シロコテラーと救われたかったセリカ   作:気弱

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謎の黒いフード

「さてと……おじさんも、そろそろ重い腰を上げて出発しようかな。……っと、その前に。少しだけ寄り道、ね」

 

対策委員会の教室を出たホシノは、いつもなら居眠りの定位置である廊下の冷たい壁からゆっくりと背中を離した

 

まるで重力に逆らうかのような、いつもの気怠げで緩慢な足取り。しかし、そのローファーが砂を鳴らす一歩一歩には、明確な目的と冷徹な意志が宿っていた。彼女は玄関へと続く階段には向かわず、薄暗い廊下をさらに奥へ、奥へと進んでいく

 

向かったのは、現在の対策委員会が限られた人数でやり繰りしているいつもの教室ではない。校舎の最奥、今では完全に機能停止し、アビドスの斜陽の歴史をそのまま閉じ込めたかのような、分厚い砂埃と死のような静寂だけが支配する「旧生徒会室」だった

 

ガタゴトと建付けの悪いスライド式の古びた木製扉を開けると、閉め切られたカーテンの僅かな隙間から差し込む、燃えるような夕暮れの西日の中に、無数の塵が白い光の粒となって、まるで世界の終わりを惜しむかのように静かに舞い踊っていた。かつて先輩と共にキヴォトスの未来を語り合った、今は主を失った机や椅子

 

それらの輪郭を寂しげになぞりながら、ホシノは部屋の隅にひっそりと並ぶ、茶色く錆びついたスチール製のロッカーへと歩み寄り、自身の名前が掠れて辛うじて読めるネームプレートの前に立った

 

鍵を回す、カチリという乾いた金属音が、静まり返った廃室の空間に小さく、けれど鋭く響く。ゆっくりと扉を開くと、そこには普段の彼女が身に纏っている、あのサイズ違いの緩い制服とは異なる、まったく異質な衣服が格納されていた

 

それは、かつて彼女が「アビドス生徒会副会長」として、そして「アビドス最高の戦力」として、キヴォトス中のあらゆる無法者や暴徒を恐怖させていた時代──戦場を冷徹な血と硝煙の匂いで満たしていた頃の、あの機能性を極限まで高めた黒い戦闘用の防弾衣装だった

 

ホシノは無言で胸元のネクタイを緩めると、いつもの見慣れたアビドスの制服を一枚ずつ丁寧に脱ぎ、シワを伸ばすようにしてハンガーに掛けた。昨日、みんなから貰った温かい言葉や笑顔が、その制服の繊維にまだ残っているような気がした

 

代わりに、彼女は自身の身体のラインに吸い付くように設計された、高密度の漆黒のタクティカルウェアにその細い身を包んでいく。マガジンポーチが並ぶ硬質な防弾仕様のタクティカルギアを、一つずつ位置を確かめながら、確実に身体へ固定していく。カチリ、カチリとバックルが締まる音が、彼女の優しき日常を強制的に戦場の現実へと引き戻していく

 

(……アヤネちゃん達には、あんなに真っ直ぐな目でキツく『突っ走るな』って、おじさんの顔を見つめながら釘を刺されちゃったけどさ。……ごめんね。でも一応ね、一応、おじさんなりのただの過剰な備えってやつだよ)

 

グローブの面ファスナーをメリメリと力強く締め付けながら、ホシノは長い前髪の陰から、埃を被った姿見の鏡に映る自身のオッドアイを静かに見つめた

 

そこに映っていたのは、先ほどまで悲しむ後輩たちの前で無理に作って見せていた、あの昼行灯で温和なホシノの顔ではなかった。すべての感情を削ぎ落とし、ただアビドスに仇なす者を無慈悲に排除するためだけに覚醒した──かつてのキヴォトス最凶の戦士「ホルス」としての、底知れない冷徹な光を湛えた絶対的な強者の瞳だった

 

