慢心で負ける系の体制側【中ボス】だけど、真剣に上を目指そうと思う 作:どんぐりちょうだい
「――――これは統括理事長のお言葉であり、叶えられないことなど許されん! お前たち第一・第二臨戦課にて、いい加減あの目障りなレジスタンスを撃滅せしめるのだ……!」
都市統治機構・異能管理局のオフィス、その局長室にて。
豚のように肥えた局長がまた無茶言って。さて、なんと返したものかな?
そんなことを考えてる間に、俺の隣に立つ長身の女――第二臨戦課長のミナブチが応える。
「無論、承った。これまでも手を抜いていたなどということはないが、捜査・対応の速度を上げるものと理解した」
はー、相変わらずクッソ真面目な。まっピンクな
この好色な豚は第二課長に甘いし、普段ならこれですんなり納得するとこだけど――
「――ダメなのだ、その程度の認識では! わ、私たちの首が掛かっているのだぞ!?」
……ほう? 首とな。
「よいか、理事長は現状にたいそう不満を持っておられる! 都市に寄生する旧都民が利益を不当にむさぼるに飽き足らず、明確に都市へ牙剥いているのだ! これ以上この状況を見過ごすべからずと、各局へも非常に強い要請があった……!」
はぁはぁと息切れするきもい豚オヤジ。薄くなった頭から汗が……なんてゾッとしてる間にも局長は続ける。
「これまで通り、あるいは根性論で『頑張ります』では通らんのだ! 明確に、これまでとは異なる方策で、かのにっくきレジスタンスらを葬らねばならん……!」
俺もミナブチも、黙って局長の言葉を聞く。
この様子見るにだいぶ絞られたみたいだけど。なら、早く結論を言ってくれよ。上司だろ? 指示はもっと具体的にしてくれなきゃさあ。
ほら。例えどんな命令を告げられたとしたって、俺はいつもみたいに受け流して見せる。ミナブチとは違ってのらりくらりと。さあ。
……そう、ことをまだ甘く見ていた俺は。
続く局長のふざけたセリフに、冷や水を浴びせられたのだ。
「鑑識課がレジスタンスの大規模なねぐらを特定した。お前たちは即日突入し――――非戦闘員ごと、目につくすべてを抹殺しろ……!」
は?
「……局長殿。俺の聞き間違いだったかな? いま、非戦闘員もろともに……という指令が聞こえた気がしたが」
「サワシロ、冗談ではないぞ……。俺は確かに言った。女や子どもがいるから退避させるのを待ち、戦闘員のみ捕縛……そんな甘いことはやめだと。もう、貴様の
……………………ッ血迷ったか? 非戦闘員まで殺せ?
この豚は…………いや、理事長は、いったい何を理由にそこまで……。急にこれほど強硬な命を出すだけの状況変化が?
「はい以外の返事は許されんぞ。私も貴様らも、もはや後がないと知れ……ッ!」
自分可愛さにそこまで堕ちたか。この外道……。
そう内心で吐き捨てども。……悲しいかな、俺は組織の歯車のひとりで、ミナブチに思った「社畜」って言葉は俺にも返ってくるわけで。
どんなに納得いかない指示でも、トップがそう言えば断る選択肢なんてなく。
「…………――承った」
ミナブチと揃ってそう応えることしか、俺たちには許されていないのだ。
ただ。歯車にだって意思はあるし、あんまり無茶な稼働をさせれば元の位置から飛び出してくことだってある。
そう、つまりだ。
俺はこの瞬間を持って、都市統治機構に心底から愛想を尽かした。
――――これからは、俺も好きにやらせてもらうぞ。
と、いうことで。
思い立ったが吉日、というか豚に命令されたから……俺はいま、数十人の部下を連れて旧都へとやってきたわけだが。
鉄色の都市に突然現れた大地の色。天を突く摩天楼は失せて、代わりに旧式の家屋ばかりが立ち並ぶ。
そして。
そんな古い街並みの中にある広場で――俺は悠々とパラソルの下の椅子に腰掛けていた。
そこへ近づくのは、髪色キンキンの女性部下――
「はーい、お紅茶ですよ課長〜」
「ん」
受け取ったカップを傾ける。
……ぃ熱ッ。危ない、なんとか悲鳴上げなかったぞ……! 俺の、傲慢でこわーい上司というイメージを今さら崩せないからな。
「ふふ、熱かったですね課長〜。ふうふうしましょーか?」
「……黙れキラボシ。なんのことだ」
バレてら。その上で、からかうようにウインクされたし。ギャル系部下に、手玉に取られてます。
まあ、ここまで俺のこと観察してるやつはキラボシしかいないし。そのキラボシは周囲にそういうこと吹聴するバカじゃないから、捨て置いて問題なし――とその時。
「課長! 反応ありました、B地点です!」
端末片手にやってきた部下の一人。
