は無い。

 一度死んで、忌避される事はあっても。

「君は誰の中にも入れないよ。分かってる?」

「あぁ……。俺の復讐に、他の先輩や伏黒、釘崎は巻き込めねえ。いや、入ってこないで欲しい」

 戻れない道を選んだのは彼だ。

 注目を乙骨が集めているので、まあ良いだろう。

 その内に呼ばれて、二人も歩を進める。

 混ざる、異物。合流した。

「紹介するよ。こっちは元、宿儺の器の虎杖悠仁。んでこっちが」

「空折雪。宿儺を殺した張本人。……これ以上の説明、要ります先生?」

 紹介する五条に先に牽制という形で京都校のメンツに言った。

 宿儺を殺した正体不明の呪術師。

 訝しげに見る一同に、言っておく。

「等級は一級。でも見ての通り、白い制服を義務付けされた。……意味が分からない程、馬鹿じゃないことを祈るよ」

「生意気な一年ね……」

 向こうの禪院真依が呟く。

 あからさまに虎杖と雪の存在は異質。

 そういう反応をしている。

「大口を叩くな、一年。俺と乙骨の間ぐらいの実力と思っているのが此奴らだ。だが、俺は違う。明らかに乙骨側の呪術師だろう、お前」

 唯一、例の東堂が雪にニヤッと笑って告げる。

 幾つも手を隠しているな、と。

「五条悟の真似事。つまり、お前の好きな男のタイプは五条悟と見た」

「だったら?」

 本当に初対面で異性の趣味聞いてきたよこいつ。

 しかも見抜かれている。返答も出来ない。

 逆に聞く。好きで悪いか。

「いや、興味深いな。呪術師界隈で異性で五条悟をタイプという女は居ないのでな。理由分かるか一年」

「えっ」

 意外だった。呪術師界隈で五条悟の名は広いのに。

 好みのタイプという女が居ない。何故だ。

「葵。僕ここに居るんだけど?」

「黙っていろ、フリーダムの地雷。一年、理由はシンプルだ。こいつは人格が終わっている。無責任と災害が服を着て歩いているような男。モテると思うか?」

 ……人格込めて好きだが?

 でも原作だと付き合うなら七海にしておけと言っていたような。

「唯我独尊、最強こそ唯一無二。その意味をわからない女は死ねば良い」

「パーフェクト。それでこそ五条悟を推すだけの価値がある一年だな。人間性度外視の男をタイプという女は退屈しない。面白い奴だ」

 気に入られた。五条悟はそこまで酷いのか。

 ……周りを見る。向こうの教師、歌姫もウザそうな顔をしている。

 楽巌寺に至っては手に青筋さえ浮かんでいた。

 不意打ちで生徒が二人も飛び入り参加すればこうもなる。

 あぁ、そうか。五条は本当に、東堂と同じで嫌われているんだ。

「先生」

「雪、言わなくて良い。聞きたくないから」

 止められた。フリーダムに振る舞う身勝手。

 五条は教職に向いていない上にマジで雪並みの自分勝手だからか。

 モテるわけがないのだ。

 向こうの三輪ぐらいしか、女性陣に受けは良くない。

「そして器だったという一年。お前のタイプはなんだ」

「……。空気読めねえのかこの人」

 ナイーブな雰囲気の虎杖にも絡む東堂。

 答えないと見限ると言われているが、そんな気分ではないのに。

「空気が淀んでいるな。見れば分かるとも。辛いことがあったら、推しの事を思い浮かべろ。救われるぞ」

「推しって……。で、俺の好み? まあ、強いて言うなら。ケツとタッパの大きい女の子? ほら、居るじゃん。CMとかで出てるアイドル。高田ちゃんって言う人。ああ言う長身の美人で雰囲気もいい人……だな」

