異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第10話「噴出」

何が起きたのか、わからなかった。

ほんの少しの間、意識が飛んだような気がする。

イアリングの宝石が砕け散り、肩にパラパラと振りかかって、ようやく我に返った。

 

即死ダメージの肩代わり。

イアリングが破壊されたという事はそういう事だ。

 

少女は立ち上がって、右手の平をこちらに向けている。「来るな」と言った感じのポーズだ。

 

目からは血が吹き出している。よく見ると左手の爪が全部剥がれている。まるで壮絶な拷問にでもあったかのように。

 

「何で、死なない…何で、私に、私に、もう構わないでよ…!」

 

息切れしながら少女が口を開く。明確に敵意と拒絶を含んだ視線が俺を捉える。流石に心外だ。まさかあの虫がペットだったとか言うわけじゃないだろうに。

 

「いや、巨大な虫に襲われてたから助けただけだけど、もしかして俺何かまずい事やっちゃいました?」

 

「助ける?何の為に?何が、何の目的でそんなことしたの!?」

 

何の目的、と言われましても。普通に夢の中くらいカッコつけさせてくださいよ。

いや、夢の中だからこそ、現実では恥ずかしくて言えないような主人公セリフをバチっと決められるのでは!?

 

「誰かを助ける為に理由が必要かな(キリッ)困っている人がいたら、手の届く範囲で助ける事が俺の信条なんだ(キラン)怪我はないかい?いま回復させてあげよう(シャラン)」

 

「それ以上近づくな!」

 

渾身の主人公ムーブは特に効果なし。

おい夢なんだからそこは、素敵!ありがとう!くらいしてくれよ。顔か?それとも立ち振る舞いが悪いのか?

 

「そんな、そんな事言って、私を利用する気だろ!もう、もう私は戻らない。アンタらの好きにされるくらいなら、全部代償に捧げて、1人でも多く道連れにしてやる!」

 

凄い剣幕。これ多分、委員長に叫ばれたのが夢にまで影響してるな。

 

俺の物語経験に言わせれば、こういう相手に会話での説得は無意味。

最適解は、多少の痛みを受け入れ、無償の愛と広い心で相手を包み込む事だ。

 

『高位回復(エクス•ヒール)』と『恐怖除去(グレート•ハート)』、一応『錯乱解除(カームダウン)』を少女に向けて使用する。

 

白い光に包まれ、彼女の怪我が綺麗さっぱり治る。爪は、あ、生えるんだ。すご。

 

薄黄色と水色の光に包まれ、険しかった彼女の表情が少し和らぐ。警戒を解いた様子は無いが、先ほどまでの強い拒絶感はなくなった。

 

「アンタ、その能力なら、【死の軍勢】の関係者じゃないよね」

 

右手を尚もこちらに向けたまま、彼女は口を開く。

 

「まぁ、【死の軍勢】以外の同盟の連中でも、なんなら監視隊の奴らにだって、私は協力なんかしないけど」

 

とりあえず口を挟まずに、穏やかな表情で彼女を見つめる。無償の愛と広い心モード、継続。

 

「私は、私はもう好きに生きるって決めたの。何かに強制されて生きるのは、もうウンザリ。1人で生きるの。無理だったら1人で死ぬだけ」

 

彼女の右手が下ろされる。

まだ俺は口を開かない。まぁ内容がよく分かってないのもあるんだけど。夢の中なんてそんなもんだ。

 

「頭撃ち抜いてごめんなさい。それなのに助けてくれてありがとう。でも勧誘ならお断り。死にたく無いし、死ぬつもりはないけど、死んだように生きるほうが嫌だから」

 

え、やっぱり俺即死してたのか。こわぁ。でもイアリングがちゃんと発動したってことは、その他の即死対策の異能も、おそらく効果を発揮できるだろう。いい検証になった。

 

「ごめんね身勝手で」

 

「じゃあ、友達になろう」

 

遂に俺は口を開く。彼女は目を丸くし、そしてすぐに顔をしかめた。

 

「話聞いてた?私は1人で生きたいの。友達なんて面倒なだけ。邪魔なの。自由が欲しいの私は」

 

「いや、またモンスターに襲われたら今度こそ死ぬでしょ。次いつ襲われるかビクビクしながら形だけの自由を生き続けるなんて、割に合わない。よって、友達と行動した方が楽しく生きられますね」

 

「冥界生物は能力者が1人で倒せたりするようなものじゃない。さっきのは弱かったか、相性が良かっただけ。倒せない奴が出てきたらどうするの?囮にでもなってくれるわけ?それとも2人で死ねば怖くないって?」

 

「一緒に逃げるだろ。友達だったら」

 

彼女は眉間に皺を寄せる。現実でこんな話したらダルくなってすぐ会話を打ち切るだろうが、ここは夢だ。いつもやらないような事をやってやる。やっていい場所だ。

 

「なんで、そこまでして、私と友達になりたいの?わたしかなり面倒くさい人間だと思うけど。アンタに何も出来ないし、出来てもやらない。てか、頭撃ち抜いてきた奴と会話するの気まずくないの?おかしいんじゃないの、アンタ」

 

「おかしい奴とめんどくさい奴でお似合いの友達だな。最高じゃん」

 

俺はニッと笑う。彼女は苦笑いする。

 

正直、夢の中で他人と友達になるという不思議体験をしたかっただけなのだが、思いのほか、事が都合よく進まなかった。

 

