慢心で負ける系の体制側【中ボス】だけど、真剣に上を目指そうと思う   作:どんぐりちょうだい

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第4話

 

 そうして。

 

 シオリちゃんと再開を果たした俺は、さっきの言葉通りに持ってきた物をシオリちゃんに差し出す。鉄格子の隙間から手を入れて、缶詰と水のボトルを渡そうとするけど……。

 

 檻の向こうの少女は俯き加減に、黒い長髪の隙間から覗く目で俺を睨む。赤い瞳はこの暗い地下牢でも、光を失わず爛々と輝いてる。

 

 ……俺を睨むだけで、いっさい受け取ろうとしないぞ。

 

 俺の困った空気を感じたのかどうか。シオリちゃんはギリッと歯を噛みしめたと思うと口を開いた。

 

「――――なにしに来たの、『油断大敵』……! 仲間も守れず惨めに捕まった私を笑いにでも来たの!?」

 

 うわっ。牙剥いてすごい勢いで……。だいぶキテるっぽい。

 

 でもそうだよな。シオリちゃんからしたら、あの場で気を失って目覚めたらここだったろうし。たぶんしばらく起きないだろうから昨日は様子見に来なかったけど、目を覚ましてから今までずいぶん不安だったろう。

 

 よし。それじゃあ、できるだけ安心させるように……。

 

「――さっきも言った通り、ただ話に来ただけだ。それと、気になってると思うから教えておくけど。ここには、シオリちゃん以外のお仲間は誰もいないよ」

 

 だから安心して、と。にこっと笑いながら言ったんだけど。

 

 ――シオリちゃんの様子が激変する。

 

 鉄格子を勢いよく両手で掴んで、ガシャリと音を鳴らす。目を剥いて叫ぶように言った。

 

 

 

「――みんなを…………ッ、殺したの……!?」

 

 

 

 …………えっ? なんで?

 

 あっ、「ここにいない」ってそういう意味でとった!? いや違う、それ俺どんだけヤな奴だよ! 笑いながら仲間殺した報告って!

 

 ヤバいヤバい、シオリちゃんとんでもない顔になってるって。目ぇ開きすぎてガンギマってるし、異能は封じてるはずだけど怒りで封印破壊しそうな勢い。

 

 シオリちゃんと仲良くなるために来たのに、こんな不名誉な印象持たれちゃたまらん……!

 

「誤解しないでくれ、シオリちゃん! いいか、君の仲間、あの場にいたレジスタンスのメンバーは――――全員、無事だから! 怪我人には治療セットまで渡しちゃう大盤振る舞いだぞ!」

 

 そう俺が告げると。

 

 シオリちゃんは目を丸くして、どこか気の抜けた声で「え」とこぼす。

 

「……みんな無事なの? ここにいないし外にもいない、いるのはあの世――ってことじゃなくって?」

 

「違うわ! この都市で私刑なんて認められてないからな! 仮に死刑になるほどの犯罪者があの中にいたとして、たった一日で執行するのも無理だしッ」

 

「…………じゃあ、ほんとにみんなは」

 

「ああ。追跡とかしてないから正確には分からんけど、たぶんレジスタンスの別拠点なりまで避難して、今頃ゆっくりしてるって」

 

「……! よかっ…………たぁ……っ」

 

 シオリちゃんは大きく胸をなでおろした様子で、ぺたりと床にへたり込む。自分が一番大変な状況だっていうのに仲間の心配なんて、ほんとにできた子だよ。

 

 ほら、お兄さんはそんな君を少しでも労いたいからさ。

 

「これ、缶詰と水。受け取ってくれないか? 腹も空かせたままじゃ、会話も集中できないだろ」

 

「……………………わかった。でも……さっきの嘘だったら、ただじゃおかないから」

 

 鉄格子の隙間に差し出した食料を乱暴にひったくって。シオリちゃんは鋭い目で俺を睨んで言うのだ。

 

「もし、私の守るべき人いなくなったりしてたら。――――すべてをかけて、あなたを殺す」

 

「……………………こえぇ」

 

 目がもう。なんか、純粋な狂気に近い……。

 

 

 

 

 

 

 ということで。

 

 鉄格子を挟んで、非常食の缶詰でパーティを始めた俺たちだったわけだが。

 

「………………………………」

 

 ッ気まずい……! 気まずすぎる!