「!!」

 おっと。虎杖、例えが悪い。

 このドルオタの前でピンポイントでクリティカルをヒットさせた。

 知っているのは原作でもあったが、此処で例えに出すとは雪も思わなかった。

 途端に表情が固まる、東堂。

 数秒後、何故か涙を流して、温和な顔に変化する。

「そうか……。俺とお前は、どうやら親友だったみたいだな……」

「はっ? どういう事?」

 此処でも原作と同じ流れになっていた。

 嘘だろうと雪は正気を疑う。

 アヴェンジャーを選んでも、その本質が違うのに意気投合……もとい存在しない記憶が発動するのか東堂。

「言うな、マイフレンド。お前が今。高田ちゃんを言ったとおり、お前のその纏う悲しみを高田ちゃんが癒してくれる。……行こうか」

「何処へ!?」

「今日の午後、高田ちゃんのグッズ販売が都内で行われる。安心しろ、全部俺の奢りだ。余計に買っておいたチケットもある。来い、マイフレンド。辛いときには、誰かを思うことで救われる」

 原作と違うタイミングでグッズ販売があるらしい。

 例えばで言った著名人のイベントに強制連行される虎杖。

 伏黒と釘崎が呆れた顔で見ていた。

 事情は聞いているから何も聞かないが、この三年も大概フリーダムであった。

「えぇ……。俺、この後特訓したかったんだけど」

 雪が調整する武具の精製の事とかで本当は使いたい時間だったのに。

「うん? なんだ、そんなことか。特訓ぐらい俺が付き合ってやるぞ?」

「……悪いけど、ええと。先輩には、首突っ込まないで欲しいんだ」

 暗い顔で俯く虎杖。

 悲壮感漂う中、東堂は。

「呪力の揺らめきが不安定だな。深い悲しみと後悔、強烈な力への飢餓。その中に、腐ったゴミを燃やした黒い炎が見える……。なんだ、マイフレンド。仇討ちをしたいのか」

 ……気付いた!?

 雪が思わず、左目の眼帯を外した。

 直後、身構える東堂。

「おいおい、いきなり縛りの解除か、一年。俺に『それ』を向けるなよ。殺し合いになるぞ?」

 螺旋を描く緑が、東堂を見抜く。

 呪力の変化は無い。なら、まさか。

「あの僅かな呪力の変化だけで気付いたとでも!?」

「そこまで驚くことか? それにしても、面白い眼だな。六眼と同じ体質か。もっと攻撃的な代物のようだが……それで、俺の何を見る?」

 歪曲の魔眼を冷静に見定めている。

 周囲が一触即発の空気に張り詰めるが東堂が大声で、

「落ち着けッ!!」

 と怒鳴って一喝した。

 五条すら、直ぐに魔眼を封じろと命じた。

「雪、止めな。それの縛りを解くのは、宣戦布告と変わらない」

 慌てて眼帯をつける雪。

 焦って魔眼を解除した。

 東堂がアヴェンジャーの気質を、感情の起伏で揺らぐ呪力の変化だけで勘付く。

「空折、大丈夫か?」

「……驚いたな。流石、一級の東堂葵。やれやれ、とんだジョーカーが京都校にいたもんだ。悠仁君、ちょっと腹を括った方が良いかもしれない」

 警戒する雪に、何をそこまでという表情の虎杖。

 復讐を見抜かれていると駆け寄って、耳打ちする。

「……」

 虎杖も、表情を変える。

 拒絶的に、壁を作る。

「そういう気分じゃねえんだわ。高田ちゃんに会えば、俺に何が変わるって言うんだ先輩」

「よそよそしい呼び方をするなよ、マイフレンド。東堂で良い。そして、何が変わるかという問いには、答えよう。日常を、思い出せる。そしてそれを奪ったであろう相手を、より強くなり、必ずしや倒すという目標が強固に出来る。保証しよう。悲しみに暮れるだけではお前は強くはなれない。前に進め、顔を上げろ。俯いて下にあるのは変わらぬ地面だろう?」

 悲観している暇があるなら、進め。

 彼は言う。

「マイフレンド。お前は呪術師である前に、一人の学生として、そいつを憎んでいると見た。呪術師はそういう、感情を制御してしまう。生き残るために。そして何時かは皆忘れ去るモノでな。人らしさを持ちながら、呪術師を出来る奴はそうはいない。三輪のような純朴な奴でもない限りは」

「へっ? 私ですか!?」

 三輪が驚いてこっちを見た。

 京都校の癒やし系か。

 そういえば彼女は普通に最も近い呪術師であった。

「……気分転換、で良いのか?」

「あぁ。端的に言えばな。マイフレンド。相手がいる以上、そいつは逃げる奴か? なら追いかけろ。地獄まで。それだけの話だ」

 焦るな、燻る状況は分かっている。

 燃えている以上は冷や水をぶっかける真似もしない。

 ただ、クールになれ。落ち着くのだと。

「空折、どう思う?」

「あの人の適応力が化け物過ぎて私の理解超えてる。あ、行ってきて良いよ。一旦、気分転換も良いと思う。準備はしておくから」

 何でアヴェンジャー状態の虎杖をも受け入れるんだ。

 こいつの哲学は呪術師としてのその物のようなモノ。

 なのに、初対面で見抜いて譲歩した。

 三輪という例を知るからか?

