異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第9話「ぶち抜く」

「138、139、140、141……」

 

22時30分。以前であれば眠くなるまでの間、だらだらとゲームをしているだろう、この時間に俺は腹筋と背筋を各150回ずつ行っていた。

 

「148、149、150ぅぅぅう!!こ、これも異世界生活への第一歩に向けて…と言いたいとこだけど、もうちょっと回数減らせないか…」

 

昨日、明晰夢を見る前にやった行動を丁寧になぞっていく。入浴し、風呂から出て、上裸で歯を磨きながら体を冷まし、少し寒くなってきたら服を着てゲームをする。

 

まずはランキングマッチの結果の確認。昨日途中で寝たせいで微妙な順位に終わった。まぁ明晰夢という、どでかい景品を得たという事にしておくか。

 

「手のひらの棒人間くんは既に描いた。ほぼ昨日やった事と同じ…違いは連休明けじゃない事くらいか…」

 

もし自分が連休明けの夜にしか明晰夢を見れない体質だった場合、俺の異世界の夢は遥か彼方に遠ざかる事になる。

 

「明日学校面倒だな、って思いは同じだしイケるかぁ?てか、なんか今日は、本当に長かったな」

 

明晰夢成功、しかしトラックに轢かれそうになり、バッグは破れ、そして遅刻。一限では当てられまくり、ジュース2本とカバンを交換。授業後は教室で委員長を待ち、夢日記を見られ、なんと委員長が俺よりも重症な中二病をカミングアウト、レベルの高さに挫折していたら、急に怒鳴られ、走って帰宅。

 

「1日の密度じゃなかった。連休より今日の方が濃かったんじゃないか」

 

連休は件のランキングマッチをやりまくっていたせいで、時間が無限に溶けていった。後半戦から失速して、最終日は寝落ちという、かなりブサイクな結末に沈んだが、明晰夢成功というビッグイベントで、このショックも緩和されている。

 

「明晰夢成功したからギリ耐えって感じの1日になりましたね本当に。まぁ何かを得るには犠牲は付きものだと言いますし、仕方ないでしょう」

 

独り呟きながら、今日はもう眠いから1回勝ったらやめようと手を出したフリーマッチで3連敗する。

もはや腹が立つ気力もなく、ゲーム機を置いて布団で横になる。

 

「異世界、委員長みたいに、もっと吹っ切れて、俺も、世界を…」

 

リモコンで部屋の明かりを消す。

記憶はそこで、途切れた。

 

 

 

 

そこは都市だった。

 

数多の高層建築物が建ち並び、地面は地表を制圧したかのように舗装され、木や草は、街路やちょっとした広場にしか生えていない。

 

しかし都市であれば当然あるはずのものが欠けている。

 

人、住民、活気。

 

それらが不足したこの都市は、不気味なほど静まり返っている。

存在する全てのものが今この瞬間に作られたかのように、綺麗な街並みが広がっているのにも関わらず。

 

そこには1人の少年がいた。目の前に広がる光景をただ呆然と見ていた。そのうち、脱力していた右手をおもむろにグーっと握り、パーにして緩める。

そして目線を下げて、手のひらを見つめる。

 

「あーあーあー」

 

間伸びした声をあげ、自分が今、人の気配がまるでない街の、交差点のど真ん中で突っ立っている事に気がつく。

 

「あーーあ」

 

自分の置かれた状況が分か_______

 

「昨日と同じ、まずは成功を喜びましょう。よっしゃぃ」

 

______った少年は、小さく歓喜の声を上げる。

 

「手の棒人間くんは消えている。体は自由に動かせる。さっきから異世界になれと念じているけれど、景色は相変わらずの都市、と」

 

空は、夕方に入り始めたような早朝のような微妙な水色、特に昨日との差はない。

 

「ただちょっと都市の風景が違うような…あ、でもスカイツリー2倍盛りみたいな塔は建ってるし、やっぱり同じ場所?」

 

雲を貫く塔、昨日見て違和感を覚えた建物の1つだ。夢日記に書きそびれたせいで今の今まで忘れていた。

 

「ドラゴン倒して軍服刀剣使いの才女を助けたところから再スタート、なんて都合良くはいかないと。まぁ分かってはいたけどね。続きモノの夢なんて二度寝した時くらいしか見た事ないし」

 

夢から覚めた直後にもう一度すぐ寝た時ですら成功率は低いのだ。寧ろ日を跨いで同じような光景の夢を見ている奇跡を喜ぶべきだろう。

 

