劣等生と落伍者(Re:)   作:百済 影炎

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 こんにちは、hai-nas改め百済(くだら) 影炎(かげろう)です。
 こちらは前作「劣等生と落伍者」のリメイク版となります。(諸事情で前作は公開停止してます。)
 リメイクに至った経緯などは活動報告にて説明していますので、気になる方はそちらをご覧ください。


序章 黒き星の残響
第一話 重力臨界


 2094年8月29日。

 

 夏の終わりとは思えない熱気が、防衛軍・霞ケ浦駐屯地のコンクリートを焼いていた。

 

 地下試験区画へ続く通路を、百済(くだら)(りゅう)は無言で歩く。

 隣には父・百済竜一郎(りゅういちろう)。少し後ろには母・百済(かおる)の姿。

 

 小学六年生。

 

 本来なら、友人と夏休みの終わりを惜しんでいる年頃だ。

 だが、ここにいる誰一人として、龍を“単なる子供”とは見ていなかった。

 

 無論、それを知る者自体が極端に少ない。

 

 百済龍という名前を知っている者はいても、“何ができるのか”まで把握している人間は限られている。

 魔法界でも、その実力を正確に認識しているのは十師族当主クラスと防衛軍上層部くらいのものだった。

 

 もっとも、それは情報統制されているからではない。

 

 単純に、未成年であるがゆえに表舞台へ出る機会が存在しない。

 ただ、それだけだ。

 

 だからこそ、一部の人間だけが知っている。

 

 この少年が、既存の魔法師とは根本から異なる存在だということを。

 

「……緊張してるか、龍」

 

 歩きながら、竜一郎が穏やかに問いかける。

 

「別に」

 

 短い返答。

 ぶっきらぼうですらない、事実確認のような声だった。

 

 その反応に、竜一郎は苦笑する。

 

「お前は昔からそうだな」

 

「お父さんだって、緊張してるようには見えないけど」

 

「研究者はな。こういう時ほど平静を装うものなんだ」

 

 後ろから薫が小さく笑った。

 

「あなたの場合、本当に楽しそうに見えるのが問題なのよ」

 

「歴史に残る実験かもしれないんだぞ?」

 

「その“歴史”に息子を巻き込んでる自覚、ある?」

 

「もちろんある」

 

 軽口を交わしながらも、三人の歩調は止まらない。

 

 やがて、分厚い隔壁が開く。

 

 試験場内部には、既に防衛軍側のプロジェクトチームが待機していた。

 人数は七名。

 

 その中心に立つ男――風間(かざま)玄信(はるのぶ)大尉が、静かに龍たちを見る。

 

 まだ若い。

 だが、その眼だけは歴戦の軍人そのものだった。

 

「百済博士。準備は完了しています」

 

「ああ。こちらも問題ない」

 

 竜一郎が答える。

 

 風間の視線が龍へ向く。

 ほんの一瞬だけ、値踏みするような沈黙。

 

 だが、彼は何も言わなかった。

 

 防衛軍内部でも詳細を知る者は少ない。

 それでも、ここに集められた人間は最低限理解している。

 

 ――この試験は、失敗そのものが許されない。

 

「起動シークエンスを開始します」

 

 観測員の声が響く。

 

 龍は試験場中央へ進み、静かに目を閉じた。

 

 ブラックホールをモチーフにした新型戦略級魔法《黒渦(こくうず)》。

 

 理論上は成立している。

 術式も、既に組み上がっている。

 

 だが、“実際に発動できるか”は、また別問題だった。

 

 龍はゆっくりと呼吸を整える。

 

 世界から音が遠ざかっていく。

 

 起動。

 

 瞬間。

 

 空間が軋んだ。

 

 重力とも違う。

 圧力とも違う。

 

 周囲の空間そのものが、一点へ引きずり込まれていくような異常現象。

 

 観測機器の数値が跳ね上がる。

 

「出力上昇――っ!?」

 

「まだ上がるのか!?」

 

「理論値を超えている!」

 

 緊迫した声が飛び交う。

 

 だが、龍自身は冷静だった。

 術式は安定している。暴走ではない。

 

 《黒渦》は、正常に発動している。

 

 ――だからこそ、最初に音を上げたのは、人間ではなく建物だった。

 

 ミシ――……と。

 

 耳障りな金属音が、天井付近から響く。

 

 誰かが顔を上げる。

 

 次の瞬間。

 

 轟音。

 

「総員退避!」

 

 叫び声。

 

 崩落。

 

 視界いっぱいに降ってくる鋼材とコンクリート。

 

 だが、その直前。

 

 百済竜一郎と百済薫は、まるで示し合わせたように同時に動いていた。

 

 選択に迷いはない。

 

 自分たちを守るのではなく。

 

 息子を守る。

 

「「龍ッ!!」」

 

 押し倒される感覚。

 

 両親の体温。

 

 直後―― 崩れ落ちた天井が、すべてを飲み込んだ。

 

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