崩落から数分後。
地下試験場は、もはや原形を留めていなかった。
天井は複数箇所で完全に落ち、照明設備もほぼ全滅。
視界を埋め尽くす粉塵の中、砕けたコンクリートと鋼材が複雑に絡み合い、空間そのものが押し潰されている。
耳に残るのは、断続的な火花音と、どこかで軋み続ける鉄骨の悲鳴だけだった。
「生存者を確認しろ! 二次崩落に注意しながら進め!」
怒号を飛ばしたのは、試験指揮官である風間玄信大尉だった。
崩落直前、風間は反射的に防御魔法を展開していた。
落下軌道の逸らしと衝撃分散。
軍人として積み上げてきた経験が、ほぼ無意識に身体を動かしていた。
だが――間に合わなかった。
防ぎ切れなかった。
たとえ風間ほどの魔法師であっても、試験場全域を一瞬で覆い崩落全てを制御することなど不可能だった。
風間自身は軽傷で生還した。
しかし、その事実は安堵を与えなかった。
瓦礫の山を前にした瞬間、理解してしまったからだ。
守れなかった、と。
救助活動は、崩落を生き延びた者たちによって開始された。
とはいえ、それは“活動”などと呼べるほど整ったものではない。
負傷した身体を引きずりながら、瓦礫を退かし、声を探し、生存反応を確認していく。
誰もが自分自身も負傷者でありながら、それでも手を止めなかった。
粉塵で喉を焼きながら、断続的に響く咳と呻き声の中、瓦礫の山だけが静かに積み上がっていく。
防衛軍プロジェクトチーム七名。
そのうち、観測員一名の死亡を確認。
さらに、五名が重傷。
試験場そのものが半壊していたことを考えれば、生存者が出ただけ奇跡に近い被害状況だった。
――だが。
その場にいた誰一人として、“軽かった”とは思えなかった。
「……こちら、二名発見!」
瓦礫の奥から上がった声に、風間が振り向く。
そこにいたのは、百済竜一郎と百済薫だった。
既に、二人とも動かなかった。
折り重なる瓦礫の下。
二人は、まるで覆い被さるような姿勢で倒れていた。
庇われていたのだと、誰の目にも分かった。
その中心にいた少年を。
「……百済君!」
さらに瓦礫を退かした先で、百済龍が発見される。
意識はない。
全身に裂傷と打撲。
右腕には骨折も見られた。
それでも、生きている。
風間は無言で少年を見下ろした。
百済龍。
小学六年生。
常識外れの魔法理論を扱いながら、それでもどこか年相応の幼さを残していた少年。
その姿が今は、瓦礫と血に塗れている。
「……医療班を急がせろ」
短く指示を飛ばしながら、風間は奥歯を噛み締めた。
脳裏に焼き付いて離れない。
崩落の瞬間。
百済夫妻が、とっさに息子を抱き寄せた光景が。
結果として、二人は死んだ。
少年だけを生かして。
だが――
この事故が少年から奪ったものは、肉体だけではなかった。
後に、関係者の多くがそう証言することになる。
あの日。
霞ヶ浦での崩落事故こそが。
“百済龍という天才”が壊れ始めた瞬間だったのだと。