ホシノは小さく息を吐き出すと、愛用のショットガンを確かな重みと共にその手に握り、光の粒が舞う生徒会室の闇の中に静かに溶けていった

 

(それにしても……まだ具体的な敵の姿を見つけた訳でも、セリカちゃんの居場所が分かった訳でもない。……それなのに、この胸の奥でずっと、警報みたいに激しく鳴り響いて止まらない嫌な予感は、一体何なんだろうね……)

 

この過去の戦闘服に袖を通すのは、ホシノが一切の手加減を捨て、文字通りの「本気」で敵を殲滅すると決めた時だけだ。防弾ベストのずっしりとした重みを感じながら、彼女の超人的な戦術センサーは、まだ見ぬ未知の脅威に対して最大警戒のシグナルを発し続けていた

 

着替えを終えたホシノは、愛用のショットガン『アイオブホルス』の機関部をジャキリと小気味よく噛み合わせ、弾丸が正常に装填されたことを確認した。そして夕闇が迫るアビドスの広大な砂漠街へと、音もなく滑り出すように学校を後にした

 

まずは、アヤネの解析で特定された、セリカが激しい戦闘を行ったという住宅街の裏路地。そこを起点として、ホシノは周囲の薄暗い路地裏、崩落しかけた廃ビル、无法者が占拠する不法拠点を、文字通りしらみ潰しに捜索し始める

 

「ねぇ?少し聞いてもいいかな」

 

その道中、寂れた廃ビルのロビーを根城にしていたヘルメット団の分隊が、闇の中から現れた黒い戦闘服姿のホシノを見るや否や、その恐怖の象徴にパニックを起こして悲鳴を上げた

 

「げ、げえぇっ!? 『理不尽ピンク』……っ!? なんであの最悪の化け物がこんな黒い戦闘服を着てここにいるんだよぉっ!!」

 

「ひ、ひぃぃぃっ! や、やられる前に撃て、撃ち殺せぇぇっ!! 躊躇してたら私らが消されるぞッ!!」

 

薄暗い廃ビルのロビーに、ヘルメット団たちの悲鳴が木霊する。彼女たちはガタガタと手元を激しく震わせながら、半狂乱で一斉にアサルトライフルやサブマシンガンの引き金を引いた

 

(ダダダダダダダダッ!!!)

 

至近距離から放たれた無数の弾丸が、激しいマズルフラッシュとなって暗いロビーを赤黒く爆発的に照らし出す。コンクリートの破片が飛び散り、硝煙の煙が立ち込める中、鉄の暴風がホシノの周囲へと容赦なく降り注いだ

 

「……うへぇ。おじさん、いつの間にかそんな変な名前で呼ばれるようになってるんだね。流石に名誉毀損というか、ちょっと心外かも」

 

しかし、ホシノは眉一つ動かさず、重いシールドを構えるまでもなかった

 

彼女の超人的な戦術直感は、激しい銃撃が形作る「弾道」の隙間を完璧に見切っていた。最小限の、それでいて流れるような美しい身のこなしで全ての凶弾を紙一重で回避すると、弾丸の軌道を縫うようにして、目にも留まらぬ速さの体術で瞬時に間合いを詰める

 

「ふぅ……危ないなぁ。でも、終わりだよ──」

 

(ドガァァァン!!!)

 

敵の懐に潜り込んだ瞬間、至近距離での容赦のないゼロ距離射撃。アイアンホルスから放たれたショットガンの強烈な爆風と衝撃波が、ヘルメット団の肉体を容赦なくまとめて吹き飛ばし、硬いコンクリートの壁や柱へと派手に叩きつけていく

 

反撃のために銃を構え直す暇すら与えない、文字通りの圧倒的な蹂躙。わずか数十秒足らずで、十数人の分隊は悲鳴と共に床へと無残に転がされ、一瞬のうちに全員が完全に無力化された。ロビーには彼女たちのうめき声と、銃器が床に転がる金属音だけが虚しく響く

 

