慢心で負ける系の体制側【中ボス】だけど、真剣に上を目指そうと思う   作:どんぐりちょうだい

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第1話

 

 鉄色の都市に、突然大地の色が現れる。天を突く摩天楼は失せて、代わりに旧式の家屋ばかりが立ち並ぶ。

 

 そして。

 

 そんな古い街並みの中で対峙するのは、画一的な灰色の服装の勢力と、カラフルでデザインも多種多様な格好の勢力だ。

 

 俺は自分が着る服を見下ろして……なんの面白みもない灰の制服が見えて気分が下がった。

 

 ……これ、嫌いなんだよなー。没個性的で、俺も都市の歯車のひとつなんだって嫌でも実感させられるし。

 

 自由に好きな服着てるあいつらが羨ましいよ。

 

 十人ほどの部下の先頭に立つ俺は、そう目の前の集団を見てため息を吐く。

 

「……都市統治機構だか知らないけど、何様のつもりなのッ!」

 

 その敵――レジスタンスの新人のはずの黒髪少女が叫ぶ。

 

「いつもいつも、ただ平穏に暮らしたいだけの私たちを邪魔して……! 罪のない子たちを何人も捕まえて! たくさんの生活を壊してるくせに、目の前でため息!?」

 

 あっ、違う違う。今のため息は自己嫌悪のそれだよ! もうあの、君の言うことには全面的に同意する……。

 

 ただ、それを口にできるような立場でもないんだよねえ、これが。

 

 だから――

 

「――いやなに、あまりに退屈すぎてな。目の前に集るハエどもがこちらに向かってくるでもなく、ただ遠巻きに羽音をまき散らすだけときた」

 

「……ッどこまでも! 私たちを舐めて……!」

 

「舐められたくないのならば。力を示すことだな、この俺に」

 

 そう、もはや癖になった軽口で返すと。……おもしろいように釣れるな、この子。

 

「――じゃあ、そこまで言うなら! 喰らいなさい、私の【神鳴(かみなり)】!」

 

「ま、待ちなさいシオリ! 無策で彼に飛び込んでは……!」

 

 古い学生服を着た黒髪少女――シオリちゃんは、刀を片手に異能の力を発動し、俺に突進してくる。武器や体にまとう稲光は攻防一体の鎧であり、身体能力や反射神経まで底上げする強力な力。

 

 さすがは戦術級の異能だな、応用が利く。まだまだ発展途上だから、成長次第では戦略級も夢じゃない。

 

 ただ……悪いけど、俺の異能はさらに上を行くんだよなー。

 

 ほら。

 

「【風神】」

 

 軽く力を込めてやれば、俺を始めとした都市機構側の全員を強力な風の盾が覆う。突っ込んで来たシオリちゃんはたやすく弾き返されて地面に転がった。

 

「きゃっ!」

 

「シオリ……!」

 

 レジスタンスの面々から心配の声が飛ぶ。

 

 ……言葉だけじゃなくて加勢してやれよと思うけど。酷な話なのかね、これ。この場にいるレジスタンス、戦闘系のメンバーはほとんどいないみたいだし。

 

 俺は風を解いて、立ちあがろうとするシオリちゃんに向かって告げる。

 

「そんな足手まといを抱えたまま俺に敵うと……本気で思っているのか? 小娘」

 

「ッ! ……で、も! みんなを見捨てることなんて、できない!」

 

「は。威勢だけはいいが、気持ちで人を救えれば誰も苦労はせんよ」

 

「こ、のぉ……!」

 

 それから。

 

 俺は立ちあがり向かってくるシオリちゃんに対し、強力な異能である【風神】を向かってくるたびに叩き込む。

 

 気分はハチャメチャに良くないが、必要なことなんだよ。許してくれよな。

 

 ……あとは、そうだな。いい感じにボロボロになってきたし、ここらでいっちょ煽りを。

 

「――どうした? シオリよ。仲間を守ると息巻いていた割りには、ずいぶんとみっともない姿ではないか」

 

「く、それ、は……!」

 

「嘘だったか? この俺、異能利活用統治局の第一課課長を倒すという言葉は」

 

 シオリちゃんは悔しそうに唇を噛んで俺を睨む。それでも体力を消耗しすぎたのか、刀を杖みたいに地面についたままで、さっきみたいに飛び掛かってはこない。

 

「はァ……。少しは暇つぶしになるかと俺じきじきに出向いてやったというに、とんだ期待外れだ。これではお前が必死になって守っている仲間全員、二度と空も拝めない牢獄に直行だな」

 

「ッそれは! ぜったい、させない……!」

 

「させない? いったいどうやって。お前一人を矢面に立たせ、他のやつらは全員後ろで震えているだけ。そして肝心のお前でさえ、俺に傷一つ付けられずに地に伏している始末だ。これで俺の手から逃れる方法があるというなら――――聞かせてほしいものだなァ……!」

 

 「ハハハハッ!」と高笑いしてみせる。

 

 めちゃくちゃヤなやつだなあ俺! こんなの言われたら絶対ぶん殴るぞ。

 

 でも、あれもこれも全部必要なことだからやってんだよね。悪趣味だって分かってるけど、これもすべては俺が局でさらに上に行くため。

 

 なあ、シオリちゃん。だから頼むから――――早く、力を成長させてみろよ。

 

 ……そんな、声に出せない思いが功を奏したのかどうなのか。眼前で肩を上下させるシオリちゃんの様子が――

 

「…………ダメ、だよ。そんなの許さない。許されない。私の前でまた誰かが都市に殺されるなんてそんなのは…………――ユルサナイ」

 

 ゆらりと。もう力も残ってないだろうその体から、不可視の圧力が立ち昇る。異能を動かす未知のエネルギー、その余波みたいなものが。

 

 ……来た、来た。これだよこれ。待ってたぞこの時を……!

