慢心で負ける系の体制側【中ボス】だけど、真剣に上を目指そうと思う 作:どんぐりちょうだい
「……くぅ! 異能が!」
足を止めたシオリちゃんに駆け寄ってくるレジスタンスの仲間たち。彼ら彼女らが口々に俺への恨み言を。
「……いま思えば、最初からおかしかったんだ! 俺たちは完全な奇襲を喰らったのに、非戦闘員を完璧に逃がすだけの余裕があったこともッ」
「私たちの行動が誘導されてた……? 複数の陽動部隊と、わざとらしく目立ってた『油断大敵』……!」
「奇襲の直前、一部の者にやつらの動きを伝える謎の通信まであったらしい……! もしやそれもやつらのっ? いつもの慢心がまるで嘘のような……っ」
その二つ名が広く認知されてるの嫌すぎるんだけど。部下の前でそんなん言われたら恥――
「……『油断大敵』、言い得て妙だ。課長、いつもそれで失敗するから」
「あのうぬぼれと性格の悪ささえなければただの強者なんだけど」
あ、関係なかったね。最初から俺の評判ボロボロだった。
悲しい……。
「言われてますねえ課長。今日はブチ切れないんですかー?」
「……なにがだ、キラボシ。いつも俺を舐めているのはお前くらいのものだ」
「あはは聞こえないフリだ〜」
やかましいわ。
こいつ、こんな態度でもマジ優秀だからな。お前を罰したりしたらうちの課は回らなくなるの。俺のこと舐め腐ってるけど。
ということで、俺が手を向ける先は……シオリちゃんの方。
「【風神】」
軽く力を込めてやれば、豪風が吹き荒れる。
「きゃっ!」
「シオリ……!」
吹き飛ばされるシオリちゃんに、それを心配するレジスタンスの面々。
……言葉だけじゃなくて加勢してやれよと思うけどな。酷な話なのかね、これ。
俺は立ちあがろうとするシオリちゃんに向かって告げる。
「そんな足手まといを抱えたまま俺に敵うと……本気で思っているのか? 小娘」
「ッ! ……で、も! みんなを見捨てることなんて、できない!」
「は。威勢だけはいいが、気持ちで人を救えれば誰も苦労はせんよ」
「こ、のぉ……!」
それから。
俺は立ちあがり向かってくるシオリちゃんに対し、強力な異能である【風神】を向かってくるたびに叩き込む。異能の力は完全には戻っておらず、俺の力になす術がない。
その様相はまさに――悪の組織の中ボスと、仲間のため力を振り絞る正義の少女主人公ってところか。
……気分はハチャメチャに良くないが。
あとは、そうだな。いい感じにボロボロになってきたし、ここらでいっちょ煽りを。
「――どうした? シオリよ。仲間を守ると息巻いていた割りには、ずいぶんとみっともない姿ではないか」
「く、それ、は……!」
「嘘だったか? この俺を倒すという言葉は」
シオリちゃんは悔しそうに唇を噛んで俺を睨む。それでも体力を消耗しすぎたのか、刀を杖みたいに地面についたままで、さっきみたいに飛び掛かってはこない。
「はァ……。少しは暇つぶしになるかと俺じきじきに出向いてやったというに、とんだ期待外れだ。これではお前が必死になって守っている仲間全員、二度と空も拝めない牢獄に直行だな」
「ッそれは! ぜったい、させない……!」
「させない? いったいどうやって。お前一人を矢面に立たせ、他のやつらは全員後ろで震えているだけ。そして肝心のお前でさえ、俺に傷一つ付けられずに地に伏している始末だ。これで俺の手から逃れる方法があるというなら――――聞かせてほしいものだなァ……!」
「ハハハハッ!」と高笑いしてみせる。
めちゃくちゃヤなやつだなあ俺! こんなの言われたら絶対ぶん殴るぞ。
でも、ほら。これってまさにアレみたいだろ? ――悪役がピンチの主人公を煽って、その力の覚醒に繋がるやつ。
……そんなことを思ったからなのかどうか。眼前で肩を上下させるシオリちゃんの様子が――
「…………ダメ、だよ。そんなの許さない。許されない。私の前でまた誰かが都市に殺されるなんて、そんなのもう…………――ユル、サナイ」
ゆらりと。もう力も残ってないだろうその体から、不可視の圧力が立ち昇る。異能を動かす未知のエネルギー、その余波みたいなものが。
来た来た。これだよ。待ってたぞこの時を……!