「うう……痛い、痛すぎる……っ。な、なんなのよ一体……。私たちは今日、まだ何もカツアゲも強盗もしてないのに……っ!」

 

「そうだよぉ! 縄張りの廃ビルで、身内だけで静かにウノをやって楽しく遊んでただけなのに! いきなり正面から殴り込んでくるなんて横暴だわ、血も涙もない悪魔ぃぃっ!」

 

頭を抱えて冷たい地面に転がり、涙目で理不尽な暴力を訴えるヘルメット団たち。ホシノはその抗議を完全に無視し、転がる彼女たちの中で一番階級の高そうな、背中に派手な刺繍が入った特攻服を着たリーダー格の少女の前へと歩み寄った

 

そして、その襟元を容赦なく片手でガシリと力任せに掴み上げる

 

「ひゃうっ!?」

 

グイ、と強引に顔を至近距離まで引き寄せ、長い前髪の隙間から覗く、色の異なるオッドアイで冷徹に見下ろした。その尋常ではない威圧感と、肌を刺すような本気の殺気に、リーダーの少女は完全に蛇に睨まれた蛙のように硬直して声を失う

 

「……おじさんもね、最初は優しくお話を聞くだけのつもりだったんだよ? それなのに、挨拶代わりにいきなり弾丸の雨を全力でぶっ放して襲ってきたのは、どっちの落ち度かな〜? ん?」

 

「ひ、ひぃっ……! ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃっ……! 私らが悪かったですぅ……っ!」

 

「おじさん、今すっごく急いでてさ、心の余裕が少しもないんだよね。……だから正直に答えてね? おじさん、迷子の可愛い猫耳の後輩を探してるんだけどさ。昨日から今日にかけて、この辺りで何かおかしな奴らの集団とか、怪しいヘリの飛行音とか、そういう不穏なものを見てない?」

 

ホシノの低く冷え切った声音が、リーダーの耳元で呪詛のように響く。それと同時に、冷たい銃口がカチリと彼女の額の真ん中に容赦なく押し当てられた

 

「み、見てません……っ! 本当に、誓って何も知らないんです! 最近はブラックマーケットのヘルメット団も、アビドスには滅多に近づかないように通達が出てますし……! 怪しい連中なんて、今ここで私たちを理不尽に脅してるあんた以外に見てないですぅぅっ! だから撃たないで、ヘイローを壊さないで、許してくださいぃぃ!!」

 

恐怖に顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、本気でガタガタと身体を震わせて命乞いをする少女。その必死な様子から、ホシノは彼女が嘘を言っていないこと、本当に何一つの情報も持っていないという事実を冷徹に見抜く

 

「……そっか。本当になにも知らないみたいだね……。はぁ、おじさんのアテが外れちゃったか」

 

「ぐえっ!」

 

用済みとばかりに、ゴミのようにリーダーの身体を床へと無造作に放り投げ、ホシノは額の汗を手の甲で拭った

 

「お騒がせしたね。怪我の手当て、ちゃんとしなよ〜。あと、ウノの続き、頑張ってね」

 

それだけを言い残すと、ホシノは黒い戦闘服の裾を翻し、うめき声の満ちる廃ビルから静かに足音を消して去っていった

 

気がつけば、アビドスの広大な空は燃えるような不吉な茜色から、急速に深い群青色へと染まり、太陽が完全に地平線の向こうへと沈みかけていた。砂漠の冷たい夜風が吹き抜け、汗ばんだ戦闘服の裾を冷たく、不穏に揺らしていた

 

「……うーん、これ以上一人で勝手に夜の砂漠を歩き回って帰りが遅くなったら、今度こそアヤネちゃんに本気で泣かれちゃうし、ノノミちゃんにはあの眩しい笑顔のままで、延々と怖い説教をされちゃうよね……。あはは、想像するだけでおじさん背筋が凍っちゃうよ」

 

ホシノは重いシールドを肩に担ぎ直し、はぁ、と深い溜め息を夜の空間に吐き出した

 