 

「……はむ、あむ……」

 

 目の前には、俺に背を向け魚のオイル漬けを食するシオリちゃん。もしゃもしゃ言う音と、定期的に魚を飲み込む音くらいしか聞こえん。

 

 なんか懐かない野良猫みたいだな。可愛らしい見た目のわりにけんかっ早いとこもそっくり。

 

 でもうーん、おっかしいなあ。お腹空いてたろうし、けっこう貴重な缶詰だし、お仲間の無事も伝えられたしで、きっと喜んでくれるだろうと思ってたんだけど。

 

 そんなこと考えながら、俺も檻の前の床に座って自分用の缶詰を食べていると。

 

「………………あの。言っておくけど私、食べ物につられてみんなの情報吐いたりなんてしないよ。そういうの期待してるなら無駄だから、さっさとここから消えて……!」

 

 おっ! 気まずさに耐えかねてか、シオリちゃんの方から話しかけてくれたぞ。

 

 内容は友好的とは言いづらいけど、まず言葉交わさないとなにも始まらんし。よし、それじゃあ。

 

「――安心してくれ。俺は別に、仲間を売れなんて言いに来たつもりはないんだ。頼みがあるのは間違いないけど……シオリちゃんにとっても利のある提案のつもりだし」

 

「頼み? ………………ていうかさっきから口調がなんか……。あの『油断大敵』がシオリちゃんとか、きもい……」

 

 ん? ああ、例の演技してないからな。ちょっとした思惑もあってシオリちゃんには素の自分を見せると決めたんだ。

 

「きもいはひどいなあ。でも俺、普段はこんな感じだから。レジスタンスとかに見せてる態度は演技なの。ごめんな、いろいろ煽ったりして」

 

「! 演技……? なんでそんな意味わからないこと……」

 

「まあ色々あるんだよ俺にも。でもほら、これならシオリちゃんも話しやすいだろ? そう身を固くせず楽にしてくれって」

 

「……」

 

 めちゃくちゃ怪しんでる顔だ。でも、それもしょうがないか。俺、これまで散々ひどい態度で接してきたからなあ。

 

 キラボシみたいにそれでもすり寄ってくる奇特なやつはいるけど、普通避けるし印象悪くなるわな。

 

 でも、シオリちゃんに頼み事するにはそれじゃまずい。せめて真面目に判断してくれるくらいには好感度上げとかないと。

 

 まあ、それがなくとも俺は前からシオリちゃんのこと好きだったんだ。まだ子どもといっていい歳なのに、正義感が強くて、自分以外の誰かのために頑張れて、理不尽にまっすぐ抗って。

 

 それで、俺は思ったんだ。――……てもらうなら、まずは絶対シオリちゃんだなって。

 

 だから、な。シオリちゃん。俺、それなりに時間作って来たんだ。緊張をほぐす意味でも、ある程度信用してもらう意味でも――

 

「――俺に聞きたいこと、色々あるだろ? 時間ならあるから可能な限り答えるぞ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……あれも、戦えないみんなをわざと逃がすためだったって。そう言うの……っ?」

 

「ああ。俺だって一般人を傷つけるのはイヤだし。……上はそんなこと気にしてないみたいだけど」

 

「『油断大敵』の上……? それもう、異能管理局のトップとかそれくらいしか」

 

「そうそう、局長だよ。あのハゲオヤジ。あいつマジでふざけてるからなー」

 

「は、ハゲオヤジ……?」

 

 困惑したような声を漏らすシオリちゃん。

 

 あ、ごめん、見たことないもんなシオリちゃんは。女の子があいつ見ると生理的な嫌悪感を抱くこと間違いなしだぞ。

 

「あとは、そうだな。ほら、さっきから言ってるそれ、『油断大敵』。めっちゃ不本意な二つ名なわけだけど、それだって俺がレジスタンスを傷つけ過ぎないようにした結果なんだって」