「いや、同じような状況の夢だ。もしかしたらまたドラゴンが現れる場面に出くわさないとも限らない。まずは備えよう」

 

膝を曲げて、即座に伸ばし、足で地面を蹴り上げる。特段の意外性もなく、あっさりとビルの屋上の少し上まで飛び上がり、着地した。

 

「超高度ジャンプはお手のもの。続いては魔法。『風の刃よ金網を切り裂け(カマイタチ)』」

 

構えた手から鋭い鎌のような風が勢いよく射出され、ない。

 

「んあれ?『風の刃よ金網を切り裂け(カマイタチ)』」

 

再度詠唱を行うが、不発。

うんともすんとも言わず、そよ風すら発生しない。

 

「まさか魔法が使えなくなってる…?んじゃあこれは?」

 

手元に望遠鏡が現れる、ことはなかった。

テレポーターをイメージしても状況は変わらない。

 

「アイテムの召喚も出来ない、か…現状維持は後退と同じである、とはよく聞くけど、これは明確に一歩下がってるな」

 

超高度ジャンプは出来た。

しかし魔法も、アイテムも出せない。

折角の「異能」がもう使えなくなってしまった。

 

「ショックじゃない、といえば嘘になるけど、最初から上手くいきすぎた感はあったしなぁ。この調子じゃドラゴンバスターキャノンも使えないだろうし…またドラゴンが現れたらどうするか…」

 

一応ドラゴンバスターキャノン、と言いながら拳を突き出すも、何も変化はなし。

 

「いや、違う魔法だ。昨日とは違う魔法ならもしかしたら」

 

手の平を前に突き出し、氷結弾(フローズンバレット)と詠唱する。

 

こういう漢字表記でカタカナ読みみたいな魔法は、漢字を脳内で書きながらカタカナを声に出すとそれっぽい、などと思っているうちに、手の平の少し前に氷塊が形成されていき、拳より一回り大きくなった段階で前方に射出される。

 

氷塊は金網を突き破り、隣のビルの壁に衝突する。着弾した地点から冷気と衝撃波が放たれ、建物の一角を抉り取るように破壊した。

 

「うぉぉ…」

 

ごく当然のように魔法が使える感覚は、違和感がなさ過ぎるあまり、逆に異常な感触となって自分へ還元される。

 

「てことは、やっぱり一回使った魔法はもう使えなくなるのか?」

 

もう一回手を構えて、『氷結弾(フローズンバレット)』と唱える。

すると再び、先ほどと同じように氷塊が発射される。先ほどあけた金網の穴を掠めて、再びビルに直撃。ひんやりとした強風と共に、更に建物を破壊する。

 

「なるほど。一度使ったアイテムを含む異能は、次の夢ではもう使えなくなるって感じね。自分の脳みそが満足するんだろうな、多分」

 

何となく納得できる。確かに自分は一度使うと満足してしまうタイプだ。

 

「ま、一度使えたんだからイメージは完璧ってことだろ。溜め込んだ他の異能も使っていかないと、いつまでたってもカマイタチ使っちゃうだろうしな。そう、これは「異能の殿堂入り」ってやつだ。前向きに捉えよう!」

 

一度イメージ出来たものが急激に分からなくなってしまう事は、そうそうないはずだ。きっと色んな異能を使うために自分が無意識にセーブをかけている、そんな気がする。そういう事にした。

 

「であるとして、氷結弾(フローズンバレット)だけビルに撃ち続けるのも飽きそうだし、どんどん他の魔法も使っていくか!いや、まずは体をもっと自在に動かせるようにすべきか?今日の帰りの電車で超速ダッシュと空中機動はイメージしてきたし」

 

初日では無様に転んだダッシュ。リベンジしておかなければ。能力頼りのかませキャラ達から何も学んでいない事になってしまう。

 

 

ドォォォドォォォドオオォオドオオオオォ

 

 

遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。

 

「え?マジか、もう来たのかよドラゴン。望遠鏡、は出せないんだった。うわどうしよ、ドラゴンバスターキャノンはもう使えないしなぁ」

 

地鳴りがする方向へ目を向けるが、ドラゴンの姿は確認できない。さっと駆けつけて、軍服刀剣才女を助けるイメージはバッチリだが、肝心の魔法がまだ頼りない。

 

「いや、グズグズしてたら昨日と同じ。何なら共闘もアリだ!」

 

両翼が2メートルほどあるみすぼらしい鳥の翼が、自分の背中に自動で装着される。

 