「ふん、想定通りだな。A地点に二課の連中、そして目立つこの場所に俺がいれば、やつらの逃走経路は自ずと絞れる。……では、予定通りタイミングを見計らって一当てだ。非戦闘員は逃がせよ」
「ッはい!」
局長の命令を無視した指示だけど、なにも知らない部下は素直に頷く。
そんな中、他の部下たちから漏れ聞こえる会話は――
「なあおい、どうしたんだ今日の課長? ……なんか指示がずいぶん真っ当というか、賢げというか」
「っし、聞こえるぞ!」
はい、聞こえてます全部。
「……あえて情報を与えて、レジスタンスの連中を誘導してるんですよね〜。こんな高度な用兵、最近学ばれる機会が?」
「ふ……学ぶも何も、俺の元からの才覚だな」
「あれま。大きなお口ですねえ」
「黙れ。鑑識課の情報で、敵拠点の位置もレジスタンスメンバーの大まかな構成も分かっているのだ。一見複雑怪奇な旧都の道だが、この人数で逃げることを考えると、道幅なんかからだいたいのルートは割り出せる」
「それはそうかもですけどね。それを情報もらって一瞬でですもんねえ……」
そこまで見てるやつもお前くらいのものだけどな。
と、キラボシと話してる間にも作戦は進んでる。随時共有される情報から、レジスタンスたちが追い立てられるようにここへ向かってることがわかる。
……そうして、とうとう――
「――――お前たちは! 異能管理局の、人でなし……!」
ここに繋がる道から姿を表したのは、カラフルでデザインも多種多様な格好の勢力、通称レジスタンス。
俺は自分が着る服を見下ろして……なんの面白みもない灰の制服が見えて気分が下がった。
……これ、嫌いなんだよなー。没個性的で、俺も都市の歯車のひとつなんだって嫌でも実感させられるし。自由に好きな服着てるあいつらが羨ましいよ。
目の前の集団を見てため息を吐いた――――その瞬間だった。
「っこんな、どうして……! なんで今日に限って、こんなに全部上手くいかないの……!?」
レジスタンスの先頭――若くして幹部に名を連ねる見知った黒髪少女が叫んだ。
「非戦闘員を逃したところまでは良かった。なのに私たちの逃走経路はことごとく割れて、撒いたと思ったら伏兵まで……!」
まあ気づくよねえ。普段の俺、ほんとにザルだからね。本気でレジスタンスどうにかする気あるんかってくらい。
ただ今日はね、いつもと一味違うわけよ。
君らもそれを実感できたところで――
「――ふん。あまりにも退屈だったな。頭の悪い奴らの動きは予想の範疇を超えん」
「……ッサワシロ、どこまでも! 私たちを舐めて……!」
「舐められたくないのならば。力を示すことだな、この俺に」
そう、もはや癖になった軽口で返すと。……おもしろいように釣れるな、この子。
「――そこまで、言うのなら! 喰らって、私の【
「ま、待ってシオリ! 今日の彼はなんだか様子が……! 無策で飛び込びこむのは危ないわ! あっ、もう!!」
古い学生服を着た黒髪少女――シオリちゃんは、刀を片手に異能の力を発動し、俺に突進してくる。武器や体にまとう雷光は攻防一体の鎧であり、身体能力や反射神経まで底上げする強力な力。
さすがは戦術級の異能だな、応用が利く。まだまだ発展途上だから、成長次第では戦略級も夢じゃない。
ただ……悪いけど今日は――
「サワシロ課長、危険ですよー? ほら、ご慢心されずお下がりを〜」
「ッば、馬鹿、キラボシ! 課長に余計な軽口を……! ッすみません課長、例のアレ使うので避けていただければ!」
部下たちに言われて、椅子から立った俺は後ろに下がる。直後、突っ込んでくるシオリちゃんに向かって砲口を向ける携行式の大砲が。
「――発射ァ!!」
掛け声とともに打ち出されたのは、肉を抉り骨を砕く砲弾ではなく――空中で拡散する薬液だ。霧状に散布されて、シオリちゃんの体を包み込む。
すると。
「嘘っ!? 異能が……!」
途端に消え失せる雷光。シオリちゃんは急激な身体能力の低下につんのめって足を止める。
ふふふ、初めて見ただろう。これこそ、我らが異能管理局の研究開発課謹製の――
「――異能発動阻害薬、だ。ハハハ、無様なものだなレジスタンス……!」
「っな! 異能を消す薬!? そんなの……!」
ふふ、驚いたろ。こんなもん今までなかったもんなー。研究開発局の連中と交渉して手に入れてきました。まあちゃんと難点もあって、効果範囲が狭くて持続時間が短かったりするんだけど。
なんて、シオリちゃんたちが見せた切り札への驚きに得意になってると。
彼女らが驚いた要因は別のことだったと知ることに――
「――――あの、異能管理局の『油断大敵』が! 慢心せずにこんな小細工までするなんて……!?」
あっ。え? 俺ってレジスタンスからもそんな認識なの? なに「油断大敵」って……。