「……ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ。ゼンブ……――――コワシテヤル……ッ」
どこか虚ろな目で、だけどその力だけは上等。周囲にスパークが散る。
あまりにおかしな様子に俺の部下たちもざわめき出す。
「さ、サワシロ課長……! これはまずいのではッ」
「異能が、今まさに成長しようとしているのでは!?」
うんうん、君らの言う通りだ! まさにその通り。
でもいいんだよこれで、俺はこれを待ってたんだから。ここ最近のシオリちゃんは自らの異能をこれ以上ないほど巧みに操ってた。そろそろだろって思ってたんだ……。
「な、なんて力……! これはもはや戦術級の域には……ッ。まさか、戦略級!?」
「本当に大丈夫なのか……!? 課長は……うぬぼれでいくつものフラグを実現させてきた男だぞッ」
あっ、こいつ。クソ、俺のキャラでそれスルーするのは不自然だし、聞かなかったフリしないと。
「ゥゥゥゥ……!」
そんなこと言ってる間に、力を溜めるシオリちゃんは獣みたいな唸り声をあげてる。
そんな殺人兵器みたいな顔したってダメなもんはダメだから。俺だってさ、今のままじゃダメだと思ったからやり方を変えたいんだ。
俺は眼前で雷の力を溜め始めたシオリちゃんを見据える。
いまの状況はまさに、力を暴走させてでも仲間を救おうとする主人公と、それに踏みつぶされる物語中盤の敵。舐めてかかって即殺しなかった結果、最後には逆転を許して気分爽快ぶっ飛ばされる嫌味なやつだ。
俺の部下たちも、もはやそうなるとほとんど確信し始めてるだろ。
「か、課長! まずいです、あの少女とんでもない力を……! 数値上はビル一棟を丸ごと蒸発させられるほどのエネルギーです!」
端末型の計測機器を構えて、悲鳴のように叫ぶ部下。
そうだよなあ、怖いよなあ。いつも慢心して小娘に負ける上司が、明らかに自分たちも巻き込む規模の攻撃を迎撃しようとしてるんだから。
「…………いざとなれば私が課長のこと逃さなきゃね〜」
一人、毛色の違う思考も。ほんとこいつ優秀だよな、キラボシ。組織の人間として、上司を否定せずいざという時のカバーを考えて。
そうだよなあ、そうなるよなみんな。今日はいつもと違って入念な準備もしてきて、巧みに戦況を運んできて。それで最後、いつもの慢心がまた発動して負けちゃうやつ。
……でも。
安心してくれよ。俺だって今回ばかりは本気なんだ。
ここ最近の都市機構にはほんとに愛想が尽きた。人を人とも思わないろくでなしが上に立って、どんどん世の中を息苦しく、不健全なものにしようとしてる。
このままじゃ遠くないうち、ここ旧都は言うまでもなく、新都のほうだって血と暴力で抑圧された世界になりかねない。
だからこそ……俺が力を示して、上に行って。
――――この都市を変えてやるって、そう決めたんだよ。
だから、ほらシオリちゃん。
「……来いよ。その特大の力の塊、遠慮なくぶつけてこい――」
びりびりバチバチと、激しい音を鳴らして今にも弾けそうな雷の球。シオリちゃんの眼前に浮かぶ人間数人分の大きさはあるそれが……とうとう――――放たれた。
「――
俺に向かって飛来する雷球。明らかに通常の異能者の出力を大きく上回った、まさに超級の一撃。
「…………………………ぁ、あ!? これ、私が……っ?」
意識を取り戻したらしいシオリちゃんが、自分の放った攻撃に慄く。
「ぁ、まず…………っ避けて!!」
……主人公なんて呼んだけどさ。これだけの力を持っててもやっぱりまだ子どもだ。誰かを守る決意はできても、人を殺す覚悟はない。
君みたいな子は、ほんとならもっと平和に静かに暮らして欲しいものだけど。この都市の現状が、そうはさせないよなあ。
でも。
「どうにかしようとしてるからさ、俺も。だからちょっと、君の手も貸して欲しいんだ。な…………――――【風神】」
迫る雷球に向けて手を掲げる。
風を集めて、集めて、集める。限界なんてない。あまねく大気はすべて俺の支配下。
「……ッな、なんだこれは! とんでもない異能強度……これは課長の!? あの少女を超えて、こんなの…………課長も戦略級だったのか!?」
騒ぎ立てる背後は気にせず。俺はただ、その力を解き放つ。
「――――
直後。
あまりにも巨大な雷のエネルギーが辺りにまき散らされる。
目を焼く閃光、耳を貫く轟音。もはや誰も見えず、声も聞こえない。
ただ。
「『油断大敵』から慢心がなくなったらそんなの……」
真白に染まって行く景色の中で、諦めたような呟きが――――
「――――――最初から、勝ち目なんてなかったんだ……」