慢心で負ける系の体制側【中ボス】だけど、真剣に上を目指そうと思う 作:どんぐりちょうだい
「――サワシロ……! 聞いたぞサワシロ、どういうことだ!? 俺は確かに言ったはずだ! 非戦闘員ごと、レジスタンスどもを根絶やしにしろと……!」
異能管理局、第二臨戦課。その執務室にいま、よく肥えたハゲオヤジが襲来してきた。
周囲の職員も手を止め様子を伺う。
暑苦しいなあ……。帰ってくれんかなあ。
「――局長。こちらお茶です〜」
「茶ァ!? いまそれどころでは……ん、おぉ、キラボシか……。いただこうか」
おいエロオヤジ、いま絶対キラボシの胸見たろ。セクハラで訴えられるぞ。
「……ん熱ぃ!? …………ッゴホン! いや、なんでもない。それよりも貴様だサワシロ! というか貴様、局長たるこの俺が立っているのに、なにを一人悠々と椅子に座っておるのだ!?」
「…………んだよめんどいな。ハァ、これでどうだ? 椅子から立てば満足か? 局長殿」
「……話の入り口には、これで立てたなッ。問題は貴様の行動の是非だ!」
はいはい、言いたいことは分かってるって。
「――サワシロ貴様……なぜあの程度の戦果で戦闘を終えた! 敵幹部まで捕縛したのだ、もっと徹底的に攻めれば圧倒的成果を得られたはずだぞ!」
戦果……ね。非戦闘員を殺すことが戦果? んなもんクソ喰らえだ。
ただ、俺だって理事長にクビにされることは避けたい。そのためにほら、特大の戦果を上げてみせたはずだろ?
なあ――
「――戦略級異能者の排除。これに勝る戦果などあるのか? 局長殿はずいぶんと欲張りだ」
「ッサワシロ、貴様……!」
顔を真っ赤にして、怒りのあまりか舌をもつれさせる局長。
けど、俺は間違ったこと言ったつもりはないぞ。
戦略級異能者――この都市全体で見て五人も居なかった存在がレジスタンスに生まれた。これは都市体制側にとってとんでもなく痛い話のはずで。
そしてそれを未然に防ぎ、殺すより遥かに難度の高い生捕りを成功させた俺は、褒められこそすれ怒られる筋合いなどないのに。
まあようはこのハゲオヤジ……俺が上げた手柄を見て、もっとできたはずだと欲が出てきたんだ。
「戦略級異能者を倒せたなら……逃げる雑魚どもなど、諸共に殲滅できたはずだぞ! というかそもそも、これまでの失敗全て! 真面目にやればどうとでもなっていたはずだろう!」
おお。これまでのことすべてに波及した。それ言われると厳しい。
なんたって俺、いままで任務失敗してきたの全部――――都市のやり方が気に食わなくて、わざとやったんだから。
能力はあるのに失敗することの説得力……それに「慢心」を使っちゃったがゆえに、「油断大敵」なんて不名誉な二つ名つけられてたけど。
ただ、その辺の事情は局長が知るところじゃないから――
「――まるでこれまでの俺が真面目でなかったかのような言いよう……。心外だな。ただ単に、人の上に立つ指導者の義務として、常に余裕ある高貴な振る舞いを意識していただけのこと」
「……お〜。清々しいほどの正当化。さすが課長ですね〜」
うるさいぞキラボシ。ああほら、局長も怒って……――
「――その余裕とやらの結果が愚かな慢心か!? 確かに今回の功績は認めざるを得んが……それ以前のことについて、俺はお前を許してはいないぞ! 課長を下ろすほどのことはしないのがまた小賢しいのだ……!」
そりゃそうだ。俺にも生活があるから、クビにならない程度には働くさ。
ただ局長、お前いま自分でも認めたな? 今回の功績について。
だったら、なあ。
「功績を認めると言うなら。局長殿はただ、俺が今後も同様の働きをすることを期待し、泰然と後ろで見ていればよろしい。功績という一点において、期待を裏切らんことは誓おう」