セリカの手がかりが未だ「収穫ゼロ」であるという現実は、ホシノの胸を焼き焦がすほどにめちゃくちゃ悔しく、底知れない焦燥感を煽ってくる。けれど、闇雲に単独行動を続けてこれ以上の二次災害を起こせば、それこそ対策委員会の連携が根底から崩壊しかねない

 

というより、ただでさえ過去の件でみんなからの信用を失っているような状態なのだ。この上さらに自分一人で突っ走って最悪の結果を招けば、今度こそ仲間たちに何と言われるか分かったものではなかった

 

「……一度、学校の教室に戻るべき、かな。みんなが商店街や闇市場で何か小さな噂でも掴んでるかもしれないし、アヤネちゃんのバックアップと情報を照らし合わせるのが、今は一番の近道だよね……」

 

苦渋の決断を下し、ホシノがローファーの向きをアビドス高等学校への帰路へと変えようとした、まさにその刹那だった

 

「……ん?」

 

砂混じりの、刺すように冷たい夜風が、崩壊した廃ビルの狭い隙間をヒョウ、と不気味な音を立てて吹き抜ける

 

その風が運んできた僅かな違和感に、ホシノの鋭敏な聴覚が反応した。視線の先──街灯のすべてが破壊され、人気が完全に途絶えた崩壊寸前の大通りの向こう側、濃い夜闇のベールに包まれた景色の境界線を、それは歩いていた

 

周囲の漆黒の景色に完全に溶け込むような、深い「黒いフード」を頭からすっぽりと被った小柄な人物

 

その人物は、夜の砂漠特有の視界の悪さなど一切気にする様子もなく、まるで行く先が最初から寸分の狂いもなく決まっているかのように、迷いのない一定の足取りで、ゆっくりと前を向いて歩みを進めている

 

(……んー……。この時間、この場所で、あの佇まい。これからあからさまに『何か悪いことをしますよー』ってオーラが全身から溢れ出ちゃってるじゃない。……流石にね、おじさんじゃなくても怪しすぎるでしょ、これは)

 

ホシノの色の異なるオッドアイが、瞬時に極限まで細められた。その瞳の奥には、夜闇の中で確実に獲物の息の根を止めるために焦点を合わせる、猛禽類のような鋭利で恐ろしい光が爛々と放たれている

 

彼女は呼吸のテンポを極限まで落とし、一歩踏み出す足音すらも完全に砂の爆音に紛れ込ませて消去した。それと同時に、愛銃『アイオブホルス』の安全装置を指先で静かに、音もなく解除する。冷徹な金属音すらも夜風にかき消させながら、ホシノはそのフードの人物の、無防備に見える後ろ姿をじっと見つめ、距離を測り始めた

 

フードの人物の後を追い、ホシノはさらに自身の存在確率をゼロに近づけるように気配を消していく。まるで夜闇そのものが意志を持って動いているかのような、音も揺らぎもない亡霊の如き歩法

 

確実に、一歩ずつ、相手が迎撃不可能な絶対の間合いへと距離を詰めていく

 

しかし、その不審な人物の警戒レベルもまた、尋常ではなかった。まるで背後に鋭い目が付いているかのように、あるいはホシノの放つ微かな「殺気」の温度変化を肌で察知したかのように──ホシノが背後から組み伏せようと仕掛ける、まさにその直前のタイミングで、フードの人物は不意に爆発的な制動でスピードを上げた。そして、目にも留まらぬ身のこなしで、崩れかけたコンクリート壁の曲がり角の向こうへと、滑り込むようにして姿を消してしまった

 

「チッ……!」

 

ホシノの口から、普段の彼女からはおよそ想像もつかないような、低く鋭い舌打ちが漏れた

 

けれど、その脚に躊躇などは一瞬たりともない。弾かれたようなトップスピードで、ホシノはその角の向こうへと果敢に飛び込んだ

 