俺に魅力がもっとあれば、助けてくれてありがとう素敵仲間になります、の一息で友達ゲットといけただろうに。やっぱり憧れの主人公達には敵わない。

 

「理由は答えてくれないの?何で私?」

 

「こんなとこで他人に会って、それをしっかり認識して会話できる機会なんて滅多にないじゃん。悪人じゃなければ友達になりたいって思うのは、そんなにおかしいことか?」

 

「うん。おかしい。んふふふ、あははははは!頭貫通させたのに!悪人じゃないから?アンタ、やっぱおかしいよ!それ通り越してイカれてるって!あははははは!!!」

 

苦笑いから口元がほつれ、彼女は大笑いする。

 

「うん、うんいいよ別に。んふふ。ともだち、友達ね。わたし、私はレーザー。それが私のここでの名前」

 

「レーザー?日本人にしか見えないけど外国人だったのか」

 

「何言ってるの?ここでは本名は思い出せないでしょ。だから自分に関係する要素を名前にするしかない。知らなかったの?」

 

「え、俺の名前は、あれ?あれ、俺の名前は……」

 

俺は仰天する。自分の名前が本当に思い出せない。夢の中で自分の名前が分からなくなった事は何回かあったような気がするが、それが明晰夢に反映されてるのか?

 

「本当に知らなかったんだ。あなたここに来てから日が浅かったりする?能力の精度が高いから、どっかの組織の構成員か、僻地で長い間、彷徨ってる系の人かと思ってたのに」

 

「うわぁ、自分の名前が思い出せない感覚気持ち悪ぅ、これは本当にど忘れで済ませられるレベルじゃない気持ち悪さだ…」

 

空中に文字を書こうとしても、最初の文字すら思い出せない。ら、とか、た、とかから始まる名前だったような気もするが、それが合っているかどうかすら、確かめる術もなく愕然とする。

 

「私は能力がレーザー光線だから、レーザーって名乗ってるの。アンタは、イカれ回復屋さんとかでいいんじゃない」

 

「それは絶対いやだ。略されてイカさんになる未来まで見えたし」

 

俺の能力に名前をつけるとしたら、何がいいだろう。色んな世界の異能を使えるからオールラウンダーとか?流石にカッコつけすぎか。

スキルマスター?いや別にマスター出来てないしな…あ。

 

「よし、決めた。俺の名前は「コレクター」!こつこつ異能を溜め込んできた俺に相応しい名前!よろしく、レーザー」

 

「こちらこそよろしく、イカれ…コレクター」

 

「本当にやめて」

 

必死にイカれを撤回させようとする俺の様子に、レーザーは吹き出す。つられて俺も笑い出す。何だかこんな事が、前にもあったような気がする。

 

「あー笑った笑った。で、友達になったけど何するの?まぁ私は別に何もしてあげないけど」

 

「分かってないなぁ。別に何するとかじゃないんだよ。ただ一緒にいて楽しければそれで良いじゃん」

 

どうせすぐに目が覚めて終わってしまったとしても、夢なんだから、今楽しければそれで良い。

 

空は変わらず夜明けのような夕方のような青色をしていた。

 

「まぁ何かお喋りしてくれたら嬉しいかもなぁ。なにぶん初心者なもんで」

 

「あっそう。そのくらいなら別に良いけど。じゃあ愚痴がてら、【死の軍勢】について喋ろうか?」

 

「それ気になってた!ぜひ聞かせてくださいレーザーさん」

 

「えー♡私もそのお話、聞きたいなぁ♡」

 

少し離れた所から声がする。

小柄な、小学生くらいの女の子がいた。

茶髪にツインテール、目をキラキラさせてこちらの様子を伺っている。

 

「だってさ、レー____」

 

声をかけるよりも早く、レーザーは女の子に右手をかざし、眩い光線を放った。

 

先ほど俺の頭を貫通し即死ダメージを与えた、レーザーの能力。

しかし、放たれた光線は、女の子の少し手前で四方八方に散乱する。

 

「いきなり撃ってくるなんて、お姉さんこわぁい♡」

 

レーザーは両目から血を流し、光線を放った右手の爪が全て剥がれ落ちた。それでも左手をかざし、再び能力を使おうとする。

 

「ちょ、ちょっと落ち着けってレーザー。よく見ろって。あんな年下の女の子に容赦なさすぎだろ」

 

「死にたくなかったらさっさと逃げろ!!」

 

傷を治そうとした直前に、レーザーが叫んだ。

おいおい、幼女に大声あげて威嚇とか、流石に限度があるだろ。

 

「キ、キミごめん。このお姉さんちょっと今変になっちゃってるから、危ないから遠くに逃げたほうが」

 

「私は【死の軍勢】所属、死天王の滅ガキ♡そこのお姉さんを連行しに来ました〜♡お兄さん、所属はどこですか〜?」

 

なに?死の軍勢?てか四天王?メスガキ?所属ってなんだ?

 

「回答なし♡よわそ〜だし分かってたけど♡じゃあ用無しだから♡死んじゃえ♡」

 

自分の胴体の前面から血が噴き出す。右肩から左脚にかけて、鎌でバッサリと斬りつけられたような傷がつけられていた事に、遅れて気がつく。

 

声をあげる暇もなく、俺はその場に倒れ込んだ。

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