 

「……ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ。ゼッタイ……――――コワシテヤル……ッ」

 

 どこか虚ろな目で、だけどその力だけは上等。周囲にスパークが散る。

 

 あまりにおかしな様子に俺の部下たちもざわめき出す。

 

「さ、サワブキ課長……! これはまずいのではッ」

 

「異能が、今まさに成長しようとしているのでは!?」

 

 うんうん、君らの言う通りだ! まさにその通り。

 

 でもいいんだよこれで。俺はこれを待ってたんだから。

 

「な、なんて力だ……! これはもはや戦術級の域には……ッ。まさか、戦略級!?」

 

「本当に大丈夫なのか……!? 課長は……うぬぼれフラグメイカーだぞッ」

 

 あっ、君言ったな!? 局内で俺を嘲る禁句を……! クソ、俺のキャラでそれスルーするのは不自然だし、聞かなかったフリしないと。

 

 ……そのあだ名、さすがにちょっと舐められ過ぎで嫌なんだよなあ。まあ、いつもわざとそういうことしてるのが悪いんだけども。

 

 そう。……俺はいつも、こういう時にわざと慢心で身を滅ぼしたふりして負けてる。

 

 正直都市機構のやり方は俺も好かない。だからこうして、自分自身の善悪の基準に照らし合わせて、時にはわざと負けを演出したりしてきた。実際、このシオリちゃんにも何度かわざと負けてる。

 

 なんかすごい偉そうなキャラ演じてるのもそれが理由なんだよね。こういう時、明らかに実力で勝ってる相手に敗れる理由って、慢心以外に思いつかなくって。

 

 ただ俺、今日からは。

 

 ――慢心、封印するつもりだから。

 

「ゥゥゥゥ……!」

 

 そ、そんな殺人兵器みたいな顔したってダメなもんはダメだから。俺だってさ、今のままじゃダメだと思ったからやり方を変えたんだ。

 

 俺は眼前で雷の力を溜め始めたシオリちゃんを見据える。

 

 まだ手は出さないよ。全力を出した君を上回ってこそ意味がある。そう、戦略級異能者の最大の一撃、それを打ち破ってこそ。

 

 ――都市機構の中での俺の評価も、上がるってもんだろ?

 

「か、課長! まずいです、あの少女とんでもない力を……! 数値上はビル一棟を丸ごと蒸発させられるほどのエネルギーです!」

 

 端末型の計測機器を構えて、悲鳴のように叫ぶ部下。

 

 そうだよなあ、怖いよなあ。いつも慢心して小娘に負ける上司が、明らかに自分たちも巻き込む規模の攻撃を迎撃しようとしてるんだから。

 

 でも安心してくれよ。俺だって今回ばっかりは本気なんだ。ここ最近の都市機構にはほんとに愛想が尽きた。だからこそ、俺が力を示して、上に行って。

 

 

 

 ――――この都市を変えてやるって、そう言ってるんだよ。

 

 

 

 だからさあ、ほらシオリちゃん。

 

「……来いよ。その特大の力の塊、遠慮なくぶつけてこい――」

 

 びりびりバチバチと、激しい音を鳴らして今にも弾けそうな雷の球。シオリちゃんの眼前に浮かぶ人間数人分の大きさはあるそれが……とうとう――――放たれた。

 

「――神罰の槌(ヴァジュラ)

 

 俺に向かって飛来する雷球。明らかに通常の異能者の出力を大きく上回った、まさに超級の一撃。

 

「…………………………ぁ、あ!? これ、私が……っ?」

 

 意識を取り戻したらしいシオリちゃんが、自分の放った攻撃に慄く。

 

「ぁ、まず…………っ避けて!!」

 

 これだけの力を持っててもやっぱりまだ子どもだ。誰かを守る決意はできても、人を殺す覚悟はない。

 

 君みたいな子は、ほんとならもっと平和に静かに暮らして欲しいものだけどさ。……この都市の現状が、そうはさせないよなあ。

 

 でも。

 

「どうにかしようとしてるからさ、俺も。それまでは……もうちょっと、頑張ってくれ。な…………――【風神】」

 

 迫る雷球に向けて手を掲げる。

 

 風を集めて、集めて、集める。限界なんてない。あまねく大気はすべて、俺の支配下だ。

 

「……ッな、なんだこれは! とんでもない異能強度の……これは……課長の!? あの少女を超えて、こんなのは…………まさか、神話級だって言うのか!!」

 

 騒ぎ立てる背後は気にせず。俺はただ、その力を解き放つ。

 

 

 

「――――絶死の空(ボイド)

 

 

 

 直後。

 

 あまりにも巨大な雷のエネルギーが辺りにまき散らされる。

 

 目を焼く閃光、耳を貫く轟音。もはや誰も見えず、声も聞こえない。

 

 次第に世界はただただ真白にだけ染まって行って――――

 

 

 

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