「……〜〜ッ! ッああ、分かった、いいだろう! そこまで言うなら、今後も同じだけの働きを続けてもらうぞ! もしまた下らん理由で任務を失敗しようものなら、理事長の怒りは直接貴様にも向くと思え!」
はいはい、理事長ね、いずれ直接話に行きたいと思ってるから、その時にはどっちにしろよろしくさせてもらう。
局長は鼻息も荒くこちらに背を向け、執務室を出て行こうとする。
そんな彼に向けて、俺からも一言。
「――局長殿。それよりも、例の依頼の検討を急いでほしい。もしそれが叶うのならば、昨日以上の功績を局長殿に捧げられるようになることを約束する」
局長は一瞬足を止める。だが結局こちらを振り返ることはせずに歩みを再開し、外へに扉を開けて。
去り際に、一言だけ。
「――考えておいてやる。その代わり、貴様は引き続き戦果を上げ続けろ。それが貴様の役割だ……!」
それだけ言い残して、局長は執務室を出て行った。周りに張り詰めていた緊張感が一気に緩む。
「課長〜。いいんですか? 局長にあんな言葉遣い。ほんとにクビにされちゃいません?」
「ふん。アレにそんな度量があるものか。俺の代わりにうちの課長が務まる者など、いるはずもないしなァ」
「わお強気〜。昨日の鬼神の如き活躍をそばで見た身としては、大言壮語に聞こえないのがすごいですねえ」
「大言ではないからな。当たり前のことだ」
「ふふ。それでこそ課長ですっ」
こいつもこいつでよう分からんな。キャラ付け上仕方ないとはいえ、自分でもうざいと思う俺にこうも構って。
いや、単に上司に媚び売ってるだけかもだけど。
まあ、どっちでもいい。こいつが使えるやつであり続けてくれれば。優秀な部下ってほんとに大事だからな。さっきもとらっと言った局長への依頼もそれ関係だし。
さっきの感じだと、シオリちゃんやった功績を以て検討の俎上には上げてくれる感じだから、俺も先にできることやっとくかな。
……さて、そうと決まれば。
「――キラボシ。俺はすこし留守にする。なにかあればお前が代わりに判断して進めておけ」
「え〜。サボりですかぁ? あたしには荷が重いなぁ」
「黙れ、しょうもない軽口はよせ。うちの課ですこしでも俺の代わりが務まるのはお前だけだ。いいから任せたぞ」
「! ……もう、課長ったら。ひとをその気にさせるのが上手いんですから〜。……んふっ」
「? いいから頼んだぞ」
「は〜い」
そうして、面倒ごとをキラボシにぶん投げて。
執務室を出た俺は、整然とした廊下を進んでエレベーターに乗り、都市統治機構本部の地下へと向かう。
目的の階へ到着したことを知らせる音。開いた扉からエレベーターの外に出て、地上に比べるとどこか薄暗い廊下を歩く。
途中にいくつもある重厚な金属扉をカードキーで開錠し進んでいくと。
やがて、警邏の職員が立つ扉が一つ。声をかける。
「――異能管理局、第一臨戦課長のサワシロだ。通してもらう」
「ッは! お、お疲れ様です! …………こ、この方が例の……」
んん……なんか妙に怯えられてるな。いったいどんな噂で俺のこと知ってるのか。例の二つ名についてじゃないといいな……。
もう深くは考えないようにして。俺は職員の脇にあるセンサーにカードキーをかざし、目的地への道中で最後の扉を開く。
そこは廊下よりさらに暗く、湿った臭いが満ちた……幾つもの檻が立ち並ぶ牢。
そして、俺が足を止めた檻の中にいるのは――
「――――昨日ぶり、だな。シオリちゃん」
「っ? ……あなたは、『油断大敵』!? ………………というか……シオリ、ちゃん?」
俺と戦った時の格好のままで、ろくに飲み食いもできてないだろうシオリちゃん。
その顔には色濃い疲労が。
こんなの、なんの償いにもならないけど。せめて――
「これ、水と非常食。とりあえずこれでも食べながら――話をしないか?」