「フッ……。高田ちゃんは、良いぞマイフレンド。お前の荒みきった心に、一滴の余裕をくれるだろう」

 ニヤリと笑うと、正門から背を向けて出て行く東堂。

 歌姫が打ち合わせどうする気だと言うが、後で聞くとだけ言って去って行く。

 虎杖も、ちょっと出かけて頭冷やしてくると告げてついて行く。

「……雰囲気変わったわねあいつ」

「ああ。妙な狂気じみた殺気がちらつく。何があったんだ……?」

 同級生にすら言われる始末。

 一同、騒がしかったが取りあえず高専の内部に向かう。

 夕方頃、二人は帰ってきた。

「応援されたよ、高田ちゃんに。辛いことだろうけど、俺なら出来るって。何だろうな、根拠のない応援でも……少しは気が楽になるもんだ」

 戻ってきた虎杖は、高田ちゃんのブロマイドを持ってきていた。

 ちょっと汚染されてるかもしれない。

「虎杖。戻って早々で悪い。明日の交流戦だが」

「伏黒、後で釘崎に言っといて。……悪いけど、暫く俺に近寄らないでくれ。お前も」

 学生寮のロビーで、二年も含めて明日の打ち合わせをしようという伏黒をバッサリ切って、雪に問う。

「準備は出来てるんだな、空折」

「オッケー」

 夜になるが、関係なく雪の私室に呼び込む。

 さっさと向かう背中に伏黒が怒鳴る。

「おい、虎杖!」

「……悪いけどさ。ただの呪術師に、今の俺の気持ちは分かんねーよ」

「!」

 拒絶する。呪術師に何が分かる。

 伏黒にも、そう言う。

「伏黒は割り切りのできてる奴だ。……俺の中に、もう入ってこないでくれ。俺の味方は、空折と東堂だけだ」

 ……何故東堂まで入っているんだ? と雪も思う。

 壁を作って、背を見せてロビーから消えていく。

 乙骨が皆に説明をした。任務で、普通の友人を悲惨な状況で遊ばれた挙げ句に自分で殺してしまった。

 そのせいで呪術師の心得が崩壊して、復讐者になっている。

 呪術師に普通の友人がいるか。殺されたか。

 呪術師に敵討ちの気持ちが分かるか。

 呪術師に、未熟と無力の惨めさが分かるか。

 お前らに何が分かる。呪術師に何が分かる。

 弱い虎杖の、呪いに縋ってでも助けたかった相手を殺した自分への惨めさが。

「虎杖君は、もう呪術師というだけで、拒絶する。全員がわからないって理解している。空折さんと、東堂さんは……多分、例外だと思う。東堂さんはあの人は性格はアレだけど、精神的には僕らよりも上だから。空折さんは、寧ろ協力してる。彼女が一番の問題。あのままで、進めるつもり。虎杖君は僕に人殺しの断罪すら頼むくらい、追い込まれてる。……彼は、今孤独なんだよ。僕らの言葉も、行動も、全部虎杖君の心を抉る。空折さんだけが、彼の復讐を相乗りする。東堂さんは、どうするんだろう。復讐を肯定しているみたいだけど、あくまで虎杖君個人の報復を認めているだけかもしれない」

