初見殺しという言葉がある。
簡単に言うと、事前知識がなければ確実に助からない出来事のことだ。
最強の能力トークでは、この「初見殺し」を含む能力の話題がよく上がっていた。
認識範囲外からの遠距離狙撃、不可視の即死攻撃、耐性のつけられない行動制限やダメージ、とまぁ挙げればきりがないものだ。
これに対抗するには、事前に何とかして情報を集めて対策を練るか、それらによって命が脅かされないほど耐久を固めるか、それらが通用しないレベルの能力で相手を上回るか、それこそ委員長が言ってたように未来でも見て予測するか、大体この辺の手段に限られる。
地面にうつ伏せで倒れ込み、血が大量に流れ出る感覚に身を任せながら、俺は『高位回復(エクスヒール)』を自身に向けて唱える。
攻撃を知覚できなかった。
気がついた時にはもう血が噴き出していた。
目に見えない速度で斬りつけられたり、カマイタチのような魔法であれば、何かしらの事前動作があるはず。
もしその事前動作を隠すために何かしらの細工をしていたのなら、何かしら動きに違和感があったはずだ。
いや、それすら違和感なく実行できる実力者の可能性もあるか。
「近づくな!!!!」
レーザーが再び光線を放つが、やはりメスガキと名乗っていた幼女の少し手前で分散する。
「お姉さん大丈夫?♡凄く痛そう♡使った方の爪が全部剥がれちゃうなんてかわいそ〜♡」
レーザーが鈍い声をあげて倒れるが、自身の回復を優先させる。連行するとか言っていたんだ、すぐに殺したりはしないんだろう。お約束というやつだ。
「わたし的にはお姉さんの事はど〜でもいいんだけど♡元帥の命令だから殺さないであげるね♡逃げられたらめんど〜だから両足は使えなくするけど♡」
レーザーに視線をやると、両足の肉が削ぎ落とされていた。まただ。また何の音もしなかった。
「大人しくしててね♡私はちょっと、お兄さんと話があるから♡」
バレてたか。まだ能力の検討がついてないのに。
傷が治り切ると同時に立ち上がる。
服は修復している余裕はない。今気がついたが部屋着じゃないか。もっとカッコいい装備に変更すべきか?
「絶対仕留めたと思ったのに♡雑魚にしてはタフじゃん♡」
こちらに向かってゆっくりと歩んでくる。
斬撃は、こない。今度は何も見逃さない。
『集中力強化』を使用して相手の一挙手一投足に気を配る。
「でも回復能力って微妙〜♡事後対応しか出来ないよわよわ能力♡期待はずれ〜♡」
「その回復に自慢の初見殺しが阻まれた気分はどうよ、メスガキちゃん」
初見殺しの対応法、その攻撃を受けても耐えられるように守りを固める。
『表皮硬化(ハードスケイル)』で全身の硬度を上げ、『魔法自動行使術式』に『高位回復(エクスヒール)』を設定する。
斬撃に対する耐性を持つ『鉄の鎧 Lv.8』を装備し、一定回数斬撃を防げる『ヒーローシールド』を左手に構える。
右手には『ノーマルソード』を持ち、『自動反撃の型』で、カウンターの準備をする。
「え〜♡なんかいっぱいでてきた♡すっご♡もしかして監視隊の遊撃要員だった?♡」
こない。まだこない。どこから来る。今度は見逃さない。絶対に。
「ん〜♡じゃあちょっと私も遊んじゃおっかな♡」
装備していた鎧が塵紙のように細切れになる。
構えたヒーローシールドはダンボールのように引き裂かれる。
ノーマルソードは棒切れのように刀身が折れる。
そして再び、胴体の前面から血が吹き出す。
今度は左肩から右脚にかけて。
しかし先ほどとは違い倒れ込まない。
『魔法自動行使術式』に設定された『高位回復(エクスヒール)』が、直ちに傷を癒す。
「自慢の対策がぜ〜んぶ無意味だった気分はどうかな♡お兄さん♡」
目前まで一瞬で移動してきた幼女を、集中力強化で辛うじて捉え、刃が折れたノーマルソードでのカウンターを試みる。
しかし、ひらりと受け流され、逆に強烈な一撃を、傷が治りきっていない腹に叩き込まれる。
1発の衝撃が何倍にも増幅していき、遥か後方へ殴り飛ばされ、建物の外壁に激突する。何本かどこかの骨が折れたような気がする。回復が、追いつかない。
「あと、わたしは滅ガキだから♡メスじゃなくて滅亡の滅♡お兄さんみたいな雑魚を何人も滅してきたから、そう名乗ってるんだよ♡聞いてますか〜♡」
まだ能力が分からない。
こういう時はスマートに、さっと相手の能力を見破って、適切な戦法で戦わなければならないのに。
1つも動きを見逃さないようにした。可能な限りの斬撃対策をした。程度の差はあれど、何かしら威力が弱まったりなどの違いは現れるはずだった。
しかし結果は、集中力強化を使用しても何の動作も見えず、防具と盾と武器は同時に破壊され、先ほどと全く同じだけの外傷を負った。ただの斬撃じゃない。
身体能力も高すぎる。カウンターを避ける反応速度、ひと回りは大きい自分を簡単に吹き飛ばせる殴打。威力が増幅したのも妙な感覚だ。
「これが、能力バトル…」
「まだ生きてるんだ♡じゃあご褒美をあげるね♡」
周囲のビルが音を立てて崩れ、こちらに倒壊し始める。
まだ体は回復しきらない。
「ビルの墓標♡贅沢に4本♡手持ちのアイテムで防ぎ切れるかな♡」
命のイアリングを再び装備する。
倒壊する建造物たちは、既に頭上のすぐそこまで迫っている。
「『絶死波動(リードエンド)』」
滅ガキと名乗った幼女に向けてそう言い終えると同時に、頭部に瓦礫が直撃する。再びイアリングが砕け散った。