怪鳥の翼。とあるアクションアドベンチャーゲームで入手した、飛行可能になる装備アイテム。滅多に現れないダストホークというレアな鳥のモンスターが、更に低確率でドロップする、という何ともまぁゲットしにくい代物だった。

ただしこのゲームで飛行可能になるにはこのモンスターを狩るのが1番手っ取り早いまであったので、何とか3日くらいかけて入手したのだ。

 

「操作性はもう慣れた、けど実際使うのとは違うよな…一応吐き気耐性の魔法も使っとくか」

 

『自動嘔吐阻止(オートおうとガード)』を唱える。ネーミングセンスが終わっていると低評価がつけられまくっていたゲームの魔法。俺はそんなに悪くないと思っている。

 

「んじゃ、オレ、飛びまぁぁぁす!」

 

金網の穴から飛び降りる。両翼が即座に展開され、若干の浮遊感と共に空へ上昇していく。

 

「高所から飛び降りないと翼が展開しないのは、今考えると不便ポイントだったんだなぁ」

 

ふわふわ、ゆらゆらと空中を進む。ゲームでは風に乗って中々スピードが出ていたような気がするが、この世界では風が吹いていないので、やや遅い。

 

「オート嘔吐ガードは無駄だったかぁ。しかしこんな安全運転だと、また助けた所で目が覚めるんじゃ…」

 

徐々に地鳴りがする方向へ近づいていく。今日はどんな魔法で倒そうか。さっきの氷魔法で無理なら、また考えなければ……

 

「なんだありゃ??」

 

地鳴りがこちらへ近づいてくる。ビルがいくつか薙ぎ倒されていく。

 

それは、巨大なイモムシだった。

細長いというよりはまるっこい、ゆで卵を横に置いてちょっと押し潰したくらいの、楕円に近い形。それがビルの半分くらいの高さというデカさ。色は紫と赤を混ぜたような、あれだ。しそジュースみたいな色だ。

 

そしてそのイモムシに、ボロボロの服を着た女の子が追いかけられている。

 

「軍服刀剣才女ではなかったか。しかしあの格好は、逃亡してきた奴隷少女に見えなくもない。異世界要素、テンション上がってきたぁぁぁ!!!」

 

怪鳥の翼をしまい、急降下する。

どこにいったのかはよく分からないが、頭の中の持ち物スロットに収まっている感覚がある。

 

「落下死したら怖いから一応『命のイアリング』を装備。ただなんか昨日高所から落下したせいか、今はあんま怖くないんだよな」

 

命のイアリングは、即死するダメージ量を受けた時に一度だけダメージを肩代わりしてくれる。即死魔法や状態異常などで即死した場合は効果がないが、今は関係ない。

 

「おおモンスターよ、ドラゴンからイモムシにランクダウンとは、情けない!」

 

『魔法複写行使術式』を発動、即座に自分の周りに10の魔法陣が展開される。この術式を発動すると、次に自分が使用する魔法を、各魔法陣が代わりに、そして同時に発動してくれる。

 

「単純威力10倍!!『氷結弾(フローズンバレット)』!!害虫駆除の時間だぜ!!!!」

 

放たれた十発の氷塊は、イモムシの頭部に集中的に命中する。それぞれがイモムシの体表に食い込み、冷たい衝撃と共に広範囲を抉り取る。

イモムシの頭部は弾け飛び、巨大な体は急停止する。

 

俺はというと、そんなイモムシの目前に華麗に着地。ずしん、と足に重みを受け地面はややへこむが、命のネックレスは発動しない。これで高所からの落下も対応できた。

 

「冷静に考えて、大ジャンプできるキャラが高所から落下してダメージ受けるところを見た事なかったし。セットで発動するトンデモ身体能力と思って間違いないな。あれ、でもこれは異能扱いにならないのか?」

 

昨日使った魔法は使えないが、大ジャンプは変わらず出来ていた。異能と身体能力の境目というのは難しい。

 

「何にせよ、今日は助けるところまでいけるな」

 

ひとまずそれは置いておいて、倒れ込んでいる少女に視線を向ける。

ボロボロの衣服、ボサボサの髪、貧民か奴隷と言ったところだ。しかし明晰夢の中で他人に話しかけるのは初めて。少し緊張する。

 

「あ、あーこんにちは。ご機嫌いかがですか?」

 

膝をついて覗き込む。ばっと目を開いた彼女の手の平から、眩い光線が放たれる。

 

光線が俺の頭部を貫いた。

イアリングが、砕け散った。

 

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