 乙骨が言うには五条も七海も、理屈で超えろと言ってくる。

 感情を殺せと、呪術師になれと。

 それがたまらなく、虎杖には苦痛になる。

 雪だけが、普通の人として復讐をしてもいいと笑う。

 相手は呪霊だ。何が悪いと逆に言ってくる。

 殺せば済むのに、邪魔しに近寄って巻き添え食らって被害者面は止めろと。

 呪術師が何だ。高専が何だ。

 虎杖は、人としての心を誓っただけだ。

「はぁ? 意味分かんねえなおい。単純に弱っちいだけじゃねえか」

 二年の禪院真希が容赦なく切り捨てる。

 そんなのが混じってる時点で、不利になる。

 呪術師辞めちまえ、器も終わったんだからと言うが。

「出来たら苦労しないんだよ、真希さん。彼は人殺しを自責してる。償いをするから逃げ出す事も出来ない。聞いたら相手は特級らしいんだ。七海さんも死にかけたって」

「おいおい……。そんなん、あいつ死ぬぞ憂太。どう見ても半人前が特級に復讐なんて無理に決まってるだろ」

 同じく二年のパンダが言った。無謀すぎる。

 狗巻も頷いた。

 この場に用事で居ない釘崎が聞いたら女々しいと言って、ぶん殴りに行くだろう。

「無理だよ。空折さんが僕らを排除に来る。五条先生が言ってた。この中で、一番五条先生に自力で近い呪術師。それがあの人だって」

「悟に近いってほぼ特級じゃね? あの一年、憂太と同じ白い制服だよな」

 パンダの疑問に乙骨は項垂れる。

「本来は特級にされたのを、本人が拒否して一級になっている。そう聞いてるよ」

「馬鹿野郎と化け物のコンビかよ。手に負えねえ。憂太、お前なら追い出せねえか?」

 真希の言い分に、首を振る乙骨。

 高専から叩き出せと言うのが真希やパンダの主張。

 呪術師を否定するならここに居るな。

 だが、本人は周りに迷惑をかける気は無い。

 寄ってくるなと拒絶する。

 折り合いがついている。孤独で良い。

 雪が援護していれば、虎杖は動ける。

「情けねえ奴だな。たかが死なれた程度で……」

「真希さん。虎杖の前で、それ言わないで下さいね」

 伏黒が念の為言っておく。

 地雷だから。雪に消し飛ばされる。

「あ? どういう意味だ?」

「空折って奴はそもそも正体不明の呪術師です。五条先生が自由に振る舞えるなら俺達を殺すことすら躊躇うことが無いって五条先生が言ってました。あと、虎杖の傷心を侮辱することも許さないそうです。あいつの両眼は魔眼という原始的な呪いその物で、見るだけで物理的に強引に対象を捻じ切る歪曲と、宿儺を殺した直死の魔眼。その二つに呪具の複製が無限に出来る術式も含めて手数が俺達より桁違いだと聞いてます」

「化け物め……」

 迂闊に言ったら端役程度死んでも良いと言うことか。

 舌打ちする真希に、禁句だと言っておく伏黒。

「あいつにとって、俺達はただのモブみたいな認識らしくて。邪魔なら五条先生が止めても半殺しにはしてくる、危険な奴です。絶対に、全員虎杖に何か言うのは止めましょう。空折が動いたら、俺達は交流戦どころの話じゃなくなる」

 五条から聞いた彼が触れる事の無いように、ラインを引いた。

 雪は正気で皆を排除する。

 虎杖の絶対の味方。侮辱は死に、孤立を助ける。

「僕からも言っておきますが、期待はしないでください。万が一、東堂さんと空折さんが一緒に来たらリカを出しても、5分持たずに僕も殺されると思います」

「東堂と良い、あのチビと良い、何なんだよ一体……」

 真希が気に入らないように呟く。

 復讐のためにいる。これが理解できないのが呪術師。

 それが、彼の心を傷つける。

 此処には、普通の感性が誰も居ない。

 乙骨が辛うじて、理解しようと必死になっている。

 五条は虎杖を見て、呪詛師にこそならないが呪術師としては歪んでいくと予想する。

 孤立する復讐者。その在り方は呪術師と名乗れない。

 それでも必要だから、ここに居る。

(悠仁。僕も傑を殺したよ。でも、それが必然だったと僕は思う。君はそうは思えないんだね。優しいけど、弱さだよ。それは)

 理屈で問うても突っぱねる。

 雪が傍に居て、支えている。

(雪の目的が悠仁の救済なら、復讐者になっても良いのか。本当に見えないな、あの子の目的)

 正体不明の呪術師の内面。

 五条の守護、虎杖の救済。

 本当に、それだけなら。

 止まらないだろう。きっと、何処までも。

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