曲がった先は、完全に逃げ道が遮断された空間だった

 

過去の大戦か地盤沈下によって崩落したビルの巨大なコンクリート片や剥き出しの鉄筋、うず高く積もった瓦礫の山によって奥が完全に埋まっている、光の届かない薄暗い「袋小路」

 

待ち伏せを警戒するよりも早く、ホシノの身体は戦術的最適解を導き出していた

 

残像を残すほどの神速の踏み込み。敵が迎撃の体勢を整えるよりも早く、音もなく一瞬にしてフードの人物の死角──その真後ろへと回り込む

 

そして、肉眼では捉えきれない速度でショットガンを突き出し、容赦なくその冷たい、命を奪うための硬質な銃口を、相手の側頭部へと真っ直ぐに、寸分の狂いもなく突きつけた

 

「!」

 

至近距離で突きつけられた銃口の、逃げ場のない圧倒的な質量の感触

 

フードの人物の身体が、驚愕と共にびくりと小さく跳ね上がり、そのまま彫刻のようにピタリと硬直した

 

「いや〜、今ね? おじさん、もの凄く大切で、もの凄く可愛い後輩を探してる真っ最中だったんだけどさ……。そんな一分一秒を争う大切な要件があっても、こんな夜更けにアビドスの治安をこれ以上悪くしそうな、あからさまに怪しい不審者を見過ごす訳にはいかないんだよね〜」

 

ホシノはいつものように、どこかトボけたような軽い口調で話をしながらも、そのオッドアイの瞳を隙なくじっと細める

 

深くフードを被っているせいでその顔の造形まではよく分からないが、体躯から察するに、自分よりも頭一つ分ほど背の高い人物のようだ。そしてよく見れば、その黒いフードの至る所が激しく擦り切れ、泥と砂に塗れてボロボロになっていた。それはまるで、遮るもののない過酷な砂漠を、何十日も、何百日も、目的もなく彷徨い歩き続けてきた遭難者の成れの果てのようでもあった

 

「……もし、ただの可哀想な旅人さんだったらごめんね? でもね、キヴォトスの夜道は物騒だからさ。とりあえず、君のここに来た目的……聞いてもいいかな?」

 

ホシノは指先をトリガーにかけたまま、一切の油断を排してフードの人物の挙動を見つめる

 

──だが、次の瞬間だった

 

「!?」

 

目の前にいたはずの人物の輪郭が、陽炎のようにブレて突如として視界から消え去ったかと思うと、ホシノの視界が急激に傾き、その小さな身体が後ろへと大きく転びかけた

 

(──下!?)

 

驚異的な反応速度で、ホシノは相手が瞬時に姿勢を極限まで低く深く屈め、自らの軸足を猛烈な速度で払ってきたのだと気がつく

 

「あはは……危ないな〜……。今の、おじさんに対する明確な『敵対行動』……ってことでいいのかな、お姉さん?」

 

ガッと、コンクリートの地面をローファーの底で強く踏み締め、ホシノは驚異的な体幹の強さで強引に体勢を立て直す

 

彼女の左右非対称の瞳から温和な色は完全に消え失せ、かつてアビドスを震撼させた冷酷な戦士の光が爛々と燃え上がる。セリカの行方も一刻を争うほど大切だが、これほどまでに圧倒的な戦闘技術を持つ危険な人物をここで放置しては、今後の捜索の段階で背後から邪魔をされかねない

 

ホシノがすべての躊躇いを捨て、本格的な迎撃のための戦闘体制に入ろうとした、まさにその一瞬──

 

フードの奥から、低く、掠れて、けれどどこか聞き覚えのある、狂おしいほどの憎悪を孕んだ微かな声が漏れ聞こえた

 

「………全部、あんたのせいよ」

 

「っ!!!」

 

(タァァン───ッ!!)

 

夕闇が支配する静寂の廃ビル街に、鼓膜を激しく震わせる無慈悲な銃声が、鋭く鳴り響く

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