 

「どういう意味……?」

 

「つまり、油断・慢心に見えたのはわざと手を抜いてたってこと。圧勝しすぎないようにさ」

 

「!!」

 

 いやあ、これ言うのシオリちゃんが初めてだな。

 

「……そんなの、嘘でしょ! 異能管理局の偉い人でしょ、あなたは! それがわざとレジスタンスを逃がすなんて……!」

 

「嘘じゃないぞ。言っとくけど俺だって都市統治機構のやり方は好かないんだ。ほんとに都市民に対して明確な敵対行動してるならともかく、自衛で身を固めてる程度のやつまで攻めるべきじゃないと思ってる」

 

「…………そんな……あの『油断大敵』が? あんな間抜けに慢心し続けるなんて、ちょっとおかしいとは思ってたけど……」

 

 あ、やっぱりそういうこと思うよな。俺もやり過ぎかなあとは思いつつ、でも二つ名がある程度の不自然さを隠してくれてた感じかな。ちょっと複雑な思いだけど。

 

 さて、それじゃそろそろ……。

 

「他に聞きたいこと、残ってないか? 俺もぼちぼちさっき言った『頼み事』をしたいし」

 

「…………ちょっと待って、考えるから。私が『油断大敵』に対して思ってたこと……ほんとに全部が嘘だったのか、確かめたいから……」

 

 目を閉じて、なにかを思い返すみたいに。それから、少しだけ時間が経って。

 

 赤い目を開いたシオリちゃんは、まっすぐ俺の目を見て言った。

 

「レジスタンスでも、あなたの部下でも。――力がない者に対して、あなたはなにを思ってる?」

 

 んん? なんだその質問。意図が読めん。

 

 まあいいか。ただ素直に、想ったことを言えば。そうだなあ、力がない者かあ。

 

「俺は…………誰もが自分にできることを精一杯にやれば、世界はもっと良くなると思ってる。そして、それは力の多寡に関係なく、適性と意思のみで実現できるって。だからまあ、端的に言うと……」

 

 俺から視線を外さず真剣な表情のシオリちゃんに、俺は本心からの考えを告げた。

 

「――強かろうが弱かろうが、誰もが常に自分の最善を尽くすべき。そう思うかな」

 

 弱くたってできることはあって、それに全力で取り組めばいい。それができないようなやつは………………――個人的には、嫌いだな。

 

 さあ、どうだ? なにを聞きたかったのかは分からないけど、俺の本心を告げたぞ。シオリちゃ――

 

 

 

「――――やっぱり、あなたは傲慢だよ。……弱いひとのことなんて、なんにも分かってない」

 

 

 

 そう言ったシオリちゃんの顔には、どこかやるせない思いだとか、怒りに似た感情が滲んでて。まずったかあ、なんて思いが浮かぶけどもう遅くって。

 

「『油断大敵』はやっぱり……敵だ。いつかきっと旧都を滅ぼす、私たちの脅威……!」

 

 …………あっれえ? なんで? 途中まで上手く行ってたと思うけども。

 

「………………完全に、全部が悪い人ってわけじゃないのかもだけど。ううん、絆されちゃダメだ! 私がきっと、みんなを守らなきゃなんだから……!」

 

 えーーーーどうするよこれ。いまあれ頼んだって断られるに決まってるよな?

 

 もうちょいここに通う……? いや、そもそもいつまでも牢屋になんて可哀想だし、なんとか出してあげられないかな。いやー厳しいか?

 

 ……なんて、上手くいきそうにない交渉に頭を悩ませてたその時だった。

 

 制服のポケットに突っ込んでた端末が、ピピピと鳴っている。

 

 取り出し、通話ボタンを押すと――

 

『課長っ、キラボシです! お留守を預かってたのにすみません、でもこれは伝えた方がいいと思って……!』

 

「なんだ? 言え、キラボシ」

 

 

 

『――レジスタンスが攻めてきました! 昨日捕縛したシオリさんを取り返すと……!』

 

 

 

 ……来たか!

 

 よし。じゃあシオリちゃんも連れて行ってと……――

 

 

 

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